上 下
1 / 12

婚約破棄

しおりを挟む
エレオノーレはサウルの部屋に呼び出された。

何でも、大切な話があるというのだ。


エレオノーレはサウルと婚約していた。

サウルはグラントラル王国の王太子。

王位継承権第一位だ。

一応、姉のカタリーナがいるが、グラントラルは男系男子にのみ王位継承権が与えられる。

これは建国以来の伝統なので、変えることはできない。

勿論、例外も無い。


サウルは一体、何の用件なのだろうか?


トントン。

執務室をノックした。

「あいよ!!」

中から甘ったるい声がする。


と、そこで我が目を疑う光景を目にする。

肩まである金髪にうぐいす色の瞳。鷲鼻に尖った耳。彼が王太子のサウルだ。

そして。その横にはオレンジ色の髪に赤い瞳。

サウルはなんと、ジブラルタル伯爵令嬢のヴィルジニアと一緒にいるのだ。

どういう風の吹き回しなのだろう?

問い詰める必要がある。


「王太子殿下。なぜヴィルジニアと一緒にいるんですの? わたくしたち、婚約したではありませんか」

サウルはほくそ笑んでいた。

「わはははは。今頃気づいたか」

いや、今頃気づいたか……ではない。

確かに今まで怪しいことはあった。

サウルはヴィルジニアを度々王宮に招き入れていたことは近衛騎士から聞いていた。

「やはり」というのが正直な答えだった。


「薄々気づいてきましたわ。王太子殿下がちょくちょくヴィルジニアを王宮に招いたことを近衛騎士の口から聞きましたので」

「ふっ。そうか」

「でも……」エレオノーレは婚約指輪をこれみよがしにサウルとヴィルジニアに見せつけた。

すると、負けじとしてヴィルジニアも指輪を見せつけてきた。

「どういうことなんですの?」

「お前に嫌気が差してきたんだ」

と言ってサウルは立ち上がった。そして続けた。

「貴様。会う度に太ってきているな。丸々じゃないか。どうしたら、そんな豚みたいに太るんだ?」

『豚』を強く発言してきた。

「そうね。豚みたいね」

その言葉が心に刺さった。


ヴィルジニアとは親友。

学園時代の3人仲良しグループの1人だった。

裏切り……。


「ヴィルジニア」

「なあに? 豚さん」

もはや豚呼ばわり。

「豚はないでしょ? それはともかくも、私達、親友じゃない。それに、私が王太子殿下と婚約したとき、お祝いの言葉をくれたじゃない。それは真意ではなかったの?」

「もう遅いわ、エレオノーレ。私達はもう親友ではないわ。私は人間の友達を持っているの。豚という畜生の友達を持った覚えはないわ」

「なっ……」

「そういうことだ!! わかったか!!」

部屋中に声が響き渡った。

「知りませんわ!」

「知らねえじゃねえ!!」

これ以上一緒にいても不毛な言い争いをするだけ。

(逃げた方が賢明かも?)

エレオノーレは一歩後ずさった。

「良いですわ、王太子殿下。婚約は破棄いたしましょう。でも、先人の御金言がありますわ。『因果応報』という言葉が。せいぜいその通りにならないよう、お祈りしていますわ」

そう吐き捨て、執務室を出た。


悔しかった。

婚約は破棄され、親友に裏切られ。

何より……ダイエットしても痩せないこの体質が憎かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。 昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。 入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。 その甲斐あってか学年首位となったある日。 「君のことが好きだから」…まさかの告白!

目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。 卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。 理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。 …と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。 全二話で完結します、予約投稿済み

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

お姉様は嘘つきです! ~信じてくれない毒親に期待するのをやめて、私は新しい場所で生きていく! と思ったら、黒の王太子様がお呼びです?

朱音ゆうひ
恋愛
男爵家の令嬢アリシアは、姉ルーミアに「悪魔憑き」のレッテルをはられて家を追い出されようとしていた。 何を言っても信じてくれない毒親には、もう期待しない。私は家族のいない新しい場所で生きていく!   と思ったら、黒の王太子様からの招待状が届いたのだけど? 別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n0606ip/)

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

婚約破棄され聖女も辞めさせられたので、好きにさせていただきます。

松石 愛弓
恋愛
国を守る聖女で王太子殿下の婚約者であるエミル・ファーナは、ある日突然、婚約破棄と国外追放を言い渡される。 全身全霊をかけて国の平和を祈り続けてきましたが、そういうことなら仕方ないですね。休日も無く、責任重すぎて大変でしたし、王太子殿下は思いやりの無い方ですし、王宮には何の未練もございません。これからは自由にさせていただきます♪

ダンスパーティーで婚約者から断罪された挙句に婚約破棄された私に、奇跡が起きた。

ねお
恋愛
 ブランス侯爵家で開催されたダンスパーティー。  そこで、クリスティーナ・ヤーロイ伯爵令嬢は、婚約者であるグスタフ・ブランス侯爵令息によって、貴族子女の出揃っている前で、身に覚えのない罪を、公開で断罪されてしまう。  「そんなこと、私はしておりません!」  そう口にしようとするも、まったく相手にされないどころか、悪の化身のごとく非難を浴びて、婚約破棄まで言い渡されてしまう。  そして、グスタフの横には小さく可憐な令嬢が歩いてきて・・・。グスタフは、その令嬢との結婚を高らかに宣言する。  そんな、クリスティーナにとって絶望しかない状況の中、一人の貴公子が、その舞台に歩み出てくるのであった。

処理中です...