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キャシー

シーク

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 シークが先代当主である父にあたる男に名前で呼ばれた事は、一度しかない。
 成人を向かえた日に執務室に呼び出され、一枚の借用契約書を渡されたその日。

「成人祝いだシーク。お前の花嫁を用意しておいたぞ」

 この借用契約書がどうして花嫁に繋がるのか分からず、シークはその書面を確認する。
 そこに書かれていたのは、キャシーの未来。そして純血を担保にした月額で貸し付ける借用契約書だったからだ。

「これ、は! こんな物、いったい何時どこで!?」

 詰め寄るシークに、父は不適に笑い。それ以上は何も応えない。そこに書かれた金額を、花嫁準備金として相殺するか、返済を履行し押収するか。それは全てシークに任されたのだ。
 確かに幼い時に、キャシーと出会ってから、度々彼女に会いに行っていた。彼女の前では、自分はガキでもなく、令息でもなく、ただのシークになれたから。
 それは確かに淡い恋心だっただろう。それを父に見抜かれていたことが、この上なく不愉快だった。
 だが、チャンスでも切欠でもある。

「……ありがとう、ございます」

 シークは借用契約書を握り締め、男爵邸を後にした。


















 平民と変わらない格好をしたシークは、一度街に出てしまえばすんなりと溶け込んでしまう。ただ、産みの母譲りの黒髪だけは珍しいのか、時々新参者が振り返る程度だ。
 シークはキャシーが何時も仕事を引き受けている教会裏へと急ぐ。ふと聞こえた話し声に、思わず身を隠していた。

「結婚しようキャシー。全部俺が引き受ける」
「ええ、ロイ。でも、やっぱりあなたに迷惑はかけれないから、早く借金返さなきゃ」

 そう言って、口付けを交わした二人の姿にシークは駆け出し、逃げるように男爵邸へと戻る。

「キャシー。君は、僕のものだ」

 堅苦しいからと余り着ることがない礼服を取り出し、身にまとう。
 そして、次期男爵という肩書きを背負ったシークは、キャシーの借用契約書をマダムに渡した。
 馬車の中で平民の服に着替えながら、見つからない場所で降りたシークは、キャシーの両親を口車に乗せ、両親が持っていた控えを手に入れる。

 借金をどうにかできる。そんな感じのことを告げて。

 確かにどうにかするさ。これからこの金を貸すのもシークで、回収するのもシークなのだから。
 マダムの手に渡った借用契約書を元に、キャシーを娼館に放り込み、彼女の純血を奪う。その予定で動いていたのに、想定外のことが起きて崩れ去ってしまった。
 キャシーが部屋に入った知らせを受けて急いで向かったのに、彼女は既に純血を失うどころか、既に開発・教育され済みで、真綿のように包みながら、ゆっくり堕としていこうと思っていたのに、すっかり割り切って腰を振ってきた。

 楽しいけど、楽しくない。

 乱れるキャシーを見るのはとても楽しかったけれど、其処にいたる過程を施したのが自分じゃないという事実が楽しくない。
 本当は、もう借金なんてどうでもいい。シークの声一つで、そんなものは全て無くなるのだから。
 珍しく入れ込んでいるシークを面白そうにしていた友人の提案をしぶしぶ受けたのも、何だか楽しくなかったから。
 自分がクズだという自覚はあるが、あいつらも大概クズだ。
 お尻を突っ込まれながら、全力で縋ってきたキャシーは可愛かった。それだけでこの行為に価値があったと思えたが、二度目など許すはず無いだろう。

 徐々に依存してくれている事を感じて、気分が良い。
 少しキャシーを試して見たい気分になって、隷属印を妊娠可能なものに書き換えて、貞操帯をつけた。
 この貞操帯は自信作だ。鍵をあえて陳腐にしているのも、どれだけ約束守れるかどうかを試してる。
 ただ、一々隷属印の書き換えを頼むのも面倒で、刻印師の資格を取る事をこの時決意した。判決の履行者になるための前提資格であり、国家資格の一つ。難易度は高い。当たり前だ。この印一つで、一人の人生を狂わせることができるのだから、責任と管理が行われるのは当たり前である。
 つまり、娼館で働く刻印師は全て、国に知られている。娼館は公認の施設なのだ。
 案の定、友人の一人が面白がってまた行ったようだが、娼婦にそんなモノがついてたら、誰でも引くだろう。
 ただ、後日制作依頼してきたあいつは本当に変な奴だと、再認識はできた。

 印も書き換えて、貞操帯でキャシーに子種を仕込む存在をシーク一人にしたのに、彼女は全く子を成さなかった。子供が出来たら、直ぐに出してあげるのに。
 そして、無事、刻印師の資格試験に合格し、国王陛下から直々の資格授与式の日。ロイが来た。
 貞操帯につけた魔石で、キャシーからそれが外された事は直ぐに分かった。けれど、王宮で行われる授与式を途中で放り出すことはできず、心の中で何度も悪態を付いて、急いでキャシーの部屋に向かった。
 ロイの上で腰を振るキャシーに、怒りを通り越して身体が一気に冷えた気がした。

 酷い裏切りだ。あんなにも約束したのに。

 逃げ出したロイを目線だけで捕まえるように指示を出し、シークはキャシーの髪を掴んで部屋から引きずり出す。
 借金の金額、地位の低さ、シークがいなければ、キャシーが放り込まれるはずだったのは、逃がす予定のない奴隷が入る下級娼館だ。
 どうせ誰にでも腰を振るのなら、いっそ壊れるまで腰を振ればいい。
 オプション選択を全てできないよう設定をして、キャシーをその場に捨てていく。
 部屋の隅に設置された監視オーブで様子を確認して、キャシーを買った男達のリストを作って行く。

 そして、とうとうその時が来てしまった。

 ロイとの子供かもしれないソレを産ませたくなくて、キャシーを傷つけた。その1回でボロボロになっていった彼女を、もっともっとボロボロにして、最後に救う一本の糸のように、自分に縋るように仕向ける。
 キャシーは何度か腹を潰されたと思っていたようだが、そんな頻繁に人は妊娠しない。いや、妊娠なぞするはずがない。最初の堕胎の日、避妊付きの印に書き換えたのだから。ただ、そういった幻覚を見るよう時々仕向けただけ。

 どうすれば、許されるかきっと沢山考えただろう言葉に、愛しさを感じながら、シークは彼女を抱きしめる。
 恐怖でも何でもいい、キャシーを縛り付けておけるのならば、それは愛じゃなくても良かった。

 受け継いだ男爵邸に連れ帰ったキャシーは酷く衰弱し、排泄管理によって腸が、不特定多数の挿入によって子宮と胃、膣が傷ついていた。肺や心臓の動きも鈍く、シークの治癒術では到底癒せないレベルの傷だった。
 治癒術特化のあいつに頼めば、きっと全て治してくれるのだろうが、借りを作りたくないので、金で解決する冒険者登録された高位の魔術師に依頼する。
 にわかレベルで聞いた事がある召喚術による万能願望のために、ロイと、キャシーの首を絞めて抱いた男達を差し出した。
 術の最中は見せてもらえなかったが、土気色に近かったキャシーの身体が赤みをおび、ロイと男達の姿が消えていたので、成功したのだろう。
 召喚術の対価として邪魔な奴らが消えた事は、何よりもシークにとってありがたかった。

 固まった身体を解し、キャシーが目覚めるのを待つだけ。

 温かい彼女の手を抱いて、シークは優しく微笑んだ。
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