面倒くさがり屋の異世界転生

自由人

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第18章 新章(仮)

第613話 俺TUEEEE君、動く

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 ケビンが魔王狩りツアーを続けている頃、魔大陸のとある地では俺TUEEEEこと東西南北よもひろが、相方のダーメと一緒に過ごしていた。

「なあ、いつまでこのまま修行しなくちゃなんねぇんだ? 魔物相手はもう飽きたんだが?」

「焦り過ぎだ。お前たちの世界の言葉にあるんだろ? “継続は力なり”ってのが」

「その言葉は当てにならないぞ。結局のところ決め手となるのは才能のあるなしだ。いくら才能のないやつが継続したところで、大成はしない。お前にもわかるように言えば、ただの村人がドラゴンに挑み続けるようなもんだ。継続していれば、村人がいつかドラゴンを倒すとでも思うのか?」

「……思わないな」

「そういうことだ。そういう言葉ってのは、成功者だけが口にできる不確かなものなんだよ」

「成功者の世迷い言か……」

「おっ……いいな、それ。格言は全て世迷い言に認定しようぜ」

 東西南北よもひろが卑屈な自己解釈によって格言を世迷い言認定すると、地球の格言なぞ勇者たちの残した記録分しか知らないダーメは、その中でも使えそうな格言がありそうだと思っていたが、東西南北よもひろが上機嫌なこともあり口にすることはなかった。

「それよりも今は別のことをしようぜ。心機一転って言うだろ?」

 東西南北よもひろはやはり修行に飽きていたのか、ダーメに対してそのように言う。

「……仕方ない。魔大陸に新たな侵入者がやって来ているが、それよりも別のところにいるやつにする」

「新たな侵入者? 別にそいつのところでいいだろ?」

「今のお前では天地がひっくり返っても勝てない」

「なんだと?」

 戦う前から敗者認定された東西南北よもひろは、鋭い視線でダーメを睨みつけるが、ダーメからしてみれば何処吹く風である。それは、未だに東西南北よもひろがダーメに勝てないことに起因する。

「それに……あいつは俺の獲物だ。お前がどれだけ強くなろうとも譲るつもりはない」

 今度はダーメが東西南北よもひろを睨みつける番となり、その視線が東西南北よもひろを射抜く。

 すると、いつも落ち着いているダーメが感情を剥き出しにした視線を向けてきたため、その視線に射抜かれている東西南北よもひろは、無意識のうちに後ずさりしてしまったのだった。

「べ、別にお前の獲物を取るつもりはねぇよ。それに自分の獲物なら話題に出すなよ。出さなければ俺だって知らないままだったんだからな?」

「……それもそうだな。久しぶりに使い魔越しに見たせいか、気持ちが昂ってしまったようだ」

「使い魔越しに見られるのか?」

「使い魔との距離によって魔力の消費が変わるから、常時発動はできないがな。俺は基本的に使い魔はペアで行動させている。1匹はそのまま監視用で、もう1匹がその間に連絡を寄越すように」

「つまり……監視用で張り付いたままの使い魔の視覚を利用したわけか……」

「そういうことだ。そいつはまだ魔大陸の入口付近をうろついていて距離があるせいで、ここからだと魔力の消費量が半端ないから数分間見るのが限界だがな」

「それでもスゲェよ。それがあれば女湯を覗き放題ってことじゃねぇか」

 相変わらずゲスな考えを隠すこともなく晒す東西南北よもひろに対し、ダーメは東西南北よもひろの強さはそれなりのものだと認めているが、頭の中身はそこら辺にいる盗賊並の三流だと再認識していた。

 よもや、このような者が人族の希望でもある勇者だと思うと、数多いる人族に対して同情を禁じ得ない。

 それでも扱いやすいタイプの人間ではあるので、ダーメにとってはありがたくもあるのだが。

「はぁぁ……やっぱり俺も使い魔が欲しいぜ」

「それなら、今から行く道中で何か捕まえてみるか? 今のお前なら大抵のものは使い魔にできるだろう」

「そんなすぐに使い魔になるのか?」

「俺が道中に使い魔用の使役魔法を教えてやるが、覚えられるかどうかはお前次第と言ったところだな」

「フッ……【覇王】たるこの俺に不可能はねぇ。俺が突き進むのは覇道だ。せっかくだ……念願のドラゴンでも捕まえてやるぜ」

「まぁ、今のお前なら若いドラゴンくらいなら何とかなりそうだが……」

「当たり前だ! これでドラゴンの1匹すら倒せねぇようじゃ、修行した意味がねぇ。狙うは俺に相応しいブラックドラゴンだ!」

「っ! 馬鹿か、お前は! ブラックドラゴンにだけは手を出すな!」

 いきなり声を荒らげるダーメに対し、東西南北よもひろはキョトンとしてしまう。

「なにをそんなに慌ててんだ?」

「馬鹿だ、馬鹿だとは思ってはいたが……ここまで馬鹿だったとは……」

 呆れてものも言えないとは、まさにこのことなんだろうとダーメは頭を抱えてしまいそうになる。

「てんめぇ……馬鹿馬鹿言い過ぎだろうが!」

「お前……ブラックドラゴンを束ねるものが、最古の魔王だと教えたのを忘れたのか?」

「ん? 最古の魔王……?」

 ダーメから言われたことに対して、東西南北よもひろは頭を捻って思考を巡らせていると、思い出したかのように手をポンと叩いて口を開いた。

「確かに教わったな……魔大陸の西に領地を持つ、最強の一角だったか?」

 東西南北よもひろは当時その話を聞いた時に、最強なのに一角と言われている時点で、実は大したことないのだろうと完結していた。

 その東西南北よもひろの考えは“最も強い”から“最強”なのに、それでも一角ということは、最強の一角と言われている魔王が他にもいると踏んでいたからだ。

 それゆえに当時の話を話半分にしか聞いておらず、記憶にもあまり定着しなかったというわけである。

「もう一度言う。ブラックドラゴンには手を出すな。あいつらは基本的に、縄張りに入ってこないものに関しては我関せずなんだ。眠れる獅子を起こす必要はない」

「弱腰な……それなら、はぐれでいるブラックドラゴンなら構わないだろ? 別に縄張りを犯したわけでもないし、最古の魔王さんの逆鱗には触れねぇ」

 その問いかけに対してダーメは深く考え込む。

 このまま東西南北よもひろの要望を否定するのは簡単だが、それだと東西南北よもひろのことだ。無謀にもブラックドラゴンの縄張りに入り戦いかねないと、ダーメはすぐさまその未来を予想することができた。

 せっかく手に入れた“勇者”という手駒。ここまで育成したのにそれが水泡に帰すれば、今までの労力が無駄になる。それだけは避けたいところであるのが、今のところのダーメの思いでもある。

 そうなるとダーメに残された選択肢は、はぐれでいるブラックドラゴンの使役を了承するしかないのだが、了承するにしても確証が欲しい。失敗すれば、待っているのは黒龍王からの報復だからだ。

 だからこそダーメは考える。

 過去には、フィリア教団がブラックドラゴンの討伐に成功しているのを文献から知っている。そして、フィリア教団は黒龍王からの報復を受けていない。

「よし、とりあえずは魔大陸の東。セレスティア皇国にドラゴンが棲息していたら好きにすればいい。魔大陸ではブラックドラゴンに手を出すな。これが条件だ」

「……仕方ねぇ。それで手を打つか」

 お互いに妥協点が見つかったところで、東西南北よもひろはさっそくセレスティア皇国を目指すべく足早に歩を進める。

「おい、なにしてる。早く向かうぞ。お前には使役魔法を教えてもらわないといけないんだからな」

 教えてもらう立場だというのに強気な発言でダーメを急がせる東西南北よもひろだが、ダーメは一回り近く離れている年下の言うことに一々腹を立てることはしない。

 何故なら、いざという時は拳でわからせればいいと思っているからだ。

 結局のところ、ダーメはやれやれといった感じで、サクサクと先に進んでいる東西南北よもひろの後を追うのであった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「こいつは速ぇーな、おい!」

「まさか本当に使役するとはな」

 今現在、東西南北よもひろとダーメは空の旅にて移動中だった。

 あれから東西南北よもひろはダーメに使役魔法を習い、見事習得してみせた。そして、旅の途中でたまたま見つけた空を飛ぶドラゴンに喧嘩を売り、危なげなく倒してしまった後は使役魔法を使って使い魔にしたのだった。

 その東西南北よもひろの使い魔第1号となるドラゴンは、グリーンドラゴンと呼ばれる種類である。

 この種のドラゴンは縛られるのを嫌い、自由に空を飛び回ることが三度の飯よりも好きで、今回も自由に空を飛んでいた時に、不運にも東西南北よもひろに目をつけられてしまって現在に至る。

「お前も強いんだから、ドラゴンくらい使役すればいいだろ」

「ドラゴンだと偵察や監視に向かないだろ。そういうのは、どこにでもいるやつを使役するからこそ活きてくるってもんだ」

「ああ、確かに向かないな。こんなのが近くを飛んでいたら、監視する以前に大騒ぎだな」

「そういうことだ」

 ダーメがドラゴンを使役しない理由を聞いた東西南北よもひろは、もうその話に興味をなくしたのか、自身の使役しているドラゴンの話題に切り替えた。

「それにしても、結構な速度が出てるよな」

「グリーンドラゴンは、他の種に比べて飛ぶことに長けているからな」

「そうなのか?」

「ドラゴンっていうのは、その体色によって得意とすることが変わってくる。グリーンドラゴンは風属性を得意とし、空を飛ぶのにそれを利用している」

「へぇーそいつは面白いな。各色取り揃えてみるか」

「それは無理だろうな。赤、青、黄、茶までなら運が良ければなんとかなるだろうが、黒は説明した通りではぐれを見つけないといけないし、白に至っては何処にいるのかすらわからないのが現状だ」

「絶滅したのか?」

「さあな。過去の文献によれば白い鱗という希少性から一時期乱獲があって、それにより個体数が減ってからは姿を見なくなったそうだ」

「絶滅してそうだな」

「それはない。フィリア教団お抱えの神殿騎士団テンプルナイツの装備は、各色ドラゴンの素材を使っているみたいだからな。白の騎士団ホワイトナイツの装備が整っている以上、絶滅はしていないだろう」

「あぁぁ……そういえば、そういう騎士団がいたな……そうか、あいつらはドラゴンの素材を使った装備を身にまとっていたわけか。それで、ドラゴンの色と同じ色の騎士団があったんだな」

 遠くを見つめる東西南北よもひろは、今となっては懐かしいフィリア教団での生活を思い出しながらダーメの話に相槌を打っていた。

「……で、俺たちはこのままセレスティア皇国へ向かって何をするんだ?」

「まずは、お前の欲求を満たすためにドラゴン探しだ。その次はお前の獲物である勇者たちとの戦闘だな。おあつらえ向きに一部の勇者たちが、負け戦をしているセレスティア皇国を救おうと現地入りしている」

 その言葉を聞いた東西南北よもひろは、ニヤッと口角を吊り上げた。

「クク……そういうことか……俺の今の力を試すにはちょうどいい。あまりにも力の差があり過ぎて、瞬殺してしまわねぇようにしねぇとな」

「せいぜい足元をすくわれないようにな」

 ダーメの忠告は東西南北よもひろに届いていない。既に東西南北よもひろの中では、勇者たちをどのようにしていたぶるかの思考が頭の中を支配していたからだ。

 そのような姿の東西南北よもひろを横目に見るダーメは、余程のことがない限りこのまま調子に乗った状態でも勝てるだろうと、皮算用を始めていた。

 こうして東西南北よもひろとダーメは、セレスティア皇国の最前線とも言える戦地へ向けて、ドラゴンの背に乗ったまま空の旅を続けていくのであった。
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