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中級冒険者の章

第78話 クソ雑魚ユウタ

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 赤いゲートをくぐり抜けると森に出た。まるで異世界転移をした主人公のような体験をしたボクだけど、残念ながらチートな能力もないヒモ野郎なのです。森林浴を楽しみながら歩道を進むと未来都市が現れた。つまりここは古代エルフの森じゃなくてスペースコロニーなのかもしれない。だって猫ちゃんロボが冒険者をフルボッコにしてたからね。エルフの森に猫ちゃんロボはいないと思います。まあ見た目は少しデブい茶トラ柄の猫ちゃんだけどね。



 さて、そろそろ現実を見ようと思う。ボクは今ピンチを迎えていた。可愛いのに強い猫ちゃんにロックオンされてしまったのだ!

 お上品にお座りした猫ちゃんが前足で顔をお掃除している仕草が可愛いけど、猫パンチを食らったら内臓破裂で死ぬと思います。ガクガクブルブル……。

「ぼ、ボクは悪い冒険者じゃないよっ……プルプル」

『コイツ、どっかのスライムみたいな事言ってるニャ? さては油断させて攻撃しようとしてるニャン!?』

「ち、違いますよー、ボクはクソ雑魚ユウタです! 抵抗しないので見逃してくださいー」

 もうプライドなんて捨てて服従ポーズしちゃいます。ワンコみたいに仰向けになってお腹見せるやつね。この服従ポーズをすると七海さんが興奮するんだよ。知ってた?

 制限時間いっぱいまで耐えれば生きて帰れるはずだ。帰れるよね……?

『ニャニャ!? それはワンコのポーズかニャ!?』

「ワンワン、わおーん!!」

『コイツ……冒険者の癖にプライドってものがないニャ……』

 何やらワンコがお気に召した様子だ。もっと犬っぽい感じでいきましょうか? でも尻尾はありませんのでご了承ください。でもプライドを捨てた甲斐があったようだ。服従ポーズが功を奏したらしい。やったぜ!

『……ムムム、オミャーのマジックバッグに装備があるニャ? ちょっと装備してみるニャ』

「わかりましたー! ワンワン」

 猫ちゃんに逆らえないっていうのも情けないけど、急いでマジックバッグから鋼鉄の剣と盾を出して装備しました。重いよー。腕がプルプルするのを我慢してカッコ良く構えました。シャキーン!

 キリっとした顔で猫ちゃんにポーズを決めたところ、猫ちゃんの目が青くペカーっと光りボクを照らした。まるでスキャンされてるみたい。SFな世界ですねぇ。すごくふしぎ。

『ニャ、にゃんだってー!?』

「どうしたんですか!?」

 猫型ロボットなのにビックリするんだね。まるでフレーメン反応を起こした猫ちゃんみたいで可愛いです。本当にこの猫ちゃん、ロボットですか?

『オミャーの戦闘力は1ニャ! 武器持っても1ニャんて、こんなに弱い冒険者を見たのは初めてニャ。ニャハハハ!!』

「ぐぬぬ……!」

 猫ちゃんに馬鹿にされたけど反論出来ません。今は落ち着いて指示に従って従順なワンちゃんになるのだ。

『ニャハハハ、こんなに笑ったのは初めてニャ。危うく嬉ションしちゃうところだったニャン』

「も、もういいですか? それでボクは見逃して貰えるんですか?」

『ニャハハ、オミャーは無害だって証明されたニャ』

「じゃ、じゃあ!」

『でもオミャーは冒険者、このスペースコロニーの侵略者ニャン。ダンジョンテーマパークで遊ぶだけならまだしも、王都で暴れ回ったのは許されないニャン。そんな奴の仲間を生かしておくわけにはいかないニャ』

「ガーン……」

 さっきのマッチョ達の仲間と思われてしまったようだ。タイミングが悪かったなぁ。

 でも今ので分かりました。やっぱりここはスペースコロニーだったようだ。でも冒険者がスペースコロニーに来るというのはどういう設定なんだろう。スペースコロニーのお宝を盗みに来る感じなのかな?

 王都っていうのが目の前にある街なのだろうか。それよりもダンジョンテーマパークって何ですか? もしかしてボクはそっちに行くのが正解だったんじゃないのかな……。もう遅いか。

『だけどニャ……オミャーの強さはダンゴムシ以下、このスペースコロニーで最弱の存在ニャン。そんなクソ雑魚ユウタにやられる奴なんてどこにもいないニャ。だから特別にオミャーを見逃してやるニャン』

「ほ、本当ですか!?」

『ニャフフ、いっぱい笑わせて貰ったお礼ニャ』

「ありがとうございますー!!」

 凛々しくお座りする茶トラのお猫様に向かって土下座をした。きっとこの猫ちゃんは神だったのだ!

「あのあのっ、お猫様のお名前をお伺いしても……?」

『ニャフン……ミャー達は名前を持たないニャン。名前があるのは神であるあの御方だけニャン』

 猫ちゃんがしょんぼりと項垂れてしまった。スペースコロニーの神様っていうのが気になるけど今はどうでもいい。

 空気の読めるボクはキュピーンと閃いた。これは良くある命名イベントであると。ラノベとかで良くあるじゃん? 名前を付けてテイムしちゃうやつ。この猫ちゃんをテイムしたら最強になっちゃうな!

 よし、ボクが素敵な名前を付けてあげよう。

「あのっ、お猫様に見逃して頂いたので、そのぉ、良かったら名前を付けさせて頂けませんか?」

『み、ミャーに名前を!?』

 ふふふ、猫ちゃんが目をキラキラさせてボクを見つめた。まるでちゅる~んっていう液状のおやつを前にした猫ちゃんですよ。猫ちゃん可愛いよね!

 さて、この猫ちゃんに相応しい名前を選ぼうと思う。ボクの大好きなゲームに登場するキラーパンサーと同じくらい強い猫ちゃんだからね、『プックル』『ボロンゴ』『チロル』『ゲレゲレ』の4択が正解だろう。

 個人的にはゲレゲレだけど、プックルも捨てがたい。でもそうだな…………。

「よし決めた! チロルって名前はどうですか?」

『チロル……?』

 ヤバい、ミスったか? ポカーンとフレーメン反応をした猫ちゃんみたいになっている。

「えへへ、やっぱりゲレゲレの方がいいですか? じゃあ――」

『チロルでいいニャン!! っていうかゲレゲレって何ニャン? ミャーのような高貴なロボに付ける名前じゃないニャン! ぶっ殺ニャンよ?』

「じょ、冗談ですよぉ~! あははっ……」

 危なかった。ゲレゲレを選んでいたらぶっ殺されていたらしい。プックルはどうだろう、微妙なラインだな。

 猫ちゃんが嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らしている。本当にロボットなのかな?

『よし、特別にオミャーにスペースコロニーの市民権をくれてやるニャ。右手を出すニャン』

「市民権……? えっと、これでいいですか」

 何やら市民権をくれるらしい。右手を猫ちゃんに差し出したところ、猫パンチが飛んで来た。右手の甲にペチンと肉球マークがついた。ふぅ、殺されるのかと思って少しだけちびったのは内緒だよ?

『おっけーニャン。これでオミャーはスペースコロニーの住人ニャン。悪い事さえしなければミャー達に襲われる事は無いニャ。弱っちぃオミャーは大人しく観光でもしてるといいニャン』

「おおおお!? あ、ありがとうございますー!」

 テイムイベントじゃなかったけど素敵なイベントだった。これでもうビクビクと猫ちゃんに怯えて過ごさないで良いって事だ。つまりスペースコロニーを攻略したも同然って事でしょ?

「そうだ、チロルにこれあげる。サイズ合うかな……?」

 ボクは必中の指輪を外して猫ちゃんの前足に通してみた。指じゃないからダメかと思ったけど、サイズ調整のお陰なのかピッタリとハマった。

 一粒の黄色い宝石がキラリと光る綺麗な指輪がカッコイイ。指輪の効果が発揮されるか分からないけど、まあオシャレアイテムって事だね!

「えへへ、これなら一目でチロルって分かるからね!」

『にゃ、ニャーン!! おミャーは良い奴ニャ。冒険者にしておくには勿体無いニャン。アンドロイドになりたくなったらいつでも言うニャンよ? ミャーが推薦してやるニャ!』

「あはは。ボクは人間のままでいいかな」

 アンドロイドになったら愛棒さんが怒りそうだからやめておきます。残念ながらテイムイベントじゃなかったけど、これはこれで良かったのだろう。さて、王都とやらを観光してこようかな!

「じゃあボクは観光に行って来るよ。またね、チロル」

『気を付けて行って来るニャン。悪い事はしちゃダメニャンよ。達者でニャ、クソ雑魚ユウタ』

「ん…………?」

 今、クソ雑魚ユウタって言った?

 はてなマークを浮かべていると猫ちゃんが真顔で言ってきた。

『おミャーの名前はクソ雑魚ユウタ、そう言ってたニャ? だから登録名はクソ雑魚ユウタにしてあるニャン。ミャーの名前と違って変わった名前ニャンね。ニャハハハ!』

「な、なんだってー!?」

 そうしてボクことクソ雑魚ユウタは、スペースコロニーを安全に観光出来るようになったのでした。

 まあクソ雑魚ユウタって言ったってスペースコロニーだけだし、良いよね♪
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