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書類とペンと王子

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「…ふぅ」兄上である陛下から割り振られた仕事は以前と引き続き、いやそれ以上に難しいものだった。クリス様はペンを握られて何かを必死に書いておられるが溜め息がとまらないようで、心配でたまらない。

「そろそろ休憩されてはいかがですか?」
「ん?そんなに経つか?分かった、ありがとう」過集中はクリス様の利点でもあり欠点でもある。ただ、自分の身体を後回しにされるのだけは勘弁していただきたい。

お茶をお出ししつつクリス様の机に目を向けると凡人には理解できない数式と文字の羅列。何を任されているのか大まかには知ってはいますが、見れば見るほど…、信頼されていらっしゃるのは大変誇らしい主人なのですが。

「…ジルも座って飲まないか?たまには私の愚痴に付き合ってくれ」
「…今回だけですよ」実は私クリス様の乳兄弟でして、物心着く前は立場も理解せず仲良くさせていただいていました。まぁ、理解しては1歩引いてお仕えしていたのですが…。

クリス様は普段の反動といいますか、たまにスイッチが切れるタイミングがございましてその時はこうしてお話に誘われたりするのです。

完璧過ぎないところ、危うい雰囲気が更に周りを惹き付けてやまないのでしょう。かくゆう私も魅了されてやまない一人なのですが。


「兄上は私に期待し過ぎているとは思わないか。私にだってできないことはあるし、…自慢するわけではないがそれなりに国に尽くしてきた。少しくらい自由を楽しんでもいいと思ったんだ。まぁ、誰にも言わず勝手に出ていったのは悪いとは思うが…」なぁ、そうは思わないかジル。
「…そうですね、ですがクリス様はもっと周りを見るべきだと思いますよ。見落とされていることがございますよ」

見落としか、見落とし…。
「ありがとうジル!糸口が見つかりそうだ」
「それはようございました」私の言葉はいつも正しくクリス様には伝わらないのです。それでも、仕えることができればそれ以上望みはいたしません。



「兄上!失礼します。これならいけると思うのですが意見をお聞きしたく…」早すぎる!流石私のクリスだ…。
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