狼と人間、そして半獣の

咲狛洋々

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俺の1日

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 俺は狼の獣人。この国で、獣人はあまり歓迎されない。それは、獣人が百年ほど前までは人間の国で奴隷や家畜と変わらない存在だったからだ。しかし、隣国のザーナンドとの戦いで戦闘力の高い獣人戦士の力を知ったこの国は、獣人の扱いを変えた。
扱いを変えた所で心に染み着いた嫌悪感は簡単には拭えない。
百年経った今でもそうだ。俺は冒険者になる為にザーナンドからこの国にやってきたが、最初は酷い物だった。仕事は貰えず、住む場所すら保証人がいなくては見つけられず、野宿する羽目になった。

 ある日、東の森へ向かった冒険者達がウォーベアとワイバーンに追われてこちらに向かってきたのが見えた。最初は知らぬふりをするつもりだったが、寝床を壊されるのも癪だったので仕方なく三体を片付け彼等を助ける事にする。ありがたい事に彼等からパーティへの参加を打診してくれたが、俺の事で迷惑を掛けるのも考え物だと思いパーティ参加は断った。けれど、俺も冒険者になる夢を逃したく無い気持ちもあって、彼等にはサポートメンバーとして声をかけて欲しいと頼んだ。

 あれから、俺はなんとか今居るロートレッドに馴染んで仕事も出来る様になったのは幸運だったと思う。
トントン拍子にランクも上がり、今ではSランクのソロとしてギルド協会からの仕事をメインにしている。実力があれば皆受け入れてくれると自信を持てた。今日はギルド協会から依頼のあった炎龍討伐の準備の為に買い物をしようと思っている。まずは保存食にポーション、魔石に追加装備の購入。

「後は抑制剤か」

討伐時期に被りそうだから、多めに買っておくか。万が一の避妊薬も必要かもしれない。
ギルドでクエストの資料をもらって、参加冒険者のナナセと入り口で話をした。ナナセがいるならクエスト中の飯は心配なさそうだ。彼は俺の好みを良く知っていて、いつも美味い飯を食わせてくれる。
それに、彼は異界の渡り人らしく俺達には無い雰囲気を持っている。いつも飄々として捉え所がない男で面白い。
ひとしきりナナセと話した後、向かいのモールの店に寄った。
いつもは午前中に行くが、今日は午後に顔を出した。すると、見かけない顔の店員が居た。
半獣の様で、俺と同じ狼の半獣みたいだった。
しかし、あまりにもか細く、本当に狼が入っているのか?と疑問に思う程だった。

「すまないが、抑制剤はあるか?」

その店員は、幾つが抑制剤を出してきて説明をしてくれた。
この店員も発情期は辛いのだろうか?懇切丁寧に説明してもらったが、発情期を知る者だからこその物だったように思えた。いい買い物が出来たし、次の買い物に行こうかと店を出たところにナナセが声を掛けてきた。

「ファロ!買い物終わったの?良かったら食材買いに行くんだけど手伝って欲しいんだ」

腰まである黒髪に切長の黒い瞳。美しい容姿に似合わず一撃必殺で相手を倒すその姿は「雷刀ライトニング」の二つ名を体現していると思う。本人は、元の世界で剣道なる武術の指導者をしていた上に、こちらに渡った際に剣術に合ったスキルが付いていたと言っていた。
故にあれ程までに強いのかと得心したものだったが。

「ああ、構わない。夜は食わしてくれるのか?」

当然食わしてくれるだろうと笑ってみたら、少し考えてもう一人加わるがいいか?と聞かれた。


「勿論構わないが、誰だ?」

「私の恋人です」


その言葉に、荷物を落としてしまった。ナナセに恋人が居たなんて、全く俺は知らなかった。
確かに、人当たりもよく飯は上手くて美人とくれば、誰かしら言い寄ってくるわけで、何故かショックを受けて「ああ」とだけ返事をした。

「大丈夫?落としたよ」


ナナセは荷物を拾うと『何やってるんだ』と言いたげな目で俺を見た。俺は何にショックを受けているのだろう。


 食事は思いの外楽しかった。恋人だという男はまさかのSランクのエルヒムだった。
面識がある男だったという事にも驚いたが、恋人と言うよりもまるで既に家族であるかのような関係に、俺はなんだか仕様がないと思ってしまって、特に二人の事を聞く事もなく討伐の話などをしてその日の食事会は終わった。
なんだか心がザワザワしてしまって、今夜は寝れそうに無いなと、森を走った。


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