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ひよっこ冒険者の章

第21話 10階きたよー!

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「おりゃー!」

『オオオオォォォ……』

「ふふふ、今宵の斬鉄剣は切れ味が違うな」

 エイリアン型のモンスターをシュバババっと華麗にみじん切りにしてやりました。実際にはただ斬鉄剣パイセンを振り下ろしているだけだけど、気分的にはみじん切りです。

 順調に進み7階まで来れました。途中でモンスターハウスに遭遇したけど回復薬を使ってゴリ押しです。今までの冒険が何だったのだろうかというイージーモードで進んでいるのも全部支給品のお陰です。途中で武器強化カードを2枚も拾ったので更に強くなった斬鉄剣パイセン、マジつおい。

「食糧を気にしないで良いのは凄く楽ちんだ。でもアイツがなぁ……」

『プルンプルン~♪』

「うげぇ、キモイ」

 まるでストーカーのようにボクに付き纏うキノコ型のモンスターです。ギルマスの話では10階までスタメンらしい。

 エッチな液体を吸いまくったかのような浅黒い肌、大きく開いた傘にはブツブツが付着しており、まさに百戦錬磨な歴戦の勇士を思わせるキノコです。ちなみに、ボクの童貞キノコはピンク色でちょっと恥ずかしがり屋だけど臨戦態勢になったら負けないくらい立派です。本当だよ?

 愛棒の見た目はボクの勝ちだけどコイツの恐ろしいところは別にある。竿をブルブル震わせてた後に傘の先端からネバネバな液体をぶちまけて来るのだ。幸いにもぶちまけられた液体は直ぐに霧になって消えるけど、その攻撃を食らうと『ちから』が1下がってボクの気力がだだ下がりなのであった。

 ちなみに、今のところ1回しか食らっていないけど心が折れそうになった。ガクガクブルブル。

 コイツを相手にする場合、遠距離から矢を放ったり炎の杖で魔法攻撃するのが効果的である。弓矢の扱いなんてサッパリなボクだけど、そこは親切設計なダンジョンが手厚くサポートです。矢を持って攻撃の意思を示すと魔法の弓みたいなのが出て来て初心者のボクでも真っ直ぐ飛ぶのだ。

 でもコイツに矢を射るとボクの愛棒がシュンとしてしまうのだった。炎で炙った時もシュンとしてしまう。ボクの愛棒は繊細なのでした。

「だがしかし、今のボクは秘密兵器があるのだ。じゃじゃ~ん、封印の杖~♪」

 ボクの大好きな作品であるハリーなポッターに出て来るシャープなデザインの杖です。どうやら全ての杖はデザインがハリーのポッターを参考にしているようなのである。版権とかどうなってるのか知りません。見分け方は持ち手の所に漢字で刻印されているからそれで判断します。

 そしてこの『封印』と刻まれた杖は名前の通り敵の特技を使えなくする優れもの。ボクに使ったらどうなるのか気になる……。もしかして賢さ5が封印されて天才的な頭脳になるかも!?

 さて、キノコには申し訳ないけど封印させて貰おう。アバダケダブラ~♪

『プルン!?』

「残念だったなキノコ・・・・・・死の呪いだ」

『プルンプルン!?』

 キノコの竿の部分に邪悪な黒い鎖が巻き付いた。ギュッと竿に食い込む様を見るに、どうやらかなり強い力で縛られているらしい。そしてボクの愛棒もシュンとしてしまうのだった。もしあの日、ボクが舞子さんルートに進んでいたらこうなっていたのは愛棒だったかもしれない……。

 哀れなキノコちゃんが身を震わせて特技を使おうと頑張っているが、黒い鎖に邪魔されてき止められている。

『プルンー!? プルンー!?』

 何故だろう、ボクが凄く悪い事をしている気分になってしまう。愛棒からも早く楽にしてやれという気持ちが伝わって来る。

 可哀想だから楽にしてあげよう。

「ごめんよキノコちゃん。うりゃー!」

『プルゥ……』

「またつまらぬものを斬ってしまった……」

 あれ、ドロップアイテムだ。どれどれ……萎びたマッキュポテトですか。これはボクへの当て付けかもしれない。




 そんな感じで今のところ順調です。装備も整ってアイテムにも余裕があるのでどんどん敵を倒して進みました。

 おじいちゃんのようなモンスターはいつも寝てるから放置して進み、遠くから弓を放って来る『先行者』という刻印があるロボットを倒し、攻撃すると分裂するエイリアンを倒した。エイリアンは映画で出て来るようなアレでした。頭がデッカイやつ。攻撃する時に口が開いて小さい口が出て来て恐怖なのだ。

 あと怖いのは大型犬サイズの蜂が太い針を勢い良く突き刺して来る。バリアシールドでもかなりダメージを食らう危険な敵だ。

 そして更に恐ろしいのがハロウィンコスプレJDのエロさとロリな魔女っ子です。JDは包帯で大事なところを隠しているけど薄っすらと見えちゃってます。最初は女性に危害を加えるのは心苦しいと思ったけど、ラブリーポーションを飲んでいないからか大丈夫でした。

『光の使者、きゅあホワイト!』

「あっ、ロリっ子来たー!」

 魔女っ子というモンスターは日曜日の朝にやってるプリティなアニメに出て来るような美少女だった。登場するとポーズを取って決めセリフを言ってくれるのです。ギルマスの話では総勢77人いるらしく、今のところ遭遇した中では『ホワイト』ちゃんが好きです。黒髪ロングをポニテにした清楚系な魔女っ子でした。

『いやああぁぁぁあぁ!』

「うぅ……罪悪感が凄い」

 遠距離攻撃をしてくるので斜め移動で近づき、プリティな衣装を装備した女の子を目で楽しんだ後、斬鉄剣パイセンのお力を借りました。心苦しいけど前へ進むのだ。

 そしてこの魔女っ子ちゃん達は組み合わせで特殊イベントが起こるらしく、全てコンプリートするにはまだまだ時間が掛かりそうです。

『くっ……わたしたちはぜったい負けないっ!!』

 魔女っ子の『ブラック』と『ホワイト』を同時に緊縛カードで縛ったらこんなセリフを言いました。泥酔した日のオートプレイで負けたのもこの魔女っ子だったな……。特殊イベントだったのかな?

ホワイトちゃんのせいで眠りの杖と緊縛カードが無くなっちゃったのは秘密です。



   ◇



「遂に来たぞ……10階!! って、モンスターハウス!?」

 レベルも13まで上がり、ギルマスから聞いていた階層数+1のレベル目標を大きく超えた。そして10階に下りたボクを待ち構えていたのはフロア全体が一つの部屋になったモンスターハウスだった。

 今までと規模の違うモンスターハウスに焦ってしまう。通路が無いから一匹づつ処理する事が出来ないのだ。

「落ち着け、魔女っ子が多いけど落ち着くんだ。ハロウィンコスプレJDも居るけど落ち着け……」

 言葉に出して自分を落ち着かせる。周囲には魔女っ子がボクを倒そうと狙って居た。何故かホワイトちゃんの目が怖いのだ。目のハイライトが消えてます。まるで酷い目にあったかのような……ボクは無罪です。

 マジックバッグを覗いて作戦を考える。


【マジックバッグ】
・斬鉄剣+6(装備中)
・バリアシステム+5(装備中)
・満腹の指輪(装備中)
・死神カード
・炎の杖(2)
・鈍足の杖(1)
・分裂の杖(0)
・地図カード
・回復薬
・回復薬
・回復薬
・上級回復薬
・目薬


「ヤバい、魔女っ子で遊び過ぎた」

 眠りの杖と緊縛カードを使ったのはボクのミスだ。でも許して欲しい、ホワイトほのかちゃんがボクを誘惑して来たのだ。声も可愛くて最高でした。らぶ♡

 さて、そろそろ本気を出そう。ここまで温存して来たけど今こそ使いどころだろう。

「スペルカードオープン、死神先生おなしゃす!」

 ボクはとっておきの秘密のカードを掲げ、祈る様に呪文を唱えた。


【死神カード】
フロア内の全ての敵を倒してくれる凄いやつ。
但しボスには効かない。


「っ!?」

 それを使った瞬間、ダンジョンが闇に包まれた。この親切設計なダンジョンは地上と同じようにとても明るいのだ。壁からLED照明で照らされているかのような明るさでボクの道を示してくれる。それが無くなった。

 暑くもなく寒くもない、そんな春を思わせる丁度良い気温なダンジョンでボクは底冷えするような寒気を覚えた。手足がかじかむように震え、吐く息が白くなっている。

『いやああぁぁぁあぁ!』

「ぴぃ!?」

 遠くで魔女っ子の悲鳴が聞こえた。今の声は『アクア』ちゃんだろうか? 水色の長い髪が素敵な美女でボクのお気に入りです。そんなアクアちゃんの悲鳴が聞こえた後、マップから赤い丸が一個消えた……。

 そしてどんどん悲鳴が増えて行く。キノコの『プルゥ!?』という悲鳴、ハロウィンコスプレJDの『ああぁぁあんっ』という嬌声、そして聞いたことのない魔女っ子の悲鳴がダンジョンをこだまする。

 ボクはガタガタと震えながらマップを見ている事しか出来なかった。ナニカの悲鳴が聞こえる度に消えて行く赤い丸を……。

 そして遂に全ての赤い丸が消えた。

「お、終わった……?」

 ボクが安堵した途端、徐々に部屋の明かりが広がって行く。底冷えするような寒気もなくなり、ホッと息を吐くと少しだけ落ち着いた。

 だだっ広いフロアにボクが一人取り残されている。敵を倒したという安堵よりも、死神カードの恐ろしさにちびってしまいそうだったのだ。ギルマスめ、何て恐ろしいカードをボクに渡したんだ!!

「はぁ、とりあえず探索しよう。落とし穴とか怖いし、目薬使っておこう」

 クールタイプのひんやりとした目薬がボクを冷静にしてくれる。危ない、目の前に地雷の罠があった。この地雷を踏むとHPが半分になり、周囲のアイテムが無くなってしまうのだ。

 そして地図を見て近場のアイテムを回収して行く。おっ、持ち帰り金庫ゲット! むむっ、あれは……?

「これが初級冒険者カード……!!」

 赤褐色の金属で出来たカードは銅板のように見えた。名刺を少し大きくした程度のサイズだけど、そこにはボクの名前が彫られていたのだ。

 遂に手に入れたという安堵の気持ちはあるが、これを持って地上に戻る必要がある。

 ボクはカードを大事にマジックバッグへしまい、気を引き締めて地上へ向かう階段を上った。

 だけどボクは知らなかった。ここからがダンジョンの本番であるという事を……。
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