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アリア

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 新年祝賀と成人祝賀は一週間かけて王城で行われる。
 パートナーがおらず、幼いきょうだいがいる新成人は早い時間帯に、パートナーが既にいる新成人はそのまま夜会に参加する形で、デビュタントは行われるのだ。
 アリアはこの時この場にいる貴族に、自身が成人をしたと同時に、フロスの婚約者であることを示すはずだった。だが、幼い双子が居るという理由で、アリアの夜会への参加は見送られてしまったのだ。

「酷い……お父様、酷いです……」

 何も知らないアリアだったが、父がウィンビュー家から多額の花嫁準備金や出資金を貰っている事は知っていた。家格が下の家門から婚約を申し込んだにも係わらず、夜会へ参加させないという事は、相手の家に多大なる無礼を働いているのと同義であるのに。
 この日のためにフロスが贈ってくれたドレスを抱きしめ、アリアは部屋に鍵をかけてただただ泣いて過ごした。きっとアリアが篭城を決め込んでしまったため、ダナード子爵家はまだ王城での祝賀には参加していない。

「ア~リア」

 コンコンと扉がノックされる音と同時に、今一番聞きたかった声を聞いて、アリアは顔を上げる。

「流石にお義父さんも泣きついてきたよ。僕のアリア」

 ただの声真似じゃない。アリアは恐る恐る部屋の鍵を開け、ゆっくりと扉を開く。

「……フロス様」

 じわりと涙が浮かぶ。

「目が真っ赤じゃなか。そんなに僕に会いたかったの? 可愛いアリア」
「はい……はい!」

 アリアは、ぐずっと鼻を鳴らして目元を拭う。

「じゃあ、準備しようか」
「え?」

 パチンッと、指を鳴らしたフロスの後から、ぞろぞろとダナード家のメイドではない女性達がなだれ込んでくる。

「最短で、僕のお嫁さんを世界一可愛くして」
「畏まりました坊ちゃま」

 女性達のリーダーらしき人物。ウィンビュー家に勤めるメイド長とメイド一行は、フロスに一礼してアリアの部屋の扉を閉めた。
 フロスは困惑の瞳で振り返るアリアに手を振って見送り、傍らに歩み寄ってきた幼女に視線を落とす。

「お兄さま」
「レイチェル。馬車で待ってろって言っただろ」
「女性の準備には時間がかかりますの。その間ずっと馬車で待つなどごめんですわ。それに――」

 レイチェルが視線を向けた先には、少しおびえたような瞳の女性と、その両端に幼児が二人引っ付いていた。

「あのかたがこころよく案内してくれましたの」
「ああ、あの人が」

 フロスは幼児を連れた女性に近づき、その手を取って軽く口付ける。

「初めまして、お義母様。フロスと申します。どうして、婚約の場にはいらっしゃらなかったのですか?」
「あ、いえ、私は、後妻で、アリア様にとっては継母に当たりますので……」
(アリア――様?)

 後妻だとしても、娘に当たる相手に対して敬称をつけるという事に、何か違和感を覚える。

「よければアリアの準備が終るまで、私どもをお茶にご招待頂けたら嬉しいのですが」

 フロスはすっと後に控えるレイチェルに視線を向けると、レイチェルは継母に向けて綺麗なカーテシーをしてみせた。

「はい、そうですね! 気が付かず申し訳ありません。是非、ご招待させてください」

 継母が少しほっとしたような笑顔を見せた瞬間、引っ付いていた双子達が駆け出す。

「駄目よ、あなた達!」

 継母の静止も無視して、満面笑顔の双子はフロスを通り過ぎて行く。

「「レイチェル」」
「様をつけなさい。わたくしは侯爵家のむすめですよ」

 走りよってきた双子に華麗なビンタを決めた妹に、フロスは末恐ろしいものを感じつつ、その母親である女性は何度もすいませんと頭を下げた。




 まるで入れ替わるように居なくなったダナード子爵に、フロスは本当に嫌われているのだなと、紅茶を口に運びながら思う。

「双子君は、どちらもアリアと同じ髪の色をしているのですね」

 即ち、ダナード子爵とも同じ髪の色で、三人が姉弟である事を示している。だが、不思議な事に、アリアとダナード子爵は顔が全く似ていないのに、双子の片方とアリアの顔は良く似ていた。

「ハルシオン君は、アリアにそっくりだ」

 ボソっと呟いたフロスに、継母の肩が目に見えて分かるほどに震える。

「何か、あったのですか?」

 コレはきっと大きな秘密があるに違いない。悪い癖だと思いながら、その秘密を知りたくてたまらないフロスは、つい笑いが零れる口元を手で隠して継母を見る。

「分かりました」

 そして、礼服の中に隠し持っていたベルを鳴らして現れた執事に、遮音の結界と子供達の相手を任せると、改めて継母を見た。

「私は、モニカお嬢様のメイドでした」













 ベッドが沈む感覚に、モニカの意識が薄く浮上する。

「どうしてこんな所で寝ているんだい?」

 横から声をかけられ、モニカは目を擦ってそちらを見た。

「お父様?」

 こんな時間に何のようだろうか。まだ覚醒しきらないモニカが、ぼんやり父を見ていると、布団を跳ね除けた父がモニカを抱きしめた。

「お父様?」

 もう一度、声のトーンを変えて問いかける。父はその声を無視してモニカを抱き上げ、どこかの鍵を鳴らしながら薄暗い廊下を進んで行く。
 時間が時間だけに、誰にもすれ違わない事が、当たり前だが不気味さを伴って怖い。
 何時もは鎖された最上階へと向かう扉が開け放たれ、父に抱えられたままその階段を上る。
 下の階と余り作りの変わらない其処に、モニカは辺りを見回し、父が下へ戻る階段がある扉に鍵をかけたことに気が付かなかった。
 父の足は迷うことなく、一つの寝室に入る。
 淡い灯りに照らされたその部屋は、本当に昔、幼い頃に少しだけ来たことがある部屋に良く似ていた。

「きゃっ」

 父は、モニカをベッドに放り投げる。

「お父、様……?」

 追いかけるようにベッドに乗った父は、うろたえるモニカを見下ろしている。モニカの心臓が警鐘を鳴らした。逃げようと身体を転がすが、ネグリジェの裾を掴まれベッドに引き戻され、体勢を崩している隙に両手がベッドに縫い付けられた。
 父は腕を片手にまとめて押さえつけ、モニカの胸元に手をかける。

「い、いや! お父様! 止めてっ! やめてぇえ!!」

 ネグリジェがビリビリと破かれ、露にされた胸元に父の顔が沈んだ。
 でろっと大きく肌を舐められ、モニカの背筋に悪寒が走る。

「お父様! どうしたの? お父様!」

 大きな父の手がモニカの胸を掴む。握り潰さんばかりのその力に、モニカの顔が歪んだ。

「いやぁ! お父様! 痛いいたいっ!!」
「ああ、食べてしまいたい」

 握り締めた先から立ち上がった、モニカの先端の果実を父は指で転がし、嬉しそうな笑みを浮かべる。

「やだ……お父様、止めて……」
「美しいよ、ミュラ」
(お母様の、名前――?)

 一度離れた父の舌が、味わうようにモニカの身体を這う。その度に、悪寒が走り、鳥肌が立つ。

「違い、ます! わたしは、モニカです! お父様!」

 叫ぶモニカの声など聞こえていないように、父の手はモニカの秘所に触れ、ショーツの隙間から指を入れる。

「止めてお父様!! 止めてぇ!!!」

 モニカの事など全く考えず、父の指はモニカの中を蹂躙して行く。

「ひぅっ!! やだ、お父様……! もう、止めてぇ……」
「ミュラはここが好きだったね」

 行過ぎたはずの弱点に指先が戻ってきたことに、モニカの顔が青ざめた。

「いやぁ!! あ、やめっ!! あぁっ! やっ! いやっ! やぁあッ!!!!」

 トントンと叩き指の腹で擦られ、モニカの身体が勝手に快感を拾って行く。

「お父様! もう、止めて!! 正気に、戻って!!」

 父の手が、抑えていたモニカの手から離れ、残ったネグリジェ毎ショーツを引き摺り落とした。

「ひい!!!」

 一瞬の内に裸体を晒され、モニカは身を強張らせる。
 恐怖に震える身体が言う事をきかない。両手と両足の中にモニカを捕らえた父は、その頬にそっと触れた。

「愛している、ミュラ」

 その声音はとても甘く、父は母を本当に愛していたのだと思う。けれど、

「違います。モニカ、です……」

 返ってこないと知りながら、モニカは父の言葉を否定する。
 父はモニカの足に移動し、その太股に手をかけると、大きく開いて秘所を晒す。

「や、やめてっ!!」

 足に力を入れて閉じようとしているのに、父の力の方が大きく、ただ蜜口がぎゅっと閉じただけだった。
 父は足を肩にかけ、モニカの秘所に顔を落とす。

「止めて! いやぁああっ!!!」

 じゅっと微かに濡れた秘所を吸われ、舌で花芽を転がされる。

「ひぃ! だ、いや! やめっ!!」

 刺激に反応した身体が蜜を作り始め、秘所を潤わせ始める。
 父の身体が離れた事にほっとしたのも束の間、父が取り出した剛直にモニカの身が竦む。思わず逃げ出そうとした身体を押さえつけられ、身体に痛みが走った。

「いや! お父様!! それだけは、いやぁあ!!」

 大きく首を振って抵抗するモニカなど全く見ていない父は、モニカの蜜口に己の剛直を当て、先走りが滴る先端を少しだけ入れる。

「ミュラ」
「いやぁあ――――ッッ!!!」

 母の名と共に、一気に最奥まで貫かれ、モニカの背が弓なりにしなる。

「あ――――あ――――」

 呼吸が苦しい。貫かれた衝撃から立ち直れないモニカなど無視して、父の剛直がモニカの中を打ち付ける。

「お、とう……さま……」

 秘所から純潔を示す血が流れ落ち、内襞を引き摺られる痛みしか感じない挿入に、ただ小さな喘ぎ声だけが零れた。

「いや……いや……」

 モニカがどれだけ嫌と言おうと、その声は全く届いていない。
 奥の口が抉られ、モニカの腰が跳ねる。痛みは徐々に疼きに変わってくるのに、快感へと昇華していかない。
 結局それは痛みのままで、モニカの心と共に身体を穿つ。

「ミュラ!」

 一際大きな声で母の名を呼んだ父が、モニカの奥でやっと果てた。これで終ると思ったのに、父の剛直は硬さを失わず、そのままモニカの中に居座り続ける。

「……助けて、誰か、助けて……」

 ボロボロと涙を流しているはずの無い第三者に助けを求める。けれど、こんな深夜鎖された屋敷の隠された最上階に、誰かが来る事は絶対にない。

「何を言っているんだい? ミュラは私のものだろう?」

 突き上げる強さが変わり、蜜口からグチャグチャと掻き混ぜられる音が増した。密着した隙間から湧き出る泡の量が増える。

「ごめん、なさい! ごめ、ん、なさっい!!」

 痛い。乱暴な挿入は蜜口に負担をかけ、ギチギチと伸ばされ張り切った繊維は痛みを伴った。

「……お父様。ゆるして……ゆるして……」

 痛い。目の前の父は、モニカの知らない男だ。自分よりも幼い妹は、こんな父を知っているだろうか。

「いっ――――!!!」

 突然首筋を噛み付かれじわりと血が浮かび上がる。その血を舌で広げながら、父はモニカの身体を堪能して行く。
 それはとても長い時間に感じた。

「ああ、ミュラ。ミュラ。男の子ならハルシオン。女の子ならモニカと名付けよう」

 どうして今、父の口から自分と知らない名が出てくるのか。

「やめて、お父、様……もう……やめ、て……」

 父が腰を打ちつけるたびに、モニカの身体が反動で跳ねる。何度父はモニカの中で果てたのだろう。
 母の名を呼びながらモニカを犯し狂う父の姿に、そっと瞳を閉じたモニカの意識は、そこで途切れた。










 笑って期待して聞くような弱みの話ではなかった。途中から真顔になってしまっていた自身を思い出し、フロスは顔を伏せる。

「その後、旦那様は私を犯したのです」

 産まれて来るであろう娘との子を、この女性の子として共に育てさせる為に。
 ハルシオンは、アリアの姉モニカと父の間にできた不義の子だった。そして、モニカはそれを苦に自死を選んだのだと。

「お願いしますフロス様! アリア様をお護りください!」

 いつか、その牙がアリアに向くのではないかと、継母は今までずっと怯えながらアリアを見守っていた。

「モニカ様のような事は、二度と起こってはならないのです!」

 継母の叫びと共に、ガタン。と、扉の音がやけに大きく響く。

「そんな、お姉様……」
「坊ちゃま、申し訳ありません」

 絶望の瞳で固まる着飾ったアリアと、頭を下げる執事の声が重なる。

「アリアは、知らなかったんだね」

 アリアは、姉のモニカが亡くなる1年前、外国に留学したという言葉をずっと信じていた。それが、鎖された屋敷の最上階で監禁され、父に犯され子を孕んでいたせいだったなんて! しかもそのせいで、死んでしまったなんて!

「酷い、本当に、酷い……!」

 折角綺麗に整えた化粧を崩しながら、アリアはその場に泣き崩れる。

「アリア、僕のアリア。君には僕がいるよ」

 フロスに抱きとめられ、アリアはやっと落ち着きを取り戻す。
 新年早々にする話ではなかったが、この機会がなければフロスもアリアもこの事実を知ることはなかっただろう。
 何より全く気配を見せなかった継母に、アリアが嫌われているのではないと知れた事は何よりも大きかった。
 双子を配下のように引き連れたレイチェルが合流し、大人たちの来た時とは違う雰囲気に軽く小首を傾げる。

「祝賀に向かうのではないんですの?」

 問いかける幼い声に、アリアの涙が止まる。そうだ。彼らは自分のために今準備して来てくれたのに。
 そっとフロスはアリアの涙を拭い、軽く手を上げる。
 ぱぱっとまるで魔術のようにアリアの化粧がメイドたちによって直され、ドレスの裾も綺麗に整えられた。

「さあ、皆で王城祝賀へと向かおうか」




 その後、アリアは継母にウィンビュー家でお世話になるように言われたのだが、事情を知ってしまったからこそ、継母を一人残して行く事ができず、その申し出を断った。
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