110 / 119
中級冒険者の章
第105話 予想外
しおりを挟むあと数時間もすれば今年が終わり新しい年が始まるという大晦日の夜の事である。まったりとテレビを見て楽しんでいたところに突然の来客を知らせるチャイムが鳴り響いた。こんな大晦日の夜に誰だと疑問に思うが出ない訳にもいかない。テレビから流れる年末恒例のお笑い芸人による笑ってはいけないシリーズ最新作が気になったが、重い腰を上げる事にした。
後ろから聞こえるデデーンというお尻バットになった音楽を聴きながら玄関ドアを開けたところ、そこに居たのはルナ様だった!
玄関先で立ち話する訳にもいかないので、とりあえずルナ様をリビングへ案内するのでした。
「えっと、これから年越しそばならぬカップそばを食べようと思っていたのですが……ルナ様も一緒にいかがですか?」
七海さんの居ない生活というのは味気ないもので、一人だと料理をする気も起きないのでした。大晦日っていう事もあり夕飯は年越しそばです。もちろんカップそばだけどね!
でもルナ様が来るならもっと豪華な食事を用意すれば良かった……。チロルはちゅる~んさえ与えておけば大満足だからね! ビアンカちゃんはスイーツ専門だからそれ以外は興味がないらしいです。
「ふふ……そんなことだろうと思っていたわ。ほら、お鍋の食材を用意したのよ。お刺身の盛り合わせもあるからお蕎麦は後にしましょう」
『ウニャーン! お刺身ニャー!』
「うぇっ!? どこから食材出したんですかー!?」
さっきまで手ぶらだったのに豪華な食材が急に現れた。立派なお魚に頭の付いた海老、ホタテやカニといった豪華な海の幸だった。まるでワープして来たようだ。
「ユウタとビアンカはそこで待っていなさい。チロルは手伝って頂戴ね」
『分かりましたニャーン!』
「……あれぇ?」
まさかの展開にボクはポカーンと口を開けて見ている事しか出来なかった。ルナ様がエプロンを装着して鼻歌を歌いながらキッチンへ行ってしまったのだ。
「あのあの、ビアンカちゃん。どうしてここにルナ様が居るんですか……? こんな突然来るなんておかしいですよね!? しかも夢の世界じゃなくて現実世界ですよー!?」
「もう、おにーちゃん声おっきいよ? テレビがいいところなんだからメッ、だよ」
「ご、ごめん……」
ハッとして口を押えた。ビアンカちゃんは年末恒例のあの番組に夢中のようだった。『田中タイキック』というナレーションにゲラゲラと笑っていたのだ。ルナ様が突然来たというのに全然驚いてないのが解せなかった。
ルナ様がどうやってこの世界に来たのか知らないが、来た理由なら心当たりがある……。
「その、もしかしなくてもガチャで持って来ちゃったアレが原因ですよね?」
「大正解~♪ ルナったらさ、あのコスメセットが余程お気に入りだったらしくてね、それはもう怒り狂って犯人捜しをしたんだよね~。冒険者を皆殺しとか凄かったな~」
「ぴぃ!?」
あの温厚で優しいルナ様が怒り狂う姿は想像出来ないが、チロルが言っていた冒険者皆殺し令というのは記憶に新しい。まあもう今更か。ルナ様はボクが犯人だって狙いを定めてチロルを派遣したって言ってたもんね。腹をくくるしかないか……。
「それに数日前から宇宙で謎の物体が見つかったって大騒ぎしてたのにニュース見てなかったの? あれってスペースコロニーの事だよ。衛星が爆発したニュースも凄かったんだからね」
「てっきりお隣の大陸からミサイルが飛んできたニュースだとばかり思ってました……」
名探偵ユウタにあるまじき失態だ。今日までにフラグは何個もあった……それをボクは見逃していたのだ。まさか現実世界にルナ様が来るなんて思わなかったよ。もしかしてチロルがウニャウニャ言いながらバンザイしていたのはルナ様と交信していたのか!?
それにしても不思議なことがある。ルナ様は一体どんな魔法を使ってこの世界に来たのだろうか。強大な力を持つビアンカちゃんですら魂の契約、そして夢の世界から持ち帰ったアイテムから抽出した魔力で存在出来ているというのに、スペースコロニーまるごと転移してくるのはチートとしか思えなかった。バグってるな!
「ボクはこれからどうなっちゃうんでしょうか……?」
自然と弱気な声が漏れ出てしまった。夢の世界で襲われるなら何とでもなるが、このリアルでフルボッコされたら死んでしまうのだ。ガクガクブルブル……。
「あはっ、そんな事を気にしてたの~? 安心してよおにーちゃん、ルナが本気でおにーちゃんの事に腹を立てていたら今頃この地球は無くなってるって。スペースコロニーからビームが発射されてチュドーンだよ♪」
「チュドーン……!? じゃあもしかして、ボクに生き残る道は残ってるっていう事でしょうか……?」
「もちろんだよ。ほら、ビアンカちゃんもフォローしてあげるからいっぱいおもてなししてあげよ? お鍋と言ったら日本酒だよね、このお家になかったっけ?」
「あった気がします! 持って来ますね~」
つまりこの鍋パーティーでいっぱい接待してルナ様を上機嫌にして罪を有耶無耶にしてしまおうという作戦ですね。ユウタ把握した。
よし、こうなったら全力で接待プレイを頑張ろう。
『かんぱ~い!!』
作戦会議も終わり、ルナ様が作ってくれたお鍋を前に乾杯です。コンロでお鍋に火をかけて美味しく煮立つまで、お刺身をつまみながらお酒をグイグイ飲ませて酔わせる作戦です。七海さんがどこかで貰って来た日本酒があって助かりました。七海さんはワイン派だから飲んでも怒られないはずだ。
ルナ様は■■の■■と言われるくらいの猛者であり、非常にお酒に強いのだと思う。つまり日本酒をチビチビと飲ませたところで酔うはずがなく、ボクの罪を忘れてもらうのは無理だろう。よし、こうなったらジョッキで提供しよう。でもアンドロイドって酔っ払うのかな?
「どうですかルナ様、このお酒はお口に合いましたか?」
「ふふ……このお酒はなかなか美味しいわね。こんな原始的な星だから期待してなかったけど想像以上だわ」
「えへへ、ありがとうございます。でも日本の凄さはこんなものじゃありませんよー。今日は無理ですけど、今度美味しいお店を紹介しますね。はい、お代わりどうぞ~」
「あら、ありがとう」
ふふふ、何も知らないルナ様はジョッキで日本酒をゴクゴクと飲んでいる。いくらアンドロイドとはいえ、日本酒をビールのようにグビグビ飲んだらすぐにバタンキューのはず。良い子のみんなはマネしちゃダメだよ?
「ルナばっかりずるーい! おにーちゃんは私のなんだからね、ビアンカちゃんにもお酌してくれないと怒っちゃうぞー?」
「もちろんビアンカちゃんの事も忘れてませんよ。はい、どうぞ~」
「えへへ、ありがとおにーちゃん」
立ち上がりは順調のようだ。二人とも楽しそうにしてるし、ルナ様とビアンカちゃんの仲が悪いという事はないのだろう。チロルはお刺身をガツガツと食べてご満悦だ。このまま何もなくご飯食べて帰ってくれたらそれでミッションクリアだな。
「はいユウタ、フーフーしてあげるわ」
「えっ、あのあの、ボク自分で食べられますけど……」
グツグツと煮えたお鍋を甲斐甲斐しくよそってくれたルナ様がフーフーまでしてくれた。至れり尽くせりな状況に戸惑ってしまう。もしかしてルナ様はボクとしたエチエチトレーニングでお世話する喜びに目覚めてしまったのか!?
「いいから食べなさい。はい、あ~ん」
「あ~ん……美味しいです!」
美少女がフーフーしてくれたホタテは身がギュッとしてて、噛めば濃厚なお汁がピュッピュと出て来た。うまうま。
「野菜も美味しいわよ。はい、あ~ん」
いつの間にか箸が奪われてしまい全部あ~んされるようになってしまった。ビアンカちゃんはテレビに夢中だし、ルナ様に甘えるのもいいかもしれないな!
ルナ様に甘やかされる事しばしば、ルナ様はテレビ番組が気になるご様子です。
「ねぇユウタ。この人間達はどうしてお尻を叩かれているのかしら。もしかしてこの星の男はドMしかいないの? ユウタもMだったわね」
「ぴゃわー! ち、違いますよー! これは日本のバラエティー番組ですから誤解しないで下さい。それにボクはMじゃなくてSです。毎晩七海さんをアンアンさせて近所迷惑にならないか心配になるくらいですから~」
「あらそうだったの。じゃあそういう事にしておきましょうか。ふふふ……」
「……」
ルナ先生に鍛えてもらった時の事を思い出した。愛棒を鍛えるためにルナ様の厳しいシゴキに耐えていたが、何故か途中から気持ち良くなってしまったのだ。ルナ先生に身を任せていると極上の快楽を与えてくれるのです…………ダメだ、これじゃMの思考だ!
ルナ様とそんな事を話していたところ、ビアンカちゃんがボクを見てニヤニヤと笑った。まるで悪巧みをしているような危険な笑みだった!
「ねーねー、ルナはどうしてこんな未開の惑星にまで来たの? わざわざ目印にするためチロルを送りこんでさ、もしかしておにーちゃんの事が好きになっちゃったのかな~?」
「び、ビアンカちゃん!?」
「おにーちゃんは黙ってて。これはキッチリと確認しておかないとダメなんだからね」
このまま有耶無耶にする作戦だったのに思いっきりぶっこんじゃったよ。もしかしてルナ様と楽しそうに話していたからビアンカちゃんが嫉妬したのかもしれない。やっちまったなぁ!
チラっとルナ様を見ると頬を赤くして日本酒をグビグビと飲んでいる。時折ボクの事を見て笑みを浮かべているのだった。
そして長い沈黙の後、ルナ様の可愛いお口が開いた。
「ええ、ビアンカの言う通りよ。どうやら私、ユウタの事が好きになっちゃったみたいなの。だからこうして会いに来たのよ」
「っ!?」
思わぬ告白に言葉を失ってしまった。
ルナ様の顔を見れば恋する乙女のようだった。これは嘘や演技ではなく、真剣な話だと何故か分かった。
テレビから聞こえるバラエティー番組は消した方がいいですかね? また田中がタイキックされてますよ……?
0
お気に入りに追加
104
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

劣等生のハイランカー
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す!
無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。
カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。
唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。
学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。
クラスメイトは全員ライバル!
卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである!
そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。
それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。
難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。
かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。
「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」
学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。
「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」
時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。
制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。
そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。
(各20話編成)
1章:ダンジョン学園【完結】
2章:ダンジョンチルドレン【完結】
3章:大罪の権能【完結】
4章:暴食の力【完結】
5章:暗躍する嫉妬【完結】
6章:奇妙な共闘【完結】
7章:最弱種族の下剋上【完結】

寝て起きたら世界がおかしくなっていた
兎屋亀吉
ファンタジー
引きこもり気味で不健康な中年システムエンジニアの山田善次郎38歳独身はある日、寝て起きたら半年経っているという意味不明な状況に直面する。乙姫とヤった記憶も無ければ玉手箱も開けてもいないのに。すぐさまネットで情報収集を始める善次郎。するととんでもないことがわかった。なんと世界中にダンジョンが出現し、モンスターが溢れ出したというのだ。そして人類にはスキルという力が備わったと。変わってしまった世界で、強スキルを手に入れたおっさんが生きていく話。※この作品はカクヨムにも投稿しています。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

最弱の職業【弱体術師】となった俺は弱いと言う理由でクラスメイトに裏切られ大多数から笑われてしまったのでこの力を使いクラスメイトを見返します!
ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
俺は高坂和希。
普通の高校生だ。
ある日ひょんなことから異世界に繋がるゲートが出来て俺はその中に巻き込まれてしまった。
そこで覚醒し得た職業がなんと【弱体術師】とかいう雑魚職だった。
それを見ていた当たり職業を引いた連中にボコボコにされた俺はダンジョンに置いていかれてしまう。
クラスメイト達も全員その当たり職業を引いた連中について行ってしまったので俺は1人で出口を探索するしかなくなった。
しかもその最中にゴブリンに襲われてしまい足を滑らせて地下の奥深くへと落ちてしまうのだった。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。
阿吽
ファンタジー
クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった!
※カクヨムにて先行投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる