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エゴ

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こうして、邪魔者は消えた。

ミハイルはイルダに膝枕をしてもらいながら、ほくそ笑んでいる。


ミハイルの寝室に二人はいる。


寝室には春のやわらかな日差しが照りつけている。




「邪魔者はいなくなった。イルダ。これからはお前と一緒になれる」

「そうですわね、ミハイル様」

イルダはどっしりとしたアルトの声をだした。

ミハイルはこの落ち着いた声が好きだった。


ソプラノの声をしているマドレーヌの声はキンキンしていて、好きではなかった。



「そうさ。ワインに毒を入れたのはこの俺だ」


イルダもほくそ笑んでいる。


「まあ、ミハイル様は用意周到ですわね」

「ああ。あんな女、好きではない。半ば政略結婚みたいなものだからな」

ミハイルは立ち上がった。

「ある日の舞踏会で俺とマドレーヌが踊る事になってな。あれが出会いだったんだ」

ミハイルは続けた。

「もとより、王室とアルサ家は関係があった。アルサ家の当主、フィリップ公は王室専属の裁判官でな」

ミハイルはテーブルの上に置かれた葉巻に手をつけた。

そして、葉巻に火をつけた。


「それで、度々交流もあったんだ」

「では、その時からマドレーヌと交流も?」

「そうだ。でも、正式にはお見合いはしてなかったけどな」

ミハイルは天井に向かって煙を吐いた。


「ミハイル様。本当に私で良かったの? ミハイル様には4人のお妃候補がいたじゃないですか。それに私も配偶者がある身」


「配偶者がいようが無かろうが俺たちは幼なじみじゃないか」

「そうですわね」

「それに、学園も一緒だった」


再びミハイルは煙を鼻から吐き出した。


「ミハイル様。私は離婚いたしますわ」

「そうか。それは良い選択だな。でも、アンドレイはどうはしるんだ?」


「ええ。夫の事なんてどうでもいいわ」


「そうだな」


「私も政略結婚みたいなものだったもの。冗談じゃないわ。次期スコール家の当主になる兄が恋愛結婚だというのに、なぜ私だけ政略結婚なわけ? 不平等ですわ」

「確かにそうだな」


「私はミハイル様を愛していますわ」

「俺もイルダの事を愛している」

ミハイルは葉巻を灰皿に置いた。


そして、イルダの頭を愛撫した。

「そうですわ。私はミハイル様しかいませんわ」

「そうだな。次期王妃になれるのはイルダ。きみしかいない。マドレーヌが王妃だなんてふざけているな」


「そうですわ。あの野暮ったい女が王妃だなんて世も末ですわ」

「愛しているぞ、イルダ」


ミハイルはイルダの唇にキスをした。


そうだ。俺が心から愛した女性はイルダしかいない。



王室は代々政略結婚だった。

現国王もまた、幼い頃から既にヒルダと結ばれていた。


国王とヒルダは仲睦まじい。

国民からはオシドリ夫婦とも言われている。


そのためだろう。自分を含めて子供が4人いるのだ。

夜の営みもそれ相応に行われていたはずだ。



ミハイルはダミアンからヒルダについての愚痴を聞いたことが無かった。

むしろ、ヒルダを愛しているようだった。


そのように幼少期より決められ結婚に夫婦円満など父上が例外なのだ。


大概がうまくはいかないはずだ!!


ミハイルは第一王子というだけで、結婚相手が決められていた。

それに対し、第二王子や第三王子は結婚相手が決められていない。

エリザベスに限っては王女ということもあり、やはり結婚相手が決められていなかったのだ。


ミハイルは兄弟間のヒエラルキーを感じていた。

それに、王位を継承するのは男系男子と決められている。



つくづく俺ってついていないよな。


その頃、第二王子は自分の気に入った女性と交際していた。


相手は勿論幼なじみだった。


なぜだ! なぜ俺ばかり!!





マドレーヌが気に入らなかったのは声だけではなかった。

マドレーヌは王立合唱団に所属していた。


歌も上手だった。


しかし、ミハイルは音楽に興味が無かったのだ。


なぜなら、ミハイルが折り紙付きの音痴だったからだ。


楽器演奏もまるでダメ。

そして、音楽が嫌いになった。


「ねえ、ミハイル様」

「なんだい、イルダ」


「何もマドレーヌを殺す必要は無かったんじゃないの?」

「王室は宗教上離婚してはいけないんだ」


実際そうだった。

だから、代々の国王は離婚経験が無かった。


「そうだったんですの」

イルダはミハイルの頬に触れてきた。


「俺も哀れだな。弟は自由恋愛だというのに」

「本当にミハイル様は気の毒ですわ」

イルダはミハイルの頬にキスをした。


俺だって自由恋愛する権利はある!!


「弟もやはり幼なじみと交際している」

「不平等ですわね」


「ああ。フザケンナだ」

ミハイルはまた葉巻を取り出した。

そして、火をつけた。


「今日は随分と沢山葉巻を吸うんですね」


こんなにムシャクシャする話はない。

ムシャクシャすると、葉巻の本数も増える。


「ああ、ムシャクシャするからな。ストレスでつい葉巻に手が行ってしまう」

ミハイルは煙を吐き出した。


「私はミハイル様と一緒になりたいですわ」

「俺もだ、イルダ」


「デートの帰り、いつも私達は違う玄関だと思うと切なくなりますわ」


それは俺も同じだった。


「じゃあ、一緒になろう」

「国王陛下にはどう説明するんです?」

「ああ、それなら心配いらない」

ミハイルは再び煙を吐き出した。

「そうさ。不平等である旨を言うんだ。他のお妃候補だった女性も既に結婚している事だしな」


「ありがとうございますわ。ミハイル様」

イルダは抱きついてきた。

この温もりがたまらない。
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