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第224話 トゥンクトゥンク

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 美奈子さんによる復讐という名のスペシャルマッサージを受けたボクは、程よい疲労感と共に賢者タイムに突入していた。唖然とするボクを嬉しそうに眺める美奈子さんとは繋がったままの状態であり、この柔らかい肌との重なりが心地良いのです。

 賢者ユウタにクラスチェンジしたボクは必死に考えた。この状況は非常にマズいのではないか……と。美奈子さんから誘って来たのかもしれないけど、あれはマッサージだった。事故った部分まではしょうがないかもしれない。でも最後にギュッと抱き締めて奥にピュッピュしちゃったのは完全にボクのミスである。最後の最後で冒険者としての血が騒いだのだ……。愛棒がテヘペロって言ってた!

 いや、まだ慌てる時間じゃない。美奈子さんが祝福日と言ってボクを脅して楽しんでいるだけかもしれないのだ。落ち着け、落ち着くんだ!

「どうしたんですかユウタ様、一人で百面相してて面白いですよ?」

「そ、そんな事ないですにょ?」

「先ほどの祝福日というのは本当です。本当に偶然ですが、まさかピンポイントにユウタ様に種付けされちゃうとは思ってもみませんでした」

「あ、あああ、あの、その……」

 この顔は嘘じゃない、何故かそう思った。マズいぞ、ミウちゃんを差し置いてメイドさんを孕ませたとなったら刺されちゃうかもしれない……。それに雪乃ママはお嫁さんを大事にするっていう条件でミウちゃんと結婚させてくれたのだ。これはヤバイぞ……!

「うふふ、安心して下さい。もし妊娠したとしてもユウタ様の子だとは口外しませんので」

「えっ、でもでも……」

 美奈子さんがウットリとしながらお腹に手を当てた。母性を感じる甘い表情が素敵だった。

「実はそろそろ子供を作ろうかと計画していたのです。美羽お嬢様もご結婚されましたし、すぐに子供が出来るでしょう。私の子が美羽お嬢様のお子様を支える、つまり美羽お嬢様を支える私のような関係になってくれればと思っておりました。だからこれが良い機会だと思ったのです」

「美奈子さん……」

 なるほど、ボクとミウちゃんの子供のためか。美奈子さんの子供とミウちゃんの子供がキャッキャウフフと仲良く遊んでいる姿が思い浮かんだ。これは良いかもしれない!!

「奥様には人工授精すると伝えておきますのでご安心下さい。でも……もしかしたら」

「もしかしたら?」

 勿体ぶるような発言にボクは催促してしまった。至近距離で見る美奈子さんの目はキラリと光を反射し、口元は薄っすらと笑みを浮かべているのだ。何かイタズラを考えているような仕草が可愛らしくてドキっとしてしまった。

「お優しい奥様の事ですから、人工授精じゃなくてユウタ様が宛がわれるかもしれませんね。期待しても良いですか?」

 嬉しそうに笑うその姿にボクの心はトゥンクトゥンクと恋の音を響かせ、ボクはキスの返事を返したのだった。





 美奈子さんのスペシャルマッサージも終わり、ボク達は仲良くリンゴ風呂に入った。これまでボクと美奈子さんの間には、ヤった・ヤられたという弱肉強食を思わせる勝負の世界が広がっていた。でもそれも今日でお終いだ。セックスは勝ち負けではなく愛なのだと知ったのです。ライバルだと思った美奈子さんとこうして仲良くイチャイチャお風呂に入るなんて思ってもみなかった。

 名残惜しいけどお風呂から出て体を乾かし、バスローブを羽織って冷たいリンゴをシャクシャクと頂きました。瑞々しくて甘味の強いこのリンゴ、きっと高級なやつに違いない。

 ベッドの上でお行儀悪くシャクシャクと食べていると、美奈子さんがバスタオルを巻いた姿でお風呂場から出て来た。お風呂の片付けをするという事で手伝おうと思ったけど、少しのぼせてしまったのだ。悪いと思ったけど先に失礼しました。

「お行儀が悪いですよユウタ様。しっかりと髪を乾かさないと風邪を引いてしまいます。こっちへ来て下さい」

「は~い!」

 さっきまでイチャイチャしていたからだろうか、美奈子さんの雰囲気が違って見える。手のかかる弟を可愛がるお姉さんみたいなのだ。うん、良いかも♪

 ドライヤーでフワフワに仕上がったボクの髪を優しく櫛で整えて完成です。ふふ、イケメンですねー!

「はい、完成です。お夕食の際にはお呼びに参りますので、ごゆっくりお過ごしください」

「う、うん……あのっ!」

 ボクは期待を込めて美奈子さんの手を握った。バスローブを体に巻いただけの色っぽいお姉さんともっと仲良くなりたいと思ったのだ。

 そんな期待の眼差しを受けた美奈子さんは小さく笑い、ボクの唇にチュっとキスをして囁いた。

「私に本気になったら遊びじゃ済みませんよ? ユウタ様のお嫁さんは美羽お嬢様です、間違っちゃダメですよ」

「……っ!!」

 ホケーっと放心するボクを余所よそに、手際よく着替えた美奈子さんが部屋から出て行ってしまった。どうやらボクは熱でもあるようだ。少し横になろうと思う。

 いつもと違う美奈子さんの姿に、ボクは恋をしてしまったのだろうか……?



   ◇



「すぴー……すぴー……むにゃむにゃ、リンゴとおっぱい? ……すぴー……」

「うふふ、どんな夢を見てるのよユウタくんったら。ほら、ユウタくんお夕飯の時間ですよ~」

 体をユラユラと揺すられている。お夕飯……?

 薄っすらと目を開けると輝く金髪が綺麗なお姉さんが隣で寝ています。

「むにゃ……おはようございます。……あれ、ミウちゃん?」

「ざんね~ん、美羽じゃなくて雪乃ママでした~♪」

「ゆ、雪乃ママ!?」

 ボクはガバっと跳ね起きた。辺りを見渡せばホテルのお部屋で、外は日が落ちていた。そうか、美奈子さんと別れてから寝てしまったのだ。あれ、美奈子さんが迎えに来てくれるんじゃなかったのか。ちょっとだけガッカリしてしまった。

 雪乃ママを見れば赤いセクシードレスを装備していた。胸元からボロンと零れ落ちそうなお胸が見える。背中もパックリと開いているぞ。ドレスがシワになってなければいいけど……。

 吸い込まれそうな胸元を凝視していたボクを嬉しそうに見つめる雪乃ママが起き上がった。

「ご飯を食べに行きましょう。お洋服はこれでお願いね」

「は、はい!」

 ドレッサーに掛かったシックなダークスーツに着替えました。上手く着れたと思う。ネクタイがちょっと難しいけど雪乃ママが締めてくれました。

「カッコイイわユウタくん。うふふ、行きましょうか」

 ボクは雪乃ママと手を組んで部屋を出て行きました。




 エレベーターに乗り込み夕食会場へ向かう事になりました。わざわざ雪乃ママがエスコートしてくれるなんて嬉しいですね。

 煌びやかな通路を進んで行き、奥にある小さな個室に入りました。どうやら今日はここで食べるようです。

 スタッフさんに重厚なドアを開けてもらって中へ案内されましたが、まだ他の人は誰も来てないようなのです。

「あれ、ソフィアさんと千代ちゃんはまだですか?」

「う~ん、誘ったんだけど動画の撮影を始めるから別行動って言っていたわ。ソフィア監督はやる気満々だったし、美奈子も張り切ってたわね」

「うぇっ!? 動画の撮影ですか? ボク呼ばれてないんですけど……」

 ボクを差し置いてエチエチ動画の撮影を始めるなんて酷いです。そりゃボクがお昼寝しちゃったのは悪いと思いますけど、スマホを見ても連絡が来てなかったのです。ボクの考えたエチエチ動画の内容はビシィっとソフィアさんに伝えたけど、こう何というか男心をくすぐる演出はボクじゃないとダメな気がするのだ。くっ……こりゃ失敗か?

「ソフィア監督がね、ユウタくんが居ると進む話も進まないから邪魔だって言ってたわよ」

「ぐぬぬ……ソフィアさんめ」

 こうなったら完成した動画を見てダメ出しをしよう。ふふ、あのCM撮影の時を思い出した。あの時やられたように、今度はボクがリテイクを出しまくる番ですね!

 それからボクは雪乃ママと二人きりで夕食を楽しみました。厚切りステーキが最高に美味しいです!

「美味しいかしら? 沢山あるからい~っぱい食べてね」

「うひひ、おいひいです!」

 マジカルバイアグーラをゴリゴリと振りかけて食べるのが最近の流行りなのだそうです。スタッフのお姉さんがゴリゴリして振りかけてくれました。肉厚なのにナイフがスーッと入り、口の中で蕩けるような柔らかさと肉の甘味が最高です。

 そんなお肉をもきゅもきゅと食べていると、雪乃ママが今夜の接待について説明してくれました。

「私のお友達なんだけど、実はいまアメリカから観光で日本に来ているのよ」

「……ほほう?」

 日本に遊びに来てこのホテルを気軽に使えるお金持ちっていう事ですね。そしてホテルオーナーである雪乃ママのお友達っていう事はそれなりの地位に居るお方な気がします。

「それでユウタくんの事も紹介してあげようと思って。どうかしら?」

「ボクは全然構いませんが……自慢じゃ無いですけどボク、英語はサッパリですよ?」

「大丈夫。フローラって言うんだけど、彼女は大の親日家で日本語もペラペラなの。楽しい子だから気を張らないで大丈夫よ」

「おお、それは良いですねー!」

 ホストクラブユウタで鍛えた女性を喜ばせるテクニックも日本語が通じなければ意味がないですからね。フローラさんに日本の伝統芸の楽しさを教えてあげよう。

 どんな人なのか分からないけど、楽しい人だといいな~。

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