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第57話 小市民代表ですか?
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昨晩、結局お義父さんが隠し持っていた高級赤ワインは見つからなかったのである。詳しく聞くと、以前お義母さんが一人で飲んでしまったそうです。お義父さんがガッカリしていたけど、僕たちの婚姻届を見て満面の笑みになってました。ちなみに、高級赤ワインは今度お義母さんが違うものを買ってくれるそうです。お義母さんもお金持ちになったからね……。
色々と今後の事を話し合ったが、婚姻届を出す前に両家で顔合わせをしようという事になった。結婚は本人同士だけで可能であるが、今後は親戚になるのだから筋は通しておかねばならない。未来の僕に任せたつもりだったけど、そういう訳にも行かなくなってしまった。お正月にしれっと伝えて終わろうかと思ってたのに……。
そんな感じで話がまとまった翌日である土曜日の今日、僕は一人で実家のある埼玉へ向かっているのだった。午前中は喫茶店でバイトに励み、午後から出発です。
池袋駅から西武池袋線へ乗り換え、快速電車でゆっくりと行きます。今の僕なら特急電車に乗ることも可能だけど、早く実家へ帰りたい訳でもないので乗りません。池袋駅から約50分の長旅ですが、下り方向の電車は空いています。
電車でスマホを眺めながら今日の事を考えていた。作戦は以前考えていたように、両親を東京に連れ出して葉月ちゃんのお家へ連れて行くのだ。急に連れて来られた豪邸で結婚の話をされて戸惑う両親、小市民代表と言える両親はアタフタして頷いて終わるだろう。葉月ちゃんチームから歓迎の用意が必要だと力説されてしまったので、今日は実家にお泊りです。
今日実家に帰る事はチャットアプリで伝えたけど、作戦通りに行くか不安だ。今日の運勢もこんな感じで参考にならなかったのだ……。
【中野薫】
※今日の運勢※
唐揚げが食べたいニャン!
僕の運勢でニャンが出るのはかなりレアだ。もしかしたら食べ物でニャンが付く運勢は、神様が望んでいるもの、つまり神様へのお供え物なのではないだろうか? 占った対象を経由して神様へお供え物が届けられると考えてみたら、合ってそうな気がする。よし、途中下車して高級な唐揚げを大量に買って帰ろう。
◇
途中下車して大きなデパートの地下へ行き、高級な唐揚げを大量に購入しました。いつもの僕だったら絶対に買えない商品だけど、神様へのお供え物と考えたら安いと思ってしまった。定番の醬油味に塩麴を使ったもの、梅味のものがあったので全部買ってしまった。爆買いだ!
そしてまた電車に揺られて20分、実家の最寄り駅に着いてしまった。東京と違い、僕の地元の駅にはコンビニがポツンとあるだけです。そんな地元駅から歩いて10分のところにある住宅街の一角に、僕の実家があるのだ。30坪の2階建ての一軒家で、駐車場に1台のミニバンを駐めるのが精一杯で庭もありません。
実家へ帰るのも1年ぶりだけど、特に変わったところもない。お土産もあるし、さっさと入ろう。
「ただいま~」
実家なので勝手に入ってしまいます。狭い玄関を抜けて狭い廊下を通りリビングへ行くと、親父と母さんがソファーに座ってテレビを見ていた。年季の入ったボロいソファーだけど、買い替えてあげようかな……。
「おかえり薫、寒かっただろ」
「急に帰って来るんだもの、驚いちゃったわ。あら、イメチェンしたの? 似合ってるわよ」
「これお土産、夕飯のおかずにしてね」
僕が大量に購入してきた唐揚げを受け取った母さんが驚いていた。そして僕がイメチェンしてから両親に会うのは初めてでした。正月に帰る時でさえお土産なんて買ってきた事がない僕が、唐揚げを買って来たのである。ケーキも買って来ればよかったかな?
「すごいわね。じゃあちょっと早いけど、夕飯の用意するから休んでてね」
母さんが一人台所へ向かって行った。我が家は台所と呼ぶのが相応しい古いお家なのです。決して葉月ちゃんのお家のようなキッチンと呼ぶような代物ではありません。
僕はバッグ一つで来たので大した荷物もないので適当に床へ置き、ソファーに座ってテレビを見る事にした。どうやら名探偵なアニメが放送されていた。ちょっと名探偵葉月ちゃんを思い出してしまった。かなりピンク色に染まった名探偵だ。
「それで、急に帰って来てどうしたんだ?」
「実は宝くじが当たってさ、親孝行しようと思ったんだ。明日二人を東京観光に案内しようと思ってさ」
「宝くじだと!?」
宝くじという単語にビックリしている親父は、小市民なオーラがにじみ出ていた。さすがに億単位で当たっていることは伝えません。300万って伝えよう。これなら学費も自分で払うって言えるよね!
「そんな大声で言わないでよ。宝くじって言っても300万だよ。大金には変わりないけど、大騒ぎするほどの金額じゃないでしょ? それに当たった事は絶対に言わないでよ。こういうのは嫉妬でどんどん広まるんだからね?」
「あ、あぁ……」
「アパートの解約の件もそうだし、来年から学費は自分で払うから大丈夫です。その事を伝えに来たんだよ」
「なるほどな」
ちょっと大げさな感じで驚いていた親父も、300万と聞いて落ち着いていた。以前、親父には自分で家賃を払うと言ったけど、僕の経済事情はバレバレなので、自分で払える理由を説明しようと思ったのだ。
さて、ちょうど良いタイミングだから両親を鑑定しておこうかな。何か怖い事とか出てたら嫌だもんね!
【中野武雄】
中野家の家長であり、中野薫の父です。
55歳の中肉中背の小市民であり、これといった特徴が無いことが特徴です。
中野花子は奥さんですが、こっちもたいした特徴がないです。
※今日の運勢※
普通だよ?
【中野花子】
中野薫の母です。
そこらへんに良くいる50歳の小市民であり、これといった特徴が無いことが特徴です。
中野武雄は旦那さんですが、こっちもたいした特徴がないです。
※今日の運勢※
普通ですよ?
僕はそっと【吹き出し】を閉じた。自分の親だから良いけど、もう少し他に無かったのだろうか……。どうしてしまったんですか神様、唐揚げが早く食べたいんですね。すぐに夕飯にするので待っていて下さい!
その後、ちょっとした雑談をしていたら夕飯になったのだった。
◇◇
「薫の買って来てくれた唐揚げ美味しいわね!」
「すごくジューシーで味付けも良いな。この梅のやつが好きだ」
「たまには良いと思ってね。デパ地下で買って来た」
買って来た唐揚げは、鶏肉のジューシーさは勿論あるけど、それ以上に味付けが素晴らしいです。醬油味は食欲をそそり、塩麴は肉が柔らかくなっている気がする。そして梅味はサッパリと頂けます。
久しぶりの家族での食事は楽しいけれど、葉月ちゃんが居ないのが寂しく感じてしまう。もう僕は葉月ちゃんが居ないとダメな人になってしまったようだ。
「そういえば日向とは連絡取ってるのか?」
「兄貴とはたまにチャットアプリで連絡取ってるけど、何かあるの?」
「あの子、天王寺のお嬢さんと出て行ったきり一度も帰って来ないから心配なのよね」
兄貴は拉致されてから一度も戻っていないのか。天王寺のお屋敷は余程居心地が良いのだろう。この庶民の家と比べたら天王寺のお屋敷は天国だろう。楓さんと美人秘書さんのハーレムもあるし!
あんな兄貴だけど勉強は真面目だったから、大学の卒業まで単位も足りてるので遊んでても大丈夫なようです。
「この前、天王寺さんのお家へ遊びに行ったけど元気そうだったよ」
「それなら良いけど。……薫は彼女いないの?」
「えっ? い、いや~、居るよ? 明日にでも紹介しようか? 明後日結婚するんだよね」
「そんな下手な嘘吐かないで良いわよ。はぁ……日向は大丈夫そうだけど、薫は心配ね」
どうやら僕の回答では信じて貰えなかったようだ。信じてくれたら葉月ちゃんの事とか全部説明してあげたのにな! ふふ……明日後悔すると良いよ母さん。僕はちゃんと言ったからね!
「それより明日は大丈夫だよね? 朝から出てスカイツリー登ってお昼ご飯食べて帰る感じ。僕がお世話になってる人にも会って欲しいんだ」
「それは構わないぞ」
「ちょっとオシャレして行こうかしら」
そうして無事に約束を取り付ける事が出来たのだった。それよりも神様、唐揚げはお気に召しましたでしょうか? 今後とも宜しくお願い致します。
色々と今後の事を話し合ったが、婚姻届を出す前に両家で顔合わせをしようという事になった。結婚は本人同士だけで可能であるが、今後は親戚になるのだから筋は通しておかねばならない。未来の僕に任せたつもりだったけど、そういう訳にも行かなくなってしまった。お正月にしれっと伝えて終わろうかと思ってたのに……。
そんな感じで話がまとまった翌日である土曜日の今日、僕は一人で実家のある埼玉へ向かっているのだった。午前中は喫茶店でバイトに励み、午後から出発です。
池袋駅から西武池袋線へ乗り換え、快速電車でゆっくりと行きます。今の僕なら特急電車に乗ることも可能だけど、早く実家へ帰りたい訳でもないので乗りません。池袋駅から約50分の長旅ですが、下り方向の電車は空いています。
電車でスマホを眺めながら今日の事を考えていた。作戦は以前考えていたように、両親を東京に連れ出して葉月ちゃんのお家へ連れて行くのだ。急に連れて来られた豪邸で結婚の話をされて戸惑う両親、小市民代表と言える両親はアタフタして頷いて終わるだろう。葉月ちゃんチームから歓迎の用意が必要だと力説されてしまったので、今日は実家にお泊りです。
今日実家に帰る事はチャットアプリで伝えたけど、作戦通りに行くか不安だ。今日の運勢もこんな感じで参考にならなかったのだ……。
【中野薫】
※今日の運勢※
唐揚げが食べたいニャン!
僕の運勢でニャンが出るのはかなりレアだ。もしかしたら食べ物でニャンが付く運勢は、神様が望んでいるもの、つまり神様へのお供え物なのではないだろうか? 占った対象を経由して神様へお供え物が届けられると考えてみたら、合ってそうな気がする。よし、途中下車して高級な唐揚げを大量に買って帰ろう。
◇
途中下車して大きなデパートの地下へ行き、高級な唐揚げを大量に購入しました。いつもの僕だったら絶対に買えない商品だけど、神様へのお供え物と考えたら安いと思ってしまった。定番の醬油味に塩麴を使ったもの、梅味のものがあったので全部買ってしまった。爆買いだ!
そしてまた電車に揺られて20分、実家の最寄り駅に着いてしまった。東京と違い、僕の地元の駅にはコンビニがポツンとあるだけです。そんな地元駅から歩いて10分のところにある住宅街の一角に、僕の実家があるのだ。30坪の2階建ての一軒家で、駐車場に1台のミニバンを駐めるのが精一杯で庭もありません。
実家へ帰るのも1年ぶりだけど、特に変わったところもない。お土産もあるし、さっさと入ろう。
「ただいま~」
実家なので勝手に入ってしまいます。狭い玄関を抜けて狭い廊下を通りリビングへ行くと、親父と母さんがソファーに座ってテレビを見ていた。年季の入ったボロいソファーだけど、買い替えてあげようかな……。
「おかえり薫、寒かっただろ」
「急に帰って来るんだもの、驚いちゃったわ。あら、イメチェンしたの? 似合ってるわよ」
「これお土産、夕飯のおかずにしてね」
僕が大量に購入してきた唐揚げを受け取った母さんが驚いていた。そして僕がイメチェンしてから両親に会うのは初めてでした。正月に帰る時でさえお土産なんて買ってきた事がない僕が、唐揚げを買って来たのである。ケーキも買って来ればよかったかな?
「すごいわね。じゃあちょっと早いけど、夕飯の用意するから休んでてね」
母さんが一人台所へ向かって行った。我が家は台所と呼ぶのが相応しい古いお家なのです。決して葉月ちゃんのお家のようなキッチンと呼ぶような代物ではありません。
僕はバッグ一つで来たので大した荷物もないので適当に床へ置き、ソファーに座ってテレビを見る事にした。どうやら名探偵なアニメが放送されていた。ちょっと名探偵葉月ちゃんを思い出してしまった。かなりピンク色に染まった名探偵だ。
「それで、急に帰って来てどうしたんだ?」
「実は宝くじが当たってさ、親孝行しようと思ったんだ。明日二人を東京観光に案内しようと思ってさ」
「宝くじだと!?」
宝くじという単語にビックリしている親父は、小市民なオーラがにじみ出ていた。さすがに億単位で当たっていることは伝えません。300万って伝えよう。これなら学費も自分で払うって言えるよね!
「そんな大声で言わないでよ。宝くじって言っても300万だよ。大金には変わりないけど、大騒ぎするほどの金額じゃないでしょ? それに当たった事は絶対に言わないでよ。こういうのは嫉妬でどんどん広まるんだからね?」
「あ、あぁ……」
「アパートの解約の件もそうだし、来年から学費は自分で払うから大丈夫です。その事を伝えに来たんだよ」
「なるほどな」
ちょっと大げさな感じで驚いていた親父も、300万と聞いて落ち着いていた。以前、親父には自分で家賃を払うと言ったけど、僕の経済事情はバレバレなので、自分で払える理由を説明しようと思ったのだ。
さて、ちょうど良いタイミングだから両親を鑑定しておこうかな。何か怖い事とか出てたら嫌だもんね!
【中野武雄】
中野家の家長であり、中野薫の父です。
55歳の中肉中背の小市民であり、これといった特徴が無いことが特徴です。
中野花子は奥さんですが、こっちもたいした特徴がないです。
※今日の運勢※
普通だよ?
【中野花子】
中野薫の母です。
そこらへんに良くいる50歳の小市民であり、これといった特徴が無いことが特徴です。
中野武雄は旦那さんですが、こっちもたいした特徴がないです。
※今日の運勢※
普通ですよ?
僕はそっと【吹き出し】を閉じた。自分の親だから良いけど、もう少し他に無かったのだろうか……。どうしてしまったんですか神様、唐揚げが早く食べたいんですね。すぐに夕飯にするので待っていて下さい!
その後、ちょっとした雑談をしていたら夕飯になったのだった。
◇◇
「薫の買って来てくれた唐揚げ美味しいわね!」
「すごくジューシーで味付けも良いな。この梅のやつが好きだ」
「たまには良いと思ってね。デパ地下で買って来た」
買って来た唐揚げは、鶏肉のジューシーさは勿論あるけど、それ以上に味付けが素晴らしいです。醬油味は食欲をそそり、塩麴は肉が柔らかくなっている気がする。そして梅味はサッパリと頂けます。
久しぶりの家族での食事は楽しいけれど、葉月ちゃんが居ないのが寂しく感じてしまう。もう僕は葉月ちゃんが居ないとダメな人になってしまったようだ。
「そういえば日向とは連絡取ってるのか?」
「兄貴とはたまにチャットアプリで連絡取ってるけど、何かあるの?」
「あの子、天王寺のお嬢さんと出て行ったきり一度も帰って来ないから心配なのよね」
兄貴は拉致されてから一度も戻っていないのか。天王寺のお屋敷は余程居心地が良いのだろう。この庶民の家と比べたら天王寺のお屋敷は天国だろう。楓さんと美人秘書さんのハーレムもあるし!
あんな兄貴だけど勉強は真面目だったから、大学の卒業まで単位も足りてるので遊んでても大丈夫なようです。
「この前、天王寺さんのお家へ遊びに行ったけど元気そうだったよ」
「それなら良いけど。……薫は彼女いないの?」
「えっ? い、いや~、居るよ? 明日にでも紹介しようか? 明後日結婚するんだよね」
「そんな下手な嘘吐かないで良いわよ。はぁ……日向は大丈夫そうだけど、薫は心配ね」
どうやら僕の回答では信じて貰えなかったようだ。信じてくれたら葉月ちゃんの事とか全部説明してあげたのにな! ふふ……明日後悔すると良いよ母さん。僕はちゃんと言ったからね!
「それより明日は大丈夫だよね? 朝から出てスカイツリー登ってお昼ご飯食べて帰る感じ。僕がお世話になってる人にも会って欲しいんだ」
「それは構わないぞ」
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