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第二章 恋せよ女神
7.制服を着て、再会しよう
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柔らかな感触が僕に落とされる。
それは、感じたことのないはずなのに未体験ではない気がする矛盾した感触だ。
どう反応すれば正解なのか、生前に身につけていてた知識を巡らせてもわからなかった。
「…。さ、支度するわよぉ。」
視界からお姉さまが少なくなっていく。
起きあがり、ベッドから出たようだ。
僕はすぐ起き上がれずに天井をぼうっと眺めていた。
指先を唇に這わせながら。
「セレナお姉さま、よくお似合いです。」
「当たり前よぉ。」
お姉さまは、白いワンピースと短い丈のジャケットの制服姿で姿見の前に立った。
白い布地に紺色のラインと星空ような金の刺繍模様がよく映えている、華やかなデザインの制服だ。
トップモデルのように自信満々でポーズをとっているが、それすら何の嫌みでもないくらい似合っている。
学園は今日から授業再開だそうだ。
昨日まで長期休暇中で授業はなく、あの窓口作業が課題のような形であっただけだという。
それなら、お姉さまがずっと部屋に篭りっぱなしだったのも納得がいく。
…でも、この格好は納得がいかない。
「素敵よチカ!やっぱり私の目に狂いはなかったわぁ!」
脚の風通しがやたら良い。
うう…。ずっとズボン姿で生活してきたから、足元がスースーするのは変な気分だ。
っていうか、なんで僕はワンピースを着せられてるんだ。
「お姉さま…。これは??」
「妹用の制服よぉ!私の制服とデザインの似てるものをって、頼んでおいたの。」
お姉さまの制服とは逆の色使いの、紺色のワンピースに白色のライン、金の刺繍模様。ジャケットはなく、かわりに鎖骨から胸元にかけて、小さな丸いボタンが一列に並んでいる。
華やかではあるが、お姉さまの制服より落ち着いているシンプルなデザインだ。
隣に立つと僕のちんちくりんさが際立つが、お姉さまの制服のデザインとリンクしているところはなんか嬉しかった。
(…って、そうじゃなくて!)
「なんで僕も制服を!」
「妹だから当然でしょう?学園の一員なんだから制服は必要よ。」
(妹も、学園の一員…。)
「お手伝いの立場にも制服があるのはありがたいのですが…、スカートはちょっと慣れてなくて。」
無防備に出ている膝上を手で隠す。
「あらぁ?恥ずかしいのぉ?」
そう言われると余計恥ずかしい。
せめて下にズボン穿きたい…と、お姉さまのほうを見た。
ニヤニヤと笑っている。確信犯だ。
「セレナお姉さま!!」
「あら、そこまで言うならそうねぇ…。私、ズボンは持ってないけど…そうだわ。」
お姉さまはそう言ってクローゼットを開けた。
たくさんの服がぎゅうぎゅうに詰め込まれている。そんなに服を持っているなら、なんであんな皺くちゃなシャツばかり着ていたんだろう。
「あぁ、私、休みの時はあんまり服着たくないのよねぇ。でも窓口作業あるから何か着ないとって選んだ1枚なの。あれなら軽くて楽でしょぉ。」
「セレナお姉さまは裸族なんですか?」
「らぞくって?」
そんなこと言ってる間に、お姉さまは大量の服のなかからペチパンツを引っ張り出して手渡してくれた。
サテンの薄い生地のうえ、ショート丈だしズボンより心許ないが、無いよりはあったほうがいい。
「ありがとうございます。」
(お姉さまって、普通に優しいんだよな…。)
「さ、早く支度しちゃうわよぉ!あ、朝ごはんは和食がいいわぁ!もうパンは飽きたのよねぇ。あの、フレンチトースト?はしばらくいいわ。それと後で髪もとかして!」
善きに計らえ、と言わんばかりにフンッと鼻をならし、またいつものように要求のオンパレードが始まった。
(前言、撤回。)
学園の講堂はたくさんの生徒とその妹と思われる者で埋め尽くされていた。
「チカ、あなたはここに。」
言われた通り、お姉さまのすぐ隣に座った。
講堂は長椅子が何列にも並んでいる。生徒とその妹は隣り合わせに座っているみたいだ。
木で出来た長椅子の背には植物や自然の模様が彫られていた。その模様はちょうど前列の椅子の背にもあり、息づくような繊細な模様をじっと見つめていた。
「なに見てるの?」
「っ!」
ドキリ。
急に顔を近づけられ、目があう。
お姉さまはこちらを覗きこんできた。僕は今朝のことが頭によぎり、お姉さまのほうを見ることができない。
「なんでもないですっ。」
そう言って僕は、いつの間にか火照っていた顔を見せないように違う方向に顔を向けた。
辺りを改めて見回すと、建物はずいぶんと古びていることがわかった。あちこち床の軋む音が聞こえている。
そのなかで、女性の描かれたステンドグラスだけが輝きを放ち、ボロボロの建物も赴きのある仕上がりにさせていた。
(綺麗だな…。あの女性は誰をモデルにしてるんだろう。)
そんな事を思っていると、周りが急に静まり返った。
すぐに原因は察した。物凄い威圧的な雰囲気が近づいてきているのを感じたからだ。
(皆も緊張しているみたい…。お姉さままで怖い顔をしてる。)
ギシ、ギシ、と音をたて、生徒たちの前にふたりの人物が歩いてきた。
すらりとした女性と、フリルがあしらってあるケープを羽織った小さな子ども。
(え…子ども??)
「みんなー!お待たせ!」
壇上に上がったその子どもは、片手をあげて楽しそうに第一声を放った。
僕はその子にハッキリと見覚えがある。
「ありちゃん!?」
ついそう口走ってから、こちらに向けられた皆の視線で思っていたより大きな声を出していたことを0.1秒で理解した。
そして、お姉さまの蛇のような視線がこちらに向けられていることも。
「そこの者!生徒会長であるアリアドネ様に向かって、あ…あ…ありちゃんとは失礼な!!」
ありちゃんの一歩後ろに立つ女性は僕に向かって叫んだ。
「う…。ごめんなさい。」
何だか失礼なことをしてしまったようで(実際に失礼な!って言われたし)、僕は大人しく縮こまることしかできない。
皆の視線も、お姉さまの視線も痛すぎる。
チラ、と片目を開け周りの様子を伺っていると、周りの生徒たちのこそこそいってる話し声が聞こえてきた。
『アリア様の妹は相変わらずね。』
『会長となると妹もしっかりしてるわ。』…等々。
なるほどなるほど、あの女性はありちゃんの妹なのか。
(…。ちょっと待てよ?)
確かにありちゃんと一緒に来て側にいるし、ありちゃんのことアリア…何とか様って呼んでいる。
うん、ありちゃんの妹で当たってるよね?僕の聞き間違いではないよね?
ありちゃん"が"妹じゃなくて、ありちゃん"の"妹…。
(ありちゃんって、女神だったの!?)
壇上に立つ小さな女神様は、ぽわっと微笑んで、言った。
「みなさんごきげんよう。生徒会会長、アリアドネだよっ!」
それは、感じたことのないはずなのに未体験ではない気がする矛盾した感触だ。
どう反応すれば正解なのか、生前に身につけていてた知識を巡らせてもわからなかった。
「…。さ、支度するわよぉ。」
視界からお姉さまが少なくなっていく。
起きあがり、ベッドから出たようだ。
僕はすぐ起き上がれずに天井をぼうっと眺めていた。
指先を唇に這わせながら。
「セレナお姉さま、よくお似合いです。」
「当たり前よぉ。」
お姉さまは、白いワンピースと短い丈のジャケットの制服姿で姿見の前に立った。
白い布地に紺色のラインと星空ような金の刺繍模様がよく映えている、華やかなデザインの制服だ。
トップモデルのように自信満々でポーズをとっているが、それすら何の嫌みでもないくらい似合っている。
学園は今日から授業再開だそうだ。
昨日まで長期休暇中で授業はなく、あの窓口作業が課題のような形であっただけだという。
それなら、お姉さまがずっと部屋に篭りっぱなしだったのも納得がいく。
…でも、この格好は納得がいかない。
「素敵よチカ!やっぱり私の目に狂いはなかったわぁ!」
脚の風通しがやたら良い。
うう…。ずっとズボン姿で生活してきたから、足元がスースーするのは変な気分だ。
っていうか、なんで僕はワンピースを着せられてるんだ。
「お姉さま…。これは??」
「妹用の制服よぉ!私の制服とデザインの似てるものをって、頼んでおいたの。」
お姉さまの制服とは逆の色使いの、紺色のワンピースに白色のライン、金の刺繍模様。ジャケットはなく、かわりに鎖骨から胸元にかけて、小さな丸いボタンが一列に並んでいる。
華やかではあるが、お姉さまの制服より落ち着いているシンプルなデザインだ。
隣に立つと僕のちんちくりんさが際立つが、お姉さまの制服のデザインとリンクしているところはなんか嬉しかった。
(…って、そうじゃなくて!)
「なんで僕も制服を!」
「妹だから当然でしょう?学園の一員なんだから制服は必要よ。」
(妹も、学園の一員…。)
「お手伝いの立場にも制服があるのはありがたいのですが…、スカートはちょっと慣れてなくて。」
無防備に出ている膝上を手で隠す。
「あらぁ?恥ずかしいのぉ?」
そう言われると余計恥ずかしい。
せめて下にズボン穿きたい…と、お姉さまのほうを見た。
ニヤニヤと笑っている。確信犯だ。
「セレナお姉さま!!」
「あら、そこまで言うならそうねぇ…。私、ズボンは持ってないけど…そうだわ。」
お姉さまはそう言ってクローゼットを開けた。
たくさんの服がぎゅうぎゅうに詰め込まれている。そんなに服を持っているなら、なんであんな皺くちゃなシャツばかり着ていたんだろう。
「あぁ、私、休みの時はあんまり服着たくないのよねぇ。でも窓口作業あるから何か着ないとって選んだ1枚なの。あれなら軽くて楽でしょぉ。」
「セレナお姉さまは裸族なんですか?」
「らぞくって?」
そんなこと言ってる間に、お姉さまは大量の服のなかからペチパンツを引っ張り出して手渡してくれた。
サテンの薄い生地のうえ、ショート丈だしズボンより心許ないが、無いよりはあったほうがいい。
「ありがとうございます。」
(お姉さまって、普通に優しいんだよな…。)
「さ、早く支度しちゃうわよぉ!あ、朝ごはんは和食がいいわぁ!もうパンは飽きたのよねぇ。あの、フレンチトースト?はしばらくいいわ。それと後で髪もとかして!」
善きに計らえ、と言わんばかりにフンッと鼻をならし、またいつものように要求のオンパレードが始まった。
(前言、撤回。)
学園の講堂はたくさんの生徒とその妹と思われる者で埋め尽くされていた。
「チカ、あなたはここに。」
言われた通り、お姉さまのすぐ隣に座った。
講堂は長椅子が何列にも並んでいる。生徒とその妹は隣り合わせに座っているみたいだ。
木で出来た長椅子の背には植物や自然の模様が彫られていた。その模様はちょうど前列の椅子の背にもあり、息づくような繊細な模様をじっと見つめていた。
「なに見てるの?」
「っ!」
ドキリ。
急に顔を近づけられ、目があう。
お姉さまはこちらを覗きこんできた。僕は今朝のことが頭によぎり、お姉さまのほうを見ることができない。
「なんでもないですっ。」
そう言って僕は、いつの間にか火照っていた顔を見せないように違う方向に顔を向けた。
辺りを改めて見回すと、建物はずいぶんと古びていることがわかった。あちこち床の軋む音が聞こえている。
そのなかで、女性の描かれたステンドグラスだけが輝きを放ち、ボロボロの建物も赴きのある仕上がりにさせていた。
(綺麗だな…。あの女性は誰をモデルにしてるんだろう。)
そんな事を思っていると、周りが急に静まり返った。
すぐに原因は察した。物凄い威圧的な雰囲気が近づいてきているのを感じたからだ。
(皆も緊張しているみたい…。お姉さままで怖い顔をしてる。)
ギシ、ギシ、と音をたて、生徒たちの前にふたりの人物が歩いてきた。
すらりとした女性と、フリルがあしらってあるケープを羽織った小さな子ども。
(え…子ども??)
「みんなー!お待たせ!」
壇上に上がったその子どもは、片手をあげて楽しそうに第一声を放った。
僕はその子にハッキリと見覚えがある。
「ありちゃん!?」
ついそう口走ってから、こちらに向けられた皆の視線で思っていたより大きな声を出していたことを0.1秒で理解した。
そして、お姉さまの蛇のような視線がこちらに向けられていることも。
「そこの者!生徒会長であるアリアドネ様に向かって、あ…あ…ありちゃんとは失礼な!!」
ありちゃんの一歩後ろに立つ女性は僕に向かって叫んだ。
「う…。ごめんなさい。」
何だか失礼なことをしてしまったようで(実際に失礼な!って言われたし)、僕は大人しく縮こまることしかできない。
皆の視線も、お姉さまの視線も痛すぎる。
チラ、と片目を開け周りの様子を伺っていると、周りの生徒たちのこそこそいってる話し声が聞こえてきた。
『アリア様の妹は相変わらずね。』
『会長となると妹もしっかりしてるわ。』…等々。
なるほどなるほど、あの女性はありちゃんの妹なのか。
(…。ちょっと待てよ?)
確かにありちゃんと一緒に来て側にいるし、ありちゃんのことアリア…何とか様って呼んでいる。
うん、ありちゃんの妹で当たってるよね?僕の聞き間違いではないよね?
ありちゃん"が"妹じゃなくて、ありちゃん"の"妹…。
(ありちゃんって、女神だったの!?)
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