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中級冒険者の章
第80話 雑用ユウタ
しおりを挟む意気揚々と乗り込んだスペースコロニーの王都。モール街に行こうとタクシーの運ちゃんと交渉したところ、騙されて変なお店に連れて行かれてしまったのです。
しかもバイトしないと無賃乗車で奴隷落ちという怖い事まで言われてしまったボクは、断る事も出来ずに頷くしかなかったのでした。
「あんたの名前は……クソ雑魚ユウタ? ユウタでいいだろ。いいよね?」
「はいっ! ユウタでお願いしますー」
重量級なマダムに連れて行かれた控室のようなところで執事服に着替えさせられた。やっぱりこれからホストクラブで働くのか。どうしてボクの冒険ってこんなのばっかりなんだろう。普通だったらダンジョンでゴブリン倒したりオーク倒したり、最終的にはドラゴンやっつけたりして可愛いヒロインとイチャラブな関係になると思う。それなのにボクはホストクラブでアルバイトですよ。どうしてこうなった……?
「今日は初出勤だからね、とりあえずホールに出て配膳をやって貰うよ。しばらくは見習い期間だけど、しっかりと働けば報酬をやろう。時給1万クレジットだよ」
ホストクラブで働くと言われたので最初からテーブルに着いて女性を喜ばせるのかと思った。でも配膳なら普段のバイトと変わらないし何とかなりそうな気がして来たぞ。それに時給1万クレジットって多い気がする。時給1万円みたいな感じでしょ?
「ボク配膳なら得意です」
「そうかいそうかい。この店に来るのは上流階級のお嬢様ばかりだ。粗相するんじゃないよ」
「はいっ、頑張りますー」
上流階級のお嬢様、つまり七海さんのような女性が来るって事でしょ。実はボク、お家で七海さん相手にお酌とかしてるから失敗する事は無いだろう。
「そうだ、ユウタは冒険者だったね。冒険者には滞在時間があるだろう? あとどれくらい滞在出来るんだい」
「えっと、実は初めてなので分からないんですー」
「なんだい、知らないのかい。心の中で念じるんだよ。ちなみに時間切れで強制的に返された場合、次に来る時は最寄りのセーフティエリアとなる。まあユウタの場合は住民登録されているからね、ここに戻って来れるだろう」
「はえー、すっごい」
ギルマスはこういう事を全く教えてくれなかった。この太っちょなマダムの方が全然マシだよね。有益な情報を得られただけで来た甲斐があった。
『残り時間:4時間35分』
おお、本当にでたー!!
「残り時間は4時間35分でした」
「そうかい。もし将来あんたに客が着いたら必ず残り時間を言うんだよ。もし嘘の時間を教えたり、途中で消えるような事があったら奴隷落ちだからね。アホな事はするんじゃないよ」
「ひぃ、分かりましたー!」
誠実な対応が必要ってやつですね。っていうか奴隷落ちって何ですか? タクシーのオッサンも言ってたけど、悪い事したら奴隷落ちなの?
良く分からないけど頑張ろうと思います。
◇
「おい新入り、85番テーブルに持っていけ。粗相するなよ」
「わ、分かりましたー!」
思った以上に忙しいです。ボクの好きだった格闘家ボビュサップのような黒服さんから指示を受けて配膳しています。アンドロイドなのに飲食をするのかと思ったが、どうやら普通の人間と同じように色々とするらしい。つまりチューしたりしてます。
女性を喜ばせるようにハイテンションなホストもいれば、俺様な感じでメロメロにするホスト、そしてやたらとお酒を飲まされる可哀想なホストまでいるのでした。奥の方ではシャンパンタワーにホスト総出でコールしてる。楽しそうだけど今のボクは単なるバイトであり、ホストじゃないから参加出来ないのです。
「お待たせ致しました」
煌びやかなドレスを着たお姉様と優男っぽいホストがキャッキャウフフしているので、さり気なくドリンクをテーブルに置く。ここで変に色目を使ったりしたらフルボッコされそうだ。ふふ、893なゲームで勉強した甲斐がありましたね。
深々と頭を下げてボビュの元へ戻る。あの黒服さんの名前知らないから心の中でそう呼んでます。
「なかなか良い仕事するじゃないか。よし、次は32番テーブルを片付けて来い」
「はーい!」
忙しいけどこれはいいバイトかもしれない。どうやらこのホストクラブは見女麗しいお姉様ばっかりが来るお店のようだ。今は新入りだけど、そのうちお客が取れるかもしれないな。
でも一つだけ気になる事がある。お店のど真ん中にある豪華な場所、1番テーブルに座る謎のロリっ子だ。ボクがバイトに入った時からずっと一人で座っていて、一人もホストを侍らせていないのである。
お片付けをしながらコッソリと盗み見るが、つまらなそうにグラスを傾けていた。身長はボクより少し高いくらいだろうか、背中に届くサラサラヘアーは照明の光を浴びて銀色に光り輝き、整った顔は他のアンドロイドよりも美しく見えた。体のラインがクッキリと見える赤いドレスがエチエチで、小振りなお胸がツンツンと自己主張しているのは芸術的な美しさだった。うわ、いまチラっと目が合った。
ボクは急いでボビュの所に戻った。
「終わりましたー!」
「よし、いいだろう。少し休憩だ」
「ふぅ、結構ハードな職場ですねぇ」
ボビュは気を遣ってくれる良い上司かもしれない。コッソリとオレンジジュースっぽいものをくれました。ウマウマ~。
どうやら既に2時間が経過しようとしていた。残りの滞在時間は2時間半くらいだ。右手の甲を触ると情報が見れる事をボビュが教えてくれました。
【クソ雑魚ユウタ】
残金:20,000クレジット
滞在時間:2時間31分
ここでの呼び名はユウタだけど、猫ちゃんに付けられた名前までは変更されなかったのでした。しょぼーん。でも自給1万クレジットというのは正しかったようです。ウマウマ。
「あのあの、質問なんですけど、ホストの人達は歩合制って聞きましたがどんな塩梅なんですか?」
「基本的に注文金額の5%がホストの取り分だ。だがな、ホストの一番の稼ぎはアフターだ。これは全てホストの取り分になる。だがここは王都でも一流の店だ。指名を貰えないホストなんてザラだからな、お前も気を落とすなよ」
「はーい」
ボビュは親切に教えてくれる良い奴です。見た目は怖いけどね!
詳しく聞いたところ、この王都は一流のホストクラブがひしめき合う激戦区なのだとか。そんなところで働きたいと憧れる男達が地元で成り上がり、ここ王都を目指して上京してくるらしい。アンドロイドなのに人間と同じような行動で面白いね。
雇ってもらうのも大変だが、入ってからはもっと大変らしいのだ。ここに来る女性達は遊び慣れた歴戦の猛者達、田舎から出て来たばかりのひよっこが敵う相手じゃないのだろう。そう何度もないチャンスをモノにしたエリートだけが生き残れる修羅の国なのだった。まあボクには関係ないけどね!
オレンジジュースをチューチューしていたところ、驚いた顔をしたボビュがボクに話し掛けて来た。
「お、おい新入り。1番テーブルのお客様がお呼びだ。絶対に粗相の無いようにするんだぞ。絶対だぞ!」
「むむっ? 良く分からないけど分かりましたー!」
何やら呼ばれたようです。1番テーブルってあの豪華な席のロリっ子でしょ。もしかしてさっきチラ見していたクレームかもしれない!?
ボクはビクビクとしながら席に向かった。
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