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第18章 新章(仮)

第647話 レア魔狼族発見!

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「ねぇ、ケビン君。何処に向かってるの?」

 そう問いかけるのはティナである。戦場で遊んでいたケビンが転移でいきなり現れたかと思いきや、そのまま結界護送で空中移動に巻き込まれたからだ。

 それに対してケビンは強制拉致の理由を答える。

「前にイエッティが言ってただろ? 魔狼族の魔王が代替わりして、その魔王が体の一部を変化させて武器にするって」

「ああ……そんなこともあったね」

「で、そのスキルはソフィが殺人勇者に与えたスキルで、多分種族特性とか余程のことがない限り手に入らないスキルだ」

「それで?」

「例えて言うのなら……魔王が小鳥とかに化けたりしたとしよう。普通の人なら鳥とかに注意を払ったりしないだろ? だから、誰に知られることもなく平然と殺しができるってことだ」

「ちょ……それって危ないじゃない!?」

「まぁ、これはひとつの例え話だから。魔王がそこまでスキルを熟知していなければ問題ない。イエッティの話にもあった通り、体の一部を武器に変化させることにしか使えていないから、体自体を変化させることができるって発想がないのかもな」

 そう言うケビンの結論によりティナや他の嫁たちも安堵の息をこぼすが、それでもやはり万が一ということもあるので楽観視はしていない。

「そういうわけで一歩間違えれば危険なスキルだから、魔狼族を見つけたついでに厄介な魔王を殺してしまおうと思ってな、魔王が居るであろう住処に向かっているってわけだよ」

「そうだったんだ」

 そう答えたティナが目的地とそこへ行く理由に納得していると、眼下ではさっさと撤退して逃げ出した魔狼族の部隊が見えてきた。

 その魔狼族の部隊は負傷者を乗せた馬車に合わせているのか、騎馬だけで走るよりも遅い速度だが、それでも急いでいるらしくのんびりとした行軍からはかけ離れている。

 そして、ケビンはその帰還部隊には目もくれず、さっさと追い越しては帰還部隊の進行方向へ向かって行くが、魔狼族がそれに気づくことはない。

 それもひとえに、ケビンが結界に対して気配遮断と認識阻害を付与していたからにほかならない。そのような安全措置を取った上で、ケビンは【マップ】を確認しながら軍が帰還するような大きな街を検索しているのだった。

 それからしばらくした後に、ケビンは村ではなく街と呼べるような規模のものを【マップ】によって発見する。それを見つけたケビンは、目的地まで一気に速度を出して到着を急いだ。

 やがて、ケビンや嫁たちの視界でも街の存在を確認するまでに距離を縮めたケビンは、徐々に速度を落として地上へ降り立った。

「ふへぇ~魔族をバカにするわけじゃないけど、ちゃんとした所だな。さしずめ、魔王がいるから王都ってところか?」

 そのケビンたちの視界に映るのは外壁をしっかりと作っており、なおかつ、中心部には立派な城が建っている王都そのものである。

「ここが目的地なの?」

 この地に降り立ったことで十中八九そうであることはわかるのだが、念の為の確認としてティナがそう訊ねると、ケビンは「魔王がここにいることを【マップ】で確認したから、恐らく間違いないだろう」と返答をする。

 そして、ケビンが仮称王都に向かって歩き出すと、嫁たちも遅れてそれに追従するかのようにして歩き出した。

 すると、王都入口から馬を走らせる1人の魔狼族が姿を現す。その魔狼族は銀色の毛並みを煌めかせ、如何にも他の魔狼族とは違いますよといった雰囲気である。

「ぎ……銀狼だ……」

『か、怪奇な書類!? それとも血骨!?』

「正真正銘の銀狼だっ!」

『如何にもな容姿!? 魔王キタコレ!』

 叫ぶケビンが銀色の毛並みをした魔狼族に驚いていると、その魔狼族もまたケビンがいることに驚いている。どちらもその存在がここにいることを、端から予想だにしていなかったのだ。

 ケビンは銀色の毛並みを持つ魔狼族が存在していることに。魔狼族は報告にあった者と同一人物かはわからないが、人族がここにいることに。

 そして、お互いがお互いに驚愕しているままではいられず咄嗟に口を開いたが、その行為が同時であったために更に驚いてしまう。

「「誰だ、お前は?!」」

「「なっ!?」」

 ここまで異口同音であるのならば、誰かしら『仲良しな友達かしら?』と疑ってみたくもなるというもの。そして、奇しくもそう思った人物がここにいた。

「ケビン君、実は友達だったりする?」

 空気を読まずにそう言ってのけるのはティナである。

 いつもフラフラしているケビンの交友関係は謎が多いため、全ての友人を把握できていないティナが可能性の問題としてそう言ったのだが、それを言われたケビンはたまったものではない。

「そんなわけないだろ! 知り合いだったら『誰だ』なんて言ってないし!」

「そこはお約束というか……ノリみたいな?」

 そう言うティナによって、危うく銀狼との友達認定をされてしまいそうになるケビンだったが、全力全開の否定をすることにより、見ず知らずの魔狼族と友達であるという訳のわからない状況はなんとか回避できた。

 だが、友達認定を受けそうになったのは、何も全力否定するケビンだけではない。友達と言うからには、その相手役が必ず現実にいるのだ。エア友達という架空の相手でない限り。

 そして、その相手役でもある銀色の毛並みを持つ魔狼族はケビンたちが騒いでいる中、1人ぼっちで放置されている。その扱いによってプルプルと肩を震わせながら。

「さっさと、名乗りやがれ!」

 そして、いきなり聞こえてきた怒声により、騒いでいたケビンたちがようやく空気狼を再認識すると、ケビンがあんまりな物言いをしてしまう。

「あ……いるの忘れてた……」

 そのあまりにも不遜極まりない物言いによって、魔狼族の男は怒髪天に達した。

「言うに事欠いて『忘れてた』だとぉおお……人族がここへ何しにきやがった!」

「魔王討伐だけど」

「貴様っ、勇者か!?」

「いや、冒険者」

 ケビンの返答によりガクッと肩透かしを食らってしまった魔狼族の男だが、冒険者というものがここまでやって来られるのか、疑問が後を尽きない。

 そもそも魔大陸には冒険者というシステムはないからだ。それがない故に、冒険者の仕事内容もその強さもわからない。それがわかるのは、人族社会の情報を収集している魔族くらいだ。

 だが、目の前の自称冒険者は、間違いなく「魔王討伐」と口にしたのだ。それを口にする以上、『魔王を倒せるほどの実力を持っているのか?』と考えずにはいられない。

 しかしながら、それを鵜呑みにするほど魔狼族の頭はお花畑ではないが、少なくとも魔大陸の内陸部まで来ることができている時点で、相当な実力者であることが窺えるのも確かだ。

 そのように様々な思考を頭の中で巡らせている中、魔狼族の男は馬から降りて戦闘態勢をとる。相手がどこの誰であろうとも、やることは変わらないからだ。

 そして、目の前の魔狼族が馬から降りて身に纏う雰囲気を変えたことにより、ケビンもまた身に纏う雰囲気を変える。

「母さんたちは下がっていて」

 ケビンからそう言われたことで、ティナたちが戦闘の邪魔にならないように距離をとると、それを確認したケビンは【黒焰】と【白寂】を装備した。

 その後、ケビンが刀を鞘から抜き放ち構えを取ると、それを目にした魔狼族の眉がピクリと反応する。

 そして、緊張感高まる中で、どちらからともなくほぼ同時に地面を踏み抜いた。

 お互いに真正面からぶつかり合うかのようにして間合いを詰め、金属音のぶつかり合う音が鳴り響く。すると、嫁たちの視線の先では2人が鎬を削っており、その光景は傍から見れば信じられないものとして映る。

 片や斬れ味を追求した相手を殺すための刃物であるのに対して、もう一方はただの爪が変化して伸びたものであったからだ。

 そのただの爪が金属音を鳴り響かせるなど聞いたことがない。普通なら爪が切り落とされて、そのまま胴体なりなんなりかが刀によって斬られていてもおかしくないのだ。

「どういうこと……? 爪だよね?」

 戦闘を見学していたティナが自然とこぼしてしまった疑問によって、ニーナは同意するかのようにして頷き、クリスはお手上げといった感じで思いつきの考えを口にする。

「魔力でも纏わせているのかもねー」

 クリスのみならずその発言を聞いた他の者も、単純に武器で斬ることができないのなら、それはもう魔力を纏わせて強化しているのだと予想する。

 だが、それだけなら金属音が響く理由にならない。結局のところ、わからないことはポイッと棚上げするしかなく、嫁たちはケビンの戦闘に集中していく。

「爪が伸びるなんて、腐っても魔王ってところか?」

 そして、鳴り止まない剣戟の音の中でケビンが挑発じみた言葉を発すると、魔狼族の男はまだ名乗ってもいないのに魔王だと断定して話しかけてくるケビンを訝しむ。

「……腐った魔王をご所望なら、この地を無視して西へ迎え。アンデッドの魔王がいるぞ」

「ノーライフキングか……? 面倒くさそうな相手だ……なっ!」

 そのような感想をこぼすケビンが相手の爪を弾き、胴がガラ空きとなったことで左手に持つ【白寂】で斬りつけるが、ひと足早く魔狼族の男が回避行動をとっており、ファーストアタックが失敗に終わってしまう。

 すると、今度はお返しとばかりに魔狼族の猛攻が始まり、ケビンは防戦一方となる。

 その猛攻を紙一重で躱していくケビンだが、伸縮自在の爪により危うい場面が散見されると、それを物語るかのようにして衣服が僅かばかり切られていた。

「チッ……物を切れる爪とか……銀狼のくせにシ〇ーハンズ気取りかよ!」

『チョキチョキと帝都の植木でも剪定してもらいますか? サナ的にはリンちゃんやシャンちゃんみたいな、カワイイ系の植木に仕上げてもらいたいです』

 ケビンの発した言葉に何かしら思うところがあったのか、魔狼族の攻撃に僅かな乱れが生じてしまう。すると、これ幸いと言わんばかりにケビンが距離をとって仕切り直そうとする。

 だが、瞬時に持ち直した魔狼族が追撃し、ケビンと切迫する。

「逃がさねぇ!」

「くっ……《ファイア》!」

 切迫されそうなケビンが次に打った手は、ケビン流嫌がらせ術のひとつ、“両手が使えないのなら魔法でビックリさせればいいじゃないの”だ。

 それにより眼前に現れた火によって、魔狼族はまんまとビックリしてしまい追撃の手が止まると、これを機にケビンは距離をとり、ひと休憩とばかりに呼吸を整え始めた。

「ケビン君、押されてる?」
「遊んでる?」
「西へ行くにつれて魔王も強くなるってイエッティが言ってたし、そのせいじゃないかな?」
「ケビンが押されるなんて、世の中は広いのね」

 ケビンと魔狼族の戦いを見ている4人がそのような会話をしていると、視線の先では再び2人の戦いが始まっていたが、やはり戦況はケビンが押されているようだ。

 その理由として上げられるのは、いくらケビンが間合いを測ろうとも伸縮自在の爪が厄介なことこの上なくて、適切な距離感というものが測れないでいるからだ。

 本来ならば爪よりも刀の方が長い分リーチを活かせるはずなのに、伸びる爪のせいでそのリーチを活かせずにいる。

「厄介なっ――!」

 敵の厄介さに舌打ちをしたくなるケビンだが、そもそもの原因は何なのかを考え込む。

 すると、思い出してしまうのは破格のスキルをソフィーリアから与えてもらいながらも、それを活かせぬまま魔王に奪われてしまった殺人勇者のことに行きつく。

(こんなにも苦戦するのは、全部あいつが悪い!)

 兎にも角にも、既に接近戦ではかなり分が悪いと感じていたケビンは、サラたちが離れていることを再確認すると魔法を併用しながらの戦闘に切り替えることにした。

「ゼロ距離からの……《ファイアアロー》!」

 ケビンのすぐ側で顕現した多数の火矢。その光景に魔狼族の男は目を見開いて驚くも、ケビンもまた同じように驚いていた。

(思っていた以上に熱いっ!?)

 だけど我慢、されど我慢。我慢強さが昔よりも少しだけ成長しているケビンは、なんとか熱さを我慢する。

 そして、一斉に射出された火矢は、魔狼族の男に向かってゼロ距離に近い状態から飛来した。

「銀色の毛並みなんか燃えてしまって、ハゲ狼になっちまえ!」

 とても子供じみたセリフとともにバックステップで距離を取ったケビンは、魔狼族の状況を確認する。

 するのだが……

「…………へ?」

 緊迫した空気の中で、とても間の抜けたケビンの声が口から溢れ出してしまう。

 その原因となったのはケビンの視線の先において、身を隠せるほどの大きな盾らしきものが火矢を防いでいるのを見てしまったからだ。

「ずりぃぞ、それ! 全然当たらねぇじゃねーか!」

 子供の癇癪のように猛抗議するケビンだが、火矢を防いでいる最中の魔狼族からは正論を返されてしまう。

「盾に当たってるだろーが!」

「俺が当てたいのはお前だ! 盾じゃない!」

 そう言い返したケビンが次に取った手段は、新たな魔法の追撃だ。

「《ビリビリアロー》! 感電でもしてしまえ!」

 基本的にイメージさえしっかりしていれば、魔法名なんてどんな名称でも実行できるケビン。さすが無詠唱の使い手と言ったところか。

「あれ……ライトニングアローだよね?」
「ビリビリアローなんて魔法、聞いたことがない」
「確かに当たるとビリビリするよねー」
「あらあら……」

 ふざけた魔法名でも発動させているケビンに驚嘆していないこともない?4人の会話は、既に緊迫感の欠片もない観客然としたものであった。

 だが、その雷矢でさえも防いでしまう魔狼族。そして、ケビンの魔法攻撃を防ぎきった魔狼族は、今度はこちらの番とばかりに攻撃を仕掛ける。

 その第一歩を踏み出し、二歩目で更なる加速を加えようと地面を踏み抜いた。

 そう、読んで字のごとくまさに踏み抜いたのだ。

 ――ズボッ……

「やーい、やーい、引っかかったー!」

『平然と落とし穴を仕込むマスター! そこに――』

《痺れる前に、大人としてどうかと思うわよ?》

 とても子供じみたというよりも、子供と同レベルの発言をしてしまっているケビンの目の前では、落とし穴という罠に落ちてしまった魔狼族が呆然としていた。

 その魔狼族の男は未だかつて生死をかけるような戦いで、子供のイタズラかと言わんばかりの戦法を取られた経験はなく、その行為に対しての理解が追いつかないのが現状だ。

 呆然とする魔狼族の目の前には土の壁。上を見上げてみれば晴れわたる空。耳をすませてみれば、聞こえてくるのはケビンの揶揄。

 そして、次第に理解が追いつき出した魔狼族はプルプルと震えだしており、今にも怒りが天元突破しそうだ。

「あれはないわー」
「鬼畜」
「シアとティのイタズラみたいだねー」
「ケビンったら、子供みたいね」

 クリスが言ったように、イタズラという点において右に出る者はいないと誰しもが認める、スカーレットの娘である双子姉妹のフェリシアとフェリシティ。奇しくも、ケビンが行ったのはそのような子供レベルの仕打ちだった。

「これぞ俺流嫌がらせ術!」

『白熱したバトルの中で、空気を読まず落とし穴に落とす所業っ!』

《大の大人がすることではないわね》

「勝てば官軍なのだ! 今こそ好機! 《コズミックレイ》対1人バージョン!」

 穴に落ちている今こそ蹂躙の時! 勝てば官軍と言って憚らないケビンは、対数の暴力戦で用いる魔法をたった1人のために発動する。

 魔狼族の頭上に現れた魔法陣はひとつだけだが、今から理不尽が襲いかかってくるなど、当の魔狼族は思いもしないだろう。

 魔法陣が輝き出すと同時に降り注ぐ、雨あられのごとき光線。当然のことながら対数の暴力戦用なので、1人用に改変したとしてもピンポイントで落とし穴に降り注ぐわけでもなく、落とし穴の周囲はボコボコと地面を削られていく。

「フハハハハハ!」

 まるで、悪の魔王のごとき高笑いとドヤ顔を披露しているケビン。まさに勝利を確信したと言ったところか。

 しかし、その光景を眼にしているのは、何も嫁たちだけではない。ここまでド派手に騒音を撒き散らしていれば、王都入口から中の住民も外の様子を窺うというもの。

 というよりも、魔狼族の男が出発した時点で見送りの魔狼族たちは最初から全てを見ていた。

 最初は人族がいたことに度肝を抜かれていたが、魔王様が負けるはずもなしと高を括って見物していたし、戦闘の流れも魔王優勢となっていたのだ。

 そこにきての落とし穴。そう、落とし穴である。『いつの間にっ!?』という思いが魔狼族たちの中に芽生えたものの、『それやるぅ?!』という信じられない思いというのも同時に芽生えていたのだ。

 そこからの蹂躙戦。というよりも、理不尽。見学者と化していた魔狼族たちの心は、皆一様に『オワタ』と化した。

 残虐非道な勇者が魔王を倒してしまえば、残るのは現地人に対しての蹂躙。

 家宅侵入されたあげくタンスを物色されると、『なんだ、布の服かよ』と吐き捨てられ、エッチな下着があれば『テンプレキタコレ!』と、訳のわからないことを言っては盗んでいく始末。

 他には壺を割り始めると何故か金がないか探し出し、『そんなところに金を仕舞うかよっ!』と、被害者たちは一様に思い浮かべるのだが、相手は残虐非道な勇者である。言えるはずもない。

 そのような起こりうる未来に対して、魔狼族たちや魔人族たちの絶望は伝播していき、結局のところ『魔王様、負けないで!』と心をひとつにしていくのであった。
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