狼と人間、そして半獣の

咲狛洋々

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太陽の国 獣語

クロウの初恋(5)

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 「なぁ、ナナセ!クラッカーってなんだ!?」

走り出すナナセの隣に追いついた、斥候専門のサポート冒険者パランが質問した。その問いに赤面しながらナナセは「忘れて。緊張を解したかっただけ」そう言って加速した。
パランは頭を傾げながら「よくわかんねぇ奴だな、ナナセは」そう笑ってナナセを追い越しダンジョンの騎士隊に、隊長からの連絡を伝えに行く為駆けて行った。

「ファロと合流まで時間があるな…トラップ仕掛けとくか」

ロースの公園、街門側のゲート上部に闇属性攻撃の刻印を施すと、ナナセはその下にも刻印を刻んだ。そして上下の刻印が繋がると、その中にブラックホールを生み出した。すると下の刻印がブラックホールを飲み込み、上の刻印から吐き出され、また下の刻印に沈む。この連続したアクションに制約の刻印を施した。

「よし、これでクエスト登録した冒険者と騎士隊以外は入れないな。ついでにゴブリンは数が多いだろうからブラックホールに飲み込ませよう」

トラップの設置を終えたナナセは、街門が見渡せる公園のベンチに座り、刀にポーションと聖水を混ぜた対アンデッド用のアイテムを吸わせた。不思議とこの世界に共に来たであろう刀は刃毀れ一つせず、魔物の血を吸うと切れ味が更に鋭くなる。妖刀の類いだろうか?何度もこの刀には助けられてきた。今回も頼むぞ…愛刀。
ふぅっと息を吐いたナナセにファロが駆け寄り声を掛けた。

「ナナセっ!話は聞いた。試すのか?あれを」

「あぁ、実践だ」

「バートさんを助けないと、クロウの相手が大変になるからね」

「違いない」

ナナセは微笑んで、漆黒の美しい獣を見上げた。逞しい肉体に光りが集まる。その姿がなによりも好きだ…この美しい獣が私の番だなんて、私は幸せ者だ。手を伸ばし、ファロの腕を掴んでナナセは口付けをした。
ファロもそれに応えるように口を開いて、ナナセの舌を舐め上げ吸い付いた。

「帰ったら、二人目を作るぞ」

「おや、クロウの相手では役不足か?そうだな、クロウにも弟が必要かも知れないね。あぁ、思い出すだけでここがファロを思い出すよ」

下腹を摩り、ナナセは闘い前の昂りに欲を孕んだ眼差しをファロに向けた。

「あぁ、ここに思う存分飲ませてやる。俺も、久々にナナセを喰いたい…いいな?今夜だ、だからさっさと終わらせるぞ」

「あぁ、待ち切れない」

二人は肩を抱き合いダンジョンへと向かう。そこには交戦中に負傷した騎士隊がギルマスの治療を受けていた。

「おい、闘う前からおっ始める気じゃないだろうな?見えてたぞ!」

「あぁ、今夜の楽しみの約束をしたところだ」

「ファロ‼︎ そういう事は言わなくていいんだ!」

「ははっ!頼もしいな、そろそろ隊が引き上げてくるぞ」

「「いくか!」」

ナナセとファロは警戒態勢を取りながら後退する騎士隊を見定め、タイミングを測った。

「ファロ、私が先行する。10秒後から頼むよ」

「分かった。行け‼︎」

その声に、力を入れた左足をバネに飛び出したナナセは、音も立てずに騎士隊の合間を縫って、ゴブリンを斬り崩し騎士隊の逃げ道を確保してゆく。その姿に騎士隊は目を奪われた。ナナセの姿は目に捉えられずとも、視界に残る閃光がナナセの軌道だと分かったからだ。

「す、すごい…なん、だ…この速さは…」

その言葉が聞こえる前に、ファロが続き大剣でゴブリンの残骸と共にナナセの攻撃をすり抜け出したゴブリンを一太刀の内に押し返した。風圧で騎士隊は後方入り口に吹き飛ばされ、ゴブリンはダンジョンへと吹き飛ばされた。
ナナセはその風圧に背中を預け、更に奥へと飛ぶように進んだ。


「ドーゼム殿…これがS+ですか…」

「あぁ、Sがチームやパーティを組むと自動的にS+になるが、あいつらは相性が良い。だからSS以上の力を発揮する。魔獣からしたら厄介この上ないチームだ」

「我が隊に欲しい逸材です」

「コブ付きじゃあな、騎士隊の仕事は無理だろうな」

「はぁ、残念この上ない」

「指導教官として招聘したらどうだ?」

「‼︎ それは名案です。この闘いが終われば掛け合ってみましょう!」

「ははっ!頑張れよ?あいつらを落とすのは大変だぞ?なんせ欲がないからなぁ」

「成程、しかし落としがいがある」

ニヤリと笑うタルドに、ドーゼムはやれやれと笑いながら治療を続けた。

 
 ナナセはゴブリン達の間を縫うよう進み、ゴブリンキングと対峙していた。間合いを詰めすぎないように距離を測り、背後から飛びついてきたゴブリンをかわしながらゴブリンキングの動きを見ている。

「ふぅん、あくまでも座して待つつもりかい?」

ナナセは左足を大きく後ろに下げ、縦に身体を開いて振りかぶると、重心を身体の中心にして斜めに円を描く様に、刀を振り下ろし斬撃を繰り出した。その斬撃に、右足の腱を斬られたゴブリンキングは咆哮を上げ、ダンジョンの壁にぶつかりながら突撃する。そしてナナセはゴブリンキングの足の間から背後に回り更に腱を切る。

「ナナセ!雷撃で足留だ!」

返事をする前にナナセは飛び上がり、脊椎に斬りかかり雷撃を食らわせた。プスプスと煙を吐いてゴブリンキングは硬直している。その姿を確認すると、慌てたゴブリン達がダンジョン入り口へ逃げる様に飛び出して行った。
そして後方入り口から、騎士隊に攻撃を受けたゴブリンの断末魔がダンジョンに響き渡る。


「よし、進もう」

「あぁ、アンデッドは無視するか?」

「どうだろう?数次第かな…多ければ崩すしかないよね」

「聖水ポーションは持ってきているか?」

ナナセはマジックバックから聖水ポーションを出すと、ファロに渡して、自身も頭から聖水ポーションを被った。

「私、アンデッド系苦手なんだ。あの腐敗感がね」

「なら俺がやろう」

「おぉ、頼もしい」

ナナセはファロの腰に腕を回し、デートでもするかの様に二人は歩みを進める。ダンジョン入り口からその様子を偵察していた、隣国との闘いから先行して戻った赤の騎士隊、隊長のロイが二人の姿を呆然と見つめた。

「…欲しいな、あの男」

そして、意識を取り戻したゴブリンキングが咆哮を上げると同時にロイはロングソードを鞘から抜いて、放たれた焔でゴブリンキングを丸焦げにした。

「美しい光景を穢した罪は重いぞ」

倒れたゴブリンキングの首を一刀両断し、その真っ直ぐに伸びた金髪を後ろに流すと、燃える赤い瞳でロイは二人の背中を見つめた。






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