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アントニオ目線 精霊の森へ

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やはり、延期に延期を重ね、精霊の森へと向かう日が決まった。

精霊の森へ行き、精霊たちに挨拶に行くのだ。

アントニオの両親は結婚に反対。

アウローラも結婚を認めてくれなかった。

しかし、シモーネの両親は結婚を認めてくれた。

それが何よりもの救いだった。

そうだ。ジャッジするのは精霊たちだ。

精霊たちが賛成すると、虹が立ち、反対すると雨が降ると言われている。


精霊の森へ行くために、馬車を走らせた。

「コーエン。今日も頼む!!」

「はい、アントニオ様」

と、コーエン。

「よろしくお願いしますわ!!」

と、シモーネ。


「きっと精霊たちは俺たちの結婚に賛成してくれるさ!!」

「そうですわね」

意気揚々とした気持ちで儀式に臨む。


精霊の森はここから遥か東にある。

また、出発は日の入り前。

空には星が見えない。

恐らく、曇天。

天気予報だと、午後から晴れるような事を言っていた。


外は相変わらず雪景色。

そして、雪の壁。

寒い……。

でも、アントニオにとっては寒さは暑さより耐えられる。

吐息は相変わらず白く濁る。


シモーネは白いミンクのコートに白い毛皮のマフラーをしている。

それでいながらも、下にはタイツも何も穿かず、生足だ。

「寒くないか?」

「寒くないわ」

「どこかの誰かさんとは大違いだな」

二人は笑った。

どこかの誰かさんとは勿論、フィリッパ・マジョだ。


フィリッパは何かと寒がった。

冬になると、ファッションを度外視にした服装をする。

何枚も服を羽織り、マフラーをする。

そして、イアーマフラーまでするのだから、耳のおしゃれは必然的に怠ってしまう。

だから、冬場はピアスをしないのだ。


そんな寒がりのフィリッパに合わせていたため、苦手な暑さを我慢していた。

部屋はいつもガンガンに暖房をつけていた。

「暑い」に一言も言わなかった。

フィリッパが「暑い」と言って初めて暖房を弱くするなり、消すなりしていたのだ。

とにかく扱いの難しい女だった。

でも、体感気温が同じくらいなシモーネだから、暑さ、寒さは互いに共有でいた。


「それでは、出発するぞ!!」

コーエンが馬車を走らせた。


街中の道路は雪がきれいに取り除かれている。

しかし、精霊の森へ入れば、雪かきはされていない。

だから、精霊の森の前に来たら、歩かないといけないのだ。

今年の冬は本当に長い。

雪が降ることを除いては、夏だったら冬が良い。


東へ東へ……。

地平線が明るくなってきた。

ようやく、日の入りのようだ。

空には鉛色の空が広がっている。

「どんより、だな。まあ、でも雪や雨ではないから、決行だな」

「そうですわね」

馬車は引き返すことなく、精霊の森へと向かった。


周りには草原が広がっている。

しかし、草原には見えない。

雪で埋もれているからだ。

馬車は轍を走っている。

この轍は行商人たちが利用している。


夜が明けた。

空はどんより曇天。

それでも、雨や雪は降らなそうだ。

そういう予報になっている。


「ねえ、アントニオ様」

「どうしたんだ?」

「精霊たちは私達の結婚には賛成してくれるわよね?」

「勿論だ。結婚に反対しているのは女王陛下と俺の両親だけだ! 安心しろ。味方はいる。四面楚歌なんかになってはいない」

「本当ですこと?」

「ああ、俺を信じろ!! だって……精霊への誓いはこれが初めてなんだからな」


ガタリ!!

「おおおおおおおおおお」

突如、馬車が止まった。

「何があったんだ?」

「馬が倒れたんだ!」

「何!?」

馬が倒れた。

何があったのだろう?


アントニオは馬車から降りた。

馬が寝転がっている。

「どうしたんだ?」

「馬が調子悪いのかもなぁ」

「かと言って今日は中止するわけにはいかない……」

コーエンは馬を撫でた。

「バニー。今日はな、アントニオ様の大事な儀式がある日なんだ。だから、頼む!!」

馬の名前はバニーという。

アントニオがつけた名前だ。

コーエンがそう言うと、馬は立ち上がった。

「よし!! 行きますぞ!!」

「はい!」

そう言ってアントニオは馬車に乗り込んだ。

「では、改めて出発! 進行!!」

馬車は出発した。

しかし、何だか嫌な予感がした。


しばらく行くと、ついに精霊の森が見えて来た。

精霊の森には神父が待っている。

精霊たちのジャッジを聞くのは神父になる。


馬は森に到着した。

「お疲れ様でした、アントニオ様。到着しました。では、気をつけて」

「ありがとう!」

「ありがとうございますわ!!」

アントニオは馬車を降りた。

続いてシモーネも馬車を降りた。

「寒いな」

「そうね」

やはり、日差しが無い分、寒い。


森は鬱蒼と木が生い茂っている。

雪は高く降り積もっている。

アントニオは雪をかき分けながら、進んだ。


精霊の森は森ではあるものの、安全。

森というと、魔物が棲んでいるものだが、精霊の森は精霊たちによって結界が張られ、魔物が入れなくなっているからだ。

「ああっ」

「大丈夫か、シモーネ」

「ええ……」

シモーネが怪我をしていた。

どうやら、転んだようだ。

「足から血が出ているな」

「なんだか嫌な予感がするわ」

「う~ん」


馬が倒れたり、シモーネが転んだり……。

「試練だな!」

「そうかもしれないわね」

シモーネは足を引きずりながら歩いている。


しばらく歩くと、滝が現れた。

そこの前に、老人が立っている。

その老人こそが神父のルドルフだ。


二人はルドルフの元にたどり着いた。

「これは遠いところ、よくきましたね。ルドルフ様、シモーネ様」

「宜しくお願いします、神父様」

「宜しくお願いしますわ!!」

「ああ。じゃあ、精霊たちに誓いの言葉をたてるんじゃ」


ルドルフは祈りをこめた。

「我こそ、ルドルフ・オゴールはシモーネ・スターマーを心から愛します」

横でシモーネもお祈りをしている。


そこで……。

頭の上では黒い雲が立ち込めた。

そして、雷が鳴り出した。

雹まで降り出す始末。


でも待て!

雷が鳴ったあとに晴れて虹が出ることもあるではないか。

一抹の希望を忘れない。


しかし、一向に天気は回復しない。

嫌な予感は的中した。

「おおおお、これは」

「「まさか」」

「どうやら、精霊たちが怒っているようじゃ」

「何故だ?」

「アントニオ様。シモーネを本気で愛していますか?」

「勿論です」


これは二人の間に障害があっても、シモーネを守れるか試されているのかもしれない。

そう捉えた。
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