狼と人間、そして半獣の

咲狛洋々

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太陽の国 獣語

クロウの初恋(6)

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「上はどうなっているだろうか」

バートはロージェスに問いかける。あれから7時間程であろうか、調査隊は22階層の岩壁の隙間で足止めを食らっていた。

「まぁ、ナナセとファロあたりが来るんじゃないか?俺は意外と何とかなると思っていたりするんだな」

ロージェスはハハハと笑って、岩壁に頭を預けて非常食をカブりと食いついた。

「能天気な奴だな…俺はナナセさんに来て欲しくないよ。万が一があれば…俺は俺を許せなくなりそうだ」

「いやいや、お前より強いあの二人だ。そう簡単にやられるかよ」

バートはジロリとロージェスを睨むと、ムッとした顔をしてディブロスの動きを見に岩肌近くに顔を出した。

ピカッ——ヒュンッ!

ビィィィィィン

ドーーーーーン‼︎

「「…え?」」

18階層辺りから、光の線が真っ直ぐに伸びてディブロスの心臓を貫き、一瞬の叫びの後に静寂がその空間を包む。まるでスローモーションの様にゆっくりとディブロスの背から、トンッ…と飛び降りたのはナナセであった。黒のタイトパンツにブーツ、白のゆったりとしたシャツがナナセの放った閃光に照らされ、そこのみが神の降臨の如くに輝いている。

「ナ…ナナ…セ、さん」


バートの心臓はバクンと大きく高鳴り、痛い程に胸を叩いていた。フラフラとよろめきながらも、最後の一撃を繰り出そうとディブロスは太く扇のように広がる尾を振り回す。

「危ない‼︎」

岩陰に隠れる冒険者や騎士隊が叫ぶのと同時に、黒い塊がビュンと弾む様に尾にぶつかり、尾は地面に叩きつけられディブロスは仰け反り横に倒れた。その衝撃でブワリと砂煙が上がり、皆ナナセの姿を探す。
砂煙が、地龍が開けた階層奥の穴に吸い込まれ辺りが視認出来るようなると、そこにはナナセを腕に乗せたファロが立っていた。まるで堕天使と天使の邂逅の様な風景に皆、息を飲み声を上げる。

「「黒雷‼︎」」

「「黒雷‼︎」」

ファロとナナセは声の方を見上げると、ナナセが刀を横一文字に斬撃を撃ち込む。すると皆が避難した岩陰の上にへばり付いていたもう一体のディブロスが壁を蹴り上げ、宙を舞う。
それと同時に五階層でナナセのブラックホールに身体半分を飲まれていた地龍の塊がドスンとディブロスとぶつかり落ちてきた。そのブラックホールに吸い込まれるディブロスは、叫び声を上げてもがいている。

「ファロ!グラビティ掛けるよ!」

「分かった」

右と左に分かれて駆け出す二人。ファロは巨体の影に剣を突き立てて、影縫いでディブロスを押さえつけると、パッと後方に下がった。ナナセはそれを見て、右手を天高く突き上げ風と影を集め渦を作った。渦はディブロスと地龍の真上に投げられ、辺りの空気を外に弾きながらブラックホールが収縮してゆく。吸い込む力が強まり、次第に二体の身体は飲み込まれブラックホールと共に消えた。
ナナセとファロは刀を構え直し、上層を見上げる。

「さっき五階層で飲み込んだもう一体の地龍が落ちてこないな」

ナナセは目を凝らし、動きを探る。ファロは耳をピクピクと動かし音を聞き分けていた。

「いや…抜け出しているな。掛が甘かったかもしれん」

「そっか。確かに、首だけだったからな…嵌ってたの」

「…もしかしたら地上へ上がっているかもしれんな、戻るか?」

「…ファロ、ここから皆を誘導できる?私が先行して上ろうかと思うんだけど」

「お前に従う」

「分かった、じゃあ皆を頼むね?」

ナナセはファロに近付くと、首を掴んでファロの少し開いていた口の中に自身の舌を捻じ込んだ。

「さぁ、行ってこようかな、また後でねファロ」

「あぁ、行ってこい」

スルリとナナセのズボンに差し込み臀部を撫でていた手を引き抜くと、ファロはナナセの背を見送った。

「おい、お前ら!そこから出てこい。上がるぞ」

岩陰から覗いていた冒険者や騎士隊に声をかけ、ファロは壁に沿って作られた階段をトントンと上がった。皆、周囲を警戒しつつファロが上がってくるのを待って、ぞろぞろと後に続いた。

「貴殿は黒狼殿か?」

騎士隊の部隊長がファロの後ろから声を掛けた。ファロはチラリと視線を向けると、コクリと頷き前を見る。

「た、助かった。助力を感謝する」

「構わない。仕事だ」

「しかし、先ほどの技は一体…」

「……俺に聞くな。よく知らん」

「知らん……で、対応は出来まいよ?」

「…俺に聞くな。ナナセに聞け」

「あぁ、先程の冒険者か。ナナセ殿と言うのだな、黒狼殿の…その…公私を共にするパートナーか?」

「…妻だ」

「なんと!奥方であったか。あの様に凄腕の奥方とは、いや参った!どうだろう?奥方と共に騎士隊に入らぬか?」

「…そんな事よりも早く上に上がらねば、殺されるぞ。後30分で三階層より下は封印される。国王命だそうだ」

「‼︎なっ、なんだ、、と?」

「地龍だけじゃなく、他のモンスターが地上に大量に向かっている、仕方ないだろう」

「…そん、な。我々がまだっ…ここにいるというのに!」

「…だから俺とナナセが来たんだ。いちいち落ち込む暇があるのなら走って地上へと上がるんだ…これ以上時間が掛かればナナセ一人では地龍とアンデッドの対応が難しい」

「‼︎ なんだと?まだ、地龍が残っているのか⁉︎」

「お前ら、俺達をなんだと思っている…二人で地龍二体とディブロス二体に、ゴブリンにアンデッドだぞ。やれると思ったか?」

「…す、済まない。分かった…急ごう!全員聞いたな?時間が無い!攻撃せずに地上を目指すんだ!急げ!」


10階層まで駆け上がり、間に合わないと判断したファロは8階層まで降りていたナナセに風圧で押し上げろと叫けんだ。

「分かった、ファロ!私を受け止めてくれ」

「こい!」

叫ぶのと同時に階段から飛び出し腕を伸ばしながら落ちて行くファロ。そして、階段を駆け上る騎士隊と冒険者達の横をナナセが落ちて行く。その姿に、皆慌てたが、ニコリと微笑みながら夫の腕に落ちて行く姿に何故か『二人なら大丈夫だ』と理解して、足を止めずに走り続けた。
ブゥゥンと鼓膜が震えて、皆引き摺り混まれる様に身体が下へと吸い込まれたが、次の瞬間に物凄い風圧と共に全てが入り口まで押し上げられた。

ドォォォォォォン


入り口で待機していた騎士隊達も、物凄い爆音と共に、瓦礫や人、モンスターが宙を舞い落ちてくる状況に慌てて結界を張るが間に合わず、地上はモンスターと人が入り混じる混沌とした状況へと追い込まれていった。


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