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ひよっこ冒険者の章
第18話 特殊性癖な私がフった日
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紅茶を飲んで一息ついた私はメイドさんにお代わりをお願いした。
薫さんに書いて貰った占いの結果を見る。自分でも知らなかった長年の謎が解決したのは良かったが、愛読書を薫さんに知られたのは恥ずかしい。あれはタイトルの通り、ちょっとエッチな本なのだ。自分で買った訳ではなくいつの間にか自室の本棚に紛れ込んでいた逸品だった。
これは薫さんの特殊能力を信用せざるを得ない。でもどうせならもう少し違う内容を聞きたかった……。
「大丈夫? ほら、このクッキーも美味しいよ。葉月ちゃんにお土産で買って行こうかな」
「ありがとうございます」
私の気も知らないでのほほんとする薫さんが恨めしい。
【天王寺七海】
今話題の美人モデルさん!
母親譲りの見事なプロポーションは完璧で、世の男性を虜にするだろう。
だがしかし、彼女には試練が待ち構えていた。キムタコのストーキングである!
でも安心して欲しい、全部彼が上手いことやってくれます。全部終わったら沢山愛してあげて下さい。
ちなみに、愛読書は『あべこべ世界に迷い込んだショタが、年上のお姉さんに甘やかされてドロドロに溶かされるまで(新装版)』です。
実はこれ、親戚の中野楓がコッソリと布教活動で忍ばせたって知ってた?
※今日の運勢※
運命の出会いがあるでしょう。
キュンキュンしちゃう超好みの可愛い男の子を紹介されるけど、今は断って下さい。心苦しいかもしれないけどガツンと断って下さい。完膚なきまでに徹底的に!
絶対ですよ?
「……っ」
薫さんが書いてくれた紙を何度も見直してしまった。でもここに書かれた彼というのは……?
「じゃあ落ち着いたところで情報を整理しようか。安心して欲しい、こう見えてボクは今までに何人も占って来たからね。良い占いも悪い占いも対応次第では全部上手く行く、これは占いの神様からのお告げだからね」
「……あっ、はい」
「あはは、その反応は慣れてるよ。大丈夫、決して入信させようとかお布施を貰おうなんて気持ちは微塵も無いから」
「す、すみません」
薫さんの言い方があまりにも胡散臭くて思わず顔に出てしまった。でもこれが薫さんじゃなかったら絶対に信じていないだろう。
「この文章って結構適当な事が書かれる時もあるけど、今回は至って普通だね。まず一番大事なところはここ」
この文章のどこが至って普通なのかと思ってしまった。
メモ用紙をテーブルに広げ、薫さんのしなやかな指先がある一文を指差した。
「ストーカー……彼が上手いやってくれる?」
「そう、だから安心して欲しい。いま七海ちゃんが不安に思っている事は全部解決する。この彼っていうのが誰なのか分からないけど、きっと七海ちゃんの良い人だね」
「そう言われても私、お付き合いしてる人もいませんし、男性で親しい人は居ません」
職業柄、男性と接する機会は多いけど恋をするような関係になった事はない。それに私の理想の男性は……ちょっとだけ普通と違うのかもしれない。可愛い男の子にあんな事やこんな事を……。
「そうだろうね。でもそのヒントが一番下にある。おめでとう七海ちゃん、今日は君にとって運命の出会いがあるらしい。きっとそれが彼なんだよ」
「運命の出会い……」
私の理想の男性像を思い浮かべる。小柄で女の子のような童顔、そしてちょっと抜けている可愛い男の子が好き。そんな彼を自分の手で甘々に蕩けさせたい、徹底的に気持ち良くして私に依存させてしまいたい、そんなイジメたくなる可愛い男の子……ラノベの中にしか存在しないような理想の男性が本当に……?
まだ見ぬ彼を想像したら下腹部がキュンと熱くなる。ああ、早く可愛い彼の顔が見たい。
「きっと七海ちゃんはその人と会ってドキドキするよ。デートのお誘いなのか告白なのか内容までは分からないけど、絶対に断らないといけない。気を付けて、この選択次第で七海ちゃんの未来は大きく変わるからね」
「……分かりました。誰であろうとキッパリとビシっとお断りします!」
「えっと、程々にね?」
よし、私の未来のためだ。どんなに素敵な男性が現れたとしても心を鬼にして断ろう。大丈夫、きっと分かってくれるよね?
どうやらストーカーも何とかなりそうだと分かり、気分が晴れたような気がした。
そしてそろそろ大学に行こうとしたところ、薫さんが唐突に言って来た。私の深い闇に触れるように……。
「でもやっぱり七海ちゃんも天王寺家の血筋なんだね。楓ちゃんと同じで兄貴みたいな男が好きだったんだなんて」
「し、知りませんっ! もう葉月おばさまに報告しちゃいますからね!」
「そんなー!」
慌てる薫さんを置いて喫茶店を出た。もちろんスマホで葉月おばさまに連絡するのは忘れない。男の人が好きそうな黒髪姫カットの清楚系なメイドさんの胸元をガン見していたって伝えよう。あ、お会計忘れてた。今度会ったら返そう。
さて、どんな男性が待っているのだろう。
ちなみに、楓ちゃんというのは母の妹であり、薫さんの兄である中野日向の嫁である。
◇
「お母様、今大丈夫ですか? 薫さんと会って来ました」
心配性な母を安心させるため、私は喫茶店を出て電話を掛けた。
「大丈夫ですわ! それで、それで占いの結果はどうでしたの!? はよはよですわっ!」
今まで生きて来た中でこんなに興奮している母は初めてかもしれない。
でもそうか、母や祖母が異様なまでに占いに執着していたのは薫さんのせいだったのか。でも今ならその気持ちが分かるかもしれない。
「えっと、ストーカーの事だけど『全部彼が上手いことやってくれます。全部終わったら沢山愛してあげて下さい』って書いてありました。あと、今日の運勢で『運命の出会いがある』って」
「あら~!! 遂に七海ちゃんにも春が来ますのね。こうしちゃいられませんわ、色々と準備しますわねー!」
「あっ、お母様待って、告白は断るから……って切れちゃった」
どうにも落ち着きのない母だった。何の準備をするのか分からないけど、悪い気分じゃなかった。
そして運命が動き出した。
大学へ向かっていたところ、狙ったかのように親友のミキからメッセージが入った。
【七海が例のストーカーに困ってるって話あったじゃん? あれ彼に話しちゃってさ、そしたら『そんなの適当に彼氏がいる設定にすりゃオッケーっしょ! 童貞でヘタレで童顔でチビでヘタレで人畜無害、でも俺が認める良い奴を知ってっから紹介するよ!』って言ってるけど……どうする?】
そのメッセージを見た瞬間、思わず笑みを浮かべてしまった。
「私の運命の人はどんな子かな……」
私の好きな愛読書、あの本が私の原点。小柄で純真無垢、言い換えればちょっとアホな男の子をR18して、自分好みの男の子に染め上げるのだ。
これまでは仕事を中心に頑張って来たけど、モデルとして大きな舞台で活躍したし子供の頃に夢見たランウェイを歩く事も出来た。だからそろそろ恋を始めても良いと思った。
待ち合わせ場所のカフェテリアに行くと、ミキと上井君が楽しそうに話している。そしてその横でキョロキョロと落ち着きのない様子の可愛い男の子が居た。ああ、きっとあの子に違いない。
ゆっくりと時間を掛けて歩きながら良く観察する。サラサラの黒いボブヘアーと幼い顔立ちは中性的な印象を与える。きっとあの髪をクンカクンカしたら良い香りがするだろう。
少し猫背だけど、逆にそこが可愛らしく見えてしまう。ヤバい、彼を見ていると鼓動が早くなる。同じ大学に居て彼と出会わなかったのは今日と言う日を迎える為だったのかもしれない。
「お待たせしました」
彼に聞こえるように少し声を大きくして言った。そして彼が私を見つけた。目をこれでもかと大きく開き、私の事を観察している。
男の子なのにプルンとした艶やかな唇、その小さい口にキスをしたらどんな感触なのだろうか。ストーカーという面倒な件が無ければ私から告白したかもしれない程に彼は私の理想だった。でもストーカー被害が無ければこうして出逢わない運命だったのかと思うと少しだけ、ほんの少しだけキムタコに感謝した。小指の先の百分の一くらいの感謝だ。いや、やっぱり感謝しない。
でも私はこれから彼をフラないといけない。そう思うと心が苦しい。胸が締め付けられる。だけど私は前に進む。だってこの試練が終われば彼をたっぷりと愛せるのだから……。
「……ごめんなさい無理です!!!」
今まで生きて来た中で一番苦しくて悲しい瞬間かもしれない。
「……えっ? あの、えっと、えええっ!?」
会話をしたら心が揺らぎそうだった私は開口一番に言ってしまった。ああ、彼の悲しむ顔に胸が締め付けられる。
ごめんなさい、愛しい彼。後でいっぱい愛してあげるから今は許して欲しい。
そうして私は彼をフって、彼との恋をスタートさせたのだった。
薫さんに書いて貰った占いの結果を見る。自分でも知らなかった長年の謎が解決したのは良かったが、愛読書を薫さんに知られたのは恥ずかしい。あれはタイトルの通り、ちょっとエッチな本なのだ。自分で買った訳ではなくいつの間にか自室の本棚に紛れ込んでいた逸品だった。
これは薫さんの特殊能力を信用せざるを得ない。でもどうせならもう少し違う内容を聞きたかった……。
「大丈夫? ほら、このクッキーも美味しいよ。葉月ちゃんにお土産で買って行こうかな」
「ありがとうございます」
私の気も知らないでのほほんとする薫さんが恨めしい。
【天王寺七海】
今話題の美人モデルさん!
母親譲りの見事なプロポーションは完璧で、世の男性を虜にするだろう。
だがしかし、彼女には試練が待ち構えていた。キムタコのストーキングである!
でも安心して欲しい、全部彼が上手いことやってくれます。全部終わったら沢山愛してあげて下さい。
ちなみに、愛読書は『あべこべ世界に迷い込んだショタが、年上のお姉さんに甘やかされてドロドロに溶かされるまで(新装版)』です。
実はこれ、親戚の中野楓がコッソリと布教活動で忍ばせたって知ってた?
※今日の運勢※
運命の出会いがあるでしょう。
キュンキュンしちゃう超好みの可愛い男の子を紹介されるけど、今は断って下さい。心苦しいかもしれないけどガツンと断って下さい。完膚なきまでに徹底的に!
絶対ですよ?
「……っ」
薫さんが書いてくれた紙を何度も見直してしまった。でもここに書かれた彼というのは……?
「じゃあ落ち着いたところで情報を整理しようか。安心して欲しい、こう見えてボクは今までに何人も占って来たからね。良い占いも悪い占いも対応次第では全部上手く行く、これは占いの神様からのお告げだからね」
「……あっ、はい」
「あはは、その反応は慣れてるよ。大丈夫、決して入信させようとかお布施を貰おうなんて気持ちは微塵も無いから」
「す、すみません」
薫さんの言い方があまりにも胡散臭くて思わず顔に出てしまった。でもこれが薫さんじゃなかったら絶対に信じていないだろう。
「この文章って結構適当な事が書かれる時もあるけど、今回は至って普通だね。まず一番大事なところはここ」
この文章のどこが至って普通なのかと思ってしまった。
メモ用紙をテーブルに広げ、薫さんのしなやかな指先がある一文を指差した。
「ストーカー……彼が上手いやってくれる?」
「そう、だから安心して欲しい。いま七海ちゃんが不安に思っている事は全部解決する。この彼っていうのが誰なのか分からないけど、きっと七海ちゃんの良い人だね」
「そう言われても私、お付き合いしてる人もいませんし、男性で親しい人は居ません」
職業柄、男性と接する機会は多いけど恋をするような関係になった事はない。それに私の理想の男性は……ちょっとだけ普通と違うのかもしれない。可愛い男の子にあんな事やこんな事を……。
「そうだろうね。でもそのヒントが一番下にある。おめでとう七海ちゃん、今日は君にとって運命の出会いがあるらしい。きっとそれが彼なんだよ」
「運命の出会い……」
私の理想の男性像を思い浮かべる。小柄で女の子のような童顔、そしてちょっと抜けている可愛い男の子が好き。そんな彼を自分の手で甘々に蕩けさせたい、徹底的に気持ち良くして私に依存させてしまいたい、そんなイジメたくなる可愛い男の子……ラノベの中にしか存在しないような理想の男性が本当に……?
まだ見ぬ彼を想像したら下腹部がキュンと熱くなる。ああ、早く可愛い彼の顔が見たい。
「きっと七海ちゃんはその人と会ってドキドキするよ。デートのお誘いなのか告白なのか内容までは分からないけど、絶対に断らないといけない。気を付けて、この選択次第で七海ちゃんの未来は大きく変わるからね」
「……分かりました。誰であろうとキッパリとビシっとお断りします!」
「えっと、程々にね?」
よし、私の未来のためだ。どんなに素敵な男性が現れたとしても心を鬼にして断ろう。大丈夫、きっと分かってくれるよね?
どうやらストーカーも何とかなりそうだと分かり、気分が晴れたような気がした。
そしてそろそろ大学に行こうとしたところ、薫さんが唐突に言って来た。私の深い闇に触れるように……。
「でもやっぱり七海ちゃんも天王寺家の血筋なんだね。楓ちゃんと同じで兄貴みたいな男が好きだったんだなんて」
「し、知りませんっ! もう葉月おばさまに報告しちゃいますからね!」
「そんなー!」
慌てる薫さんを置いて喫茶店を出た。もちろんスマホで葉月おばさまに連絡するのは忘れない。男の人が好きそうな黒髪姫カットの清楚系なメイドさんの胸元をガン見していたって伝えよう。あ、お会計忘れてた。今度会ったら返そう。
さて、どんな男性が待っているのだろう。
ちなみに、楓ちゃんというのは母の妹であり、薫さんの兄である中野日向の嫁である。
◇
「お母様、今大丈夫ですか? 薫さんと会って来ました」
心配性な母を安心させるため、私は喫茶店を出て電話を掛けた。
「大丈夫ですわ! それで、それで占いの結果はどうでしたの!? はよはよですわっ!」
今まで生きて来た中でこんなに興奮している母は初めてかもしれない。
でもそうか、母や祖母が異様なまでに占いに執着していたのは薫さんのせいだったのか。でも今ならその気持ちが分かるかもしれない。
「えっと、ストーカーの事だけど『全部彼が上手いことやってくれます。全部終わったら沢山愛してあげて下さい』って書いてありました。あと、今日の運勢で『運命の出会いがある』って」
「あら~!! 遂に七海ちゃんにも春が来ますのね。こうしちゃいられませんわ、色々と準備しますわねー!」
「あっ、お母様待って、告白は断るから……って切れちゃった」
どうにも落ち着きのない母だった。何の準備をするのか分からないけど、悪い気分じゃなかった。
そして運命が動き出した。
大学へ向かっていたところ、狙ったかのように親友のミキからメッセージが入った。
【七海が例のストーカーに困ってるって話あったじゃん? あれ彼に話しちゃってさ、そしたら『そんなの適当に彼氏がいる設定にすりゃオッケーっしょ! 童貞でヘタレで童顔でチビでヘタレで人畜無害、でも俺が認める良い奴を知ってっから紹介するよ!』って言ってるけど……どうする?】
そのメッセージを見た瞬間、思わず笑みを浮かべてしまった。
「私の運命の人はどんな子かな……」
私の好きな愛読書、あの本が私の原点。小柄で純真無垢、言い換えればちょっとアホな男の子をR18して、自分好みの男の子に染め上げるのだ。
これまでは仕事を中心に頑張って来たけど、モデルとして大きな舞台で活躍したし子供の頃に夢見たランウェイを歩く事も出来た。だからそろそろ恋を始めても良いと思った。
待ち合わせ場所のカフェテリアに行くと、ミキと上井君が楽しそうに話している。そしてその横でキョロキョロと落ち着きのない様子の可愛い男の子が居た。ああ、きっとあの子に違いない。
ゆっくりと時間を掛けて歩きながら良く観察する。サラサラの黒いボブヘアーと幼い顔立ちは中性的な印象を与える。きっとあの髪をクンカクンカしたら良い香りがするだろう。
少し猫背だけど、逆にそこが可愛らしく見えてしまう。ヤバい、彼を見ていると鼓動が早くなる。同じ大学に居て彼と出会わなかったのは今日と言う日を迎える為だったのかもしれない。
「お待たせしました」
彼に聞こえるように少し声を大きくして言った。そして彼が私を見つけた。目をこれでもかと大きく開き、私の事を観察している。
男の子なのにプルンとした艶やかな唇、その小さい口にキスをしたらどんな感触なのだろうか。ストーカーという面倒な件が無ければ私から告白したかもしれない程に彼は私の理想だった。でもストーカー被害が無ければこうして出逢わない運命だったのかと思うと少しだけ、ほんの少しだけキムタコに感謝した。小指の先の百分の一くらいの感謝だ。いや、やっぱり感謝しない。
でも私はこれから彼をフラないといけない。そう思うと心が苦しい。胸が締め付けられる。だけど私は前に進む。だってこの試練が終われば彼をたっぷりと愛せるのだから……。
「……ごめんなさい無理です!!!」
今まで生きて来た中で一番苦しくて悲しい瞬間かもしれない。
「……えっ? あの、えっと、えええっ!?」
会話をしたら心が揺らぎそうだった私は開口一番に言ってしまった。ああ、彼の悲しむ顔に胸が締め付けられる。
ごめんなさい、愛しい彼。後でいっぱい愛してあげるから今は許して欲しい。
そうして私は彼をフって、彼との恋をスタートさせたのだった。
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