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旅に出たい

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「兄上の戴冠式も済んだことだしそろそろ旅に出ようと思うんだ」

「えっ、…んっんん。失礼ですがクリス様、今なんと仰いましたか?旅に出る?」
「そう!旅に出ようと思う!あの時の留学は楽しかったよ、やっぱり現地じゃないと分からないことがあるよね。特にあの…」

また突拍子もないことを仰るクリス様さまはこの国、リュウール王国の第2王子様であらせられます。幼い頃からそれはそれは聡明で、神童だとも言われていましたね。仕える者として大変誇らしい主人です。

国内情勢は平和そのもので、手と手を取り合う優しい国民性です。家族仲も良好で、お兄様である現国王様は重度のブラコンでいらっしゃいます。そんなこともあり王位争いなんて起きる気配もなく、クリス様はなんの障害もなく知識をどんどんと取り込んでいかれました。

自分の役割を正確に理解しておられ、やらなければならないことには皆の期待を超える結果をだしてこられました。しかし、自分の興味に忠実といいますか、今のように突拍子もないことを突然言い出すのです。お父上である先王様からはあの子の好きなように、との言葉を頂いておりますが、お兄様であられる現国王様含め、私たち部下、使用人はそれを認めるわけにはいかないのです。

そう、私がここで引き留めるしかない!

「国王様に相談されてはいかがですか?」
「ん?兄上にか?ふむ、そうだな1度聞いてみるとしよう。兄上は周辺国に大変博学でいらっしゃるから私に相応しい国も教えてくださるだろう」申し訳ありません国王様、私にはこれが精一杯でございます。あとの説得はお願いいたします。

「兄上はどちらにいらっしゃる?」
「今は執務室でお仕事されていらっしゃると思いますが、今から行かれますか?」

「そうだな…、仕事の邪魔をするわけにはいかないから休憩時間になったら行くとしよう。連絡だけ頼めるか?」
「かしこまりました」
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