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中級冒険者の章

第98 イベント発生

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 ユラユラと流れて行く雲を眺めてボクは思った。このダンジョンというのは一体何なのだろうか……と。

 ネットの掲示板に書かれている事が本当だとしたら、個人が持つ運のパラメータが50以上ある人間が何らかの条件を満たした場合にだけ、この夢の世界へと辿り着く事が出来るらしい。

 ボクの場合は運がズバ抜けて良かった。そして魅力を上げたいという強い気持ちがギルドに導かれたのだと思う。

 運を上げる手段さえあれば、みんなこのダンジョンに挑む事が出来るのだろうか。

「まあ、賢さ6のボクが考えたって分かる訳ないよね~」

「……きゅぴぃ……きゅぴぃ……」

 カチカチな腹筋の上で寝息を立てるウサ吉を優しく撫でた。

 冒険者はダンジョンから得られる恩恵、レベルアップでリアルに適用されるステータスやガチャを求めてダンジョンへ潜る。ボクの場合は持ち帰り金庫で楽してるから必死じゃないけど、他の冒険者は必死だろう。何せゲームやラノベで出て来るような最強の自分TUEEEが味わえるのだ。

 例えばボクのような一般人がステータスを限界まで上げた場合、ムキムキマッチョになったり、オリンピックで活躍したり、そんな大変身を遂げる事が出来る……かもしれない。ボクには無理そうだけど。

 それにガチャには夢がある。変身魔法は一度触れた事のある人に変身できる素敵なスキル、でもボクには賢さが足りないから完全体には成れないのだ。でももし、賢さが高い人が変身魔法を使えたらどうだろう。芸能人と握手したらその人に成れちゃうのだ。それにテレポートだって不正をしようと思えばいくらでも出来る。まさにダンジョンは一攫千金に値する夢の場所だった。

「ボクの冒険の終着点はどこなのかなぁ」

 レベルを限界まで上げて完璧な男を狙うか、それともガチャを引きまくって魔法やスキルを極めるか、もしくはダンジョンのお宝を全部持ち帰ってコンプリートを目指すか……。やりこみっていうのは嫌いじゃないけど、ボクって結構飽きっぽいからなぁ。

 でもまあ、今日の冒険はエルフに会うのが目標かな。幸せの薬をゲットしてシオンちゃんのクエストを達成出来たら最高だ。ちょっとナーバスな考えになっちゃったけど頑張ろうと思う。

「おーいウサ吉~、そろそろ起きてよ~」

「……きゅぴぃ……きゅぴぃ……」

 ユサユサと揺すっても起きない熟睡したウサギちゃん。チロルと同じで野生を忘れてしまったのだろうか……。いや、ボクから湧き出る癒しのオーラがウサ吉を蕩けさせているのだろう。七海さんもボクと居ると安心出来て幸せって良く言ってくれます。

「起きないとモフモフしちゃうぞ。ほーら、もふもふもふ~」

「きゅぅぅ」

 ぷっくりと膨らんだお腹をモフモフすると気持ち良さそうに鳴いている。チロルはボクを見下した発言をする事があるけど、このウサギちゃんはボクに懐いていて可愛いです。きっといつの日か美少女に変身してご奉仕してくれるに違いない。ぐへへ、バニーガールだよ。

「ほらほら、ここがいいんでしょ? ボク知ってるんだから!」

「キュンキュン~」

 このウサ吉がバニーガールに大変身したら凄い事になる予感がするが……そもそもウサ吉はメスなのか? メスだったらウサ吉という名はまずかったんじゃないかと思う。丁度いい事にウサ吉は仰向けの状態で蕩けている。ボクがモフモフしても起きる気配がないのだ。チャンスだと思ったボクは可愛いウサギちゃんの股間の部分を見てみる事にした。ウサ吉にも愛棒さんはあるんですか~?

「おい貴様、そこで何をしている?」

「ぴゃわー! え、エルフー!?」

 背後から知らない人に声を掛けられた。振り向けばショートカットのサラサラ金髪ヘアの似合うエルフが居た。耳が凄く尖ってて胸の膨らみの無い美人さん。でも声の感じからして男のような気がするぞ……。

 こんな場所で人と遭遇するなんて思いもしなかったため、ビクっとしてしまった。ちなみに、ウサ吉さんのお腹の毛をモフモフしただけで性別は不明でした。まあいっか!

「貴様人間か……? ほぉ、貴様は性獣・・様に気に入られたのか。性獣様が人間に懐くなんて初めて聞いたぞ」

 ボクのお腹でリラックスモードなウサ吉を見てそんな事を言って来た。

 スペースコロニーでチロルと遭遇した時みたいに一触即発かと思いきや、このエルフさんは良識のある御方だった。まさに物語に出て来るエルフって感じです。背が高くてイケメン。何故か日本語が通じているけど、ダンジョンの不思議な機能で翻訳されているのかもしれないな。

 それにしても聖獣・・か。物語で良く出て来る精霊とかそんな感じでしょ? もしかしたらこのウサギは超強いのかも。チロルといいウサ吉といい、ボクはテイマーの素質がありそうだ。

「え、えへへ。ボク凄いですか? ウサ吉って聖獣だったのか。凄いんだねウサ吉~」

「キュキュキュー!」

 褒められて嬉しそうにしているウサ吉さん。モンスターに対して敏感だったウサ吉が無警戒という事は、このエルフさんは信用出来るという事だろう。このままエルフの街に連れて行ってもらえるかもしれないし、友好関係を結びたい。幸いな事に、ウサ吉が認めた人間って事で信用されていそうだ。

「ボク、ユウタって言います。えっと、お名前を聞いてもいいですか?」

「ああ、そうだったな。俺の名前はギルバート、ギルバート・カワカブリだ」

 ニヤリと白い歯を見せるイケメンさんだけど、カワカブリという特徴的な名前にニヤニヤが止まらない。こんなにイケメンなのにボクと同じなんて親近感が湧きますね!

「えっと、その、凄い名前ですね。皮被りカワカブリ……」

「ほぉ、ユウタはカワカブリの凄さが分かるのか。カワカブリとは古代エルフ語で偉大なる者という意味だ。そして我がカワカブリ族は古代エルフの中でも歴史ある名門、つまり俺はエリートなのだ」

「へ、へぇ。そうなんですね。す、凄いなぁ」

 エリートな皮被りのギルバートさんか……。『そうなんですね。実はボクもユウタ・皮被りなんですー!』って言ったらどうなるか、賢さが低いボクでも分かるぞ。きっとフルボッコにされてしまうだろう。

 あと愛棒さんの名誉のために言っておきますが、やる気を出したらズル剥けなので誤解の無いようにお願いしますね。

「ところでギルバートさん、ここってどこなんですか?」

「俺の事はギル、もしくは偉大なるカワカブリと呼べ。ここは古代エルフの聖域だ。まさかこんなところに人間が居るなんて思わなかったぞ」

「ぶふっ。せ、聖域ですか。あのあの、無断で入っちゃってすみません……」

 思わず吹き出してしまった。何ですか偉大なるカワカブリって。このイケメンが誇らしげに皮被りっていうと面白いけどね!

 まあ確か皮被りはネガティブなイメージがあるけど、ボクはそう悲観的になる事はないと思う。だって男性の多くはボクと同じように恥ずかしがり屋な愛棒を持っているのだ。それに皮被り同盟に所属している同士にしか味わえない快楽というのがあるって知ってましたか? 余った皮を寄せてローションを流し込まれ、皮と先っぽの間に指を突っ込まれてクチュクチュされる必殺技『ねるねるねるね』は七海さんの得意技です。『ユウ君の敏感な先っぽはこうやって特訓して強くなろうね~』ってクチュクチュされるのだ。ヤバイわよ!

「いや、気にするな。それにユウタは性獣様に導かれたのであろう。性獣様に選ばれた者を罰する事など誰も出来はしない。性獣様は森の恵みを運んで来てくれるありがたい存在、特にエルフはお世話になっているのだ」

「ほっ……安心しました。それにしてもウサ吉は凄いんだね~」

「キュ!」

 ウサ吉が居なかったらここまで来れなかったのは確かだけど、ウサ吉のお陰でエルフと友好的に会話が出来そうだ。

 でもそんな聖域にギルは何をしに来たのだろうか。彼は立派な黒塗りの大弓を担いでいた。狩りの途中だったのか?

「ギルはどうしてここに?」

「ああ、実はあるモノを探していたら何やら気配を感じてここへ来たのだが……ふむ、これは都合がいいかもしれん。ユウタに頼みがある。性獣様の力を貸して頂けるよう交渉してもらえないだろうか?」

「ボクがウサ吉に……?」

「キュ?」

 ギルが真剣な目でボクにそう言って来た。つまりイベント発生ってやつですね。

 どんなお願いなのか分からないけど、ウサ吉はボクの言葉を理解してそうな感じだからいけそうな気がする!

「ああ、俺の妻を倒すために性獣様の力が必要なのだ。欲しいアイテムは二つ、マジカルバイアグーラと感度3000倍チェリーが欲しい!」

「…………んん?」

 真剣な眼差しでそう言ったイケメンに、ボクはツッコミを入れていいのかと真剣に考えてしまうのだった。
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