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報告 ※サイラス視点
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サイラスは国王である父親にリンジーとの婚約破棄を告げることにした。
春半ばだというのに、外はまだ寒い。
王宮の回廊を歩く。
国王の玉座の間を目指して歩く。
回廊には甲冑が飾られている。
甲冑は今にも動き出しそうだ。
どこまでもブルーの絨毯が敷かれている。
階段を昇り、玉座の間の前に着いた。
そこには兵士が二人いる。
「サイラス様、どうされました?」
一人の兵士に話しかけられた。
「父上に御用があります。謁見に来ました」
「はい、そうですか。ではどうぞ中にお入り下さい」
サイラスは兵士に促されるまま、玉座の間に入った。
「国王陛下。サイラス殿下が国王に御用があるそうです」
兵士はそう言って元の位置に着いた。
「父上、報告したいことがあります」
「なんだね?」
そこにはブラウンヘアに顎髭を伸ばした太った男性がいた。
「父上! 私はリンジー・ダーナ・アボットと婚約破棄しました」
「何? 婚約破棄だと?」
国王は右目を釣り上げた。
「はい。リンジーはスミス侯爵と浮気をしていました」
嘘だ。自分は人妻と不倫をしている。
それに、その前からリンジーとイベイラと二股をかけていた。
浮気をしているのは寧ろ自分だった。
絵描きのリンジーより、音楽のできるイベイラが好きになっただけだ。
それにリンジーは自分より背が高い。
それも、彼女に冷めた理由の一つだった。
嘘も方便。
「リンジーが浮気をしていた? それはまことか?」
「私は見てしまったんです。リンジーがスミス侯爵と一緒にいるのを。彼女は裏切り者です」
裏切り者は自分だ。
こうやって適当に嘘を言っていれば良い。
「彼女が浮気するようには見えないが……」
そう。浮気をした……というのはでっち上げなのだから。
「それが、浮気をしていたのです」
「そうか……それは残念だ」
と言って国王は椅子の肘掛けに肘をついた。
「それと……私はイベイラと婚約をしました」
「何!? イベイラは人妻だぞ! 何を考えているんだ」
国王は憤怒の表情を見せた。
「それがイベイラは離婚したのです」
またしても嘘だ。
イベイラは離婚を考えているだけだ。
「本当か?」
「はい」
「そんな噂は聞いておらぬ」
「極秘で離婚していたみたいです。貴族として世間体がありますから」
「まあ、確かにな」
「イベイラはリンジーと違って音楽ができる。それに、父親は王立交響が楽団に、母親は王立合唱団に所属しています。イベイラはクラリネット奏者として申し分ないです」
「両親が音楽ができる……対してリンジーは絵描き。そうか。お前は同じ芸術部門でも音楽を選んだか」
「はい。そのとおりです」
「なるほど」
「どうかイベイラとの結婚を認めて欲しいのです」
「うーむ。悩むところだな。元人妻だしな。しかしだ。なぜイベイラはクリストファーと離婚したのか?」
「イベイラは侍女たちにいじめに遭っていたようです。それはサイモントン家が元は平民だったことに由来します。羊飼いだったんです。いじめに耐えられなくなり離婚したそうです」
それは本当の話だ。いじめに遭っていたかはわからないが、サイモントン家は元は平民で羊飼いだったというのは本当だ。
「そうか。平民からの成り上がりだったのか」
サイモントン家の何代か前の夫人が聖女だった。
そして、多くの人を癒やしたことから、その実績が認められ爵位を与えられた。
「そうなんです」
「そうか……」
国王は絶句した。
――これなら、イベイラとの結婚を認めてもらえる。
「イベイラが本当に離婚したなら、お前の気持ちを尊重しよう!」
サイラスは心の中でガッツポーズを決めた。
――よっしゃあ!!
次は兄であり、第一王子のマックスに報告だ!!
マックスの執務室に入った。
「サイラスだな? 入れ」
透き通るバリトンの声が中から聞こえた。
サイラスはマックスの執務室に入った。
「どうした、サイラス」
金髪にスカイブルーの瞳。筋が通った高い鼻。
「兄上。報告したいことがあります」
「何だ? 報告したい事とは?」
「実はリンジー・ダーナ・アボットと婚約破棄しました」
「何!? 婚約破棄しただと!?」
「はい」
「全国民が応援していたのに、なぜに婚約破棄をした?」
「リンジーがスミス侯爵と浮気をしていたのです」
「何だって?」
マックスは立ち上がった。
「スミス侯爵に浮気だと!? ここに来てなぜそうなる?」
「だから、婚約破棄を叩きつけたのです」
「そうか……それなら仕方ないな」
と言って椅子に座った。
マックスにも嘘を告げた。
「そして兄上!」
「まだ何かあるのか?」
「はい。実は元ガルシア公爵夫人、イベイラと婚約しました」
「元ってことはイベイラは離婚したということなのか?」
「はい」
またしても嘘をついた。
「なぜ、離婚をしたんだ?」
「それはガルシア家でいじめにあっていたからです」
「何!? なぜいじめに遭う?」
「それはサイモントン家が元平民だからです」
「その位で離婚に至るとは思えないがね」
マックスは懐疑的だ。
「それが本当の話なのです」
「うーむ。貴族がそう易易と離婚するとは思えないが」
――手強い。
「兄上。それが本当に離婚したんです。理解してください」
「では、なぜリンジーを捨ててイベイラに乗り換えた?」
「それは絵描きのリンジーよりも音楽ができるイベイラの方が魅力的に思えたからです」
これは本当だ。
確かにリンジーの絵はもてはやされ、国中からオファーが来る。
しかし、優秀なクラリネット奏者のイベイラの方が好みなのだ。
イベイラはクラリネットのコンテストの賞を総なめにしている。
「そうか」
「そうです。だから、私達は婚約したのです」
「本当に離婚したのなら、結婚は認めよう。ただし、結婚していなかったら……どうなるかわかるね?」
「はい」
そう簡単に不倫が発覚するわけがない。そこまで間抜けではない、とサイラスは思っていた。
春半ばだというのに、外はまだ寒い。
王宮の回廊を歩く。
国王の玉座の間を目指して歩く。
回廊には甲冑が飾られている。
甲冑は今にも動き出しそうだ。
どこまでもブルーの絨毯が敷かれている。
階段を昇り、玉座の間の前に着いた。
そこには兵士が二人いる。
「サイラス様、どうされました?」
一人の兵士に話しかけられた。
「父上に御用があります。謁見に来ました」
「はい、そうですか。ではどうぞ中にお入り下さい」
サイラスは兵士に促されるまま、玉座の間に入った。
「国王陛下。サイラス殿下が国王に御用があるそうです」
兵士はそう言って元の位置に着いた。
「父上、報告したいことがあります」
「なんだね?」
そこにはブラウンヘアに顎髭を伸ばした太った男性がいた。
「父上! 私はリンジー・ダーナ・アボットと婚約破棄しました」
「何? 婚約破棄だと?」
国王は右目を釣り上げた。
「はい。リンジーはスミス侯爵と浮気をしていました」
嘘だ。自分は人妻と不倫をしている。
それに、その前からリンジーとイベイラと二股をかけていた。
浮気をしているのは寧ろ自分だった。
絵描きのリンジーより、音楽のできるイベイラが好きになっただけだ。
それにリンジーは自分より背が高い。
それも、彼女に冷めた理由の一つだった。
嘘も方便。
「リンジーが浮気をしていた? それはまことか?」
「私は見てしまったんです。リンジーがスミス侯爵と一緒にいるのを。彼女は裏切り者です」
裏切り者は自分だ。
こうやって適当に嘘を言っていれば良い。
「彼女が浮気するようには見えないが……」
そう。浮気をした……というのはでっち上げなのだから。
「それが、浮気をしていたのです」
「そうか……それは残念だ」
と言って国王は椅子の肘掛けに肘をついた。
「それと……私はイベイラと婚約をしました」
「何!? イベイラは人妻だぞ! 何を考えているんだ」
国王は憤怒の表情を見せた。
「それがイベイラは離婚したのです」
またしても嘘だ。
イベイラは離婚を考えているだけだ。
「本当か?」
「はい」
「そんな噂は聞いておらぬ」
「極秘で離婚していたみたいです。貴族として世間体がありますから」
「まあ、確かにな」
「イベイラはリンジーと違って音楽ができる。それに、父親は王立交響が楽団に、母親は王立合唱団に所属しています。イベイラはクラリネット奏者として申し分ないです」
「両親が音楽ができる……対してリンジーは絵描き。そうか。お前は同じ芸術部門でも音楽を選んだか」
「はい。そのとおりです」
「なるほど」
「どうかイベイラとの結婚を認めて欲しいのです」
「うーむ。悩むところだな。元人妻だしな。しかしだ。なぜイベイラはクリストファーと離婚したのか?」
「イベイラは侍女たちにいじめに遭っていたようです。それはサイモントン家が元は平民だったことに由来します。羊飼いだったんです。いじめに耐えられなくなり離婚したそうです」
それは本当の話だ。いじめに遭っていたかはわからないが、サイモントン家は元は平民で羊飼いだったというのは本当だ。
「そうか。平民からの成り上がりだったのか」
サイモントン家の何代か前の夫人が聖女だった。
そして、多くの人を癒やしたことから、その実績が認められ爵位を与えられた。
「そうなんです」
「そうか……」
国王は絶句した。
――これなら、イベイラとの結婚を認めてもらえる。
「イベイラが本当に離婚したなら、お前の気持ちを尊重しよう!」
サイラスは心の中でガッツポーズを決めた。
――よっしゃあ!!
次は兄であり、第一王子のマックスに報告だ!!
マックスの執務室に入った。
「サイラスだな? 入れ」
透き通るバリトンの声が中から聞こえた。
サイラスはマックスの執務室に入った。
「どうした、サイラス」
金髪にスカイブルーの瞳。筋が通った高い鼻。
「兄上。報告したいことがあります」
「何だ? 報告したい事とは?」
「実はリンジー・ダーナ・アボットと婚約破棄しました」
「何!? 婚約破棄しただと!?」
「はい」
「全国民が応援していたのに、なぜに婚約破棄をした?」
「リンジーがスミス侯爵と浮気をしていたのです」
「何だって?」
マックスは立ち上がった。
「スミス侯爵に浮気だと!? ここに来てなぜそうなる?」
「だから、婚約破棄を叩きつけたのです」
「そうか……それなら仕方ないな」
と言って椅子に座った。
マックスにも嘘を告げた。
「そして兄上!」
「まだ何かあるのか?」
「はい。実は元ガルシア公爵夫人、イベイラと婚約しました」
「元ってことはイベイラは離婚したということなのか?」
「はい」
またしても嘘をついた。
「なぜ、離婚をしたんだ?」
「それはガルシア家でいじめにあっていたからです」
「何!? なぜいじめに遭う?」
「それはサイモントン家が元平民だからです」
「その位で離婚に至るとは思えないがね」
マックスは懐疑的だ。
「それが本当の話なのです」
「うーむ。貴族がそう易易と離婚するとは思えないが」
――手強い。
「兄上。それが本当に離婚したんです。理解してください」
「では、なぜリンジーを捨ててイベイラに乗り換えた?」
「それは絵描きのリンジーよりも音楽ができるイベイラの方が魅力的に思えたからです」
これは本当だ。
確かにリンジーの絵はもてはやされ、国中からオファーが来る。
しかし、優秀なクラリネット奏者のイベイラの方が好みなのだ。
イベイラはクラリネットのコンテストの賞を総なめにしている。
「そうか」
「そうです。だから、私達は婚約したのです」
「本当に離婚したのなら、結婚は認めよう。ただし、結婚していなかったら……どうなるかわかるね?」
「はい」
そう簡単に不倫が発覚するわけがない。そこまで間抜けではない、とサイラスは思っていた。
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