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第18章 新章(仮)

第610話 ケビン誘拐事件!?R

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 お昼休憩を終えたケビン一行は午後から南へ向かって突き進み、その道中では案の定魔物討伐勝負を繰り広げていた。そして、南で徘徊していた野良魔王を殲滅したところで、ケビンは次の目的地を何処にするか嫁たちと相談を始める。

「北に行って南にも来た。ここら一帯は魔王のいない空白地帯になったな」

「あまり配下もいなかったし、拍子抜けだね」
「極小規模魔王軍」

「東は戻るから、行くなら西だよねー」
「西にはどんな魔王がいるのかな」

「お母さんはケビンに任せるわ」

「とりあえずイグドラの延長線まで戻って、そこから西へ進もう」

 それからケビンたちはイグドラの延長線上まで戻ってくると、そこから西へ向かって旅を始めるのだった。

 その後も旅は順調に進み、近くに野良魔王を見つけては北へ南へと方向転換をし、魔王の種族制覇は着々と進んでいく。

 そして、順調な旅の中で、今日もケビンたちは野良魔王と戦っている。今日のケビンたちのお相手は、まんまカマキリの姿をしたキラーマンティスの魔王軍だ。

 そのキラーマンティスは両腕の鋭い鎌で素早い攻撃を繰り出し、ケビンが鑑定した結果、【二刀流】ならぬ【二鎌流】なるスキルを持ち合わせていた。

 それゆえか手数の多さから今までのような楽な戦いはできず、嫁たちも手数の多さで勝負しようと、ティナは弓を連射し、ニーナはアロー系の魔法を唱えている。

 そしてクリスは槍ではなく魔法で対処をし、サラは他のメンバーに比べると経験の浅いカトレアの援護にまわり、バイコーンたちも戦闘に参加して敵の数を減らしていく。

 その中でケビンは全員にバフをかけて、危なくならないように全体の援護をしながら戦況を俯瞰していた。

 やがて時間はかかったもののキラーマンティスの軍勢を倒しきると、一同は疲れを癒すためかその場に腰を下ろす。

「ようやく終わったな」

「さすがにここまで来ると楽に勝てる相手が減ってきたねー」

「もうクタクタよ」

「疲れた……」

「カトレアちゃんは大丈夫?」

「疲れました」

「今日はここまでにして、あとはゆっくり休むか」

「さんせー!」

 ケビンの提案にクリスがそう言うと他の者たちも同意を示して、今日の冒険は終わりを迎えることになる。

 それからケビンはキラーマンティス戦の後始末を終えると、【携帯ハウス】を出してバイコーンのセロたちの餌を準備し始めた。

 その様子にティナたちも重い腰を上げて立ち上がり、疲労のせいかのそりのそりと【携帯ハウス】へ向かっていき、さながらその姿はゾンビのようでもある。

 だからだろうか、いつもなら決してとは言えないが、ほぼほぼない凡ミスをやらかしてしまう。

 バイコーンの世話を終えたケビンの【マップ】に敵の反応が新たに出てしまい、ケビンは警戒に当たるが嫁たちは完全にオフモードになっており、あとは家の中に入るだけとあってか【気配探知】のスキルを使っていなかったのだ。

 そして、その差がこの後の行動に影響を及ぼしてしまったのだ。

「敵だ、数は数体」

 誰とはなしにケビンの掛け声に反応はするも、敵がどの方向から来るかがわからずにキョトンとしてしまい初動が遅れる。それは、ケビンなら楽に迎撃できるだろうという安心感も、この場合に限っては後押ししているのかもしれない。

 だが、今回に限って言えばそれは稀にあるミスとも言えるだろう。

 次の瞬間、森の中から現れた敵に対して唯一ケビンは身構えるが、そのケビンは身構えるだけで終わってしまう。

「え……?」

 そして、あれよあれよの間にケビンは糸でがんじがらめにされてしまい、ひょいっと敵から担がれてしまうと、一緒に来た敵に投げ渡されてしまった。

「え……ちょ……待っ……」

 そのままぴょんぴょんとボールをパスしていくかのごとく、ケビンは空中を舞いながら、時には投げられ時には抱えられといった状況に陥る。

 そして、あっという間に敵とケビンは森の中に消えてしまい、あまりの出来事に時間の止まっていたティナが再起動を果たす。

「ちょ、ケビン君が攫われたよ!?」
「追う!」
「は、早く助けないと!」

 ティナに引き続きニーナやカトレアも慌てふためくが、残り2人のクリスとサラは落ち着いていた。

「大丈夫だよー」
「ケビンなら心配いらないわよ」

「えっ!? 攫われたんだよ!?」

「落ち着いて考えてみなよ。たとえ攫われても転移の使えるケビン君を監禁することは難しいよ。むしろ、不可能かも」

「あ……」

 クリスからそこまで言われて、ようやくティナたちは『確かに不可能だ』と思い至る。仮にケビンを監禁できるとしたら、恐らくソフィーリアくらいだろうという結論とともに。

 だが、安心したのも束の間、新たなる問題がクリスの続ける言葉によってもたらされる。

「それに……ケビン君って鼻の下伸ばしてたし、捕まったのは明らかな油断だねー」

「…………え?」

「思い出してみなよ。敵の姿を」

「確か……蜘蛛に女性が合体してたような……」
「文献で見た。アラクネ種」
「それがどう繋がるのですか?」

「彼女ら……蜘蛛だけど彼女でいいのかな? まぁ、とにかく。彼女らは何も着てなかったでしょ? つまり、丸出しだよね?」

「「「……あっ」」」

 そこにきて3人は、ようやくクリスの言わんとしたことがわかった。早い話がケビンはアラクネの体に夢中になってて、倒すという選択肢が頭の中からデリートされていたのだ。

「抱えられた時なんか幸せそうな顔をしてたし、ずっとガン見してたからねー」

「ふふっ、ケビンらしいわよね」

 あれだけ心配していたというのに、蓋を開けてみれば本人は満足気な表情で攫われたというのだ。それを聞かされたティナたちはどっと疲れが出てしまい、思わず溜息がこぼれだしてしまう。

「「「はぁぁ……」」」

「それじゃあ、ケビンが戻ってくるまでゆっくりと過ごしましょう」

「【携帯ハウス】を出しててくれたのがありがたいねー魔物が来ても壊されないで済むし、夜もゆっくり寝られるよー」

 実はこの【携帯ハウス】、ケビンが改良に改良を重ねた難攻不落のログハウスと化していたのだ。

 その理由として、ケビンが許可した者。つまり、この場合は家族限定となるが、それ以外の者になると、ケビンが許可しない限り玄関のドアを開けることすらできない。

 更には、家全体に【不壊】を付与しているためどんな攻撃に対しても傷つくことがなく、唯一【不壊】を超えて傷をつけれるとしたら、それはケビンを上回る攻撃力を有した者だけとなる。

 よって、外敵が侵入できる経路としては換気用の窓や浴室の天窓を開けた際だけとなるが、ケビンがいない状態で嫁たちが窓や天窓を開けるはずもなく、結果的に侵入不可能なログハウスとなってしまうのだ。

 そのような【携帯ハウス】であることから、この後は、嫁たちも気を抜いてくつろぐことができるのであった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 サラたちが【携帯ハウス】でケビンの帰りを待っている頃、ケビンはケビンで森の奥にあった洞窟に拉致されていた。糸によるぐるぐる巻きの簀巻き状態で。

「長、こちらが噂にあった人族の男であります」

「ご苦労。これで我らアラクネ種の強化ができる」

 長と呼ばれるアラクネ種に配下の者がそう伝えると、ケビンは自分が拉致された理由を知るために口を開いた。

「俺はアラクネの強化のために拉致されたのか?」

 そのケビンの疑問に答えたのは、長と呼ばれたアラクネである。

「我らの領土を確保するために、お前には生贄になってもらう」

「生贄……?」

 それから語られたのはアラクネ種の生態であった。今まではスパイダー種の雄を捕まえ、子種だけをもぎ取った後は食料にしていたのだが、それでは大した強さを得ることもできず、今の戦乱を生き抜くことが難しくなったのだと言う。

「うわぁ……雄は食われる運命とか……自然界って恐ろしいな」

「いつまでもこの洞窟に隠れ住むわけにもいかん。あちこちで魔王が勢力争いをし、その影響で我らが種も数を減らしていく羽目に陥ってしまった」

 長の語る内容に周りのアラクネたちは俯いてしまう。それだけでケビンは、アラクネたちが数々の同胞たちの死を見送ったのではないかと理解してしまい、更には周りを見ても10人ほどしかいないことで、それが如実に語られていた。

「だがっ……このまま朽ち果てるような我らではない! 人族の種を取り入れ、アラクネ種の血の強化を図る! その第1号としてお前が選ばれたのだ。光栄に思い、その身を捧げるがいい」

「いや……大事なもんをもがれる上に食べられるとか、断固拒否なんだけど」

「フッ……どう足掻こうとも貴様の未来は確定している。聞けば、貴様は仲間の後ろでコソコソしながら戦うしかできない弱者のようだからな」

 そう言う長は、ケビンが戦闘に参加すると蹂躙するしかないので、仲間のサポートに徹していただけだということを知らない。それは完全に見当外れな物言いであることを否めないが、事情を知らないがゆえに致し方がないとも言える。

「そもそも、異種族間で子を作れるのか?」

 存外に口の軽い長に対して更なる情報を得ようとしてケビンが尋ねると、やはり長は口が軽いのかきちんと教えてくれた。

「我らは半人半魔の種族。スパイダー種だけが子を増やす唯一の方法ではない。今までは報復を恐れて人型に手を出さなかったが、お前を足がかりに強者を増やし、ゆくゆくは魔人族などの更なる強者を捕らえる計画だ」

「あぁー魔人族ね……何気に強いから手が出せなかったってことか。それで? 人族に手を出したところで強い子が生まれるとでも思うのか?」

「当たり前だ。貴様らは魔法を使うだろ。その血を引き継ぐ子ならば、魔法が使える新世代のアラクネとなるであろう」

「そういう計画なわけか……」

 あらかたの情報を引き出したケビンは体のバネを使い跳ね上がると、拘束されたままその場で立ち上がり、ステータスに物を言わせてアラクネの糸をブチッと引きちぎった。

「――ッ!」

 その光景に驚くアラクネたちだったが、ケビンは気にもせずに肩や首を回して体のコリをほぐすのだった。

「――っ、と、捕らえろ!」

 アラクネの糸を引きちぎるケビンを見てしまい、警戒心を最大にした長がそう指示を下したのだが、ケビンは威圧を解き放ち強制的にアラクネたちの動きを止める。

「動くな」

「――ッ!」

 威圧を浴びているアラクネたちは、動いた途端に死が訪れる既視感を感じてしまい、震えている体を自覚しながらも為す術なく立ち尽くす。それを確認したケビンは、静かに歩き出して長に近づいた。

「さて……俺を弱いと誤認識してくれて助かった。警戒心のない相手を手玉に取るほど簡単なことはないからな」

「こ……殺すのか……」

「殺しはしないさ。ちょっと実験に付き合ってもらおう」

 それを聞いた長は“実験”という部分に怪訝な表情を浮かべたが、自身はおろか仲間たちの命でさえ、今はケビンの手のひらの上だということを自覚しているので、拒否権のないことに奥歯を噛み締める。

 そのような状態の長になど構いもしないで、ケビンは【無限収納】の中から種のようなものを取り出しつまんで見せた。

「これはな、暗躍している奴らがばら蒔いたステータスアップの食べ物だ。人族の国へ侵攻してきたオークエンペラーが飲み込んでいるのを見てから、魔大陸にいる魔王の誰かが余りを持ってないか探してたんだ」

「ステータスアップだと……」

 それが事実なら、アラクネ種の強化を図る長としては喉から手が出るほど欲しい代物となるが、ケビンがわざわざ“実験”と言った言葉がどこか頭に引っかかって訝しむ。

「その判断は正しい。うまい話には裏があるって聞いたことがないか? これは1粒飲んだら確かにステータスは上昇するが、2粒目以降は徐々に自我を喪失していく。あれは誰が見ても狂人のたぐいだ」

「狂人……」

「それで既に気づいていると思うが、実験というのはこれをお前に飲んでもらうことだ」

「なっ――!?」

 長としてもステータスアップは望むところだが、狂人になるかもしれないと聞かされてしまい、それを実験しようとするケビンに対して戦慄する。

 だが、それは長の単なる早とちりであることを、ケビンの続く言葉で知るのだった。

「別に狂人になるまで飲ませないぞ。俺が確認したいのは、これを飲んで魔王になれるか否かだ」

「魔王だと……?」

「そうだ。ただの魔物だったものたちが、これを飲んで魔王になる。更に飲めば真の魔王に覚醒するかもしれない。その事実確認のための実験だ。試しに弱い魔物に飲ませてみたが、効果が出る前に自我が崩壊して意味がなかった。魔王に至るためには何かしらの条件が必要なのだろう」

「そう言われて我が飲むとでも思っているのか?」

「飲むだろ。1粒だけなら副作用のない強化方法なんだし、それはお前の望むところでもあるよな?」

「くっ……」

 痛いところを突かれてしまった長が、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべると、ケビンは長に種を飲ませるために指を近づけていく。

「ほれ、あーん……」

 目の前で種を差し出されている長は「あーん」と言われても、素直に口を開けるわけでもなく種とケビンの顔を交互に見ては、どうするべきなのかを悩んでしまう。

 あまりに長いこと悩む長に業を煮やしたケビンは、種を自分の歯で挟むとそのまま長に口づけする。

「んんっ??!!」

 あまりのことに目を見開く長だったが、無理やり舌をねじ込まれて種を送られてしまい、迂闊にもそれを飲み込んでしまった。

「んぐ……ぷはっ……貴様、何をする!?」

「キスだけど?」

「キスとは、何だ!? キスとは! というか、飲んでしまったではないか!!」

 アラクネ種の生態が雄を捕獲し自身の手で繁殖するためか、一般的な男女のまぐわいやそれに至るまでの経緯など知る由もなく、そのことを知らないケビンは戸惑いを隠せない。

「この際、キス云々はともかく。何か体に変化はないのか?」

 ケビンが実験結果を知るためにそう問いかけると、長は改めて自身の体を把握しなおし、内から沸き起こる力に目を見開いた。

「ち……力が……溢れてくる」

「ふむ……」

 その言葉を聞く前から、ケビンはしれっと鑑定で数値を観察していたのだが、“本人の自覚症状あり”という実験結果を得られて満足していた。

「お……おい。頭の中に【捕食の魔王】という声が聞こえたのだが……」

「おお、1粒目で魔王に至ったんだな。それにしても【捕食】か……アラクネらしいと言えば、アラクネらしいが。これに関しても今後の課題のひとつとして要研究だな」

 ケビンはオークエンペラーの時の【悪食】や、今回のアラクネの場合の【捕食】という単語で、称号の前半部分は種族特性が影響するのではないかと仮説を立てる。

 そして、その仮説を立証するためにも、今後は適度に実験を繰り返しながら情報を蓄積しようと心に決めるのだった。

「……長が魔王に……」

 誰とはなしに呟いたその言葉は周りにいたアラクネたちのもので、ケビンからの威圧は既に解かれており、圧迫感を感じていなかったためか自然とこぼれたものであった。

「なんか、オークエンペラーが言うには、魔力を可視化させることができれば真の魔王だって言ってたけど、それはできそうか?」

「魔力を可視化だと……? 魔法の使えない我らがそのようなことをできるわけもなかろう」

「使えねぇ……」

 心底残念な者でも見るかのような視線をケビンが向けると、長は心底心外だとばかりに口を開いた。

「なっ!? 先程から貴様は不遜が過ぎるぞ! 餌のくせに生意気だ!」

「あっ、それで思い出した。そういえば、お前たちは俺を食おうとしてるんだよな?」

「貴様から子種をもぎ取ったあと、生きたまま食ろうてやるわ。我に力を与えたことを後悔するがいい。フハハハハハ!」

 ケビンが飲み込ませた種によって力の増した長が調子に乗り増長するが、相手はあのケビンである。理不尽なことをさせたら右に出る者はいない。

「殺してもいいのは、殺される覚悟のあるやつだけだ」

「戯言を!」

 その言葉とともに長がケビンに飛びかかると、それと同時にケビンも後ろへバックステップし、調子に乗っていた長の目論見は失敗に終わってしまう。 

「ぷぎゃ?!」

 なんてことはない。ケビンは離れると同時に結界を張り、長をその中に閉じ込めたのだ。それを知らない長は、勢いよく結界の壁に顔面ダイブしたことになる。

「『ぷぎゃ』って……綺麗な顔が台無しだな」

「き……貴様ぁ……いったい何をした?!」

 怒り心頭の長だったが、何気に鼻から血を垂れ流しており、どこか締まらない様子である。

「鼻血が出てるぞ」

「くっ……」

 ケビンにそう指摘されたことで鼻血を拭う長は、もはやアラクネ種の長という威厳がなくなりつつあり、コミカルに見えてしまうのだった。

 それからケビンは周りのアラクネたちも結界に閉じ込めてしまい、1人1人観察を開始していく。

「よ、寄るな、人族!」

 既にケビンの威圧を浴びてしまった過去があるので、アラクネたちは力の差を感じてしまい、ケビンが近づくだけでビクビクとする。

「こうやってまじまじと見たら、アラクネの体がどうなってるのかがわかるな。ふむふむ……前2本の脚は人型の脚からの進化か……これは、お尻に蜘蛛の胴体が引っ付いたって感じになるのか? いやはや、人体?の神秘ってやつだな」

「ひっ!」

 ケビンの視姦によって背中がゾワゾワっとするアラクネだが、そのような姿を見せてしまえば、ドSのケビンを喜ばせてしまうだけである。

「くひひひひ……どう料理してくれようか……」

 両手をワキワキとさせながら笑みを浮かべ近づいていくケビン。それを見るアラクネは既に涙目だ。

 第三者がこの場を見たのなら、間違いなくケビンが悪者だと判断するだろう。たとえその場にいたのがアラクネであったとしても。

 そして、悪役顔が板についているケビンに恐怖したアラクネは、逃げようにも結界の中に閉じ込められているため逃げようがない。

 結果、どうなるかと言うと、アラクネは魔王となった長にすがるしか方法が見いだせないのだった。

「お、長っ! 助けて!」

「それ以上、我が同胞に近づくな!」

「だが断る」

「なっ!?」

「いっただっきまーす!」

 ル〇ンダイブさながらの飛びつきを見せるケビンは、瞬時に着衣を【無限収納】の中に仕舞いこむと、涙目で庇護欲をそそるアラクネに抱きついた。

「んんっ??!!」

 そして、人生初となるアラクネのファーストキスは、無惨にも食べようとしていた人族であるケビンによって奪われるのだった。

「んー! んー!」

 ケビンの情熱的なキスに対し必死に振りほどこうとするアラクネだが、無情にもステータス差というものがそれを許さない。

「なに……くちゅ、くちゅ……する……れろれろ……ぷはっ……のよ!」

「何って……セックスだ」

 ケビンの言葉に対してアラクネはキョトンとする。

「まさか……それすら知らないのか!? いや、キスを知らない時点で推して知るべしか……」

「とにかく離れてよ!」

「何を言う。これからがお楽しみの本番だろうが」

「お楽しみなんて知らないわよ!」

「お前らは俺を食べるんだろ?」

「それが何よ!」

「食べてもいいのは、食べられる覚悟のあるやつだけだ」

「私を食べる気!?」

「別の意味でだがな」

 そう言い放ったケビンはアラクネの胸をまさぐり始めるが、対するアラクネは初めての感覚に身をよじり始める。

「やめっ……くすぐったい!」

「おお、まさかの反応! そうか……人型種の交わりを知らないということは、未開発そのものということか!? 白いキャンパスを俺色に染め上げるぜ!」

 こうして訳のわからないテンションになっているケビンは、アラクネの胸を優しく揉んだり、時には口で吸い上げたり、舌で転がしたりと反応を見ながら愛撫を続けると、くすぐったくしていたアラクネの反応が徐々に変わり始めていく。

「や……んっ……あ……」

「どうだ? 気持ちよくなってきただろ?」

 そして、そろそろ頃合いとみたケビンは、アラクネの秘部に手を伸ばしたらその部分を弄りだし、くちゅくちゅと音を立て始めた。

「きゃん!」

 ケビンの愛撫によって、体に電気が走り抜けていく感覚に襲われたアラクネが不意に声を出してしまうと、ケビンは更に興が乗り、アラクネに人生初の絶頂をプレゼントする。

「や、や……何か来る……」

「そのまま感じて、イッてしまえ」

「あっ、あっ……ダメ……ダメ……来ちゃう……あっ、ああっ、んんぅぅぅぅ――!」

 ケビンの手技によって絶頂したアラクネは、体をビクビクとさせながら放心状態となってしまう。そして、満を持してケビンはいきり立つ愚息を秘部に宛てがった。

「こういった対面立位は初めてだな」

 相手がアラクネとあってか、いつものような片足を持ち上げてする感覚とは違い、ケビンはぎこちなくも愚息を秘部に挿入していく。そして、不意に何かを破る感触がした時に、放心していたアラクネが反応を返した。

「い"い"っ――!?」

「あれ……もしかして、処女膜とかがあったりしたのか? 生物の神秘とは奥が深いな」

 まさかアラクネに処女膜があろうなんて思いもしなかったケビンだったが、涙目になっているアラクネを不意に見てしまい、何だか罪悪感に包まれてしまった。

「なんか……ごめん」

「痛い……痛いよぉ……」

 素で痛がるアラクネを見てしまったケビンは、お仕置きする気が急に萎んでいき、ゆっくりと挿入を繰り返して愚息を馴染ませながら、アラクネをいたわるようにして抱いていく。

「どうだ? まだ痛いか?」

「大丈夫……かも……」

「なら、少しペースを上げるぞ」

「……うん」

 お腹の中にケビンの愚息を感じ取っているアラクネは、何故だか従順になっており、今となっては反発するようなこともなく、自らケビンの口を求めるまでに至っている。

「人族、気持ちいい」

「人族じゃない。俺の名はケビンだ」

「ケビン……ケビン……」

「そろそろお前たちの欲しがっている子種を出すからな。しっかりと受け取れよ?」

「うん、出して。立派なアラクネの子が生まれるように、元気な子種を出して」

「よし、出すぞ」

「うん、うん! 私も気持ちいいのがくる」

「ほら、受け取れ!」

「んあぁぁぁぁ――!」

 アラクネが絶頂しながら中に出されているのを感じ取り余韻に浸っていると、ケビンは愚息を抜き出して、秘部から溢れ出す赤色混じりの白濁液を見てしまい悶々とするのだった。

 そして、その悶々を解消するために動き出したケビンは、他のアラクネも同じようにして抱いていく。そして、アラクネたちの食べ比べを終えたら、放置していた長のところへ近づいていった。

「覚悟はいいか?」

「近づくでない! 我に触れる前に殺してくれる!」

「威勢のいいことだ。その威勢が最後まで持つといいな?」

 悪役ばりの悪い笑みを浮かべるケビンは、【無限収納】の中から小瓶を取り出すと、キュポンっと蓋を開けてからその中身を長に対してぶちまけた。

「っ! 貴様、何をかけた?!」

「今にわかる」

 そう言い残したケビンは、時間つぶしのためにアラクネたちのところへ戻り、1人1人に対して張っていた結界を解除すると、また食べ比べを始めてしまうのだった。

 それからしばらくしたのち、長に変化が現れ始める。

「何だこれは……!? 体が……体が疼く……熱い……」

 大して運動をしたわけでもないのに、体が火照っていく感覚に襲われる長は、未だかつて経験をしたことのない熱さに戸惑いを隠せない。

 そして、何かが股を伝う感覚に襲われてしまいふと視線を向ければ、そこには透明な液が流れ落ちている光景を目にする。

 そのことに対して、長はハッと閃きを得て目線をアラクネたちへ向けると、アラクネたちの股からも同じような液が垂れているのを見てしまう。

「まさか……これは……」

 アラクネたちの様子を見てもわかる通りで、長はケビンから発情してしまうような液体をかけられてしまったのだと、この時になってようやく気づくのだった。

「負けぬ……我はアラクネを束ねる魔王……決して貴様なんぞに屈しはせぬぞ」

 気を強く保ち、そう意気込みを呟く長だが、ケビンの創り出した媚薬がそんじょそこらの媚薬よりも強力であることを知らない。

 更にしばらくしたのち。

「負けぬ…………負けぬ…………」

 うわ言のように呟く長だったが自らの行動に気づいてないのか、長の手は疼きの止まらない秘部へ伸びており、くちゅくちゅと音を鳴らしながら自慰行為に耽っていた。

 こうして長は媚薬による影響で、人生初の自慰行為を経験することになってしまったのだ。

 その様子をケビンはアラクネたちを抱きながら観察していて、そろそろ頃合いかと思い至ったのか、最終段階に入るためにアラクネを連れて長の前までやってくる。

 そして何を言うでもなく、ケビンは長の前でアラクネを抱き始めたのだ。

 それに対して長はもう正常な判断が下せないのか、自慰行為に耽りながらも、その視線はケビンの愚息に注がれていた。

 そうとは露ほども知らないアラクネは、ケビンに抱かれながら嬌声を上げ、それがますます長を追い詰めていく。

 そして、アラクネを抱き終えたケビンがようやく長の前に立ち、呼吸の荒い長に対して声をかける。

「なんか辛そうだが、大丈夫か?」

「はぁ……はぁ……」

 ケビンに声をかけられても長は受け答えできず、ただただ長の視線はいきり立つケビンの愚息に注がれる。

 そして、結界を張られていることすらも頭から抜け落ちているのか、長は手を伸ばして愚息を触ろうとするが、当然のことながら結界に阻まれて成功しない。

「なんだ? これが欲しいのか?」

 ケビンがわざとらしく腰を左右にフリフリして愚息を揺らすと、長はゴクリと生唾を飲み込んで右へ左へと視線が釣られてしまう。

「ほ……欲しい……」

 その言葉にケビンはニヤリと笑みを浮かべて、ここぞとばかりに長に淫語を教えこんでいく。そして、ケビンの淫語講座が終わると、改めて長に要求するのだった。

「さぁ、オネダリしてみろ」

 すると、長は両手で秘部をくぱぁと広げてから口を開いた。

「ケビンの孕ませちんぽを我のトロトロ処女まんこにぶち込んでぇ。いっぱい中出しして孕ませて欲しいのぉ」

「合格!」

 長のオネダリに満足したケビンは、要望通りに長の秘部へいきり立つ愚息を遠慮なく差し込んだ。

「あ"あ"あ"あ"ぁぁ――!」

「マジか……入れただけでイキやがった……」

 それからパンパンと腰を振るケビンに対して、長は痛がるどころかイキっぱなしで前後不覚に陥っていた。

「あ"っ、あ"っ……またイグ――!」

 既にケビンからされるがままの状態に陥っている長は、快感に身を委ね過ぎなのではなかろうかと言うくらいの、激しい乱れっぷりを披露している。

 そこでケビンはこのままではお仕置きにならないと思い、長に対して催眠魔法をかけた。

「お前は今から正気に戻る」

 すると、長は蕩けた顔から次第に真顔へと変わっていき、目の前にいるケビンの姿を目にした途端、ハッとしたような顔つきになる。

「な、何をしているんだ貴様は!」

「何って……お前に頼まれたからセックスしてやってるんだ」

「なっ!?」

 そう言ったケビンが止めていた腰振りを再開させると、長は堪らず声を漏らしてしまう。

「んあっ、あんっ、あんっ……」

「ほら、気持ちいいんだろ? お前が欲しがってたやつだもんな?」

「や、やめっ……んんっ……動くな!」

「ほらほらほらー」

「だ、ダメっ……もう……」

「イクのか? あれほど屈しないとか言ってたやつが、ちんぽに屈するのか?」

 そう言われた長は快楽に身を委ねてしまいそうなところだったのを、すんでのところで我慢することができた。

「ぐっ……お前なんかに……」

「やっぱりそうでないとな。気丈なお前が堕ちていく様を見るのが楽しみなんだ。せいぜい我慢しろよ?」

 それからのケビンは容赦なく腰振りを続けるが、長が気持ちとは別でイキそうになってしまうと腰振りを止めてしまい、何がなんでもイカせることはしなかった。

 そのようなことが続いていると、長はとうとう屈しないように我慢する限界を超えてしまう。

 そして、楽になってしまおうと快楽に身を委ねてしまいたかったのだが、それをケビンが許すはずもなく、延々とイキたいのにイケないという地獄のループを繰り返されてしまう。

「あっ、あっ……もう許して……」

「え……なんか言った?」

 難聴系主人公でもないのにケビンがそのように言うと、長は再度懇願するがケビンはそれを逆手に取り、ドSな要求をする。

「人にものを頼むときは、頼み方ってのがあるだろ?」

「……お願いします。もう許してください」

「はあ? そんなオネダリの仕方は教えてないだろ? 正気に戻っても記憶は残ってるはずだぞ」

 その言葉を聞いた長は、カッと顔が熱くなるのを感じてしまう。確かに記憶の中には、自分とは思えないほどの淫らな言葉を使う自分自身の姿があったからだ。

 そして、ケビンによって正気に戻された長は、それを言わなければならないのかと葛藤してしまう。

 そのような葛藤を繰り返している長に対して、ケビンは更なる追い打ちをかける。

「おーい、アラクネたち。今から長がオネダリのお手本を見せてくれるらしいから、こっちに来て見学しろよ」

 ケビンが長の相手をしだしてからは、ゆっくりと休憩をしていたアラクネたちだったが、ケビンから呼ばれたことにより長の周りに集まり始めた。

 もう既に休んでいたアラクネたちは、ケビンによって堕とされてしまったようで、反発するような個体は誰一人としていない。

 そして、わらわらと集まってくるアラクネたちの姿を見た長は、絶望の表情を浮かべてしまう。

 ただでさえ正気となった今では、オネダリをするという行為がとても高いハードルであるのに、更にそこへギャラリーという名の同胞たちの姿があるのだ。

 そのあまりにも高いハードルに対し、全てを諦めてされるがままになっていた方が楽なのではないかと思い始めてしまった。たとえそれでイクことができなくても。

「まさか、諦めたりしないよな? アラクネの魔王たる者が?」

 そのようにケビンから見透かされた感じで言われてしまうと、それを聞いた長はビクッと反応してしまう。

「ほら、オネダリしてみろ。アラクネたちも諦める魔王なんて見たくないと思うぞ?」

 ケビンからアラクネたちの名を出されたことによって、長は魔王としてよりも長としての矜恃を奮い立たせる。その矜恃が正しいのかどうかは判断しづらいが。

「んっ……はんっ……ケ……ケビンの……」

「俺の何だ?」

「…………ぽで……」

「聞こえませーん。アラクネたち、聞こえたか?」

「聞こえませんでした」

「~~っ!」

「だ、そうだ。魔王らしくズバッとオネダリしてみろよ」

「……っ……ケビンのちんぽで我を奥イキさせて! ザーメンタンクにミルクを補充していっぱいにしてー!」

 もうやけっぱちとばかりに長が絶叫すると、ケビンは心得たと言わんばかりに奥を重点的に攻め立てていく。そして、長に再び絶頂の波が押し寄せ始め、今度は止められることなく絶頂するのだった。

「あっ、あっ……イク……イクイク……イックぅぅぅぅ――!」

 今まで強制的に我慢させられていた分、長はガクガクと震えながら盛大に達してしまい、ケビンがドピュドピュと注ぎ込んでいくと、そのお返しとばかりにピュッピュと潮を噴き出していた。

「ぁ"……ぁ"……」

「ふぅ……尊大なやつを屈服させるのは、何回やってもたまらんな」

 悪びれもなくそう言うケビンは、秘部から愚息を抜き出して長を手放すと、長はぐったりとして蜘蛛部分の背へ倒れ込んでしまい、秘部からはケビンの出したものを垂れ流している。

「体……柔らかいのな……」

 長が蜘蛛部分に倒れ込んだのを目にしたケビンは、いったいどういう体のつくりをしているのだろうと、人体?の神秘を感じ取るのであった。それは言うなれば、雑技団バリの曲がり方をしているからだ。

「人体部と蜘蛛部では骨でくっついてないのか? 節足動物って言うくらいだし……」

 そのような思考に至るケビンは、とりあえず長が復活するまではアラクネたちと過ごすことにして、相も変わらず交わりを続行してくのであった。
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