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第18話 初デートですか?
しおりを挟む 朝の7時5分前、スマホの目覚ましが鳴る前に目が覚めた。
昨晩は映画デートの事を色々と考えていたら、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
特段緊張しているわけでもなく、自然と目が覚めた。まるで遠足を楽しみにしている小学生のような感じである。
スマホの目覚ましはあと3分で起動するようだ。でも、今日は葉月ちゃんとの映画デートである。それだったら生の声を聴きたいと思い、目覚ましを止めた。
修二や玲子さんのお陰で映画デートの下準備と心構えが出来たと思う。本当に二人には感謝しかない。
今日は11時に駅前のロータリーで待ち合わせとなっている。さすがに待たせる訳にはいかないので、30分前に行って待ってようと思う。
トーストにイチゴジャムを塗り、インスタントのコーヒーを飲む。いつもと同じ朝食だけど、今日はいつもと違う特別な日になるような予感がした。
身支度を行い、カリスマ美容師から教わったワックスを付けてみる。さすがにカリスマ美容師ほどうまくは出来なかったけど、合格点くらいは貰えてると思う。
さて、今日の運勢を見てみようかな。さすがにヤバい運勢だったら、回避出来るなら回避したい。鏡に映った自分を見つめ、神に祈った。
【中野薫】
※今日の運勢※
映画デートを楽しんじゃおう♪
迷ったら、『ちびっ子ぐらし』がいいよ~!
すごいありがたいお告げだ、神様ありがとうございます!
映画っていっぱいあって良く分からないんだよね。映画館では葉月ちゃんの希望を聞いて、特に無いようだったら『ちびっ子ぐらし』にしよう。どんな映画なのか知らないけど、まあいいか!
今日も一日、良い日でありますように……。
◇
休日の駅前のロータリーには、若者を中心に多くの人で賑わっていた。
待ち合わせ場所である時計台を見ると、時刻は10時20分を指していた。随分と早く着いてしまった。
ちょっと銀行のATMでお金を下ろそうと思う。修二から古着などを貰ったが、ヘアーカットなどで出費が嵩み、手持ちが心許ない。休日のATM利用は手数料を取られるので使いたくないが、背に腹は代えられない。
再び時計台へ戻って来た。辺りを見回したが、葉月ちゃんは居なかった。さすがに早すぎたかも。突っ立ってるものどうかと思うので、ベンチに座って待ってようかな。
スマホを取り出し、いつもの情報まとめサイトを見る。今日はあまり猫動画が無いな~と思っていたら、2匹のハムスターが回し車で遊んでいる動画が出て来た。一匹が必死に走る中、もう一匹が何も出来ずにグルグル回されている動画だ。最後には回し車から吹っ飛ばされていた。めっちゃ可愛い。
そんなこんなで時間を潰していたが、まだ葉月ちゃんは現れなかった。ちょっと一回りしてみようかな。
そう思って辺りを見回したら、対面のベンチで一人で座っている葉月ちゃんを見つけた。キョロキョロと辺りを見回しているようだ。一瞬目が合ったけど、視線を逸らされ、また周囲をキョロキョロしている。……もしかして僕だって気付いていないのか!?
さすがにこのまま放置しておくわけにもいかないので、こっちから会いに行こう。
「葉月ちゃんお待たせ。待たせちゃったかな?」
「えっ!? もしかして先輩ですか!?」
葉月ちゃんの可愛い目が大きく開き、手を口に当てて驚いている。やっぱり気付いてなかったのか。さすがカリスマ美容師の力、こんな短時間で劇的な大変身をしてるなんて思わないよね。
「ふふふ、どう? 似合ってる? 昨日、玲子さんの紹介で美容室に行ってきたんだ。せっかくの葉月ちゃんとのデートだから、気合を入れて来ました」
「あ、えっと、その……似合ってます……すごくカッコイイです!」
葉月ちゃんにカッコイイって言って貰えた! すごく嬉しいな、心が暖かくなる。
「ありがとう、葉月ちゃんもいつも以上に可愛いね! 編み込んだ髪も可愛いし、そのスカートも初めて見たけど、すごく似合ってるよ」
「あ、ありがとうございます……」
今日の葉月ちゃんは首周りが広く開いた白いブラウスに、ネイビーのふわっとしたロングスカートだ。大人っぽく見えます。
「……も、もう! せっかく先輩をビックリさせようと思ってたのに、こっちが驚きっぱなしですよ!?」
「そんなことないよ? 今日の葉月ちゃんはすごく大人っぽくて、すごいドキドキしてるんだ。今だって僕が葉月ちゃんの隣に居てもいいのかなって、ちょっと思ってる。それくらい綺麗だよ?」
「もう! 恥ずかしい事言うの禁止です! は、早く行きますよ!?」
葉月ちゃんが顔を赤くして駅に向かってしまった。ちょっと言いすぎちゃったかな? でも本心なんです。せっかくのデートだし、思いっきり楽しもう!
小走りで葉月ちゃんに追い付き、そっと葉月ちゃんの右手と手を繋いだ。
「待って葉月ちゃん、混んでるから手を繋ごう?」
「あっ……」
葉月ちゃんは少し驚いた表情をしたが、僕の目を見つめて来た。
「急にごめん、葉月ちゃんと手を繋ぎたかったんだ……嫌だった?」
「もう……しょうがないですね、先輩は」
葉月ちゃんの手は小さくて、とても柔らかかった。そして、僕がそっと繋いだ手を葉月ちゃんが強く握り返してくれた。この瞬間、葉月ちゃんと心が繋がったように感じた。これが幸せか……。
そうして二人で電車に乗り込んだ。目的地は10駅先にある栄えた地域である。
◇◇
二人で電車に乗り込んだが、車内は思ったより空いていた。座席は全て埋まっていたが、立っている人は疎らである。
手を繋いだ葉月ちゃんを誘導し、ドア付近に移動する。どこか席が空いたら移動するのが良いだろう。
葉月ちゃんも慣れて来たのか、いつもの調子に戻って来ていた。
「それにしても先輩は変わりすぎですよ! どこの美容室に行ったんですか?」
「えっと、玲子さんの紹介でね、電車でちょっと行ったところに『カリスマ美容室ビューティ田中』ってお店があるんだ。そこに連れてって貰ったんだよ」
「えっ!? 聞いたことがあります。確か半年くらい先まで予約が埋まってるって聞きました。よくやってくれましたね」
「やっぱり有名店なんだ。玲子さんが店長さんと知り合いでね、その店長さんがカリスマ美容師って言われてるらしいんだ。そんな人にアポなしでやって貰えたんだ。すごいよね玲子さんは」
「カリスマ美容師ですか! はぁ……いいなぁ」
「実はカリスマ美容師さんに気に入られてさ、いつでも予約入れてくれるって連絡先を教えてくれたんだ。葉月ちゃんの事も伝えてあるから、今度行ってみる?」
「是非お願いします!!!」
葉月ちゃんの目がキラキラしてます。やっぱり女の子は美容とかに興味津々だね。今でも美少女な葉月ちゃんですが、カリスマ美容師の手によってどんな大変身を遂げてしまうのか気になります!
「今日の先輩のお洋服も初めて見ましたね。カッコイイですよ?」
「あはは、ありがとう。でもこれ……実は修二のお下がりなんだ。本当は新しく服を買ってデートに来たかったんだけど、ちょっと難しくてね。情けない……」
「……そんなことありませんよ! 先輩がこんなに私とのお出かけを楽しみにしてくれていたんだなって、嬉しくなっちゃいました」
「僕もすごく嬉しいよ」
葉月ちゃんと見つめ合う。目が綺麗だ。軽くお化粧をしているのか、いつも以上に可愛く見える。唇も口紅をしていて、プルプルしていて目が離せない。ああ……このままキスしてしまいそうだ。
「……せ、先輩、次の駅ですよ? 忘れないで下さいね?」
「ご、ごめん。見惚れてた」
「もう! 恥ずかしい事言わないでください!」
そう言って葉月ちゃんはドアの方を向いてしまい、僕も釣られて外の景色を見る。ドア窓から見える景色は、ビル群が流れて行くだけで面白いものでは無かった。でもドア窓に反射して見える葉月ちゃんの顔は、見惚れる程の笑顔だった。
ここで声を掛けるのも違うと思い、静かに笑顔を見守った。
目的地の駅に到着して葉月ちゃんの手を引いてホームへ降りる時、何故か車内から舌打ちが聞こえて来た。……そんなに混んでる電車じゃなかったけど、嫌な事でもあったのだろうか? やはり都会の電車は怖いなぁって思った。
◇◇◇
駅を出て映画館へ向かおうと思ったが、もう12時を過ぎていた。さすがに朝食のトースト1枚ではお腹が空いてきた。
「葉月ちゃん、どこかでお昼ご飯食べようか。何か食べたいものとか希望ある?」
「えっと、ここら辺のこと全然分からないのでおまかせしてもいいですか? 好き嫌いはありませんので……」
「もちろん! じゃあパスタとかピザが楽しめるお店とかどうかな? 調べてみたらオシャレで人気なお店なんだって」
「パスタ大好きです!」
「よしいこー!」
駅の隣にある大型商業施設に入り、エレベーターで11階のレストランフロアに向かう。目的のイタリアンレストランには、外まで行列が出来ていた。
「あーごめん葉月ちゃん、お昼のピークだったね。かなり待ちそうだけど、他のところにしようか?」
「大丈夫です! すごく良い匂いがしますので、ここで待ちましょう?」
「じゃあそうしようか!」
しばらく葉月ちゃんと待ってみたが、どうやら入れ替わりのタイミングだったようで、すぐに入ることが出来た。
店内は木造の落ち着いた造りになっていて、観葉植物が所々に配置されており、爽やかな雰囲気だ。
4人掛けのテーブル席に案内され、席に着く。よくよく考えたら、待ち合わせ場所からここまでずっと手を繋いだままだった。なんか、手を繋いでいるのが普通な状態になっていたようです。
メニューを見てみる。うん……いっぱいあって悩みます。
「思った以上に種類があるね。どれにしようかな……」
「そうですね。どれも美味しそうです」
「このパスタとピザのセットにしようかな?」
「いいですね! じゃあピザは半分こにしませんか? 色々な味が楽しめますよ」
「そうしようか!」
そうして僕は海老クリームのパスタと4種のチーズピザにした。葉月ちゃんはカルボナーラにお餅と明太子のピザでした。
どうやらセットメニューになっているらしく、前菜のサラダとスープが運ばれてきた。
「サラダもシャキシャキして美味しいですね!」
「コーンスープも味が濃くてすごく美味しいよ!」
葉月ちゃんが笑顔で嬉しいです。サラダはイタリアンドレッシングがさっぱりとして美味しいし、コーンスープは味が濃くて、家で飲むインスタントとは別物でした。
しばらくすると、メインのパスタとピザが運ばれて来た。パスタとピザの両方だと量が多いと思ったが、どっちも小さめのサイズなので問題なく食べれそうだ。
「いい匂いだね。暖かいうちに食べようか」
「そうですね。いただきます~」
まずは海老のクリームパスタから頂きましょう!
「このパスタ、海老の風味が濃厚ですごく美味しいよ! 葉月ちゃんのカルボナーラも美味しそうだね」
「ふふ、すごく美味しいです。今まで食べたカルボナーラで一番です! ……先輩も食べてみますか?」
「え!? いいの? じゃあ一口貰おうかな」
葉月ちゃんが満面の笑みでカルボナーラ頬張っていたのを見て、すごく美味しそうに見えたからうれしいな。
「じゃあ先輩。はい……あ~ん」
「……っ!?」
な、なんだと!? これは伝説のアレですか!?
「どうしたんですか先輩? 早くしないと落ちちゃいますよ!」
「じゃ、じゃあいただきます……」
唇が震えるのを必死に隠し、葉月ちゃんのカルボナーラを頂きました。正直なところ、緊張しすぎて味が分からなかったです……。
「どうですか先輩? 美味しいですか?」
「……うん、すごく美味しいね!」
「良かったです! ……じゃあ私にも先輩の一口ください!」
やばい、葉月ちゃんの顔が赤くなってる。やっぱり葉月ちゃんも恥ずかしかったのかな? そう思ったら、ちょっと余裕が出来て来たぞ。
「じゃあ葉月ちゃん……あ~ん」
可愛い葉月ちゃんが小さなお口を開けてこっちに近づいてくる。何故か、すごく興奮します!!
フォークに丸めたパスタがもう少しで葉月ちゃんのお口に入るというところで、スルスルっと解けてしまった。
「あ、ごめん葉月ちゃん」
「も、もう! 先輩わざとですね!?」
「そんなことないよ。はいもう一回、あ~ん」
「……あ~ん」
今度は葉月ちゃんのお口に入りました。顔を赤くして、すごい可愛いです。
「どう? 美味しい?」
「……味が分からなかったのでもう一回お願いします」
「え!? もう一回?」
「そうです。早くあ~んして下さい」
「わ、わかった。はい、あ~ん」
まさかのお代わりがあるなんて! 葉月ちゃん、恐ろしい子!!
「すごく美味しいですね! そうだ、お返しにまたあ~んしてあげますね! ……はい、あ~ん」
「……あ~ん」
くっ、まさかのお返しがあるなんて……。葉月ちゃんもニヤニヤと笑っているので緊張が解けたようです。
……そのままパスタが無くなるまで、あ~ん合戦が続いた。
葉月ちゃんも途中からヤケになってきたのか、どっちが先にギブアップするかのチキンレースになっていた。もちろんどちらもギブアップせず、パスタが無くなってドローである。
今更だけど、店員さんや周りのお客さんが赤くなってこっちを見ているのに気が付いたのは、食べ終わって食後の珈琲を飲んでいる時だった。どうやら二人だけの世界に突入していたようです……。
さすがに珈琲を飲んでる頃にはお互い冷静になって、ちょっと思い出して顔を赤くしている。
「そ、そう言えば玲子お姉さまに聞きました。先輩って占いが得意なんですか? 良かったら私も占ってください」
まさか玲子さんが占いの事を葉月ちゃんに言っていたなんて知らなかった。布教活動だろうか? ……いや、僕が無断で葉月ちゃんを鑑定しないと見越して、葉月ちゃんから言い出すように誘導してくれたのだろう。さすが玲子さんだ。
「……うーん、僕が出来る占いって言うのは、その人を見て何となく今日の運勢が分かるって感じなんだよね。それでもいいの?」
「はい、玲子お姉さまが言っていました。先輩の占いは本物だって。テレビや雑誌の占いなんかとは訳が違う、本物の占いだってすごい真剣に言われました。ちょっと怖かったです……」
「……はは、玲子さんらしいね。じゃあちょっとやってみるね?」
「はい、お願いします!」
葉月ちゃんを見つめる。キリっとした表情がすごく可愛い。……このままずっと見ていたいけど、真剣にやろう。葉月ちゃんの事を知りたいと思いながら、神に祈った。
【黒川葉月】
身長150cmくらいのぴちぴちな女子高生(3年)
流れるような美しい黒髪は腰まで届き、小柄ながらお胸はおっきく、肌はまさに処女雪のように白い。つまり処女です。
見た目は幼く見えるけど、立派な女子高生です! あと処女です。
※所有スキル※
名も知らぬ飢えた女豹の加護
※今日の運勢※
映画デートを楽しんじゃおう♪
……なんか情報量が多いんだけど。所有スキルって何ですか? 名も知らぬ飢えた女豹の加護ってどんな加護? やばい、混乱してきた……。
「……先輩! どうしたんですか!? 私の占いはどうですか!? はよはよ!」
「えっ、あ、ごめん。う~んちょっとまってね……」
と、とりあえず鑑定能力の事は伝わってないから、今日の運勢だけを伝えよう。うん、加護なんて無かった。いいね?
「葉月ちゃんの今日の運勢は……」
「……ご、ごくり」
「映画デートを楽しんじゃおう♪ です!」
「……はぁ、玲子お姉さまに騙されたんですね……」
「ち、違うんだ。いつも今日の運勢を占うと具体的な内容だったり、抽象的な内容だったりして、時には不幸を回避してくれるんだよ」
「玲子お姉さまもそんな事言ってましたけど、じゃあ今日の先輩の内容はどうだったんですか?」
「えっと…映画デートを楽しんじゃおう♪ です!」
「一緒じゃないですか!?」
「うん……だから、一緒に楽しもう?」
「…………そうですね!」
「じゃあそろそろ映画館に行こうか。楽しみだな~」
「はい!」
そうして僕らは自然と手を繋ぎ、今日のメインイベントである映画館へ向けて歩き出した。
もちろんランチ代は全て僕が払いました!!
昨晩は映画デートの事を色々と考えていたら、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
特段緊張しているわけでもなく、自然と目が覚めた。まるで遠足を楽しみにしている小学生のような感じである。
スマホの目覚ましはあと3分で起動するようだ。でも、今日は葉月ちゃんとの映画デートである。それだったら生の声を聴きたいと思い、目覚ましを止めた。
修二や玲子さんのお陰で映画デートの下準備と心構えが出来たと思う。本当に二人には感謝しかない。
今日は11時に駅前のロータリーで待ち合わせとなっている。さすがに待たせる訳にはいかないので、30分前に行って待ってようと思う。
トーストにイチゴジャムを塗り、インスタントのコーヒーを飲む。いつもと同じ朝食だけど、今日はいつもと違う特別な日になるような予感がした。
身支度を行い、カリスマ美容師から教わったワックスを付けてみる。さすがにカリスマ美容師ほどうまくは出来なかったけど、合格点くらいは貰えてると思う。
さて、今日の運勢を見てみようかな。さすがにヤバい運勢だったら、回避出来るなら回避したい。鏡に映った自分を見つめ、神に祈った。
【中野薫】
※今日の運勢※
映画デートを楽しんじゃおう♪
迷ったら、『ちびっ子ぐらし』がいいよ~!
すごいありがたいお告げだ、神様ありがとうございます!
映画っていっぱいあって良く分からないんだよね。映画館では葉月ちゃんの希望を聞いて、特に無いようだったら『ちびっ子ぐらし』にしよう。どんな映画なのか知らないけど、まあいいか!
今日も一日、良い日でありますように……。
◇
休日の駅前のロータリーには、若者を中心に多くの人で賑わっていた。
待ち合わせ場所である時計台を見ると、時刻は10時20分を指していた。随分と早く着いてしまった。
ちょっと銀行のATMでお金を下ろそうと思う。修二から古着などを貰ったが、ヘアーカットなどで出費が嵩み、手持ちが心許ない。休日のATM利用は手数料を取られるので使いたくないが、背に腹は代えられない。
再び時計台へ戻って来た。辺りを見回したが、葉月ちゃんは居なかった。さすがに早すぎたかも。突っ立ってるものどうかと思うので、ベンチに座って待ってようかな。
スマホを取り出し、いつもの情報まとめサイトを見る。今日はあまり猫動画が無いな~と思っていたら、2匹のハムスターが回し車で遊んでいる動画が出て来た。一匹が必死に走る中、もう一匹が何も出来ずにグルグル回されている動画だ。最後には回し車から吹っ飛ばされていた。めっちゃ可愛い。
そんなこんなで時間を潰していたが、まだ葉月ちゃんは現れなかった。ちょっと一回りしてみようかな。
そう思って辺りを見回したら、対面のベンチで一人で座っている葉月ちゃんを見つけた。キョロキョロと辺りを見回しているようだ。一瞬目が合ったけど、視線を逸らされ、また周囲をキョロキョロしている。……もしかして僕だって気付いていないのか!?
さすがにこのまま放置しておくわけにもいかないので、こっちから会いに行こう。
「葉月ちゃんお待たせ。待たせちゃったかな?」
「えっ!? もしかして先輩ですか!?」
葉月ちゃんの可愛い目が大きく開き、手を口に当てて驚いている。やっぱり気付いてなかったのか。さすがカリスマ美容師の力、こんな短時間で劇的な大変身をしてるなんて思わないよね。
「ふふふ、どう? 似合ってる? 昨日、玲子さんの紹介で美容室に行ってきたんだ。せっかくの葉月ちゃんとのデートだから、気合を入れて来ました」
「あ、えっと、その……似合ってます……すごくカッコイイです!」
葉月ちゃんにカッコイイって言って貰えた! すごく嬉しいな、心が暖かくなる。
「ありがとう、葉月ちゃんもいつも以上に可愛いね! 編み込んだ髪も可愛いし、そのスカートも初めて見たけど、すごく似合ってるよ」
「あ、ありがとうございます……」
今日の葉月ちゃんは首周りが広く開いた白いブラウスに、ネイビーのふわっとしたロングスカートだ。大人っぽく見えます。
「……も、もう! せっかく先輩をビックリさせようと思ってたのに、こっちが驚きっぱなしですよ!?」
「そんなことないよ? 今日の葉月ちゃんはすごく大人っぽくて、すごいドキドキしてるんだ。今だって僕が葉月ちゃんの隣に居てもいいのかなって、ちょっと思ってる。それくらい綺麗だよ?」
「もう! 恥ずかしい事言うの禁止です! は、早く行きますよ!?」
葉月ちゃんが顔を赤くして駅に向かってしまった。ちょっと言いすぎちゃったかな? でも本心なんです。せっかくのデートだし、思いっきり楽しもう!
小走りで葉月ちゃんに追い付き、そっと葉月ちゃんの右手と手を繋いだ。
「待って葉月ちゃん、混んでるから手を繋ごう?」
「あっ……」
葉月ちゃんは少し驚いた表情をしたが、僕の目を見つめて来た。
「急にごめん、葉月ちゃんと手を繋ぎたかったんだ……嫌だった?」
「もう……しょうがないですね、先輩は」
葉月ちゃんの手は小さくて、とても柔らかかった。そして、僕がそっと繋いだ手を葉月ちゃんが強く握り返してくれた。この瞬間、葉月ちゃんと心が繋がったように感じた。これが幸せか……。
そうして二人で電車に乗り込んだ。目的地は10駅先にある栄えた地域である。
◇◇
二人で電車に乗り込んだが、車内は思ったより空いていた。座席は全て埋まっていたが、立っている人は疎らである。
手を繋いだ葉月ちゃんを誘導し、ドア付近に移動する。どこか席が空いたら移動するのが良いだろう。
葉月ちゃんも慣れて来たのか、いつもの調子に戻って来ていた。
「それにしても先輩は変わりすぎですよ! どこの美容室に行ったんですか?」
「えっと、玲子さんの紹介でね、電車でちょっと行ったところに『カリスマ美容室ビューティ田中』ってお店があるんだ。そこに連れてって貰ったんだよ」
「えっ!? 聞いたことがあります。確か半年くらい先まで予約が埋まってるって聞きました。よくやってくれましたね」
「やっぱり有名店なんだ。玲子さんが店長さんと知り合いでね、その店長さんがカリスマ美容師って言われてるらしいんだ。そんな人にアポなしでやって貰えたんだ。すごいよね玲子さんは」
「カリスマ美容師ですか! はぁ……いいなぁ」
「実はカリスマ美容師さんに気に入られてさ、いつでも予約入れてくれるって連絡先を教えてくれたんだ。葉月ちゃんの事も伝えてあるから、今度行ってみる?」
「是非お願いします!!!」
葉月ちゃんの目がキラキラしてます。やっぱり女の子は美容とかに興味津々だね。今でも美少女な葉月ちゃんですが、カリスマ美容師の手によってどんな大変身を遂げてしまうのか気になります!
「今日の先輩のお洋服も初めて見ましたね。カッコイイですよ?」
「あはは、ありがとう。でもこれ……実は修二のお下がりなんだ。本当は新しく服を買ってデートに来たかったんだけど、ちょっと難しくてね。情けない……」
「……そんなことありませんよ! 先輩がこんなに私とのお出かけを楽しみにしてくれていたんだなって、嬉しくなっちゃいました」
「僕もすごく嬉しいよ」
葉月ちゃんと見つめ合う。目が綺麗だ。軽くお化粧をしているのか、いつも以上に可愛く見える。唇も口紅をしていて、プルプルしていて目が離せない。ああ……このままキスしてしまいそうだ。
「……せ、先輩、次の駅ですよ? 忘れないで下さいね?」
「ご、ごめん。見惚れてた」
「もう! 恥ずかしい事言わないでください!」
そう言って葉月ちゃんはドアの方を向いてしまい、僕も釣られて外の景色を見る。ドア窓から見える景色は、ビル群が流れて行くだけで面白いものでは無かった。でもドア窓に反射して見える葉月ちゃんの顔は、見惚れる程の笑顔だった。
ここで声を掛けるのも違うと思い、静かに笑顔を見守った。
目的地の駅に到着して葉月ちゃんの手を引いてホームへ降りる時、何故か車内から舌打ちが聞こえて来た。……そんなに混んでる電車じゃなかったけど、嫌な事でもあったのだろうか? やはり都会の電車は怖いなぁって思った。
◇◇◇
駅を出て映画館へ向かおうと思ったが、もう12時を過ぎていた。さすがに朝食のトースト1枚ではお腹が空いてきた。
「葉月ちゃん、どこかでお昼ご飯食べようか。何か食べたいものとか希望ある?」
「えっと、ここら辺のこと全然分からないのでおまかせしてもいいですか? 好き嫌いはありませんので……」
「もちろん! じゃあパスタとかピザが楽しめるお店とかどうかな? 調べてみたらオシャレで人気なお店なんだって」
「パスタ大好きです!」
「よしいこー!」
駅の隣にある大型商業施設に入り、エレベーターで11階のレストランフロアに向かう。目的のイタリアンレストランには、外まで行列が出来ていた。
「あーごめん葉月ちゃん、お昼のピークだったね。かなり待ちそうだけど、他のところにしようか?」
「大丈夫です! すごく良い匂いがしますので、ここで待ちましょう?」
「じゃあそうしようか!」
しばらく葉月ちゃんと待ってみたが、どうやら入れ替わりのタイミングだったようで、すぐに入ることが出来た。
店内は木造の落ち着いた造りになっていて、観葉植物が所々に配置されており、爽やかな雰囲気だ。
4人掛けのテーブル席に案内され、席に着く。よくよく考えたら、待ち合わせ場所からここまでずっと手を繋いだままだった。なんか、手を繋いでいるのが普通な状態になっていたようです。
メニューを見てみる。うん……いっぱいあって悩みます。
「思った以上に種類があるね。どれにしようかな……」
「そうですね。どれも美味しそうです」
「このパスタとピザのセットにしようかな?」
「いいですね! じゃあピザは半分こにしませんか? 色々な味が楽しめますよ」
「そうしようか!」
そうして僕は海老クリームのパスタと4種のチーズピザにした。葉月ちゃんはカルボナーラにお餅と明太子のピザでした。
どうやらセットメニューになっているらしく、前菜のサラダとスープが運ばれてきた。
「サラダもシャキシャキして美味しいですね!」
「コーンスープも味が濃くてすごく美味しいよ!」
葉月ちゃんが笑顔で嬉しいです。サラダはイタリアンドレッシングがさっぱりとして美味しいし、コーンスープは味が濃くて、家で飲むインスタントとは別物でした。
しばらくすると、メインのパスタとピザが運ばれて来た。パスタとピザの両方だと量が多いと思ったが、どっちも小さめのサイズなので問題なく食べれそうだ。
「いい匂いだね。暖かいうちに食べようか」
「そうですね。いただきます~」
まずは海老のクリームパスタから頂きましょう!
「このパスタ、海老の風味が濃厚ですごく美味しいよ! 葉月ちゃんのカルボナーラも美味しそうだね」
「ふふ、すごく美味しいです。今まで食べたカルボナーラで一番です! ……先輩も食べてみますか?」
「え!? いいの? じゃあ一口貰おうかな」
葉月ちゃんが満面の笑みでカルボナーラ頬張っていたのを見て、すごく美味しそうに見えたからうれしいな。
「じゃあ先輩。はい……あ~ん」
「……っ!?」
な、なんだと!? これは伝説のアレですか!?
「どうしたんですか先輩? 早くしないと落ちちゃいますよ!」
「じゃ、じゃあいただきます……」
唇が震えるのを必死に隠し、葉月ちゃんのカルボナーラを頂きました。正直なところ、緊張しすぎて味が分からなかったです……。
「どうですか先輩? 美味しいですか?」
「……うん、すごく美味しいね!」
「良かったです! ……じゃあ私にも先輩の一口ください!」
やばい、葉月ちゃんの顔が赤くなってる。やっぱり葉月ちゃんも恥ずかしかったのかな? そう思ったら、ちょっと余裕が出来て来たぞ。
「じゃあ葉月ちゃん……あ~ん」
可愛い葉月ちゃんが小さなお口を開けてこっちに近づいてくる。何故か、すごく興奮します!!
フォークに丸めたパスタがもう少しで葉月ちゃんのお口に入るというところで、スルスルっと解けてしまった。
「あ、ごめん葉月ちゃん」
「も、もう! 先輩わざとですね!?」
「そんなことないよ。はいもう一回、あ~ん」
「……あ~ん」
今度は葉月ちゃんのお口に入りました。顔を赤くして、すごい可愛いです。
「どう? 美味しい?」
「……味が分からなかったのでもう一回お願いします」
「え!? もう一回?」
「そうです。早くあ~んして下さい」
「わ、わかった。はい、あ~ん」
まさかのお代わりがあるなんて! 葉月ちゃん、恐ろしい子!!
「すごく美味しいですね! そうだ、お返しにまたあ~んしてあげますね! ……はい、あ~ん」
「……あ~ん」
くっ、まさかのお返しがあるなんて……。葉月ちゃんもニヤニヤと笑っているので緊張が解けたようです。
……そのままパスタが無くなるまで、あ~ん合戦が続いた。
葉月ちゃんも途中からヤケになってきたのか、どっちが先にギブアップするかのチキンレースになっていた。もちろんどちらもギブアップせず、パスタが無くなってドローである。
今更だけど、店員さんや周りのお客さんが赤くなってこっちを見ているのに気が付いたのは、食べ終わって食後の珈琲を飲んでいる時だった。どうやら二人だけの世界に突入していたようです……。
さすがに珈琲を飲んでる頃にはお互い冷静になって、ちょっと思い出して顔を赤くしている。
「そ、そう言えば玲子お姉さまに聞きました。先輩って占いが得意なんですか? 良かったら私も占ってください」
まさか玲子さんが占いの事を葉月ちゃんに言っていたなんて知らなかった。布教活動だろうか? ……いや、僕が無断で葉月ちゃんを鑑定しないと見越して、葉月ちゃんから言い出すように誘導してくれたのだろう。さすが玲子さんだ。
「……うーん、僕が出来る占いって言うのは、その人を見て何となく今日の運勢が分かるって感じなんだよね。それでもいいの?」
「はい、玲子お姉さまが言っていました。先輩の占いは本物だって。テレビや雑誌の占いなんかとは訳が違う、本物の占いだってすごい真剣に言われました。ちょっと怖かったです……」
「……はは、玲子さんらしいね。じゃあちょっとやってみるね?」
「はい、お願いします!」
葉月ちゃんを見つめる。キリっとした表情がすごく可愛い。……このままずっと見ていたいけど、真剣にやろう。葉月ちゃんの事を知りたいと思いながら、神に祈った。
【黒川葉月】
身長150cmくらいのぴちぴちな女子高生(3年)
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見た目は幼く見えるけど、立派な女子高生です! あと処女です。
※所有スキル※
名も知らぬ飢えた女豹の加護
※今日の運勢※
映画デートを楽しんじゃおう♪
……なんか情報量が多いんだけど。所有スキルって何ですか? 名も知らぬ飢えた女豹の加護ってどんな加護? やばい、混乱してきた……。
「……先輩! どうしたんですか!? 私の占いはどうですか!? はよはよ!」
「えっ、あ、ごめん。う~んちょっとまってね……」
と、とりあえず鑑定能力の事は伝わってないから、今日の運勢だけを伝えよう。うん、加護なんて無かった。いいね?
「葉月ちゃんの今日の運勢は……」
「……ご、ごくり」
「映画デートを楽しんじゃおう♪ です!」
「……はぁ、玲子お姉さまに騙されたんですね……」
「ち、違うんだ。いつも今日の運勢を占うと具体的な内容だったり、抽象的な内容だったりして、時には不幸を回避してくれるんだよ」
「玲子お姉さまもそんな事言ってましたけど、じゃあ今日の先輩の内容はどうだったんですか?」
「えっと…映画デートを楽しんじゃおう♪ です!」
「一緒じゃないですか!?」
「うん……だから、一緒に楽しもう?」
「…………そうですね!」
「じゃあそろそろ映画館に行こうか。楽しみだな~」
「はい!」
そうして僕らは自然と手を繋ぎ、今日のメインイベントである映画館へ向けて歩き出した。
もちろんランチ代は全て僕が払いました!!
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