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私の1日
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私は、東藤七瀬 29歳独身。
ある日目が覚めると、知らない男の部屋にいた。その男は、後に私の後見人となるのだが、最初は余りの事に驚いてその男の部屋に篭ってしまった。どうやら異世界にいるらしい。魔法やら魔物やら、剣に盾…。アニメの見過ぎで頭がおかしくなったのでは無いかと恐怖すらした。
2日、3日と過ぎる内に、彼の言葉が自然と理解出来るようになり、文字すらも日本語で書いても自然とこちらの言葉に変換されているようで、不都合は無い様に思えた。私を拾った彼は冒険者のエルヒム。森の湖で倒れている所を見つけてくれたらしい。
しかし、そんな所に行った記憶も無ければ何故そこで倒れていたかも分からず困惑した。
元々流れに逆らわないのが私の性分で、この世界も仕方がないと思えば意外となんとかなるもんだと、この性分に感謝した。申し訳なかったが、エルヒムには何から何まで世話になってしまい、自立する為に私もギルドに登録して働く事にした。エルヒム曰く、こちらで倒れていた時にこれを帯刀していたと言われ渡されたのが、まさかの日本刀で驚た。あちらの世界では清流会という剣道道場の師範の一人だった私の得物が日本刀とは。何かしら理由があるのかとも思ったが、まぁ、なんでも良いかとそれを使っている。
こちらに来てからの日々はエルヒムのお陰で穏やかな物だった。彼は質実剛健、外見さえ外国人風でなければ侍と言っても過言ない人物だ。しかし、男寡が二人で同居というのも色々不都合もあり、私は自分の家を借りる事にした。仕事も何気に順風満帆でギルドでは、最速Aランカーとしてちょっと噂にもなった程だし、彼もまぁ巣立ちさせてくれるだろうと思った。
「エルヒム、私、そろそろ自宅を借りようかと思っているんです」
エルヒムは一瞬目を閉じて何かを考えているようだったが、「そうか」とだけ言って認めてくれた。
翌日から部屋探しをした。ギルドに頼んで幾つかの部屋を見せてもらったが、日本人として許容できない部屋ばかりで悩んでいたら、隣にいた大きな黒い狼が声をかけてきた。
「部屋を、探しているのか?」
とても低くて、でも耳障りの良い声だった。
「え、ええ。なかなかね、良い部屋がなくって」
「どんな部屋が良いんだ?」
そこから獣人のファロと私は仲良くなって、彼の勧めで見学した部屋はベランダに、風呂場とトイレ、キッチンがきちんとある部屋で、すぐにその部屋を借りる事にした。それから、彼にお礼にと食事に誘ったが、とても好評でほぼ毎日彼は私の料理を食べにくる。取り留めのない話ばかりだが、彼には教養もあってその穏やかな性格は私には大変好ましいものだった。狼という高ポイントもあるし。もふもふサラサラした彼の毛皮は素晴らしく、いつも背中に抱き付いては堪能させて貰っている。
彼も最初は嫌がっていたが、単純に私が動物やらを好きだと知ると、されるがままに居てくれる。素敵過ぎる。
私は大分彼に心を許している。これが、恋愛としての好意だと分かってしまって、異性愛者だと思っていたアイデンティティが崩れた。仕方がない。好きになってしまったのだから。それでいい。
明日、ギルドで緊急クエストが発布されると知った私は、ファロが他のチームに誘われないよう、朝早くからギルドを訪れた。2時間程ギルドで待つとファロがやって来た。誰かに声をかけられる前に私から声をかけよう。
「ファロおはよう!聞いた?緊急クエスト」
「いや…まだだ」
「そう…良かったら私と組まないか?食事は保証するよ?」
きっとこの一声で彼は頷いてくれるだろうという自信があった。
「あぁ、勿論だ。ナナセとならどんな相手でも問題なくやれるだろう…食事もありがたい。まず内容を見てくるから、その後色々決めよう」
やった!これでクエストの間はずっと側に居れる。そう思うと、なんだか、クエストが旅行の様で楽しみになった。
クエスト受注のあと、チーム登録をしてギルドを出た。ファロは買い物をすると言って向かいの店へ向かおうとしていたから、私も着いて行くと言うと、野暮用だからと一人で行ってしまった。
ギルド入り口から店内を眺めていたら、ファロは何やら可愛い獣人の店員と話をしている。結構時間がかかっているなと目を凝らすと、その店員はファロの首に手を当ててキスをしていた。そして、ファロの尻尾が軽く立ったのが見える。不快な感情が沸き立つのを感じたがなんとか飲み込み我慢した。ファロが店から出てきたから、買い物に付き合えと誘った。彼は夜食は出るのか?なんて事を笑って言ったけれど、私の心はぐちゃぐちゃになって、今すぐにでも問いただしたい気分になる。彼の心が知りたい。
「あぁ、今日もう一人食事にくるけど良いかな?」
ファロは構わないと言った。その後に誰だと聞かれたから嘘をついた。
「私の恋人」
その時のファロの表情は、私の心を満足させるのに十分だったから黙ってエルヒムに恋人役を演じてもらった。
後で嘘を謝ろう。彼の中に少なくとも、私が好意の相手として存在している事が分かって幸せだ。
私の1日はファロで始まってファロで終わる。これを恋と言わずになんと言う?
ある日目が覚めると、知らない男の部屋にいた。その男は、後に私の後見人となるのだが、最初は余りの事に驚いてその男の部屋に篭ってしまった。どうやら異世界にいるらしい。魔法やら魔物やら、剣に盾…。アニメの見過ぎで頭がおかしくなったのでは無いかと恐怖すらした。
2日、3日と過ぎる内に、彼の言葉が自然と理解出来るようになり、文字すらも日本語で書いても自然とこちらの言葉に変換されているようで、不都合は無い様に思えた。私を拾った彼は冒険者のエルヒム。森の湖で倒れている所を見つけてくれたらしい。
しかし、そんな所に行った記憶も無ければ何故そこで倒れていたかも分からず困惑した。
元々流れに逆らわないのが私の性分で、この世界も仕方がないと思えば意外となんとかなるもんだと、この性分に感謝した。申し訳なかったが、エルヒムには何から何まで世話になってしまい、自立する為に私もギルドに登録して働く事にした。エルヒム曰く、こちらで倒れていた時にこれを帯刀していたと言われ渡されたのが、まさかの日本刀で驚た。あちらの世界では清流会という剣道道場の師範の一人だった私の得物が日本刀とは。何かしら理由があるのかとも思ったが、まぁ、なんでも良いかとそれを使っている。
こちらに来てからの日々はエルヒムのお陰で穏やかな物だった。彼は質実剛健、外見さえ外国人風でなければ侍と言っても過言ない人物だ。しかし、男寡が二人で同居というのも色々不都合もあり、私は自分の家を借りる事にした。仕事も何気に順風満帆でギルドでは、最速Aランカーとしてちょっと噂にもなった程だし、彼もまぁ巣立ちさせてくれるだろうと思った。
「エルヒム、私、そろそろ自宅を借りようかと思っているんです」
エルヒムは一瞬目を閉じて何かを考えているようだったが、「そうか」とだけ言って認めてくれた。
翌日から部屋探しをした。ギルドに頼んで幾つかの部屋を見せてもらったが、日本人として許容できない部屋ばかりで悩んでいたら、隣にいた大きな黒い狼が声をかけてきた。
「部屋を、探しているのか?」
とても低くて、でも耳障りの良い声だった。
「え、ええ。なかなかね、良い部屋がなくって」
「どんな部屋が良いんだ?」
そこから獣人のファロと私は仲良くなって、彼の勧めで見学した部屋はベランダに、風呂場とトイレ、キッチンがきちんとある部屋で、すぐにその部屋を借りる事にした。それから、彼にお礼にと食事に誘ったが、とても好評でほぼ毎日彼は私の料理を食べにくる。取り留めのない話ばかりだが、彼には教養もあってその穏やかな性格は私には大変好ましいものだった。狼という高ポイントもあるし。もふもふサラサラした彼の毛皮は素晴らしく、いつも背中に抱き付いては堪能させて貰っている。
彼も最初は嫌がっていたが、単純に私が動物やらを好きだと知ると、されるがままに居てくれる。素敵過ぎる。
私は大分彼に心を許している。これが、恋愛としての好意だと分かってしまって、異性愛者だと思っていたアイデンティティが崩れた。仕方がない。好きになってしまったのだから。それでいい。
明日、ギルドで緊急クエストが発布されると知った私は、ファロが他のチームに誘われないよう、朝早くからギルドを訪れた。2時間程ギルドで待つとファロがやって来た。誰かに声をかけられる前に私から声をかけよう。
「ファロおはよう!聞いた?緊急クエスト」
「いや…まだだ」
「そう…良かったら私と組まないか?食事は保証するよ?」
きっとこの一声で彼は頷いてくれるだろうという自信があった。
「あぁ、勿論だ。ナナセとならどんな相手でも問題なくやれるだろう…食事もありがたい。まず内容を見てくるから、その後色々決めよう」
やった!これでクエストの間はずっと側に居れる。そう思うと、なんだか、クエストが旅行の様で楽しみになった。
クエスト受注のあと、チーム登録をしてギルドを出た。ファロは買い物をすると言って向かいの店へ向かおうとしていたから、私も着いて行くと言うと、野暮用だからと一人で行ってしまった。
ギルド入り口から店内を眺めていたら、ファロは何やら可愛い獣人の店員と話をしている。結構時間がかかっているなと目を凝らすと、その店員はファロの首に手を当ててキスをしていた。そして、ファロの尻尾が軽く立ったのが見える。不快な感情が沸き立つのを感じたがなんとか飲み込み我慢した。ファロが店から出てきたから、買い物に付き合えと誘った。彼は夜食は出るのか?なんて事を笑って言ったけれど、私の心はぐちゃぐちゃになって、今すぐにでも問いただしたい気分になる。彼の心が知りたい。
「あぁ、今日もう一人食事にくるけど良いかな?」
ファロは構わないと言った。その後に誰だと聞かれたから嘘をついた。
「私の恋人」
その時のファロの表情は、私の心を満足させるのに十分だったから黙ってエルヒムに恋人役を演じてもらった。
後で嘘を謝ろう。彼の中に少なくとも、私が好意の相手として存在している事が分かって幸せだ。
私の1日はファロで始まってファロで終わる。これを恋と言わずになんと言う?
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