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アントニオ目線 結婚式

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ついに、この日を迎えた。

待ちにまった晴れ舞台。

春も始まったのだろう。

辛うじて曇天模様。

予定通りに式は行われた。


両親に反対されようとも、アウローラに反対されようとも、精霊たちに反対されようとも、それでも自分たちで決めてきた事だ。

最終的に決めるのはアントニオとシモーネなのだ。

シモーネの白いウェディングドレスは至るところに宝石が散りばめており、また、至る箇所にレース編みが施されている。

シモーネはヴェールを被っている。

首には眩いばかりの宝石が光る3連のネックレスを身に着けている。

腕には宝石のバングルが輝く。

このドレスはシモーネのために特注されたドレスだ。

アクセサリーもまた特注だ。


アントニオの両親は勿論、アウローラや精霊たちに結婚を反対された事を知っている。

結果は追って伝えていた。

その度に「ほれみろ、言わんこっちゃない」と言われた。

しかし、アントニオは腹を括った。

誰人が反対しようとも、誰も二人の結婚を止める権限は無い。

アントニオはそれをわかっていた。

だから、シモーネと結婚する事を決めた。


今回ばかりは空が味方してくれた。

反対ならば荒天になるからだ。

――と勝手に思い込んでいる。

(知ったこっちゃない。俺とシモーネとの間柄だ)

アントニオはシモーネを愛していた。

確かに一度は初恋のフィリッパを愛した。

しかし、本当に心から愛したのはシモーネただ一人。


シモーネの顔が早く見たかった。

誓いのキスをするまで、シモーネはヴェールを被ったままだ。


シモーネはローズの香水をつけていた。

甘い香りがほんのり漂う。

良い匂いだ。


結婚式には国中の王侯貴族が招かれた。


そして、筆頭公爵という事もあり、隣国の王族も招待されている。

勿論、招待された王侯貴族はアントニオがフィリッパと婚約破棄をした事を知っている。

恐らく、皆、シモーネとの結婚には反対だろう。

しかし、そんな事はもはやどうでも良かった。

反対するなら反対すれば良い。

いくら反対したところで、アントニオはシモーネとの結婚はやめない。

結婚式も中止にはしない。


無論、結婚式反対の声もあった。

アウローラもそうだった。

だから、アウローラは結婚式には参加していない。

代わりに来ているのが宰相のハンスだ。

ハンスとは宰相によくある名前のようだ。

パウロ・エンリケ王子の姿もない。


勿論、マジョ侯爵夫妻も呼んでいない。

家族間の絆をぶち壊した事になる……という自覚はあるからだ。


それでも良い。

それでも、シモーネを愛してしまったのだから……。


結婚式を強行した事で、この国の王侯貴族が敵に回った事だろう。


それでも、スターマー公爵の支えもあり、盛大な挙式を行う事ができた。


結婚式はティアマト大聖堂で行われた。

ティアマト大聖堂は王侯貴族が結婚式を行う場所だ。


勿論、ティアマト大聖堂の司祭も恐らく二人の結婚には反対だろう。

しかし、本人同士が決めたことなのだから、他人にとやかく言われる筋合いは無い。


二人はティアマト大聖堂にいる。

国民も一部が祝福しているようで、大聖堂の側の道に列をなしている。


「お似合いですぞ、お二方」

「ああ、コーエン」

大聖堂までは馬車で来ている。

コーエンも今日はタキシード姿だ。

しかし、ネクタイが少し曲がっている。

「あら、コーエン。ネクタイが少し曲がっていますわ」

どうやら、シモーネが気づいたようだ。

「あー、ああ。かたじけない」

コーエンはネクタイを整えた。

「これでどうですか?」

「ああ、それで問題無いよ」

「良かった、良かった」


二人は前を向いた。

今度は精霊たちではなく、神に愛を誓う。


もっともだ。

アントニオは神も精霊もはなから信じていない。

神は人間の創造物。

そんなもの存在しない、という考え方だ。

典型的無神論者。


精霊に対しても同じだ。

だから、天気が荒れたのも偶然だと思っていた。


「さあ、行きますぞ」

コーエンが先導する。


と、その時。


「と……扉が開かない!!」

周りは何が起きた? という顔だった。

アントニオは唾を飲み込む。

シモーネは心ここにあらずといった表情をしている。


「何事だ?」

「神様がお怒りなのでしょう」

と、コーエン。

「そんな馬鹿な」

「誑惑(おうわく)の結婚式なんだからな」

と、横に立っていた出っ歯の男が言った。

この男は野次馬根性でこの結婚式を見に来たのだろう。

誑惑の結婚式と表現する位なのだから、味方ではない。

「誑惑だと!? この出っ歯」

勢いと怒りの余り、アントニオは出っ歯の男に掴みかかった。


二人が揉み合いになったところにコーエンの登場。

「アントニオ様。冷静になさって下さい」

アントニオは男を掴んだ右腕を下ろした。

と、その時に扉が開いた。


「やっとか……」

アントニオは舌打ちをした。


「では、今度こそ行きますぞ」

コーエンの先導でアントニオとシモーネの二人はヴァージンロードを歩く。

ヴァージンロードは青い絨毯だった。

斜め上を見れば、裸の男が描かれたステンドグラスがある。


左右にはそれぞれの家族、親戚が並ぶ。


アントニオの両親は結婚にさえ反対だったが、辛うじて式には参列してくれた。

左を見た途端、父親のオゴール公爵と母である夫人がいた。

その時、ふと母親と目が合った。

二人は司祭の元に着いた。


「アントニオ・オゴール。あなたは病めるときも健やかなる時も妻であるシモーネ・スターマーを愛する事を誓いますか?」

「はい、誓います」

(馬鹿馬鹿しい。なぜこんな儀式なんかしなければならないのか? 神なんていないのによ)

「シモーネ・スターマー。あなたは健やかなる時も病める時も夫であるアントニオ・オゴールを愛する事を誓いますか?」

「誓います」

司祭は頭を縦に振り、「うむ」と言った。

「では誓いのキスを」

二人は接吻をした。

シモーネの唇は柔らかかった。

「ここにて、あらたなる新郎新婦が誕生しました。皆で祝福しようではありませんか!!」

司祭がそう言うと、四方八方から拍手が鳴った。


結婚式が終わったら、次は邸にて晩餐会だ。


そして、晩餐会はつつがなく終了した。

儀式には何かと障害が付き纏ったが、何とか1日を終わる事ができた。


アントニオはシモーネを抱きしめた。
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