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太陽の国 獣語
虎の威を狩り尽くす狐(2)
しおりを挟む馬車の中で何故かナナセはリンに膝枕をしていた。
「……サナさん…」
グーグーと寝息を立てるリンをどかす事も出来ず、ナナセはリンに膝を貸していた。サナに助けを求めるも、どうと言った事もない風にチラリとリンを見て、ナナセにニコリと笑うと書類に何か書き込んだりと忙しそうにしていたので、ナナセはそれ以上何もいえなくなってしまった。
「後30分程で国境ですけれど、私はそこまでです。しかし、リンさんの先程の話を聞く限りザーナンドに入るのは危険な気がしますね」
「まーまー、大丈夫ですよ。この前の戦いでボッコボコにやられてますからね、ザーナンドも今は戦ってる場合じゃ無い情勢ですから、まともな会談になるかどうかだけですよ。心配なのは」
「何も知らない私が言うのもなんですが、こう言う時の方が危ないんですよ。窮鼠猫を噛むって分かりますか?」
「?猫はたしかに鼠も狩りますけど、我々が鼠、そう言う事ですか?」
「はははっ、いえ。追い詰められた鼠は猫でも噛み付く…追い詰め過ぎると捨て身で向かって来るということです。今だとザーナンドが鼠ですね」
「あぁ、ですがね。今回の通商はザーナンド側からの要望なんですよ。今、あの国は飢饉に苦しんでますから。」
「え?そうなんですか?」
「戦闘狂ばかりなんでね、農業を疎かにし過ぎたんですよ。近年ザーナンドを囲む隣国は揃って協定を結んで戦力を共有してザーナンドに対抗してますからね。資源強奪できなくて、通商をご希望って事です」
「それは、何と言いますか…国王って獅子ですよね?」
「はい。気の弱い方でね、実権は虎族の宰相が握ってますが、これがまた、先代に輪を掛けて戦闘狂で面倒臭い相手なんですよ」
「まぁ、騎士隊の隊長さんが二人もいますから、大丈夫でしょうけど」
サナは分厚い書類の束を魔法でシュルシュルと纏めると、鞄の中に
戻してぺろぺろと毛繕いし始めた。
「いざとなったら重騎隊を配置してますからナナセさんは安心して帰ってもらって大丈夫ですよ」
「そ、そうですか。その重騎隊ってなんですか?」
「重火装甲騎士隊、略して重騎隊。魔道装甲で完全武装した騎士隊です。彼等は既に国境で陣を展開している筈です」
「へぇ!カッコイイですね」
「ですけど、多分ナナセさんの戦闘力の方が上ですよ」
「え?」
「騎士隊って、冒険者ランクで言えばBとC位なんですよ。隊長クラスになればS、SSって感じですけど。どんだけ装甲厚くしても、元がBとかCだとね単体で戦ったらナナセさんの足元にも及びませんよ」
「流石にそんな事はないと思いますよ?私も弱点の多い方ですし」
「へぇ、例えば?」
「そうですね。やはり一番は火力ですかね。ファロの力と大剣の力で押されたら一たまりもありませんし、軽いんで厚みのあるモンスターとかに良く吹っ飛ばされてます。後、得物が刀なんできちんと斬り落とす場所見定めないと、傷だけ与えて戦闘が長引くなんて事はしょっちゅうですよ」
「まぁ、でも相手が特Aとか特S相手にそれは十分強いですよ」
「ですかねぇ?ファロがいないとあんまり上手くいかないんですよ」
「あれま?ノロケですか?」
サナの揶揄いに、ナナセは照れながら手を振って否定するが、恥ずかしさで声がうわずっていた。
「いやいや、ファロのフォローがうま過ぎるんですよ。ああ見えて視野が広いんですよ。だから、三手…五手先位は先の動きが読めるみたいで、良い場所に待機してたり、攻撃初動終わらせていたりと彼と戦うと、自分が強くなった錯覚に陥るんですよね」
「成程…それは凄いですね。そうか、そうか…成程…」
サナは何か考えながら、ウンウンと唸っていた。そうこうしている内に、ザーナンドとの国境に到着しサナがリンの頭をバシバシ叩いて起こした。
「ん…んん。もう着いたのかい?ふぁーーー、良く寝た。ナナセの太腿超絶気持ちいい!良い筋肉だねーふわふわで弾力があってさー」
リンはぐりぐりと太腿に後頭部を押し付けナナセに抱きついた。
「リンさん、ふざけた事言ってる場合じゃありませんよ!ほら、騎士隊の皆さんがお待ちですから!」
ナナセはリンを起こして、身なりを整えてやった。思わず、クロウの身支度を手伝う感覚でリンの世話をしてしまい、それに気付いて、手が止まる。
あ、クロウにやってる感覚でやってしまった…。これ、恥ずかしいやつだ。普通に、何事も無かったように出よう。
「ママしてるねー。僕の方が年上なのに…これが家庭持ちの余裕なのか…」
「‼︎…な、何を言っているんですか!さぁ、降りますよ!」
ナナセに背を押され、リンは馬車の扉を開けて背伸びをしながら揶揄った。
「はーい。まま」
「リンさん‼︎」
ザーナンドとの国境に到着し、ナナセは騎士隊に挨拶をすると彼等が
入国したのを見届けて、帰途に着こうとした。その瞬間であった。物凄い爆音と共に戦闘音が響いた。
「な!嘘だろ⁉︎」
振り返ると、関所の内側から炎が立ち上がり剣のぶつかり合う音が聞こえた。既に門は閉じておりどうやって入り込むかナナセは悩んだ。
「おーい、ナナセ!帰るのか?」
その時、背後から入国に間に合わなかったカシャとロイが声を掛けてきた。
「ロイさん!カシャさん、大変です!戦闘が始まりました!」
「なっ!そんな馬鹿な!ロイ!急ぐぞ!」
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