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ひよっこ冒険者の章
第24話 空気の読めないユウタ
しおりを挟むギルマスの思わぬ体験談を聞いてしまった。っていうかサキュバスの館って簡単に行けないんだね。掲示板に出ていた兄貴は初回特典で選んだって事か。
しかもギルマスはビアンカちゃんに選ばれたというよりも、空腹な金髪ポニテサキュバスに見せつけるためだけに選ばれた生贄って訳だ。しかもギルドに残された唯一の記録って事は、ビアンカちゃんは選り好みが激しいってことかも。
今更だけど、そんなビアンカちゃんに選ばれたボクはヤバいのではないだろうか。だってサキュバスの館に入ったらビアンカちゃん決定なんでしょ? ボクはノーマルだからギルマスと同じプレイは無理です。よし、諦めよう!
「まあそういう訳でサキュバスの館に行くなら覚悟しておけ。忠告はしたからな」
「了解ですー! 今の話を聞いたらサキュバスの館は諦めようと思います。ボクも金髪ポニテ……」
ボクも金髪ポニテサキュバスの方が良いです、そう言おうとした瞬間、ギルドの空気が凍った。まるで死神カードを使った時のようなガクガクブルブルと震える冷気を感じたのだ。
「あれあれ~、おにーちゃんもしかしてビアンカちゃんよりも金髪ポニテサキュバスが良いって言おうとしたのかな~?」
「ぴゃわー!? どどど、どうしてここにビアンカちゃんがー!?」
「おいおい、マジかよ……」
ギルドにある赤いゲートがピカーっと光り、中からゴスロリドレスを着たビアンカちゃんが出て来た。
ダンジョンで鬼ごっこをして遊んだビアンカちゃんとは全然違う、恐ろしいオーラを感じるのだった。まるで激おこ状態な感じね。
ギルマスが驚いているという事はこれはとても珍しい現象なのだろう。っていうかモンスターがダンジョンから出て来るなんて有り得るのか?
驚愕するボクに向かってゆっくりと歩いてくるビアンカちゃん。その姿は凛々しくて、まさにクイーンと呼ぶに相応しい立ち振る舞いだった。
ギルドでモンスターに殺されたらどうなるのかな? 夢の中だからセーフ? それとも現実世界でも死んじゃう? 想像したら怖くなって自然と足が後ろに動いた。
「どうしておにーちゃん逃げるの~? ビアンカちゃんがせっかく会いに来てあげたんだから、ギューッと抱き締めてくれないと失礼じゃないかな~?」
「え、えとえと、ボクいま汗臭いからビアンカちゃんに不快な思いをさせちゃうかなーって、思いました!」
「あはっ、何それおもしろ~い。やっぱりおにーちゃんは可愛くて最高だね~。うひひ、食べちゃいたい♡」
ダンジョンで遊んだ時はメスガキムーブだったのに、今はヤンデレさんのような怖さがある。どうやらユウタの大冒険も今日が最終回のようです。今までありがとうございましたっ!
ああ、七海さんごめんよ。ボクは告白する事が出来そうにないです。
ガクガクブルブルと震えていたらビアンカちゃんが目の前に居た。そんな怯えるボクを見てニヤリと笑った。
「…………っ!?」
気が付いたらビアンカちゃんに抱き締められていた。彼女の甘い香りがボクの脳を犯す。血液が沸騰してしまうような興奮を与える禁断のフェロモンが毒となってボクの体を蝕んだ。
「おにーちゃんはビアンカちゃんのモノだからね? このいい香りのする髪も柔らかい唇も肌も唾液もぜーんぶビアンカちゃんのもの。もちろんここもだよ?」
「っ!?」
ビアンカちゃんの柔らかい手が愛棒をムニュっと掴んだ。ヤバい、ボク食べられちゃう!?
「人間の小娘ならまだ許してあげるけど、サキュバスはダメ。他のサキュバスを想像するのも許してあげない…………分かった?」
「う、うんっ! ボクはビアンカちゃん推しだから安心して欲しい! 何て言ってもボク、黒髪ロングな女の子が大好物なんだよね! このビアンカちゃんの黒髪、綺麗で良い匂いがする~」
賢さが6しかないボクでも理解出来た。ここで選択肢を間違ったらバッドエンドに一直線であるという事が。
女の子とハグしたのは初めてだけど、可愛いビアンカちゃんの黒髪をナデナデしてクンカクンカタイムを始めた。ああ、何て良い匂いなのだろうか。甘い桃を最高に甘くしたようなダメになる香りだ。クンカクンカ。
「あはっ、おにーちゃん可愛いね。良い子にしてるおにーちゃんにはご褒美をあげちゃおうかな~」
「ご褒美!?」
もしかしてボク、ここで童貞卒業ですか? いや、ボクの童貞は七海さんに捧げる予定なので我慢だ。
そう思ったら首筋に強烈な痛みを感じた。
「痛っ! ちょ、ビアンカちゃん!?」
「チューっ♡ よし出来た。これで悪い虫が寄って来ないね」
どうやら首筋にキスマークを付けられてしまったようだ。でも夢の世界だから大丈夫だろう。ちょっと痛かったけど役得ってやつだな。
「さて、名残惜しいけど戻らないと。早く来てくれないとまた来ちゃうからね? じゃあおにーちゃん、がんばってね~」
ボクから離れたビアンカちゃんがゆっくりと赤いゲートに歩いて行く。モデル歩きをする彼女の後ろ姿は妖艶で、思わず後ろから抱き締めたくなってしまった。
だからだろうか、思わず呼び止めてしまったのだ。
「あっ、待ってビアンカちゃん!」
「ん? どうしたのおにーちゃん?」
キョトンとしたビアンカちゃんが振り返った。ヤバイ、勢いで呼び止めてしまったが特に言う事が無かった。『ごめん、なんでもないでーす』って言ったら嫌われそうだ。
あざといかもしれないけど、ここは一つビアンカちゃんの好感度を上げておこう。それにちょっとヤンデレチックなビアンカちゃんも可愛いと思ってしまったのだ。
「あのね、ボクはポニテが大好きなんだ! チラッと見えるウナジがセクシーで興奮する。だからその、今度会う時にポニテを見せてくれないかな?」
「…………」
ビアンカちゃんがポカーンと口を開けて驚いていた。ボクはそんな驚くような事を言っただろうか?
「あははっ、良いよおにーちゃん。ビアンカちゃんがおにーちゃんの好きな格好してあげる。うふふ、あー楽しい、そんな事言われたの生まれて初めて。やっぱりおにーちゃんは最高だね♪」
「えへへ、実はミニスカニーソも大好物なんです」
「へぇ~、そうなんだ~。期待して待っててね♪」
どうやらボクの気持ちが伝わったようだ。黒髪ロングなポニテにセーラー服でミニスカニーソとか最強だと思います。そうだよね?
嬉しそうにゲートへ向かうビアンカちゃんのプルンプルンなお尻を眺めた。ああ、さすがサキュバスクイーンだ。今のボクが挑んでも即死だろう。ゴクリ……。
そんなボクの視線を感じたビアンカちゃんが振り返り、ニヤリと笑いながら呟いた。
「おにーちゃんを見てるとね……ビアンカちゃんのお腹がキュンキュンしちゃうの。そこの筋肉の人と違ってちゃ~んと最後まで愛してあげるから安心してね♡」
「う、うんっ!!」
下腹部に手を当ててウットリする彼女は、まさにサキュバスクイーンと呼ぶに相応しいエロさだった。
◇
クイーンが去ったギルドに平和が戻って来た。良く見たら夏子さんはお留守なようだ。夏子さんが居なかったからギルマスは正直に過去話をしてくれたのかもしれない。
あんな話を夏子さんの前で話せないよね。
「いやー、ビックリしましたね~。こんな事ってあるんですね。でもビアンカちゃん可愛かったですねー」
「…………れ」
ギルマスが下を向いてプルプルと震えていた。
そうか、ギルマスと言えども死神カードのような恐怖演出を受けてビビッてしまったのだろう。分かるよ、ボクも少しちびったからね。これ、内緒でお願いしますよ?
「っていうかギルマスの話と全然違うじゃないですか。あんなに可愛い女の子に残虐非道なサキュバスクイーンとか酷いあだ名まで付けて、そんなんだから女の子にモテテないんですよ? それにビアンカちゃんはきっとボクを甘やかしてくれるエチエチ美少女です。うへへ、呼べば来てくれるのかな~?」
「…………えれ」
ダメだ、ギルマスに話しを振っても返事がない。何かを小声で繰り返している。これは相当ダメージを受けてしまったらしい。ボクは元気ですけどね。
はぁ、所詮ギルマスと言えどもヤンデレ風味なビアンカちゃんにはオシッコちびっちゃうのか。しょうがない、ここは大人であるボクが元気付けてあげましょう。本当はこんなゴリゴリマッチョなギルマスになんてやりたくないけど、斬鉄剣パイセンを貸してくれたお礼だ。ゴホン……。
「お~ヨチヨチ、怖かったでちゅね~。もう怖いおねーさんナイナイしたからダイジョブでちゅよ~」
「うるせー!!! 何がヨチヨチだコノヤロー!!! お前に俺の気持ちが分かるか? 風俗で相手にされなかった女が目の前で違う男に媚びを売ってるこの状況がお前に分かるか!? あークソっ、もう帰れっ!! 昇級特典で無料ガチャ引かせてやるつもりだったが無しだ!! 今日はもう帰れー!!!」
「ひーん、ごめんなさいー!!!」
まさかビアンカちゃんにフラれた事を根に持っていたなんて……。小さい男だなギルマス。きっとアソコもボクと違って小さいのだろう。
言い返したいけど腕力では勝てないので急いでギルドのドアをくぐり抜けた。戦略的撤退だー!!
応援ありがとうございます!
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