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第17章 魔王軍との戦い

第583話 勇者たちの奮闘、オタたちの楽闘

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 朝から始まった戦場での戦いは、太陽が真上に来た時には一段落ついていた。むしろ一段落ついたと言うよりも、ケビンが強引につけたのだった。

 その方法とは敵を殲滅したのではなく、超巨大な結界の中に閉じ込めてしまい、退くも進むもできないようにしたからだ。

「なぁ、これって……」
「言うな」
「籠の鳥か?」

「私たちの都合で止められちゃうなんて……」
「敵ながら同情しちゃうね」
「何だか哀れだね」

 敵がこのような仕打ちを受けたのにはわけがある。それは、ケビンの「お昼ご飯の時間だ」という言葉が原因なのだ。

 今現在その仕打ちを受けている魔物たちは、ケビンの結界を壊そうと躍起になって叩いていた。

 勇者たちはその光景を目にしては哀れみの視線を敵に向け、その行為を成し遂げたケビンにはジト目を向けている。

「まだ戦い足りないのなら、あの中にぶち込むぞ? さあ、誰が行く?」

 そう言うケビンからの唐突な問いかけに、勇者たちは全力で頭を横に振っていた。

 そのようなひとコマがあったあと、王国軍や冒険者たちもケビンの無茶苦茶さに言葉を失っていたが、通常時にはありえない戦争時の強制休憩を得られたことにより、戸惑いが拭いきれないままではあるがお昼休憩に入るのだった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ケビンが昼食を食べ終わったあと、救護所の様子を見ようと足を向けてみたら、思いもよらない光景を目にする。

「え……何これ……」

 ケビンが建てた救護所の隣には天幕が張られており、そこには長蛇の列ができていたのだ。

 そして、その光景を見て呆然と立ち尽くすケビンに気づいた龍宮が、どうしたのかと心配して駆け寄ってきた。

「ケビンさん、どうされたんですか?」

 その言葉を聞いたケビンが長蛇の列について龍宮に問いかけてみると、予想だにしない返答が返ってくる。

「あれはうさぎさんが占いをやっているんです」

「…………え?」

 龍宮からの説明によると事の発端は百鬼なきりが原因であった。水晶玉を抱えている月見里を見た百鬼なきりが、「占い師なんてヤバくね?」と言ったあと、強引に占ってもらったそうだ。

 その内容が当たっていたために百鬼なきりが興奮し、いつものノリで千喜良や千手まで巻き込まれて占われ、その2人の内容も当たってしまったのだ。

 それに目をつけた百鬼なきりが「稼ぎ時っしょ!」と言ってからは、あれよあれよのうちに隣に天幕が設置され、救護所に来た兵士や冒険者たちを客にとっては、月見里による占いの館を始めてしまったそうだ。

「金取ってるの?!」

「ちょっとした占いは銀貨1枚、普通の占いは大銀貨1枚、本格的な占いは金貨1枚になっていますね。『これで借金返せるし!』って意気込んでいましたよ」

 まさか戦地で商売を始めてしまうとは思わなかったケビンは、百鬼なきりの行動に対して額に手を当てると空を仰ぎ見た。

「…………ちょっと見てくる」

 百鬼なきりによるぼったくり占いの館が心配になったケビンは、お客から苦情が出るのではないかと不安でいっぱいだった。

 それは安くはないが高くもない兵士たちの給金や、ランク別で収入が変わってしまう冒険者たちの懐事情を鑑みていないからだ。

 そもそも、戦地にお金を持ってきているとは思えないことも起因する。だが、そんな心配事とは裏腹に占いの館には行列ができているのだ。ケビンとしては全くもって不可解である。

 そして、不安が募るケビンは行列の横を歩いていき、占いの館という名の天幕の入口に辿りつくと、そこにはお金を回収している百鬼なきりの姿があった。

「おっ、ケビンじゃん! 横入り禁止だかんね。占って欲しいなら最後尾に並びなよ」

 突如現れたケビンを完全に客扱いする百鬼なきりだったが、お手伝いなのか隣にいた千喜良は、ケビンのピクピクとしているこめかみを見てしまい、慌てて自己保身に走る。

「わ、私は止めたんだよ! ご主人様の許可なく戦地で商売始めたら怒られるって! 私は悪くないよ、悪いのは夜行やえちゃんだから!」

 速攻で百鬼なきりを売った千喜良の言葉によって、百鬼なきりはバッと横を振り向き親友の裏切りに抗議する。

「ちょ……千代裏切りじゃん!」

「保護者の奏音かのんはどこだ?」

 だが、ケビンからの平坦な声音の質問を聞いてしまった千喜良は、ビクビクとしながらそれに答えた。

「……救護所にいます……」

奏音かのんは何て言ってた?」

「『見つかっても私を頼らないでね』って……」

「見つかったな?」

「……はい」

「ガサ入れだ」

 そう言ったケビンの結論に対して百鬼なきりが反論する。

「客のプライベート進行だし!」

「プライバシー侵害だ」

「……夜行やえちゃん……」

 ちょうどそのような時に中にいたお客の占いが終わったのか、1人の女性が出てきたので、ケビンは順番待ちしている次の男性に一言伝えると、その男性の代わりに中へと入るのだった。

「うさぎの占い館へよう……こ…………」

 お客が入ってきたと勘違いをした月見里が、満面の笑みで決めゼリフを述べるが、目にしたのはお客ではなくケビンだったので、ピシッと擬音が聞こえてしまうくらいに固まってしまう。

「コスプレか? うさぎ」

 ケビンがそう言うのにも理由がある。目の前の月見里はどこで調達したのか知らないが、布で口元を隠し、頭からは薄いヴェールらしきものを被っているのだ。

「……ケ……ケビン……さん……」

「今度、その姿で夜の相手をしてもらおうか?」

「これは……その……違くて……」

 まさかケビンが現れるとは思っていなかった月見里は、視線が右へ左へと忙しなく動いているが、そのような月見里に構わず、ケビンがお客用の席に座ると口を開くのだった。

「さて……このあと、商売をしていた3人がどうなるか占ってくれ。本格的なやつで頼む」

 そう言ってケビンが金貨を1枚テーブルに置くと、コース内容もそうだが値段も知っているので、もうバレバレになっているのだと月見里は悟ってしまった。

「あ、あの……あのね?」

「占いの結果を期待しているぞ? 何せ、金貨1枚も支払ったんだからな」

 ケビンのニヤッとした悪い笑みを見てしまった月見里は、もう逃げ場はないと自覚してしまったのか、ガックリと肩を落とすと不本意成分100%で、水晶玉に手をかざしながら自身の未来を占い始める。

「……えっと……夜になったらめちゃくちゃお仕置きされる?」

 本当にこれで合っているのかと自信がなく、うるうるとした瞳で上目遣いをしながら恐る恐る言ってみた月見里だったが、目に入ったのは先程以上に悪い笑みを浮かべているケビンだった。

「正解だ。追加で言うなら、うさぎはコスプレが好きみたいだからな、コスプレパーティーでもしようかと思う」

「ぁぅ……」

 月見里が真っ赤になって俯いてしまうと、からかうのはこの辺でいいかと思ったケビンは本来の目的を話し始める。

「客からの苦情は出てないのか?」

「……出てないよ」

「客に嘘の結果は言ってないな?」

「うん……ちゃんと占ってる」

「それならいい」

「……怒ってない?」

 俯いていた月見里が恐る恐るケビンの顔色をうかがうと、ケビンは特に怒っていないと伝えるのだった。

「まぁ、戦場の息抜きにはちょうどいいのかもな。軍規があるとはいえ、ストレスが溜まると馬鹿な行動に走る奴も出ないとも限らないし」

「馬鹿な行動?」

「女兵士や女冒険者を襲ったりする奴だ。お前たちだって例外じゃないんだぞ? 大勢から組み伏せられたら抵抗できないだろ?」

 ケビンから伝えられる戦場での別の怖さに月見里は身震いしてしまう。今まで来た客の中には、女性だけでなく男性もいたのだ。

「そう心配するな。襲うにしたって夜なんだし、夜になれば女子は結界で俺が守る。嫁は当然俺と一緒だから襲われることはない」

 ケビンの言葉で安堵した月見里は、その後ケビンから戦う者たちの気晴らしとして占いの館は続けていいと伝えられ、月見里も馬鹿な行動が起きないようにしっかりと占いを続けようと決意する。

 そして天幕から出て行ったケビンを見送った月見里は、ふと百鬼なきりや千喜良の未来を占ってなかったことに気づき、あの2人はどうなるのだろうと興味本位で占ってしまう。

「……ぁ……」

 2人のお仕置き結果を見てしまった月見里は、そっと水晶玉から視線を外すと、見なかったことにしようという結論の元で、次なるお客が入ってくるのを待つのであった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 お昼休憩が終わり戦いの火蓋が切られようとすると、ケビンは今度こそ連携というものを図ったのか、各部の準備が整ったところで魔王軍を囲っていた結界を解除した。

 すると、その瞬間を待っていたかのように魔物たちが怒涛のように押し寄せてきて、両軍の激しいぶつかり合いが続く。

 それからしばらくした後に、戦場で味方からの怒号が響きわたる。

「キングだ! キングが出たぞー!」

 その情報は瞬く間に味方へ伝播していき、当然それはケビン率いる左翼でも同じであった。だが、応援に駆けつけさせようと思った矢先、左翼でも同じようにキング級が姿を現す。

 それは1体ではなく、数十体という数でだ。

「森の中に潜ませていたのか」

 ケビンが独り言ちると、それを証明するかのように次々と森の中から平原地帯に姿を現してくるキングたちがいた。

 当然キングにはお供がついているようで、ジェネラル、ナイトといった面々がキング以上の数で森の中から出てくる。

「いよいよもって敵さんも本腰入れてきたな。それとも、もう大した手駒がいなくなったのか?」

 ケビンがそのような予測を立てている中で、前線にいる勇者たちは今まで以上に気を引き締めて森から迫り来る驚異に立ち向かう。

「小鳥遊君と百足ももたり君は遊撃をお願いしますわ! 六月一日うりはり君は壁役を、一二月一日しわすだ君はそのサポートを!」

「「「「了解!」」」」

 勅使河原てしがわらの指示により小鳥遊班が動き出すと、ネタ武器を与えられている小鳥遊が【ボールは友達】を蹴り放つ。

「これが俺の必殺……奥さん大好きシュートだぁぁぁぁ!」

 小鳥遊から放たれたボールが先行してくるナイトにぶつかると、その勢いのまま後ろのナイトを巻き込み吹き飛ばす。だが、シュート名が残念に思えるのだが、誰も指摘する者がいない。

「俺のスピードについてこれるか!」

 そう言って走り出したのは、ネタ武器を与えられている百足ももたりだ。百足ももたりに与えられたネタ武器は陸上部だったこともあり、【スピードは足回りから】という変な名前を付けられたランニングシューズである。

 当然のことながらケビンが創った物なので、変な名前であったとしても性能は破格となり、ただの靴とは思えないほどだ。

 それにより、魔物相手にただの靴で蹴っても靴自体が硬化され、そこらの武器よりかは固く、【保護】の効果により足を怪我することがない。更には【速度強化】が付与されているために、いつも以上の走りを実現している。

 その百足ももたりのスピードによって、敵は撹乱される上に百足ももたりを捉えることもできず、一方的に蹴られているだけに終わる。

「オリハルコンシールド展開!」

 敵の前に陣取り、大盾を構えるのは六月一日うりはりだ。こちらはネタ武器ではなく普通の大盾を与えられているが、キーワードを発することにより大盾から更に収納されていた盾が展開され、1枚ものの巨大な盾と化すのだ。

颯太そうた、任せた!」

「おう!」

 迫り来るナイトからの攻撃を六月一日うりはりが防いでいると、その背後から一二月一日しわすだが剣を振るう。

「曲がれ、蛇腹剣!」

 そう言い放つ一二月一日しわすだの剣は刀身部が分割され、中で繋ぎ止めている特殊な伸縮素材によって不規則な曲がり方をすると、オリハルコンシールドを躱しながらナイトを斬り刻む。

 当然のことながら一二月一日しわすだに曲げるような技術はないので、全てはケビンの創り出した剣のトンデモ性能のおかげだ。

 このように小鳥遊班が上手く連携を見せていると、勅使河原てしがわらは次の班へ指示を飛ばす。

「能登君のパーティーはキングを優先的に狙ってくださいまし! 戦い方はお任せしますわ!」

「了解! みんな行くよ!」

 長いこと勇者パーティーとして組んできた能登たちへは、勅使河原てしがわらも変に指示を出すより、本人たちに任せた方がいつも通りの動きができると思い、担当する敵だけを告げて送り出した。

「蘇我君、卍山下まんざんか君は小鳥遊班のフォローを!」

「あそこは火力がないからな……」
「マジか……働き三昧になるじゃねぇか……」

 いつもは手抜きをする蘇我と卍山下まんざんかだが、キングと側近が大勢出てきたとあってはサボることもできずに、勅使河原てしがわらからの指示を受けると乗り気じゃないまま、小鳥遊たちのところへと駆けていく。

「先生たちは3人1組で動いていますから、そのままでいいですわね。それよりも、【オクタ】班はどうしようかしら……九十九先輩もいますし……」

 勅使河原てしがわらは扱いづらいメンバーが残っていることを危惧するが、放っておいても最大の成果を出してしまうことを知っているので、あえて何も言わずに放っておくことにした。

 そして、それは現実となってしまう。

あずま! 【オタ134改】を出してよ。私がぶっぱなすわ!」

「うっ……いちじく氏がトリガーハッピーになるであります」

「つべこべ言わないで早く出す!」

 彼女からせっつかれてしまったあずまは、【オタ134改】を設置するといちじくに声をかける。

「対魔物戦仕様でありますので、くれぐれも味方には当てないで欲しいであります」

「わかってるわよ! いっくわよー……ふぁいあぁぁぁぁ!」

 前方から迫り来る魔物たちに照準を合わせたいちじくが引き金を引くと、以前の時と同じようにハイテンションになってしまう。

「キャハハハハハ! やっぱりこれ、ちょーたのしー!」

「……あーちゃんが豹変した件……」

 予想通りの展開にあずまが項垂れていると、そこへ話しかけるはにのまえである。

あずま氏、それよりも新作のお披露目でごわす!」

「おおっ、そうでありましたな!」

「ふむ、何やら新作を発表するでござるか?」
「楽しみですぞ!」

 猿飛や百武ひゃくたけが期待する中で、あずまは新作武器を取り出した。

「これぞ、【RPGー7】改め【RPGーオタ改】であります! 当然、ケビン氏との合作であります!」

「「おぉー!」」

「ただ難点なのは連射不可でごわす」

「当然でござるな」

「だがしかし! 我々とケビン氏の熱意がここで終わるわけがないのであります! こんなこともあろうかと、【M202】改め【オタ202改】も用意してあります!」

「「なんとぉー!」」

「さあ、好きな方を使うであります! 魔物に慈悲なし!」

 あずまからの説明が終わると猿飛は【RPGーオタ改】を、百武ひゃくたけは【オタ202改】を手に取る。

「翡翠ちゃん、一緒に遊ぶでござる」

「うん!」

「みこちゃん、拙僧たちはあっちで遊ぶですぞ」

「早く行こ、しーくん」

 2組のカップルが持っている兵器とはそぐわない雰囲気でこの場を離れていくと、残されている一《にのまえ》は【オタ202改】を手に取り、つなしに声をかける。

桜梅さらめ、某たちも行くでごわす」

「智ったら……そんなもの持ち出したら本当に戦争みたいじゃない」

「フッ……偽りなくこの戦いは戦争でごわす(キリッ)」

 そして、また1組のカップルがこの場を離れると、残されたのはあずまとトリガーハッピー中のいちじくだ。

「さて、小生も頑張るとするであります」

 隣で高笑いをしながらミニガンを撃ちまくっている彼女に対し、あずまは生温かい眼差しを向けつつ、自身もミニガンを取り出して魔物の殺戮を始めるのだった。

 その後、ロケットランチャーを持っていった3組によって、戦場ではドッカンドッカンと爆音が鳴り響き、それを目にした勇者たちの顔が引き攣ってしまう。

「やはり【オクタ】班はとんでもない物を作り上げていましたわね……そのうち戦車とか作ってしまいそうですわ」

 そう呟く勅使河原てしがわらだったが、その未来に向けた懸念の解答は、隣にいる弥勒院みろくいんから未来ではなく現在で齎されるのだった。

「戦車ならあるよ」

「え"……」

 到底、淑女とは思えないほどの声を出してしまった勅使河原てしがわらに、弥勒院みろくいんは構わず続きを話す。

「今回は使わないんだって。ケビンくんがそう言ってた」

 戦車があると聞いてしまった勅使河原てしがわらは、『もしや……』という新たな懸念が頭をよぎり、それを恐る恐る口にする。

「…………香華きょうか……戦闘機はさすがにありませんわよね?」

「飛行機は墜落の危険があるから作らないんだって。操縦やらパイロットの育成が面倒くさいって言ってたよ」

「よ……良かったですわ」

 勅使河原てしがわらがホッとしたのも束の間、弥勒院みろくいんはその安堵をぶち壊す。

「でも、ケビンくん専用機が1機だけあって、サナちゃんに頼めばオートパイロットで飛ばすことは可能だって言ってた」

「専用機!? サナちゃん!? オートパイロット!?」

 勅使河原てしがわら弥勒院みろくいんの言葉によって、異世界魔法系ファンタジーにあるまじきものが、銃火器の件は別にしても既に生産を終えて存在していたことを知ってしまう。

 それと同時に運用可能であることも知ってしまうが、サナちゃんが誰のことなのかは知らない。

 その勅使河原てしがわらに予想できることは、戦闘機を飛ばすためのオートパイロット機能のプログラミングができる、超天才異世界人がどこかにいるという見当違いのものだった。

 あまりのケビンによる現実感のない所業によって、勅使河原てしがわらは異世界人がプログラミングなど知らないという、根本的なことすら頭から抜け落ちてしまっているようだ。

 そのような勅使河原てしがわらがケビンショックを受けている中で、王国軍や冒険者たちは自分たちが苦労しながらキングや側近と戦っているのに、その相手を超火力によってゴミのように吹き飛ばしていくオタたちの力に戦慄するのであった。
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