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俺だけが分かること
しおりを挟む討伐当日、ナナセと共に火口へ向かう登山道入り口で討伐隊の第一陣から情報が降りてくるのを俺達は待っていた。ナナセは俺にいつもの携帯食のお握りをくれた。いつもながら美味い。
それに、新調した防具も体に馴染んで動きやすいから、今回も無事討伐できるだろと思う。
ゾクリッ
最近よくこの刺す様な気配を感じる。以前からチクリと感じる物はあったが、今日はその殺気が強い様な気がする。振り返り辺りを見渡すが、殺気を纏った様な者は居なかった。一体あれは…
「どうしたの?ファロ。なんだ、まだ腹減ってのるか?」
「あ、あぁ、なんでもない。いや、大丈夫だ…ありがとう」
背筋から脂汗が流れ落ちる。この気配は一体。誰もなぜ気付かないのか。手が震えるのを抑えるので精一杯だった。
「さ、気合い入れて行こう、相棒!」
ナナセの言葉になんだか感動してしまった。ナナセには恋人のエルヒムがいる。しかし俺は相棒。
この言葉は思った以上に甘美で、俺は満たされた気持ちになった。獣人だからでは無く、俺という一人の存在を認めてくれた気がした。
「ああ、行こう。ナナセ」
震えていたはずの手が熱を帯びていく。炎竜を倒して美味い酒と飯をナナセと味わおう、そう気持ちを切り替えたはずなのに。ゾクリ、ザワリ、ドク、ドク、ドク。風にのって俺を捕らえる様な匂いを感じた。
ダメだ!この香りは俺をダメにする!逃げなくては。
「ファロ?大丈夫か?震えているけど」
「あ、あ。ナナセ?この匂いはなんだ?甘ったるくて鼻がおかしい」
頭が痛い。早くここから逃げなくては。
「甘い匂い?私には感じないけど。どうする?辞めておくか?」
早く行ってここから離れたい。
「いや、行こう。ここは嫌だ」
「分かった。急ごう」
鼻を布で覆って火口へ向かう。やっと殺気を帯びた気配が消えた。
「…なんだったんだ?」
火口付近に近づくと、三頭の炎竜が咆哮を上げながら冒険者に襲いかかっていた。
俺達も遅れを取るわけにはいかない。
「ナナセ!左から行こう!」
ナナセもそのつもりだったのか、既に抜刀し構えに入っていた。
ナナセが斬りかかり、意識がそれた所を俺が影縫いで動きを止めて、腹下に滑り込み2人掛で腹を攻撃して斬り倒す。一頭倒したら引き下がり、後方のチームとスイッチする。そうして三頭の炎龍は倒された。
「お疲れ様、ファロ!」
「あぁ、ナナセも」
2人で倒した一頭は、俺達に素材獲得の権利があったから二人で何を採取するか決めて、採取希望箇所に刻印魔法で刻印し、申請をした。これで当分クエストを受けなくても生活は出来そうだ。
戻ったらあの殺気について調べてみるか。
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