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第五章 星空のステップ
23.嵐は二度やってくる
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意外な来客の冷ややかな目線を前にして、僕は固まってしまう。
「リョーコ様…。」
「ノックくらいしなさいよぉ。」
お姉さまは立ちあがり、リョーコ様の前に立ちふさがった。
「しましたけど、返事がなかったものですから。」
そう言って、彼女はまた眼鏡を直す仕草をした。
レンズの奥には氷のような瞳が睨んでいる。
「生徒会長の腰巾着が何の用なのぉ?」
「あなたに用はありません。そちらの妹さんに用があるんです。」
(僕に?)
また何か気に障ることでもしてしまったのか。
わざわざここに出向くくらいのことをぼくはしでかしたのかと頭を巡らせるが、何も心当たりがない。
つかつかとこちらに来るリョーコ様は、冷風も一緒に連れてきて僕は小さく身震いをした。
「チカさん、でしたっけ。今日、仕立て屋からドレスを受けとりましたよね。」
(仕立て屋…?)
「あ、はい。」
「中身は確認したのかしら。」
「えっ?…いえ、中を見ないようにと言われてましたから。」
「ちっ。」
…今リョーコ様のほうから舌打ちがが聞こえた気がした。
いやいや、こんなしっかりした方がそんな品のないことするはずがない。
「あなたね、アリア様のドレスが入った箱を間違えて持ってったんじゃない?」
「え?」
「ちっ、だーかーらー。」
(あ、間違いなくリョーコ様の舌打ちだ。)
「アリア様のドレスが仕立て屋には無かったのよ。カウンターにあった箱を全部確認しても無かった。私の直前に来たあなたが間違えて持ち帰ったんじゃないの?」
「…そんな、今確認しま…」
「あっほんとだわぁ。このフリフリは私のじゃない。」
お姉さまは先ほどクローゼットの上に置いた箱を下ろし、蓋を開けて中に入っているドレスをつまんで持ち上げた。
「触らないでくださいっ。汚らわしいっ。」
「汚らわ…!?なんですってぇ!?」
「用は済みましたから。失礼しますっ。」
リョーコ様はお姉さまの手からアリア様のドレスが入った箱をぶん取り、ヒールを鳴らしてさっさと部屋から出ていった。
ーーコツン。
今、ヒールの音に混じって何か小さな金属音が聞こえた気がした。
「あ、嵐のようなひとでしたね…。」
「不躾けなひとの間違いじゃないのぉ?他人の部屋を土足で踏み荒らしてっ。」
お姉さまはぷんすか怒って、何故か僕に抱きついてきた。ものすごい腕の力と、顔に押し付けられる柔らかな弾力に、僕は窒息しそうになる。
「お"姉さまぐるじい…。」
「あっ、ごめんなさいねぇ。暴れないように制御してたの。」
「ぜぇっ、お、お役にたてたならいいです…。」
お姉さまは、もう暴力的なことはしないと決めたときから、今みたいにカッとなったときは衝動的にならないように僕に抱きつくようにしている。
彼女なりの反省と解決方法なのだ。
「明日、またドレスを取りに行ってきますね。」
「チカは明日、あの小娘の手伝いをするとか言ってたじゃない。今度は中身を確認したいから私が行ってくるわ。」
「そうですか?では、お言葉に甘えて…。」
翌日、僕はローズの部屋に行った。
お土産にミニパンケーキとフレンチトーストを入れたバスケットを持って。
「えっ、これチカが作ったの?ありがとうっ!」
「簡単なものだけど、良かったらおやつにメガイラ様と食べて。」
ローズはバスケットの中を覗いて、甘いパンの香りに癒されている。
床にはドレスと散らばった裁縫道具が置かれていた。
「ごめん、散らかってて。足元気をつけてねっ。」
「うん。これがローズのドレス?」
淡い黄色の布がスカート部分に被さるようにたっぷりと使われている。
ブティックで見たシンプルなドレスとは思えないほどに可愛らしく仕上がっていた。
「そうだよ。細かいところの仕上げがまだで…。ほんと、手伝いに来てくれてありがとう。」
「もう明日がダンスパーティーだもんね。頑張って今日中に仕上げちゃおうか。」
「時間がたつの早すぎるよぉ~。」
ローズは半泣きになりながら腕につけたピンクッションから針をとった。
妹は一日中お姉さまに付きっきりであまり自由時間がないのに、ここまで時間を見つけてコツコツ進めてきたローズに感心する。
日に日に目の下のクマが濃くなるローズを見かねて、少し前に僕から声をかけた。
ダンスパーティーをすごく楽しみにしていたことを知ってたから、なんとか完成まで手伝ってあげたかったのだ。
「チカ見て…。つ…ついに!!」
「終わったね…。」
チクチクと手作業で進めたドレスは、やっとローズの納得する形になった。
白いサテン生地にたっぷりとドレープを描いて重なる黄色のオーガンジー。飾りに縫い付けられたビーズが所々キラキラと光っている。
「自分で言うのもなんだけど可愛い~!!」
「ローズ、お疲れ様。」
「ありがとね、チカ!」
窓の外はもう真っ暗になっていた。
そして、いつの間にかテーブルにすわってパンケーキを頬張っているメガイラ様。
(ええ!?いつからそこに…!?)
「チカさん、ローズを手伝ってくれて感謝するわ。」
ふっと小さく笑う。いつも表情を崩さないから、そんな顔をするメガイラ様を初めて見て驚いた。
明日のダンスパーティーはいいものになるだろう。
そんな予感がした。
「お姉さま、僕は先に会場準備に行きますね。」
「はいはい、また後でね。行ってらっしゃい~。」
お姉さまはこちらも見ずに、ベットルームから手だけ振る。自分の支度に忙しいみたいだ。
ホールへ向かうと、そこにはもうたくさんの妹たちが集まっていて準備を始めていた。
指揮をとっているのはリョーコ様。すでにドレスに着替えていて、まるで美人で仕事ができるボスって感じがする。
「あっ、ローズ!」
「チカ!こっちこっち!」
ローズのとこに駆け寄ると、大皿に乗った料理をおおきなテーブルに並べている最中だった。
僕も作ってきた一口大のサンドイッチをテーブルに置いた。
地域の人達を妹達が持ち込んだ料理でおもてなしするのだ。
ここぞとばかりに腕を振るった妹達の力作がテーブルを彩っている。
「肉料理にパイにケーキにマカロンも…。みんな料理がうまいね。」
「すごいよねぇ。私裁縫はできるけど料理はさっぱりだからさ。お姉さまに協力してもらってなんとかできたよ…。」
ローズはグラタンの大皿を指差した。
少し焦げ付いているが、それが逆に美味しそうにも見える。
「あとで食べてみようかな。」
「ええっ!?後悔しないでよー?」
「そこ!喋る前に手を動かしなさい!」
会場を監視する指揮官にピシャリと言われ、僕たちは慌てて作業に戻った。
しっかり者のリョーコ様に妹たちをまとめる監督役はぴったりだ。
(今なら渡せるかも。)
僕はホールの壇上にいるリョーコ様のところに向かった。
「リョーコ様、あの…。」
「なに?忙しいのよ。あなたに構っている暇はないわ。」
「お渡ししたいものがあって…。」
「聞こえなかったの!?忙しいってー…!」
ーービリッ
一瞬なにかが破ける鋭い音がした。
彼女の手に持っていたペン先がドレスに引っかかっり、胸元に稲妻模様を描いたのだ。
「ーーー!」
「リョーコ様っ!」
リョーコ様のドレスがはだけて肌が#露__あらわ#になる。
僕は咄嗟に彼女を抱きしめた。
「リョーコ様…。」
「ノックくらいしなさいよぉ。」
お姉さまは立ちあがり、リョーコ様の前に立ちふさがった。
「しましたけど、返事がなかったものですから。」
そう言って、彼女はまた眼鏡を直す仕草をした。
レンズの奥には氷のような瞳が睨んでいる。
「生徒会長の腰巾着が何の用なのぉ?」
「あなたに用はありません。そちらの妹さんに用があるんです。」
(僕に?)
また何か気に障ることでもしてしまったのか。
わざわざここに出向くくらいのことをぼくはしでかしたのかと頭を巡らせるが、何も心当たりがない。
つかつかとこちらに来るリョーコ様は、冷風も一緒に連れてきて僕は小さく身震いをした。
「チカさん、でしたっけ。今日、仕立て屋からドレスを受けとりましたよね。」
(仕立て屋…?)
「あ、はい。」
「中身は確認したのかしら。」
「えっ?…いえ、中を見ないようにと言われてましたから。」
「ちっ。」
…今リョーコ様のほうから舌打ちがが聞こえた気がした。
いやいや、こんなしっかりした方がそんな品のないことするはずがない。
「あなたね、アリア様のドレスが入った箱を間違えて持ってったんじゃない?」
「え?」
「ちっ、だーかーらー。」
(あ、間違いなくリョーコ様の舌打ちだ。)
「アリア様のドレスが仕立て屋には無かったのよ。カウンターにあった箱を全部確認しても無かった。私の直前に来たあなたが間違えて持ち帰ったんじゃないの?」
「…そんな、今確認しま…」
「あっほんとだわぁ。このフリフリは私のじゃない。」
お姉さまは先ほどクローゼットの上に置いた箱を下ろし、蓋を開けて中に入っているドレスをつまんで持ち上げた。
「触らないでくださいっ。汚らわしいっ。」
「汚らわ…!?なんですってぇ!?」
「用は済みましたから。失礼しますっ。」
リョーコ様はお姉さまの手からアリア様のドレスが入った箱をぶん取り、ヒールを鳴らしてさっさと部屋から出ていった。
ーーコツン。
今、ヒールの音に混じって何か小さな金属音が聞こえた気がした。
「あ、嵐のようなひとでしたね…。」
「不躾けなひとの間違いじゃないのぉ?他人の部屋を土足で踏み荒らしてっ。」
お姉さまはぷんすか怒って、何故か僕に抱きついてきた。ものすごい腕の力と、顔に押し付けられる柔らかな弾力に、僕は窒息しそうになる。
「お"姉さまぐるじい…。」
「あっ、ごめんなさいねぇ。暴れないように制御してたの。」
「ぜぇっ、お、お役にたてたならいいです…。」
お姉さまは、もう暴力的なことはしないと決めたときから、今みたいにカッとなったときは衝動的にならないように僕に抱きつくようにしている。
彼女なりの反省と解決方法なのだ。
「明日、またドレスを取りに行ってきますね。」
「チカは明日、あの小娘の手伝いをするとか言ってたじゃない。今度は中身を確認したいから私が行ってくるわ。」
「そうですか?では、お言葉に甘えて…。」
翌日、僕はローズの部屋に行った。
お土産にミニパンケーキとフレンチトーストを入れたバスケットを持って。
「えっ、これチカが作ったの?ありがとうっ!」
「簡単なものだけど、良かったらおやつにメガイラ様と食べて。」
ローズはバスケットの中を覗いて、甘いパンの香りに癒されている。
床にはドレスと散らばった裁縫道具が置かれていた。
「ごめん、散らかってて。足元気をつけてねっ。」
「うん。これがローズのドレス?」
淡い黄色の布がスカート部分に被さるようにたっぷりと使われている。
ブティックで見たシンプルなドレスとは思えないほどに可愛らしく仕上がっていた。
「そうだよ。細かいところの仕上げがまだで…。ほんと、手伝いに来てくれてありがとう。」
「もう明日がダンスパーティーだもんね。頑張って今日中に仕上げちゃおうか。」
「時間がたつの早すぎるよぉ~。」
ローズは半泣きになりながら腕につけたピンクッションから針をとった。
妹は一日中お姉さまに付きっきりであまり自由時間がないのに、ここまで時間を見つけてコツコツ進めてきたローズに感心する。
日に日に目の下のクマが濃くなるローズを見かねて、少し前に僕から声をかけた。
ダンスパーティーをすごく楽しみにしていたことを知ってたから、なんとか完成まで手伝ってあげたかったのだ。
「チカ見て…。つ…ついに!!」
「終わったね…。」
チクチクと手作業で進めたドレスは、やっとローズの納得する形になった。
白いサテン生地にたっぷりとドレープを描いて重なる黄色のオーガンジー。飾りに縫い付けられたビーズが所々キラキラと光っている。
「自分で言うのもなんだけど可愛い~!!」
「ローズ、お疲れ様。」
「ありがとね、チカ!」
窓の外はもう真っ暗になっていた。
そして、いつの間にかテーブルにすわってパンケーキを頬張っているメガイラ様。
(ええ!?いつからそこに…!?)
「チカさん、ローズを手伝ってくれて感謝するわ。」
ふっと小さく笑う。いつも表情を崩さないから、そんな顔をするメガイラ様を初めて見て驚いた。
明日のダンスパーティーはいいものになるだろう。
そんな予感がした。
「お姉さま、僕は先に会場準備に行きますね。」
「はいはい、また後でね。行ってらっしゃい~。」
お姉さまはこちらも見ずに、ベットルームから手だけ振る。自分の支度に忙しいみたいだ。
ホールへ向かうと、そこにはもうたくさんの妹たちが集まっていて準備を始めていた。
指揮をとっているのはリョーコ様。すでにドレスに着替えていて、まるで美人で仕事ができるボスって感じがする。
「あっ、ローズ!」
「チカ!こっちこっち!」
ローズのとこに駆け寄ると、大皿に乗った料理をおおきなテーブルに並べている最中だった。
僕も作ってきた一口大のサンドイッチをテーブルに置いた。
地域の人達を妹達が持ち込んだ料理でおもてなしするのだ。
ここぞとばかりに腕を振るった妹達の力作がテーブルを彩っている。
「肉料理にパイにケーキにマカロンも…。みんな料理がうまいね。」
「すごいよねぇ。私裁縫はできるけど料理はさっぱりだからさ。お姉さまに協力してもらってなんとかできたよ…。」
ローズはグラタンの大皿を指差した。
少し焦げ付いているが、それが逆に美味しそうにも見える。
「あとで食べてみようかな。」
「ええっ!?後悔しないでよー?」
「そこ!喋る前に手を動かしなさい!」
会場を監視する指揮官にピシャリと言われ、僕たちは慌てて作業に戻った。
しっかり者のリョーコ様に妹たちをまとめる監督役はぴったりだ。
(今なら渡せるかも。)
僕はホールの壇上にいるリョーコ様のところに向かった。
「リョーコ様、あの…。」
「なに?忙しいのよ。あなたに構っている暇はないわ。」
「お渡ししたいものがあって…。」
「聞こえなかったの!?忙しいってー…!」
ーービリッ
一瞬なにかが破ける鋭い音がした。
彼女の手に持っていたペン先がドレスに引っかかっり、胸元に稲妻模様を描いたのだ。
「ーーー!」
「リョーコ様っ!」
リョーコ様のドレスがはだけて肌が#露__あらわ#になる。
僕は咄嗟に彼女を抱きしめた。
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