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第106話 ミウちゃんはお嬢様でした

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 まるで政府の要人を乗せるような黒い車に乗り込んだボクは、ビビッてしまい上手くしゃべる事が出来なくなってしまいました。

 運転席には軍人のような鋭い目付きをした美奈子さんが座っています。ミウちゃんと同じくらい背が高く、頭の後ろに髪を纏めている美人さんです。スーツ姿なので詳しくは分かりませんが、きっとかなり鍛えているのでしょう。そしてボクが変な事をしたら捕まってしまい、すんごいテクニックでアヘアヘな感じで昇天させられちゃう未来が見えました。……うん、ちょっと良いかも♪

「ちょっとちょっとユウちゃん。恥ずかしいからそんなニヤニヤしないでよー」

「す、すみません……」

 おっと、美奈子さんとの軍人拷問プレイを妄想していたらトリップしていました。『百合プリズン』みたいな感じでボロボロになるまで搾り取られるとか、ちょっとワクワクするよね! 危ない、またトリップするところだった。

 後部座席に恵美さんと二人で座り、コソコソとお喋りです。ミウちゃんは助手席に座って美奈子さんとお喋りしています。それにしてもミウちゃんは良いところのお嬢様なのだろうか?

 ここで深く追求する訳にもいかず、ボクと恵美さんは借りてきた猫のようにジっとしているのでした。

 歴史を感じる街並みを車が進み、凄く大きなホテルの前に止まった。なになに、『神楽坂ロイヤルホテル』ですか。お上品な輝きを見せる凄いホテルです。えっと、もしかしてここがミウちゃんのお家ですか?

「うっそ。ここってあの『神楽坂ロイヤルホテル』じゃない……」

「知っているのですか恵美さん!?」

 何やら意味深な感じで呟いた恵美さんです。口をポカーンと開けてる恵美さんはレアですね!

「『神楽坂ロイヤルホテル』って一般人は泊まれないのよ。企業のお偉いさんとか政府関係者とか、そういう人だけが泊まれる歴史あるホテルなの。最低ランクでも一泊何十万もするんじゃないかしら?」

「ひぃ!?」

 あのあの、ボクはビジネスホテルで良いですよ? 一泊5千円くらいで泊まれる安いところで大丈夫です。朝食バイキングが付いてたら泣いて喜びます!

 そんなボクの心情を他所に、お出迎えのお姉さんが車のドアを開けてしまいました。笑顔で手を差し出してくれたので、優しく握って優雅に降りたいと思います。……ダメだ、きっと引き攣った笑みをしていた気がする。

 ボクの次に降りて来た恵美さんはと言えば、優雅な感じで余裕綽々ですね。さすが恵美さんです!!

「美奈子ちゃんありがとねー。んじゃ二人とも、案内するねー」

「……」

「……」

 プラチナブロンドに輝く綺麗なロングツインテールをユラユラと揺らしながら堂々と歩くミウちゃん。その後ろをコソコソと追い掛けるボクと恵美さんは不審者みたいだった。

 フロントに入った途端にキラキラと輝くシャンデリアがボク達を照らして来るのだ。豪華なソファーで寛ぐお姉様を見ても上流階級の人なのだろう。みんなドレス姿で綺麗ですけど、ボクは普通のワンピースだし、恵美さんなんてTシャツに超ミニなスカートですよ。場違いな感じがしてしまうけど、先頭を歩くミウちゃんはTシャツにミニスカート姿だけど堂々と歩いています。モデル歩きがカッコイイですね。

 ビシッとした制服姿の店員さん達にお辞儀をされるミウちゃんが、フロントのお姉さんに何やらお話をしています。そして受付のお姉さんから鍵を2枚受け取っていました。あの、お会計とか大丈夫なのでしょうか!? 一泊数十万円って聞きましたよ!

「はい、コレが部屋の鍵ね。とりあえず夕飯なったら呼ぶから部屋で休憩しよ」

「……は、は~い」

「分かったわ。……って、ちょっとくらい説明しなさいよー!」

 ミウちゃんの堂々とした振る舞いに流されるところでした。恵美さんがツッコミを入れてくれて助かりました。庶民代表のボクには、このホテルはレベルが高すぎて辛いです。

「もう、しょーがないな~。それじゃお茶でも飲もっか♪」





 そう言ってミウちゃんがオシャレなラウンジへ案内してくれました。店員さんにゴニョゴニョと会話を交わし、ラウンジの奥にある個室へ……。やはりミウちゃん、只者じゃないですね!!

「みんな何が良い?」

 ミウちゃんがメニューを見せてくれたけど価格が凄かった。コーヒー1杯で3千円とかしますよ? えっと、水で良いかな?

「ぼ、ボクは喉渇いてないから大丈夫ですぅ~」

「ちょ、ユウコったら何を遠慮してんの? いつも何飲んでんの?」

「あ、アイスティーが多い……かな?」

「おっけー!」

 ミウちゃんに気遣われてアイスティーを注文しました。しかもボクだけ特別にチョコレートパフェまで頼んでくれたのです。ミウちゃん優しいです。ちなみに、恵美さんとミウちゃんはホットコーヒーでした。どれも金額がぶっ飛んでいた。

 しばらくすると注文した商品が運ばれて来ました。ボクの目の前にはアイスティーとチョコレートパフェです。パフェは小さめですが、瑞々しいフルーツが盛り沢山で美味しそうですね!

「いただきます~。はむっ……うん、美味しいです!!」

「出た! ユウコったらその感想しか言えないっしょ!!」

「ユウちゃん可愛いわ~」

「ううぅ……」

 無意識に美味しいですって感想が出て来ました。プルンプルンピーチの時からレビューの練習をしているけど、無意識に出て来る言葉はいつもコレなのでした。だって凄く美味しいんだよ!!

 ボクは恥ずかしくなってモグモグとパフェの山を崩して行ったところ、恵美さんが本題に入った。

「それで、ミウって何者なの? ここって普通の人は入る事も出来ないでしょ」

 そう、そうなのです! パフェに夢中だったけどボクも気になっていたのです。

「あはは……うん、あーしの名前は神楽坂美羽かぐらざかみうって言うの。はい、コレ」

 ミウちゃんが自分のIDカードを見せてくれました。そこには顔写真とお名前がしっかりと書いてあります。つまり……。

「もしかしてミウちゃんって……」

「うん。あーしのママがこのホテルのオーナーなの。まあ他にも沢山ホテルあるけど、ここが実家になるのかなー」

「……しゅごい」

 まさかのホテルオーナーの娘さんでした。え、もしかしてボクはこれからそんな凄い人に『娘さんをボクに下さい!』ってしに行くのか!?

「ミウってば本物のお嬢様だったのね~。てかユウちゃんで大丈夫なの? 婚約者とか居るんじゃないの?」

「……っ!?」

 そうだ、ミウちゃん程の美貌と家柄を持つお嬢様なら引く手あまただろう。きっとボクみたいなどこの馬の骨とも分からない人間と結婚させる訳がない。きっとご挨拶に行ったところで、『帰れミジンコが!』って感じで追い出されるのだろう……。ガクガクブルブル。

「あー、大丈夫。うちって放任主義だからさ、自立してれば何も文句言われないからねー」

「ふーん。まあユウちゃんがポイッてされたら私が慰めて上げるからね~」

「うわっ」

 不安そうにプルプルと震えるボクを気遣ってくれたのだろう、恵美さんがギュッと抱き着いて来た。うん、安心する……。

「ちょっ、そんな事にならないしー! ユウコもデレデレすんなー!!」

 ちょっと不安だったけど、何とかなのかな? ボクの事をこんなに思ってくれる女性が居て、嬉しかった。





 ラウンジから出たボク達が案内されたのは、ホテルの最上階にあるお部屋でした。あの、最上階って一泊おいくら万円ですか?

 真っ赤な絨毯が敷き詰められた通路には、絵画や壺が展示されています。ボクが見てもサッパリですが、きっと有名な作品なのでしょう……。

 エレベーターから降りると、左右にそれぞれ3つのお部屋があり、正面一番奥にも1つお部屋があるようでした。

「じゃあ夕飯の時間になったら呼ぶからゆっくりしててねー」

「……」

「……」

 そう言ってミウちゃんが自分の部屋に入って行きました。残されたボクと恵美さんは、ポカーンとした顔で見つめ合うしか無かったのでした。ちなみに、ミウちゃんの部屋はエレベーター降りて右側の2番目のお部屋です。

「えっと、とりあえず入りましょうか」

「そうね……。じゃあしばらく間、ゆっくりさせて貰いましょうか」

「分りました~」

 恵美さんがエレベーター降りてすぐ左のお部屋、ボクは正面一番奥の1個手前の左側にあるお部屋でした。

 鍵を開けて部屋に入ってみると……。

「……しゅごい」

 まるで新築のリビングのような凄いお部屋でした。フカフカのソファーもあるし、大きなテレビもあります。そして窓から見える景色はと言えば、地上を見下ろす絶景が広がっていたのでした。

 ソファーの上にバッグを置いたけど……ボクはどうしたら良いのだろうか?

 外の景色を見れば、日が落ちて来ている。もうすぐ日が沈むのだろう。そう言えば夏子さんと桜さんは心配してないかな? 今になって不安になってきました。でも『お尻が痛いので恵美さんとミウちゃんと一緒に療病の旅に出ます』って書き置きを残して来たから大丈夫だよね。うん、きっと恵美さんがフォローしてくれているだろう。二人はちょっと反省した方が良いと思います。アリスさんは初犯なので許します!

 そんな事を思っていたら、コンコンとドアがノックされた。夕飯のお時間だろうか?

「は~い!」

 急いでドアを開けて見たら、メイドさんが立っていた。髪型とか服装は違うけど、この軍人のような鋭い鋭い目付きは覚えている。確か美奈子さんと呼ばれたお方だ!!

 ボクに何か用があるのだろうか……。もしかして暗殺か!?
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