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第177話 暴走するインテリ秘書綾香
しおりを挟む桜さんから悪魔の囁きがあったけど、甘い誘惑には屈しない事で定評のあるボクには通じませんからねっ! ここでセクハラしたら後でどんな目に遭うか分かったもんじゃないのですよ。ボクの危険察知能力も随分と成長したものです。
これから行われる新人二人の歓迎会は良い感じにウェーイってやって盛り上げてお終いにしましょう。恵美さんも査察官の摘発を警戒してるようですし、いつもの『ホストクラブユウタ』のようにはならないでしょう。
残念でした桜さん……と心の中でほくそ笑んでいたところ、リビングのテーブルの上には沢山のお料理が所狭しと並んでいたのでした。
「あ、ユウ君お酒持って来て~」
恵美さんから指令を受けましたが、恵美さんの目がキュピーンと光ったように感じました。つまり良い感じにみんなを酔い潰してさっさと宴会を終わらせろって事ですね。ユウタ理解した。
「分かりましたー!」
「では私もお手伝いしますね」
「じゃあ私も……」
「う、ウチも手伝うっす!」
「お二人は今日の主役なんですから座ってて下さい」
くっ、綾香さんがお手伝いに立候補してきました。新人二人は何とか阻止出来そうだ。
断るのも不自然だし綾香さんを伴って渋々とキッチンへ向かい、棚に並んだ恵美さんのお酒コレクションを前にしてどういう展開に持って行くか考えてみます。やっぱり強めなお酒でササっと酔わせてお開きにするのが正解か、それとも最初はビールとかで警戒心を解くのが正解だろうか?
うーむと悩んでいたところ、綾香さんがテキパキとお酒を選んでしまいました。
「やっぱりユウタ様はこれですよね! はい、『トリガーハッピー』で~す♪」
「ふぁっ!?」
こ、これはマズイ流れだぞ。もしかして恵美さんは綾香さんに査察の件を伝えて無いんじゃ!?
「いやいやいや、これはちょ~っとマズイんじゃないですかね。ほら、これ飲んだらボクが大変な事になっちゃいますよ~? やっぱりまずはビールとか……」
「何を甘っちょろい事言ってるんですかユウタ様、ユウタ様と言えばコレでしょう? ビールみたいな普通のお酒で良いんですか? 新人二人から『えっ、ユウタ様ってビールなんですか? もっとカッコイイお酒を飲むと思ってました』とか『ビールっすか……何か思ってたのと違うっす!』って思われても良いんですか!? それでも超一流のホストとしての自覚があるんですかユウタ様!」
「……ハッ!!!」
そうだ、これは新人二人のデビュー戦なのだ。ここで超一流のホストであるボクの凄さを見せつける時なのです。やっぱり第一印象が大事だと思うんですよね。トリガーハッピーを飲めば、『え、最初からトリガーハッピーですか!?』とか『はわわわ、トリガーハッピーしゅごいのー。ユウタ様しゅきしゅきっす!』ってなるに違いない。他のダメダメなホストとの格の違いを見せつける時ですね。他のホストとか知らないけど……。
桜さんの査察って言ったって、エロエロな事してなければ大丈夫なはずだ。つまり……トリガーハッピーを飲むくらい問題ないっしょ!!
「分かりました。トリガーハッピーおなしゃす!!」
「さっすがユウタ様~♪ じゃあじゃあ、それ全部空けたら……ピンクサキュバスも追加してあげます♡」
「ほ、本当ですか綾香さん!? でもでも、ピンクサキュバスって高いお酒だから恵美さんに怒られるんじゃ……?」
「ご安心くださいユウタ様、こんな事もあろうかと自腹で用意して来ました。いつもお世話になってるユウタ様の為です、奮発しちゃいました~♪」
「あ、ありがとうございます綾香さん!!」
ううぅ……『ホストクラブユウタ』には良いお客さんしか居ませんね。あれ、でもピンクサキュバスは桜さんから禁止されていたような……? まあトリガーハッピーを全部飲めたらって事だし、問題ないっしょ!!
「ささ、皆さんがお待ちですから急ぎましょう」
「分かりましたー!!」
いざ、決戦の地へ!
◇
「ではでは、スミレちゃんと千代ちゃんの新たな旅立ちを祝って……乾杯!」
『かんぱ~い!』
恵美さんの声に合わせてみんなでグラスを掲げて乾杯です。グラスに注がれたトリガーハッピーちゃんの味は最高ですねぇ。
半円形のソファーに余裕を持って座ったボク達ですが、ボクはソファーのど真ん中に配置されました。ボクの右隣に恵美さん、千代ちゃん、綾香さんが座り、左隣りにミウちゃん、スミレさん、桜さんの順で座って居ます。
みんなはビールとかハイボールなのにボクだけトリガーハッピーでした。千代ちゃんは未成年なのでオレンジジュースですけどね! そしてみんなの視線がボクのグラスに集中しているのでした。ボク、また何かやっちゃいました?
「ユウタってばそんなお酒飲んじゃって……大丈夫なん?」
トリガーハッピーをジュース感覚でゴキュゴキュと飲んでいたところ、ミウちゃんから心配する声が掛かりました。ボクくらいのレベルになるとトリガーハッピーなんてジュースみたいなものなので大丈夫ですよー!
「えへへ、ボクこれ大好きなんですよね~。じゃあ景気付けにユウタ、一気飲みしま~す!」
「うはっ、何それ~、めっちゃウケル~」
「はぁ……ユウ君ったら」
恵美さんからはジト目を向けられてしまったのです。ごめん恵美さん、これはナンバーワンホストの宿命なのです。
グラスに並々と入ったトリガーハッピーをゴクゴクと一気飲みしたのでした。
「……ぷはぁ!」
ボクは空になったグラスを掲げて戦果をアピールします。ふふ、みんなの羨望の眼差しが気持ち良いですねぇ。
「さすがユウタ様!! カッコイイですよ~」
綾香さんのヨイショが聞こえました。もっと褒めてくれても良いんですよ?
「ユウタ様……えっ? トリガーハッピーですか? えっ、あれ?」
スミレさんが目を大きく開いて驚いています。きっとボクの飲みっぷりに感動したのでしょう。
「ふふ……ユウタさんったら張り切ってますね」
桜さんが『しょうがないですねぇ』って感じで笑っています。うん、これくらいじゃ査察官様の逆鱗に触れる事は無いようです。お酒飲んでるだけだもんね!
「はわわわわ、トリガーハッピーって合コンで男の子を……もごもごっ!?」
「はーい、千代ちゃんはお口チャックですよ。それ以上言ったら出禁になっちゃいますからね? 気になる事が有っても今は心の中に封印しましょうねー?」
「……(コクコク)」
…………おっと、綾香さんが千代ちゃんとイチャイチャしてますね。何やら合コンって単語が聞こえたような気がします……。
「むむ、千代ちゃん合コンって何ですかぁ?」
「わーわー、はいユウ君、あたしがお酌してあげる。そんなつまらない事とか考えないで良いから、ほらほら、もう一杯グイっといっちゃおう♪」
ボクが千代ちゃんに合コンという言葉の意味を問いただそうとしましたが、恵美さんに止められてしまいました。そっか、今はボクがウェーイって感じで盛り上げないと行けない時なのですね。合コンってのもボクの聞き間違いかもしれません。
「うへへ、恵美さんありがとうございます。じゃあ見てて下さいね、ユウタいきま~っす!!」
恵美さんに注いでもらったお酒をグイグイっと飲んじゃいました。ふぅ、ボクもお酒に強くなりましたね!
「ヒューヒュー、ユウ君カッコイイよ~」
「ユウタ様、素敵です~!」
「ユウタ飛ばし過ぎ~、めっちゃウケル」
よし、掴みは成功ですね。ふふ、みんな笑顔で楽しそうにしています。
でも何故でしょうか、スミレさんは桜さんに何か内緒話をされているのでした。そして千代ちゃんは恵美さんと綾香さんからお説教されているのです。解せぬ……。
…………分かった。新人二人がユウタコールをしていなかったのでお説教ですね。ふふ、安心して下さい。ボクはそんな事で怒ったりしませんからね! それに一気飲みは危険ですのでもうやりませんからね。ユウタ反省。
◇
懇親会が始まって良い感じに場が温まって来た感じがします。スミレさんと桜さんが仲良くお喋りしています。どうやら面接の時のわだかまりは解決したのかもしれません。やっぱり仲良くするのが良いですよね! 千代ちゃんは恵美さんと綾香さんから色々と教えて貰っているようです。なのでこの場でフリーなのはボクとミウちゃんだけです。
よし、ここはボクがミウちゃんにご奉仕しましょう。普段あんまり会えないミウちゃんですからね、今日くらいはいっぱい甘やかせてあげるのが良き夫の役割でしょう。
小さめのから揚げをお箸で掴み、ミウちゃんにあ~んしてあげました。
「ミウちゃん、あ~ん」
「うひっ、良いの~? やったー! ……あ~ん♪ ちょーウマー!!」
「えへへ、大好きですよミウちゃん」
「あ、ありがと……」
ボクの魅力で照れちゃうミウちゃんが可愛いです! こ、このままチュッチュしちゃおうかな!?
「ねぇユウ君~、あたしもトリガーハッピー飲みたいな~」
「えっ、あ、はい、分かりました~」
ミウちゃんとイチャイチャしてたら恵美さんから催促が来ました。つまり嫉妬しちゃったんですね!? ふふ、イケメンユウタは大忙しですね。
トリガーハッピーのボトルを手に取りお酌をしましょう。
「違うの~、ユウ君に飲ませて欲しいな~」
「ぼ、ボクにですか!?」
「うんうん、はい、ん~」
恵美さんがキスをするように口を突き出してきた。つ、つまりこれは……口移しってやつですか!?
あの、恵美さん? もう既に普通のホストクラブから乖離してませんか? 査察官が鋭い視線を送って来てますよ? でもこのまま放置したら恵美さんのプライドがボロボロになっちゃうし、新人二人に恥ずかしいところを見せることになってしまう。
も、もうしょうがないですねぇ恵美さんは。求められたら全力で応えるのが超一流のホスト、それがユウタなのでした。
「えへへ、行きますよ。ん~」
「んっ……」
トリガーハッピーをお口に含み恵美さんにキスをしました。そして唇の隙間からちょっとずつ流し込んでいくのです。
まあそれだけで終わる訳も無く、ディープなキスになっちゃうんですけどね!
「ちょ、メグってばずるいー!!」
隣からミウちゃんの叫び声が聞こえました。でも許して下さい。これは超一流のホストであるボクのお仕事なのでした。
「えっ、えええ? 桜さん、恵美様とユウタ様が口移しからキスしてますよ!?」
「はぁ……ユウタさんったら。スミレさん、もし本物のホストクラブこんな事したら怖いお姉さんにボコボコにされちゃいますからね? 絶対にやっちゃダメですよ?」
くっ……遠くから鋭い視線が突き刺さります。
「あわわわわ、お酒を口移しで飲ませて貰ってるっす! もしかしてホストクラブってこんなに過激なんっすか?」
「ふっふっふ、千代ちゃん良く覚えておきなさい。あんなのまだまだ序の口よ。これからもっとエッチで激しい感じになるんだからね。大丈夫安心して、千代ちゃん達も参加出来るようなゲームを考えてあるからね?」
「わ、わかったっす! 綾香さん、教えてくれてありがとうございますっす!」
あのあの、綾香さん? 後輩が出来た途端に先輩面してますけど、綾香さんもまだ会員になったばっかりですからね? あと勝手にゲームなんて企画しちゃダメですよ? 査察官が目の前にいますからね?
「うへへ、やっぱりユウ君に飲ませて貰うお酒は最高だね~。あれあれ~? ミウってば手酌でお酒飲んでるのね~」
「うざっ! ……ユウタ、あーしにも頂戴?」
「わ、分かりましたー!」
ミウちゃんにも同じように口移しをします。ミウちゃんのプルンとした柔らかい唇が気持ち良いです。
そんなボク達を羨ましそうに見ていた秘書さんのメガネがキュピーンと光ったのが見えました。……嫌な予感がします。
「はい、はーい!! 美羽様や恵美様がユウタ様を独占するのは良く無いと思いま~す!! 独占禁止法違反で~す!」
「ちょ、アヤちゃん変な言い掛かりは止めて頂戴!」
「はい、ユウタこれ食べる? あ~ん」
ボクがこの争いに参加するのは良くないと思ったのでミウちゃんからポテトサラダを頂きました。うん、美味しいです!
そして恵美さんと綾香さんの言い争いが白熱してきたその時、思いもよらぬ発言が出て来ました。
「ふふ……じゃあ席替えをしませんか? 新人のお二人は色々と緊張しているようですし、ユウタさんは二人の緊張を解してあげて下さい」
桜さんからキラーパスが飛んできました。つまりさっき言っていた千代ちゃんへセクハラをしろって事ですね!?
「えー、このままでいいじゃーん」
「あーしもこのままで良いと思うー」
「お二人はユウタ様を侍らせてご機嫌でしょうけど、独占禁止法違反でーす!! はい、チェンジですよー」
そうして桜さんと綾香さんによる席替えが実行されてしまったのでした。席を決めるのも色々としがらみがあるのでクジ引きで決定してしまいました。
新しい席は一番端の席で、隣は千代ちゃんが居るのでした。そして千代ちゃんの隣には桜さんです。もしかして桜さん、何か仕込みましたね?
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