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中級冒険者の章

第76話 気持ち悪いギルマスさん

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 季節は本格的な冬に入り、コートやマフラーなしじゃ出歩くのが厳しくなってしまった。吐く息が白くなり、天気予報を伝えるお姉さんが雪が降るかもと言っていたのが現実味を帯びて来た。

 もうすぐ年末である。大学生であるボクは明日から冬休みに入り、しばらくはゆっくりと過ごせるだろう。つまり今日が今年最後の学校である。

「ユウ君、寒くない?」

「七海さんと一緒だから寒くないですー」

 恋人と腕を組んで歩くのは幸せです。最初は七海さんの胸が当たってアワアワしていたけど、今は少し慣れて来ました。

 七海さんの顔を見れば嬉しそうに微笑んでいた。美女の笑顔とか最高ですよ。チューしてもいいですか?

「もう、そんな事言ってるとホテル連れ込んじゃうぞっ」

「ぴゃわー。今日は必修科目があるからダメですよー!」

 中級冒険者になってから数日が経った。

 ビアンカちゃんにボロ負けした翌朝、何故か発情期に突入してしまった七海さんと爛れた一日を過ごしてしまったは良い思い出です。でもそれからというもの、七海さんに迫られる日が多くなりました。

 女性から求められるのは男として嬉しいけど、もう少し愛棒のレベルを上げないと時魔法だけじゃ太刀打ち出来なくなって来た。七海さんだってエッチレベルが上がってるからね。たぶん騎乗適正Sですよ。

「明日はクリスマスイブだね。絶対に予定入れちゃダメだよ?」

「大丈夫です。姫ちゃんにバイト代わってほしいって言われても断りますよー」

 恋人と過ごす初めてのクリスマス。バイト中にコッソリと姫ちゃんに相談してプレゼントは準備してあります。あんまり高くないネックレスだけど頑張って買いました。

 本当は夜景の綺麗なオシャンティーなホテルでも予約出来れば良かったのだけど、そんなところはとっくの昔に予約が埋まっていました。

 そんな情けないボクを見ても優しく慰めてくれた七海さん、『ディナーもホテルも全部任せて。ユウ君が居てくれるだけで幸せだから』って言われてキスされちゃったのです。まさに理想のヒモ生活という称号に相応しいヒモっぷりでした。来年は頑張ります!



   ◇



「ユウ君いらっしゃい~! ぐへへ、今日も可愛いね~」

「あはは。恵美めぐみさんこんばんはー」

 七海さんとイチャラブエッチをしたボクはギルドに来ました。そして出迎えてくれたのはポニテ茶髪が素敵な合法ロリ巨乳の恵美さんです。

 ギルマスが解雇されて新しく新任した訳じゃないですよ。この恵美さんは酒場のマスターなのでした! バーテンダーのコスチュームが似合う綺麗な女性です。あとおっぱいでっかい。


 あの日、ボクが中級冒険者になった翌日の事である。ギルドに来てギルマスから言われたのだ。今日から酒場を使っていいぞ、と。

 油断していたボクは酒場の店員さんの事を全く考えていなかった。急な事だったけど賢い頭で一生懸命に考えました。短いシンキングタイムをフルに使い、女性スタッフを採用する事にしたのです。

 理想の女性をイメージする時間が無かったから身近な人をイメージです。つまり姫ちゃんみたいに可愛くておっぱいおっきくて、それでもって恥ずかしがり屋さんな女の子がいいなって想像しました。


「今日のお勧めはピンクサキュバスだよ~。ほらこれ、ピーチ味で飲みやすいお酒なの。飲んで飲んで~」

「え、えっとぉ、その、ボクはこれから冒険に行かないとなので……」

「えー、いいじゃんいいじゃん。今日はお姉さんが奢ってあげるから、ね?」

 そして酒場の奥から出て来たのが恵美さんでした。でも全然恥ずかしがり屋さんじゃないですよ? 寧ろ積極的な女性でした。バグか?

 背はボクと同じくらいに小さくて笑顔が素敵な恵美さん、彼女は七海さんと同じようにボクの事をユウ君と呼ぶ。七海さんとお付き合いしていなかったらコロッとやられちゃうくらい可愛いです。

「ちょっとお母様、ユウタ君が困ってるからやめてください」

「えー、いいじゃ~ん。私もユウ君みたいな可愛い子とイチャイチャしたい~! 夏っちゃんだけズルいぞー」

「私はイチャイチャしてません。それにユウタ君はビアンカ様のモノです。怒られても知りませんよ?」

「ぐぬぬ……」

 実はこの恵美さんは夏子さんのお母さんなのだそうです。ピチピチでロリロリな恵美さんが夏子さんのお母さんですよ? バグってるね!

 どうやらボクはとんでもない人を召喚してしまったらしい。でも可愛いから問題ありませんね。

 微笑ましい親子のイチャイチャを抜けて受付に来ました。今日のギルマスさんは機嫌が良さそうですねぇ。良い事でもあったのかな?

「おう来たか。今日は赤いゲートに行ける日だったな。まあお前のステータスじゃ厳しいかもしれないが、上手くいくかもしれん。やってみなければ分からないからな、頑張れよ! おっと……そうだった、俺の装備を貸してやろう」

「え゛っ、いいんですか……?」

 気味が悪いくらいに上機嫌なギルマスさんは初めだ。どうしたのだろうか。

 中級冒険者になってから1週間が経った今日、遂に2回目の赤いゲートに突入です。前回は初回ボーナスで行き先を選べたから、今日はどこに飛ばされるか分かりません。

 ギルマスさんの言う通り、サキュバスの館以外に飛ばされたら即死するだろう。なので観光気分でチャレンジしたいと思います。まあボクの運ならビアンカちゃんルートだと思いますけどね!

「ああ、これを貸してやろう。安心しろ、死んで失っても構わない。お前が頑張れば俺の評価だって上がるからな。ガハハハッ!」

「あ、はい……」

 やっぱりおかしいぞ。もしかして恵美さんが来たからアピールしているのか? でも恵美さんって人妻さんですよ?

 そんなボクの視線を感じたであろうギルマスが理由を教えてくれた。

「実はな、昨日サキュバスの館に行って来たんだ。それでな……何とサキュバスクイーンに相手をしてもらったんだぜ!」

「おおおおおぉぉぉ!?」

 サキュバスクイーンは5人いるって聞いた事がある。ビアンカちゃんはボク専用って言っていたから残りの4人の誰かだろう。

 ギルマスのエッチとか興味ないけど、サキュバスクイーンには興味あります。大丈夫、今日はビアンカちゃん居ませんのでお咎めなしです。

「知りたいか?」

「知りたいですー!」

「そうか、知りたいのか。ふふっ」

「もう、焦らさないで教えてくださいよー! はよはよっ」

 こいつ調子乗ってますね。次に焦らしたらグーで殴ります。右手をギュッと握って力を入れた。

「サキュバスクイーンのテロメア様が相手をして下さったのだ。きっと俺はあの御方に逢うために生まれて来たのだろう……」

 マッチョがだらしない顔をしている。そんなに凄いエッチをしたのか!? ぐぬぬ……。

「テロメア様ですか。ボクはビアンカちゃん以外の人は知らないのですが、どんな御方なんですか?」

 これはちょっとした好奇心です。これは浮気じゃないので許して下さい。ほら、友達に彼女が出来たって聞いたら知りたくなるじゃん? あんな感じ!

「テロメア様はな、とても慈悲深い御方なんだ。俺が初めてサキュバスの館に行った時、残虐非道なビアンカにボロボロにされた事を話したんだ。そうしたらな、なんとテロメア様は涙を流して悲しんでくれたのだ!!」

「はえー、すっごい」

 ギルマスの不幸話を悲しむなんて相当な変わり者な気がする。ビアンカちゃんにどんな人なのか聞きたいけど、サキュバスに対しては異常なまでに嫉妬深いから無理だろう。

「俺の心と体はテロメア様に癒された。こう、魂が抜かれるような凄い快感だったんだ。お前には分からないだろうけど、アレを味わったらもう他には要らないと思える快感だぞ」

「ふむふむ」

 魂が抜かれる……? それってヤバイんじゃないの?

 良く見たら恍惚な笑みを浮かべるギルマスの頬がゲッソリとしているような……。てっきり激しいエチエチバトルを繰り広げたからかと思ったけど、何か大切なものが失われていませんか?

「それでな、制限時間いっぱいまで過ごした後にこう言って下さった。『可哀想な君にはプレゼントをあげましょう。これで死ぬまで愛してあげる……』ってな。ステータス更新をして驚いた。テロメア様の寵愛を頂いていたのだ!!」

「わーお」

 あれでしょ、サキュバスの館に行くと顔パスでテロメア様とエッチ出来る称号。ボクはランクアップして伴侶だけどね!

 前にビアンカちゃんから聞いたんだけど、加護っていうのもあるらしい。加護は普通のサキュバスが与える称号でお気に入りの子をマークするような感じらしいよ。

「よし、これを持って頑張って来い。お前が活躍すれば俺の株も上がる。そうすればテロメア様も褒めてくれるだろうしな! ガハハハッ」

「あざーっす」

 何やら装備入りのマジックバッグを受け取りました。ふむ、鋼鉄の剣と鋼鉄の盾、それに必中の指輪がある。あとマッキュね。

 さて、赤いゲートがどこに繋がってるか知らないけど頑張って来よう。

 サキュバスの館に行くという目標は達成したけれど、シオンちゃんのクエストを達成しないといけないのだ。目指すは幸せの薬!

 そうしてボクは、笑顔がキモいギルマスに見送られて赤いゲートに飛び込んだのだった。
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