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王宮へ

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秋の空は晴れの日が珍しい。

生憎の雨。

王宮へ馬車で向かう。


縁談なんて……ある筈……無いよね。

まあ、いいや。コンスタンチン王子殿下が配慮下さるのだから。


そして、王宮にはアメリア王女もいる。

アメリア王女も隣国、イシュタル王国の王太子と婚約している。


入り口にコンスタンチンとアナスタシアが待っていた。

燃え盛る炎のような赤い髪に、ルビー色の瞳。厚い唇の下にはホクロがあった。

「お待たせいたしましたわ、コンスタンチン王子殿下、アナスタシア」

「ああ、待っていたよ。さあ、こちらへ」

案内されたのは応接間だった。


応接間にはコンスタンチン同様、腰まである赤い髪にルビー色の瞳をした足の長い男性がソファーに腰掛けていた。

彼こそがコンスタンチンの兄であり、この国の第一王子のレオニードだ。

どういうことなのだろう?


「こんにちは、レオニード王子殿下」

「ああ、こんにち……」

レオニードが言葉に詰まった。

「ジュリアン……きみなんだね!?」

「あ……兄上?」


ジュリアン!?

一瞬何のことかよくわからなかった。

「わたくしはヴァレンティーナ・ワトソンですわ」

「いや……彼女の面影を思い出してしまった……。すまない」

「いえいえ。大切な方を亡くされたのだから、面影をわたくしに投影するのも無理はありませんわ」

「そうなんだ。兄上は婚約者を亡くした。隣国、ポックス王国のジュリアン王女殿下だ」

ポックス王国の王女が亡くなったのは有名な話。

「今、服喪されているとか……で」


しかし、なぜここにいるのだろう?

公務は?


「他愛ない会話をしたかったら、兄上も同伴してもらうことにしたんだ。さあ、座って」

「はい。失礼します」

ヴァレンティーナは一礼してソファーに腰を下ろした。


「そうか……。ハムネット公爵の令息、ジョージに婚約破棄されたのか。余りにも身勝手というか一方的っていうか」

コンスタンチンはパイプを咥えた。そして続けた。

「あ、そうそう。パイプ蒸していいかな?」

「はい。お父様もパイプ蒸していますので大丈夫です」

「本当、パイプは嫌う人いるからな。兄上とかそうだし。じゃあ、遠慮なく……」

コンスタンチンはパイプに火をつけた。

煙が辺り一面に立ち込める。

本当は不快だけれども、仕方がない。


「しかも? 相手がソルト侯爵令嬢か……。うん。知っていたよ。エカテリーナだろ? エカテリーナにも婚約者はいたよ」


え!? と思った。

まさか、婚約者のいる人に自分の婚約者を略奪されるなんて……。

「かわいそうにな」

横にいるレオニードが間に入った。


「ヴァレンティーナ。君とは直接話したい。すまないがコンスタンチン。自室に行ってくれ」

「はい、兄上」

コンスタンチンとアナスタシアは踵を返した。
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