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初級冒険者の章
第46話 七海ママ
しおりを挟む彼女が出来て幸せいっぱいなボクに降りかかるキスの嵐、おやすみなさいのキスにおはようのディープキスをされて忘れてたけど、ダンジョンから金庫を持ち帰っていたのだった。人生初チュッチュの連続で忘れていましたよ。
七海さんが金庫をツンツンしながらボクに『これなーに?』って感じで可愛らしく首を傾げているのでした。
マズい、こんな重い物を病人が寝てる間に持って来るヤツなんているはずがない。『寝てる間にダンジョンから持ち帰ったんですー!』なんて言ったところで頭を疑われて検査されちゃう。そんな事になったら賢さが6しか無いってバレちゃうよ!
「えとえと、あのぉ、それは――」
ボクが適当に言い訳を言おうとした時、救いの神が現れた! コンコンってドアがノックされて一人の女性が入って来たのです。
「失礼します。あら、取り込み中だったかしら?」
「お母様! 予定よりも早いですね。紫苑様は?」
「急用が出来て来れなくなってしまったので私だけ来ました。ユウタさん、この度は娘を助けて頂いて本当にありがとうございました」
「い、いえいえ! 頭を上げてくださいー!」
長い金髪を軽く巻いている綺麗な女性は天王寺玲子さんというらしい。本当に七海さんのお母さんですか!? 二人並んで座っているとお姉さんにしか見えないんだけど……。
ブラウスにタイトスカートという出来るOLさんコスチュームが素敵なお姉さんですよ。タイトスカートが作り出す魅惑のデルタゾーンに突入したくなる美しさです。
寝てる状態のボクは合法的にチラ見しちゃうのでした。ぐへへ。
「ユウ君、どこ見てるのかな?」
「はわわわわ、どこも見てないですー!」
七海さんの笑ってるのに笑ってない笑顔が怖かったです。彼女の前でお母さんをチラチラ見ちゃダメだよね。ユウタ反省。
もしかして七海さんってちょっとヤンデレチックというか独占欲が強めなお姉さんなのかもしれない。もしかしてボク、エッチの時に縛られちゃう!?
「七海の言っていた通り可愛い子ですわね。それで二人はどんな話をしていたのかしら?」
「そうでした。ねぇユウ君、この金庫……何かな?」
せっかく金庫から話題を逸らしたのに七海さんの追求が始まってしまった。もしかして金庫の存在を知っているのか!?
ちょっとヤンデレチックな視線にブルブルと震えてしまう。でも七海さん可愛いです。しゅき♡
「彼女である私にも言えない事なの……かな?」
「ち、違うんですー! えっと、信じて貰えないかもしれませんけど聞いて下さい。ボクは毎晩――」
七海さんの悲しそうな顔を見た瞬間、ボクは夢の世界でダンジョンを冒険している事を話した。一週間くらい前から毎晩夢の世界でダンジョンアタックをしている事、夢の世界でガチャを引ける事を……。
一応ネットの掲示板についても伝えました。
「不思議なダンジョン? ガチャ?」
「お母様、それはですね――」
どうやら七海さんのお母さんはゲームとか全くやらない人らしい。七海さんと一緒にゲームの知識を伝えました。キョトンとする七海ママが可愛かったです。
「それでですね、掲示板とかに情報が無いのでボクだけの特別なのかもしれませんが、ダンジョンでこの金庫を拾ってアイテムを入れると現実世界にアイテムを持って帰れるんですー」
「…………これが例の。情報は正しかったという事ですわね…………」
「えっと、七海さんのお母さん?」
金庫の事を説明したら七海ママが小声で何かを呟いた。良く聞こえなかったけど……。
それより彼女のお母さんって呼び名に困るよね。
「ゴホン、何でもありませんわ。それよりもユウタさん、私の事はお義母さん、もしくは玲子さんと呼んで下さいね」
「ええええ!?」
まさかのお義母さん呼びだった。付き合い始めたばっかりだけど、身を挺して暴漢から守った事で好感度が天元突破ですか? まあ低いより良いけどね!
「わ、分かりました。えっと、お義母さん」
「ふふ、何ですかユウタさん?」
「えへへ、呼んでみただけですー!」
こんな若く見える女性に対してお義母さんと呼ぶのは抵抗があるけど、ちょっと特殊なプレイをしているみたいで楽しかった。ママ活みたいな?
「ユウ君、お母さんにデレデレしちゃダメだよ?」
「あ、はい……」
ヤバイ、激おこ状態のビアンカちゃんと同じような鋭い視線です。
流れを変えるためにも金庫を開けちゃおう。
「さ、さ~て、金庫を開けますね~」
開けようと思ったけどポジションが悪かった。ベッドに寝た状態だと金庫にアクセス出来ないのである。
「ユウ君、私が手伝ってあげる」
そんなボクを見かねた七海さんが手伝いを申し出てくれた。でも七海さんでも金庫開けられるのかな?
「すみません、お願いしてもいいですか? パスワードは……」
マズい、二人の前であの07214545を伝えるのは危険な気がして来た。
「パスワードは?」
「あのあの、えっとぉ」
「どうしたのユウ君、もしかして私に言えないのかな……?」
「そそそ、そんな事ないですー。じゃあ順番に言いますよ。まずは0――」
七海さんの悲しむ顔には勝てませんでした。こうなったらわざと時間をずらしてあのワードを悟られないようにしよう。
ふふ、賢さが6しかないボクでも知恵を絞れば何とかなるんですよー!
「――5ですー!」
「おなにーしこしこ? もう、ユウ君ったらケガが治るまでの我慢だよ?」
「ひーん、ボクが設定したんじゃないんですぅ」
やっぱり賢さが6しかないボクの作戦なんて役に立たなかった。
きっとボクの顔は真っ赤になっている事だろう。っていうか彼女のお母さんにまで変な目で見られてしまった。ちなみに、玲子さんは生暖かい目でボクを見ていたのでした。
「きゃっ!」
七海さんが最後のパスワードを入力した瞬間、金庫が一瞬光って霧のように消えてしまった。そして残されたのは明るい緑色の液体が入ったボトルです。そうだ、これを持って帰って来たんだった。
「これが夢の世界で持ち帰ったアイテム…………にわかには信じられませんが、こうして目の当たりにすると信じない訳にはいきませんわね」
玲子さんがポーションボトルを手に取ってしげしげと眺めている。まあこの世界に開けたら霧のように消える金庫なんて存在しないからね。ファンタジーですよ。
「ユウ君、これは何を持って帰って来たの?」
「それはダンジョンで拾った『上級回復薬』っていうアイテムですー! 名前の通りHPを回復するアイテムで、それは100回復する優れものなんです」
「上級回復薬……」
昨日は金庫にこれを仕込んだのです。だってずっと入院してるとお金とか掛かるし、学校もお休みしないとダメだからね。バイトだってお休みだからさっさと傷を治したいのだ。これがあればケガも治るかなーっていう安易な考えでした。
ポーションボトルに興味があるのか、玲子さんがボトルから目を離さずに色々と質問をしてきた。
「これを現実世界で使った事は?」
「ないですー」
「これの使い方は?」
「えっと、ダンジョンではゴクゴクと飲んでました。メロンソーダ味で美味しいですよー」
「この量を全て服用しないと効果は得られないのかしら?」
「あー、どうなんでしょうか。ダンジョンだと小分けに飲めない感じで、途中で口を離すと霧のように消えちゃうんですよー」
「では最後に、この上級回復薬は貴重なアイテムですか?」
「全然レアじゃないですよー。ダンジョンで良く拾えます」
いっぱい質問されてしまいました。そう言えばここって七海さんの実家である病院だったね。ファンタジーな回復薬とかに興味津々なのだろう。
もう二人にはバレバレだし、二人に飲むところを見てもらおうかな。
「じゃあ試しに一口だけ飲んでみましょうか。えっと、そこのグラスに少し入れて貰っていいですか?」
七海さんのお母さんに媚びを売るチャンスと思ったボクは、自らが実験台になる事を提案してみた。劇薬ならまだしも、上級回復薬を飲んでヤバイ事になる訳がないからね。
でもこの時ボクは理解していなかった。ファンタジーな回復薬のヤバさという奴を……。
「えへへ、ちょっと恥ずかしいですけど服脱ぎますね。どんな感じで傷が回復するのか見てて下さいー! あ、包帯取って貰っていいですか?」
「はぁはぁ…………ユウ君の乳首可愛い」
ふへへ、彼女に裸を披露するチャンスと考えたボクは自分から提案してみました。でも包帯の下のガーゼを取ると生々しい傷跡が出て来て気分がダウンしちゃいました。こういうスプラッターなやつダメなんですよ。
七海さんはボクのピンク色の突起に大興奮してるけど、さっさと薬を飲んじゃおう。
「じゃあ飲みますー!」
ボトルの十分の一くらいの量だろうか、一口ゴクリと飲み込んだ。甘いメロンソーダの風味が鼻を抜けたと思ったら、傷口がシュワシュワと泡立ち始めた。
「はわわわわ、何かシュワシュワしてるー!?」
「ユウ君大丈夫? 痛くない?」
「えっと、痛みとか全然ないです。でもちょっとシュワシュワでくすぐったいかな?」
そして1分くらいシュワシュワが続いたと思ったら自然と泡が消えた。そして傷も綺麗サッパリ消え去り、ボクのプリティな柔肌が出て来たのでした!
さすが上級回復薬パイセンやー!
「やったー! 見て下さい、もう全然痛くないですよー。傷跡も残ってないし凄い効果でしたねー。お、ボトルは消えないんですね。親切設計だなー」
「ユウ君……」
賢さが6しかないボクは理解出来ていなかった。ナイフで刺された腹の穴が即座に回復するこの上級回復薬のヤバさというものを……。
「七海ちゃん、この事は他言無用ですわ。それとユウタさん、申し訳ないけど精密検査させて貰えるかしら? あとこの薬の残りを売って欲しいの。とりあえず1000万でいいかしら?」
ボクはポカーンと口を開けて放心してしまうのでした。
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