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猫の隠れ湯
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熱いお風呂に入りたい。ふと、そんな事を思ってしまうのは私が日本に生まれたからなのだろうか? けれど、旅暮らしの中、その思いが果たされる事は稀である。だから、旅の途中にお風呂に入れた時の事をよく覚えているのだろう。特に、お風呂には入れぬ様な場所で入った記憶であれば。
此処に記すのも、そんなお風呂に入った話。そして、奇縁とも言える不思議な出会いの話。
〝猫の隠れ湯〟そう呼ばれる場所に招かれたのは全くの偶然であった。それは旅路の途中、山を越えようとしていた時の事。急な吹雪に見舞われた。運良く、寒さを凌げる洞窟を見つけていなければ、人知れず黄泉の旅路へ向かうところだっただろう。だから、私はとても運が良かったのだと思う。
その洞窟は幸いな事にそれなりの広さがあり、火を起こすのにも困らなかった。だから、暖を取ろうと焚き火を起こしたのだ。それが、きっと彼にとっても幸運であったのだろう。
吹雪を掻き分け彼が姿を現したのは、私が火を起こして間もなくの事だった。焚き火がほの明るかったから辿り着けたのだと猫の姿をした彼はそういった。
ネコモドキ。そう呼ばれる種の中には、猫が二足で歩いている様にしか見えないものもいる。そして、彼はまさしくそれだった。一族で最も猫に近いのだと彼は少し自慢気に口にする。その言葉に否定の語が出ないほど、彼は猫そのものであった。
だから、私の口からその問い掛けが出たのは自然な事であったのかもしれない。猫街へ行けるのか。そんな問いを彼にした。その答えの仔細を此処に記す訳にはいかないけれど、彼が自力では行けないと話した事だけは書いておこう。
だけれど、その変わりにと彼が招いてくれたのが〝猫の隠れ湯〟と呼ばれる場所であった。
彼自身が不完全と呼ぶ、猫渡りの力の一部。それは暖かい場所同士を繋ぐ事が出来るものであった。だから、私達は焚き火を潜ってその場所に行ったのだ。其処で見た景色は圧巻と言っても良いだろう。
見渡す限りが猫であった。けれど、其処にいた純正の猫は少なかった。ほぼほぼネコモドキで占められていた。だけど、私に取っては御伽話の存在が実在したかの様な感動を抱く場所であったのだ。
翌日の朝日を拝む頃、私はその場所を後にし、戻ってきた山の洞窟で彼と別れた。その別れ際、彼があの場所の回数券を手渡してくれたのだけど、私はまだそれを使っていない。
此処に記すのも、そんなお風呂に入った話。そして、奇縁とも言える不思議な出会いの話。
〝猫の隠れ湯〟そう呼ばれる場所に招かれたのは全くの偶然であった。それは旅路の途中、山を越えようとしていた時の事。急な吹雪に見舞われた。運良く、寒さを凌げる洞窟を見つけていなければ、人知れず黄泉の旅路へ向かうところだっただろう。だから、私はとても運が良かったのだと思う。
その洞窟は幸いな事にそれなりの広さがあり、火を起こすのにも困らなかった。だから、暖を取ろうと焚き火を起こしたのだ。それが、きっと彼にとっても幸運であったのだろう。
吹雪を掻き分け彼が姿を現したのは、私が火を起こして間もなくの事だった。焚き火がほの明るかったから辿り着けたのだと猫の姿をした彼はそういった。
ネコモドキ。そう呼ばれる種の中には、猫が二足で歩いている様にしか見えないものもいる。そして、彼はまさしくそれだった。一族で最も猫に近いのだと彼は少し自慢気に口にする。その言葉に否定の語が出ないほど、彼は猫そのものであった。
だから、私の口からその問い掛けが出たのは自然な事であったのかもしれない。猫街へ行けるのか。そんな問いを彼にした。その答えの仔細を此処に記す訳にはいかないけれど、彼が自力では行けないと話した事だけは書いておこう。
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