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舞踏会
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夏の強い日差しも収まる夜。王宮にて舞踏会が始まった。
父、フィリップの計らいもあり、ミハイルと踊ることは無くなった。
マドレーヌは家族で舞踏会に参加している。
そして、舞踏会の催される部屋で視線を泳がせていた。
すると……。
癖のある長くてお情け程度の青髪を後ろで束ね、深緑色の四白眼。団子鼻に時々笑う口からは差し歯が見える。口ひげにあごひげ。もみあげもボウボウ。そんな小太りの背の低い男がいた。
彼こそがアルヴィンデル王国の王太子、ミハイルだ。
その横には第二王子と第三王子がいた。
手前にはエリザベス王女がどこかの貴族のご令息と思しい男性と一緒にいた。
1人、地味にしている男性がいた。
その男性は部屋の隅にぽつりと一人でいた。
何か事情がありそうだ。
長く伸びた金髪を束ね、水色の瞳を持つ長身の男性だった。
外見こそは派手なものの、服装が地味で、王侯貴族とはとても言い難い服装だった。
勿論、余りの地味さに周りから浮いている。
何やら様子がおかしいので、声をかける事にした。
「何しているんですか?」
「あ、はい」
男性はこちらを向いた。
「どちら様で?」
「実は僕は隣国アリステル王国の第一王子、ジェームスと申します。あなたは?」
「あ、はい。大変失礼いたしました。私はアルヴィンデル王国のアルサ公爵令嬢のマドレーヌと申します」
「アルサ公爵令嬢ですか」
「しかし、失礼ですが服装が地味ですね」
「はい。実はそれには深い事情がありまして……」
マドレーヌには何の事だかよくわかった。
隣国の王子、ジェームスはモテモテで、王侯貴族誰からでも言い寄られてしまう。
それが面倒臭くて地味にしているらしい。
それはわかっていた。
そう。ミハイル王太子殿下とは大違いですわ。
対してミハイルは全くモテない。
そもそも外見が外見だ。
団子鼻と背の低さは母親のヒルダそっくり。
身長はマドレーヌと大して変わらない。
性格もワンマンで何かとマウントをとってくる。
そのマウントの高さは世界一高い山にも負けず劣らず。
優しさなどまったくなく、とにかく俺様主義でモラハラ男。
服装はカッコつけるものの、似合っていない。不格好で嘲笑の対象となる。
こんなモラハラ男がモテるわけがない。
王族でなかったら、こんなモラハラ男は一生童貞だ。
しかし、イルダはこんな男を愛した。
イルダは単刀直入に言って男を見る目がない。
こんなモラハラ男に毎日お小言を言われていたら、たまったものではない。
それに対してジェームスは女性には特にやさしく、社会的弱者に対しても積極的に手を差し述べたいた。
聡明で紳士的……とマドレーヌは聞いていた。
確かに誠実そうな人だ。
「ジェームス王子殿下」
「はい、なんでしょう、マドレーヌ様」
「ジェームス王子殿下がなぜ地味にしているか、私には凡そ見当がつきますわ」
「わかっていただければ幸いです」
ジェームス王子殿下は踊る相手がいるのだろうか?
マドレーヌは勿論フリー。
しかし、王太子殿下の側に行けば、一緒に踊ろうと誘われるのは目に見えている。
「あのぉ」
「何ですか? マドレーヌ様」
「ジェームス王子殿下は一緒に踊る方はいらっしゃるのですか?」
「僕は……誰とも一緒になりたくないです。でも、踊らなければ来た意味ないですからね。マドレーヌ様こそ踊る人はいるのですか?」
「それが……いないんです」
間違ってでもミハイルとは踊りたくなかった。
なぜなら、この舞踏会が二人の出会いになってしまうのだから。
もう二度とあんな悲惨な人生は歩みたくない!!
王太子妃なんて懲り懲りだわ!!
「では、僕で良ければ一緒に踊りませんか?」
「え!? 良いのですか?」
「はい。こんな僕で良ければ」
これは断れない。
断れば間違いなくミハイルと踊る羽目になりそうだからだ。
勿論、そこにはミハイルの視線は無い。
ミハイルは緑髪のショートヘアの女性と一緒にいた。
王太子妃候補の一人、ディアドラだった。
ミハイルは楽しそうにディアドラと話し込んでいる。
さらに、視線を泳がせると、黒髪のセミロングヘアー、赤い吊り目の瞳に鷲鼻の痩せ型の女性がいた。しかも、かなりド派手なメイクを施している。
彼女こそがミハイルの幼なじみのイルダだ。
イルダは同じく黒髪で無精髭を生やした男一緒にいた。
イルダの夫で、長者番付3番目の公爵家の令息、チャールズだ。
イルダには子供がいない。
子供がいたら、チャールズもろとも不倫の被害者になっていただろう。
チャールズも気の毒だ。
「どこを見ているのですか?」
マドレーヌはハッと我に返った。
そこにいるのは隣国の王子、ジェームスだ。
「失礼いたしました」
「誰か好きでもない異性から言い寄られ、しつこくされているのですか?」
「あ……はい」
しつこくはされていないが、好きでもない男に言い寄られているのは確かだ。
「そうですか。確かにマドレーヌ様は見た目は魅力的な女性ですからね」
ジェームスはウインクした。
「魅力的……ありがとうございます。お世辞でも嬉しいです」
「いやいや。僕は嘘はつけない性分でしてね。お世辞ではありません。僕はお世辞は嫌いですから」
隣国の王子にそう言われては照れてしまう。
☆★☆★
そして、舞踏会は始まった。
とりあえずはミハイルの魔の手からは逃れられた。
ミハイルの相手をしているのは茶髪の女性で、お妃候補のもう一人、リサだった。
可哀想に……。
マドレーヌはリサを気の毒に思った。
父、フィリップの計らいもあり、ミハイルと踊ることは無くなった。
マドレーヌは家族で舞踏会に参加している。
そして、舞踏会の催される部屋で視線を泳がせていた。
すると……。
癖のある長くてお情け程度の青髪を後ろで束ね、深緑色の四白眼。団子鼻に時々笑う口からは差し歯が見える。口ひげにあごひげ。もみあげもボウボウ。そんな小太りの背の低い男がいた。
彼こそがアルヴィンデル王国の王太子、ミハイルだ。
その横には第二王子と第三王子がいた。
手前にはエリザベス王女がどこかの貴族のご令息と思しい男性と一緒にいた。
1人、地味にしている男性がいた。
その男性は部屋の隅にぽつりと一人でいた。
何か事情がありそうだ。
長く伸びた金髪を束ね、水色の瞳を持つ長身の男性だった。
外見こそは派手なものの、服装が地味で、王侯貴族とはとても言い難い服装だった。
勿論、余りの地味さに周りから浮いている。
何やら様子がおかしいので、声をかける事にした。
「何しているんですか?」
「あ、はい」
男性はこちらを向いた。
「どちら様で?」
「実は僕は隣国アリステル王国の第一王子、ジェームスと申します。あなたは?」
「あ、はい。大変失礼いたしました。私はアルヴィンデル王国のアルサ公爵令嬢のマドレーヌと申します」
「アルサ公爵令嬢ですか」
「しかし、失礼ですが服装が地味ですね」
「はい。実はそれには深い事情がありまして……」
マドレーヌには何の事だかよくわかった。
隣国の王子、ジェームスはモテモテで、王侯貴族誰からでも言い寄られてしまう。
それが面倒臭くて地味にしているらしい。
それはわかっていた。
そう。ミハイル王太子殿下とは大違いですわ。
対してミハイルは全くモテない。
そもそも外見が外見だ。
団子鼻と背の低さは母親のヒルダそっくり。
身長はマドレーヌと大して変わらない。
性格もワンマンで何かとマウントをとってくる。
そのマウントの高さは世界一高い山にも負けず劣らず。
優しさなどまったくなく、とにかく俺様主義でモラハラ男。
服装はカッコつけるものの、似合っていない。不格好で嘲笑の対象となる。
こんなモラハラ男がモテるわけがない。
王族でなかったら、こんなモラハラ男は一生童貞だ。
しかし、イルダはこんな男を愛した。
イルダは単刀直入に言って男を見る目がない。
こんなモラハラ男に毎日お小言を言われていたら、たまったものではない。
それに対してジェームスは女性には特にやさしく、社会的弱者に対しても積極的に手を差し述べたいた。
聡明で紳士的……とマドレーヌは聞いていた。
確かに誠実そうな人だ。
「ジェームス王子殿下」
「はい、なんでしょう、マドレーヌ様」
「ジェームス王子殿下がなぜ地味にしているか、私には凡そ見当がつきますわ」
「わかっていただければ幸いです」
ジェームス王子殿下は踊る相手がいるのだろうか?
マドレーヌは勿論フリー。
しかし、王太子殿下の側に行けば、一緒に踊ろうと誘われるのは目に見えている。
「あのぉ」
「何ですか? マドレーヌ様」
「ジェームス王子殿下は一緒に踊る方はいらっしゃるのですか?」
「僕は……誰とも一緒になりたくないです。でも、踊らなければ来た意味ないですからね。マドレーヌ様こそ踊る人はいるのですか?」
「それが……いないんです」
間違ってでもミハイルとは踊りたくなかった。
なぜなら、この舞踏会が二人の出会いになってしまうのだから。
もう二度とあんな悲惨な人生は歩みたくない!!
王太子妃なんて懲り懲りだわ!!
「では、僕で良ければ一緒に踊りませんか?」
「え!? 良いのですか?」
「はい。こんな僕で良ければ」
これは断れない。
断れば間違いなくミハイルと踊る羽目になりそうだからだ。
勿論、そこにはミハイルの視線は無い。
ミハイルは緑髪のショートヘアの女性と一緒にいた。
王太子妃候補の一人、ディアドラだった。
ミハイルは楽しそうにディアドラと話し込んでいる。
さらに、視線を泳がせると、黒髪のセミロングヘアー、赤い吊り目の瞳に鷲鼻の痩せ型の女性がいた。しかも、かなりド派手なメイクを施している。
彼女こそがミハイルの幼なじみのイルダだ。
イルダは同じく黒髪で無精髭を生やした男一緒にいた。
イルダの夫で、長者番付3番目の公爵家の令息、チャールズだ。
イルダには子供がいない。
子供がいたら、チャールズもろとも不倫の被害者になっていただろう。
チャールズも気の毒だ。
「どこを見ているのですか?」
マドレーヌはハッと我に返った。
そこにいるのは隣国の王子、ジェームスだ。
「失礼いたしました」
「誰か好きでもない異性から言い寄られ、しつこくされているのですか?」
「あ……はい」
しつこくはされていないが、好きでもない男に言い寄られているのは確かだ。
「そうですか。確かにマドレーヌ様は見た目は魅力的な女性ですからね」
ジェームスはウインクした。
「魅力的……ありがとうございます。お世辞でも嬉しいです」
「いやいや。僕は嘘はつけない性分でしてね。お世辞ではありません。僕はお世辞は嫌いですから」
隣国の王子にそう言われては照れてしまう。
☆★☆★
そして、舞踏会は始まった。
とりあえずはミハイルの魔の手からは逃れられた。
ミハイルの相手をしているのは茶髪の女性で、お妃候補のもう一人、リサだった。
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