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第16章 魔王対勇者
第545話 規格外ダンジョンの中で
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ケビンから規格外ダンジョンに放り込まれた一行は、現在団体行動中であった。それもひとえに、ダンジョン内が規格外過ぎたからである。ケビンから放り込まれてからというもの、最初は意気揚々と探索をしていたのだが(九鬼以外)、1階層目からゴブリン王家との集団戦闘となり、倒しても倒してもあとからどんどんと湧いてくるゴブリン王家たちに辟易としてしまい、急遽九鬼を見つけだす案が採用されるとやがて合流を果たすということになる。
九鬼は九鬼で1階層目からすぐに気配を消すと、単独行動をしているゴブリンキングを見つけては見敵必殺で倒していき、黙々と奥へ進んでいたのだが、『桃太郎!』と呼ぶ大声が聞こえてきたので速やかに月出里の口を塞ぎに行って、不本意な合流を果たすことになった。
「力也、こいつの口を塞いどけよ。ダンジョンで大声を出すとか、魔物に狙ってくださいって言ってるようなもんだろ」
「今回は合流が最優先だったからな。見逃した」
「俺は合流したくなかったんだけどな」
「クキ君、つかぬことをお聞きしますが、このダンジョンの何階層まで攻略を終えているのですか?」
「10階層ですよ」
「その階層が限界だったと?」
「そうですね。そこらあたりからドラゴンが普通に歩いてます。1匹だけならまだしも、何匹も徘徊しているとなると逃げるのに苦労するんですよ。倒したところで数は減らないし、休める場所もありませんからね」
「攻略にあたって何か助言的なものはありますか?」
「迷わず逃げる、敵は1匹の時だけを狙う、馬鹿正直に真正面から挑まず暗殺者のように背後から狙うくらいですかね。俺はソロで攻略していたので参考になるかどうかわかりませんけど、とにかく逃げるが基本です。命あっての物種ですから」
「ソロで10階層まで……本当にお強いんですね」
ガブリエルは九鬼の言葉を聞いて10階層まで1人で攻略していたことに感嘆としていたが、九鬼はまだ上の存在を知っているのでガブリエルの言葉を否定する。
「僕はまだまだです。10階層まで行けたのも逃げたり、隠れたりしながら攻略したからですよ。本当に強い人っていうのはケビンさんのことですから」
「ケビンさんはもっと深くまで攻略を?」
「制覇しています。ちなみにソロでです」
「――ッ!」
「泰次、その時にここは何階層あるか聞いたか?」
「100階層だ」
「他の制覇者は?」
「いない」
「ケビンはともかくとして、他の攻略者で1番進んでいるのは誰で何階層までだ?」
「ケビンさん以外だと、1番はサラさんとマリアンヌさんのペアで、20階層まで攻略済みだ。そこからはキリがいいとか飽きたとかで、真面目な攻略はせずにタイムアタックしてる」
「タイムアタック?」
「最初から始めて1階層ごとにどれだけ早く攻略できるか競ってる」
「遊びかよ……」
1階層目で早くもソロだと厳しいと判断していた無敵たちは、その1階層目からタイムアタックという遊びをやり始めているサラとマリアンヌに対して、いったいどれほどの強さを持っているのか興味を惹かれるが、そこはガブリエルが経験者として、サラに対しては手も足も出せない強さとだけ伝えるのだった。
「まぁ、そこは戦闘スタイルによるところが大きいだろ。サラさんはスピードファイターだし、マリアンヌさんは気配を消して戦う隠密タイプだ。敵を倒すスピードが早いからできる遊びなんだよ。ちなみにケビンさんは蹂躙タイプだ」
改めて九鬼による見解を聞かされた無敵たちはケビンの持ちうる能力もそうだが、それ以外の人物でさえも只者ではないと認識して、無敵や十前は自身の能力の低さを実感し、月出里は想像がつかないのか大して深く考え込むことはなかった。
それから5人は臨時パーティーを組むことになるのだが、九鬼はふと思い出したことを口にする。
「生徒会長はどこにいるんだ? 一緒じゃないようだけど」
「1人で先に進んでいる。何でもソロで攻略していって、その日のご褒美にミートソーススパゲティと抹茶を貰うんだそうだ」
まさに開いた口が塞がらないとはこのことなんだろうと九鬼は思ってしまい、どこまでもミートソーススパゲティと抹茶のために行動する生徒会長をある意味で尊敬してしまうのだった。
「先に進むか……」
九鬼が呆れながらも口にした言葉によって5人はダンジョン攻略を再開させていき、先達である九鬼がボス部屋までの道のりを進んでいくことで、他の者たちはその後に続いていく。
そして道中の魔物たちを倒しながら進んでいくのだが、明らかに自分たちではない者が倒した形跡を見ては、生徒会長が目的のためにダンジョン攻略に励んでいることを知るのである。
それから程なくして辿りついたボス部屋にて、ガブリエルは九鬼にボスが何の魔物なのかを尋ねると、九鬼はゴブリンキング軍団とだけ伝えるのだった。
「クキ君はその軍団を1人で倒したのですよね? いったいどうやって……」
「オススメしない方法で倒しました」
そして他の面々も九鬼のオススメしない方法というのが気になったのか、ボス部屋の攻略を九鬼にやってもらい、その方法というのを目の当たりにすることになる。
「《ウォーター》」
すると九鬼はいきなり自分に向けて魔法を放つと全身がずぶ濡れ状態になってしまい、何を気にするわけでもなくそのままボス部屋の中へと侵入する。
「《ファイアウォール》」
そしてお次は中にいるゴブリンキング10匹を炎壁でそれぞれ区切ってしまうと、燃え盛る炎壁に向かって特攻を仕掛ける。
「クキ君っ!?」
ガブリエルが咄嗟に叫んだものの九鬼の姿は既に炎壁の中に消えており、そのむちゃくちゃな戦い方に九鬼をよく知る無敵と十前は呆れ返ってしまう。
「鬼神だな」
「狂人とも言える」
無敵と十前がそのような感想をこぼしている中で、炎壁の中ではゴブリンキングたちの断末魔が響きわたっていたが、それを目にしているガブリエルは呆然とし、月出里は初めて九鬼の戦いを第3者視点で見たことにより戦慄するのだった。
「ありえねぇ……」
やがて九鬼が全てのゴブリンキングを倒すと水魔法で炎壁を消火していき、何事もなかったかのようにその姿を現して、改めてオススメしない方法だということをこの場にいる者たちに告げる。
「誰も真似しねぇよ」
「無理だな」
「クキ君、怪我はないのですか?!」
「ぶっ飛んでやがる……」
「怪我はないですよ。もう何回もやっていることなので」
「――ッ!」
「馬鹿だ……」
「相変わらずだ……」
「……」
それから九鬼はボス攻略の宝箱を開けると中のものを誰が貰うか問いかけたのだが、他の者たちはただ見ていただけということもあり、宝箱の中身は九鬼に譲るのだった。
「さて、下に降りますか?」
「クキ君、本当に大丈夫なんですか?」
「ええ、このやり方を思いついた時に、防具を耐火性の高い物に改良してもらいましたから何も問題ありません。それにボスを倒したらボス部屋が唯一の休憩場所ですから、ここでのんびりと時間を潰したりして先に進んだりしていますし、ガブリエルさんも疲れたらそうした方がいいですよ」
「それならクキ君もまだ休憩していた方が……」
「のんびりと休んでいたのは当時の話ですよ。今なら休まなくても問題なく下の階層を攻略できますから先へ進みましょう」
その後、九鬼率いる一行はトラップに注意しつつ2階層目を攻略していくのだが、どうやら生徒会長はひと足先に降りてきていたようで、魔物の死体があちこちに散らばっている。
「生徒会長って真面目に戦えば強いんだな」
「戦闘なんだから真面目に戦うだろ」
九鬼の感想に当たり前の言葉を返した無敵だったが、九鬼は魔王対勇者の時に生徒会長のわけのわからない戦い方を見ていたので、そのことを無敵に説明したら代わりに無敵は見ていなかったことを答えていく。
「あの時のおかしな服装はそういうことだったのか……俺はケビンと戦っていたから戦闘そのものは見ていなかったんだ」
「闇黒魔法少女のモモって名乗ってたぞ」
「やはり関わってはいけない人種だ」
無敵が生徒会長の変わり種さを再認識しながらも、その変わり種がソロで攻略していってることに戦慄を感じずにはいられないが、関わりたくないという意識が強いために、それ以上考えることをやめるのだった。
そのような中でも攻略を進めていく九鬼一行は、見方によっては全員が前衛(月出里は猪特攻)なので、数の暴力と言うよりも火力の暴力で魔物を倒していく。
そして2階層目のボス部屋まで辿りついた九鬼たちは、攻略経験のある九鬼にボスのことを尋ねて戦闘方法の作戦会議を行う。その会議にて今まで後衛なのに何かにつけて突っ込もうとする月出里を、本来の後衛職配置にしてサポート全般を任せると、前衛にはガブリエルと十前を配置して、中衛を九鬼と無敵が担い前衛のサポートをすることとなる。
それから準備を終えた九鬼たちはボス部屋の中まで入ると、そこで待ち構えているオークキング10匹との戦闘を開始した。まず、九鬼と無敵が牽制目的の魔法を放ってバラつかせると、その隙にガブリエルと十前が突っ込み、それぞれ1匹ずつ相手をしていく。
その間に九鬼と無敵も1匹ずつ相手をしながら、他のオークキングたちへの牽制も忘れずにやっていた。そして月出里は後衛らしくサポートをするために、誰か怪我をしないか待っていたのだが中々にその機会が訪れず、我慢しきれなくなってしまいオークキングに攻撃魔法を撃ち始める。
そのようなことをすれば攻撃をした相手からヘイトを稼いでしまうのは当然のことで、攻撃をされてしまったオークキングは月出里のところへ向かってしまう。それを見た九鬼は無敵に苦情を言うが、無敵は慣れているのか淡々と言葉を返す。
「やっぱりあいつ馬鹿だろ!」
「仕方ない……1匹くらいなら構わんだろ。遊ばせてやれ」
そして暴走した月出里を他所に着々とオークキングの数を減らしていく4人は、最後の1匹を倒し終わると嬉々として戦っている月出里の戦闘を見学していた。
しばらくした後に月出里がオークキングを苦労しながら倒し終えると、宝箱の中身は九鬼が辞退して残りの4人でわけることとなる。それから先も時間をかけつつトラップを警戒しながら3階層目まで攻略したところで、この日の九鬼たちのブートキャンプは終わりを告げるのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ところ変わって遥か西の彼方にある魔大陸と呼ばれている魔族たちがひしめき合う魔族領では、行方不明とされている1人の少年が俺TUEEEEをひたすら堪能していた。その少年は何を隠そう東西南北その者である。
「雑魚すぎるぜ!」
東西南北はガチャで引いた【覇王】という職業の恩恵を受けて1人で戦いつつ、数多の魔物たちを蹂躙していた。既にそこら辺にいる魔物や魔獣では歯が立たず、更に魔大陸の奥地へと足を踏み入れていく。
元々物静かだった彼の性格はいじめっ子たちから見れば格好の的であり、過去には虐められていた経験もある。しかし、高校に入るといじめの対象は自分から更にいじめやすいオタクたちに移り変わり、いじめられる回数も減っていた。
だが、今回の勇者召喚という名の異世界転移において、【覇王】というあからさまに強くなれる職業を得てからというもの、彼の中で復讐の炎が火を灯し、そこに至るまでのシナリオが書き綴られていくことに長い時間は必要としなかった。
そのような彼が魔大陸で同じ人族と運命的な出会いを果たしてしまう。
その日もいつものように魔物を蹂躙しては更なるレベルアップを図り、そろそろ別の地へ移動しようかと考えていたところにその者が姿を現した。
「誰だ、お前……」
東西南北が魔物から素材を剥ぎ取っていると、足音もなく傍へ近づいてくるフードを被った者に怪訝な視線を向けたら、その者は名前を名乗り『復讐したい者がいる』と伝え、東西南北と手を組まないかと誘ってきたのだ。
「何でお前と手を組まないといけないんだ。俺は別に1人で充分だ」
そう言ってあからさまに拒否する東西南北に対して、その者は東西南北がここ最近でこの辺を荒らし回っていることを告げると、今のままでは魔王に目をつけられるのだと説明をする。
「魔王? 帝国を支配しているって奴か?」
東西南北の問いに答えたその者の回答は否であった。そしてその者は東西南北に足りてない知識を補わせるために、魔大陸と呼ばれるこの地の実情を説明していくと、それを聞いた東西南北は、面白そうに口角を吊り上げる。
「人間の国と一緒でこの地も代表が各地を治めているのか……おもしれぇ、【覇王】たるこの俺に相応しい戦いの場があるってわけだ」
自信満々にそう言う東西南北に対してその者が告げたのは、『今のお前では無理だ』という侮辱とも取られかねない発言である。そしてそれを聞いてしまった東西南北は、当然のごとく怒りを顕にすると、そのものに対していきなり殴りかかる。
だが、結果は見事な空振り。東西南北が殴りかかった時点でその者は既にそこにはおらず、先程とは別の場所に立っていた。
「テメェ……」
「これで格の違いがわかったか? お前は弱い。所詮その強さはそこらにいる魔物相手にしか通用しない。だが、お前はまだまだ強くなれる素質はある。俺がその手助けをしてやろう」
「手助けだと?」
東西南北がそう問い返した時には既にその者が動いており、強引に東西南北の口の中へ何かを入れ込み飲み込ませた。
「ゴホッゴホッ……テメェ、何を飲ませやがった?!」
「強くなれる手助けをすると言っただろ? その種は潜在能力を底上げして解放するものだ。これから先は面白いくらいに強くなれるぞ」
「種だと……?」
「そうだ、種だ。感じないか? 体の奥底から力が溢れだしてきているのを」
そう言われた東西南北は、その者の言葉を信じるわけではないが体に意識を向けると、明らかに先程とは違う力が湧き上がってくるのを感じ取ってしまう。そして試しに軽く魔法を放ってみると、いつもより何倍もの威力でその魔法が撃ち放たれた。
「……クックック……フハハハハ……ハァーハッハッハッハ!! これが種の効果か!? おもしれぇ、お前の復讐に手を貸してやる! だから俺にもっと力を寄越せ!!」
「交渉成立だな。ひとまず情報をやろう。お前の復讐相手である勇者たちは帝都にいる。教団とは手を切って帝国側に寝返ったようだ」
「……おい、何で俺の復讐相手が勇者だと知っている? 俺はお前に何も話していないぞ」
「お前は頭が悪いようだな。上を見ろ」
頭が悪いと直接的に言われてしまった東西南北は怒りを煮えたぎらせるが、先程の件で攻撃を当てることができなかったことを思い出し、納得のいかないまま上を見上げることになると、そこには1匹のコウモリが飛んでいた。
「使い魔というやつだ。これがあると各地の情報を現地へ行かずとも手に入れることができる。当然のことながらお前が魔族領に入って魔物を殺しまくっていた情報も掴んでいるし、それ以前の情報もある程度は把握している」
「何だと……」
「お前は気分が乗ると叫ぶ癖があるようだからな。聞き出す前に自ら色々と喋ってくれて助かったぞ。『今に見ていろ勇者ども』とか、『俺が勇者の中で最強だ』とか、『全てを倒して奴隷にしたら、男はこき使って女は蹂躙してやる』とかな」
「チッ……」
そう言われてしまった東西南北はそう言ってしまった自覚があるので、バツが悪そうに顔を顰めては舌打ちをして反論することを諦めてしまう。
それから手を組むことになった2人はこれ以降行動を共にするようになって、東西南北はその者から荒削りだった戦い方を学び、魔物相手に実践を繰り返しては着実に実力を伸ばしていくのであった。
九鬼は九鬼で1階層目からすぐに気配を消すと、単独行動をしているゴブリンキングを見つけては見敵必殺で倒していき、黙々と奥へ進んでいたのだが、『桃太郎!』と呼ぶ大声が聞こえてきたので速やかに月出里の口を塞ぎに行って、不本意な合流を果たすことになった。
「力也、こいつの口を塞いどけよ。ダンジョンで大声を出すとか、魔物に狙ってくださいって言ってるようなもんだろ」
「今回は合流が最優先だったからな。見逃した」
「俺は合流したくなかったんだけどな」
「クキ君、つかぬことをお聞きしますが、このダンジョンの何階層まで攻略を終えているのですか?」
「10階層ですよ」
「その階層が限界だったと?」
「そうですね。そこらあたりからドラゴンが普通に歩いてます。1匹だけならまだしも、何匹も徘徊しているとなると逃げるのに苦労するんですよ。倒したところで数は減らないし、休める場所もありませんからね」
「攻略にあたって何か助言的なものはありますか?」
「迷わず逃げる、敵は1匹の時だけを狙う、馬鹿正直に真正面から挑まず暗殺者のように背後から狙うくらいですかね。俺はソロで攻略していたので参考になるかどうかわかりませんけど、とにかく逃げるが基本です。命あっての物種ですから」
「ソロで10階層まで……本当にお強いんですね」
ガブリエルは九鬼の言葉を聞いて10階層まで1人で攻略していたことに感嘆としていたが、九鬼はまだ上の存在を知っているのでガブリエルの言葉を否定する。
「僕はまだまだです。10階層まで行けたのも逃げたり、隠れたりしながら攻略したからですよ。本当に強い人っていうのはケビンさんのことですから」
「ケビンさんはもっと深くまで攻略を?」
「制覇しています。ちなみにソロでです」
「――ッ!」
「泰次、その時にここは何階層あるか聞いたか?」
「100階層だ」
「他の制覇者は?」
「いない」
「ケビンはともかくとして、他の攻略者で1番進んでいるのは誰で何階層までだ?」
「ケビンさん以外だと、1番はサラさんとマリアンヌさんのペアで、20階層まで攻略済みだ。そこからはキリがいいとか飽きたとかで、真面目な攻略はせずにタイムアタックしてる」
「タイムアタック?」
「最初から始めて1階層ごとにどれだけ早く攻略できるか競ってる」
「遊びかよ……」
1階層目で早くもソロだと厳しいと判断していた無敵たちは、その1階層目からタイムアタックという遊びをやり始めているサラとマリアンヌに対して、いったいどれほどの強さを持っているのか興味を惹かれるが、そこはガブリエルが経験者として、サラに対しては手も足も出せない強さとだけ伝えるのだった。
「まぁ、そこは戦闘スタイルによるところが大きいだろ。サラさんはスピードファイターだし、マリアンヌさんは気配を消して戦う隠密タイプだ。敵を倒すスピードが早いからできる遊びなんだよ。ちなみにケビンさんは蹂躙タイプだ」
改めて九鬼による見解を聞かされた無敵たちはケビンの持ちうる能力もそうだが、それ以外の人物でさえも只者ではないと認識して、無敵や十前は自身の能力の低さを実感し、月出里は想像がつかないのか大して深く考え込むことはなかった。
それから5人は臨時パーティーを組むことになるのだが、九鬼はふと思い出したことを口にする。
「生徒会長はどこにいるんだ? 一緒じゃないようだけど」
「1人で先に進んでいる。何でもソロで攻略していって、その日のご褒美にミートソーススパゲティと抹茶を貰うんだそうだ」
まさに開いた口が塞がらないとはこのことなんだろうと九鬼は思ってしまい、どこまでもミートソーススパゲティと抹茶のために行動する生徒会長をある意味で尊敬してしまうのだった。
「先に進むか……」
九鬼が呆れながらも口にした言葉によって5人はダンジョン攻略を再開させていき、先達である九鬼がボス部屋までの道のりを進んでいくことで、他の者たちはその後に続いていく。
そして道中の魔物たちを倒しながら進んでいくのだが、明らかに自分たちではない者が倒した形跡を見ては、生徒会長が目的のためにダンジョン攻略に励んでいることを知るのである。
それから程なくして辿りついたボス部屋にて、ガブリエルは九鬼にボスが何の魔物なのかを尋ねると、九鬼はゴブリンキング軍団とだけ伝えるのだった。
「クキ君はその軍団を1人で倒したのですよね? いったいどうやって……」
「オススメしない方法で倒しました」
そして他の面々も九鬼のオススメしない方法というのが気になったのか、ボス部屋の攻略を九鬼にやってもらい、その方法というのを目の当たりにすることになる。
「《ウォーター》」
すると九鬼はいきなり自分に向けて魔法を放つと全身がずぶ濡れ状態になってしまい、何を気にするわけでもなくそのままボス部屋の中へと侵入する。
「《ファイアウォール》」
そしてお次は中にいるゴブリンキング10匹を炎壁でそれぞれ区切ってしまうと、燃え盛る炎壁に向かって特攻を仕掛ける。
「クキ君っ!?」
ガブリエルが咄嗟に叫んだものの九鬼の姿は既に炎壁の中に消えており、そのむちゃくちゃな戦い方に九鬼をよく知る無敵と十前は呆れ返ってしまう。
「鬼神だな」
「狂人とも言える」
無敵と十前がそのような感想をこぼしている中で、炎壁の中ではゴブリンキングたちの断末魔が響きわたっていたが、それを目にしているガブリエルは呆然とし、月出里は初めて九鬼の戦いを第3者視点で見たことにより戦慄するのだった。
「ありえねぇ……」
やがて九鬼が全てのゴブリンキングを倒すと水魔法で炎壁を消火していき、何事もなかったかのようにその姿を現して、改めてオススメしない方法だということをこの場にいる者たちに告げる。
「誰も真似しねぇよ」
「無理だな」
「クキ君、怪我はないのですか?!」
「ぶっ飛んでやがる……」
「怪我はないですよ。もう何回もやっていることなので」
「――ッ!」
「馬鹿だ……」
「相変わらずだ……」
「……」
それから九鬼はボス攻略の宝箱を開けると中のものを誰が貰うか問いかけたのだが、他の者たちはただ見ていただけということもあり、宝箱の中身は九鬼に譲るのだった。
「さて、下に降りますか?」
「クキ君、本当に大丈夫なんですか?」
「ええ、このやり方を思いついた時に、防具を耐火性の高い物に改良してもらいましたから何も問題ありません。それにボスを倒したらボス部屋が唯一の休憩場所ですから、ここでのんびりと時間を潰したりして先に進んだりしていますし、ガブリエルさんも疲れたらそうした方がいいですよ」
「それならクキ君もまだ休憩していた方が……」
「のんびりと休んでいたのは当時の話ですよ。今なら休まなくても問題なく下の階層を攻略できますから先へ進みましょう」
その後、九鬼率いる一行はトラップに注意しつつ2階層目を攻略していくのだが、どうやら生徒会長はひと足先に降りてきていたようで、魔物の死体があちこちに散らばっている。
「生徒会長って真面目に戦えば強いんだな」
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九鬼の感想に当たり前の言葉を返した無敵だったが、九鬼は魔王対勇者の時に生徒会長のわけのわからない戦い方を見ていたので、そのことを無敵に説明したら代わりに無敵は見ていなかったことを答えていく。
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無敵が生徒会長の変わり種さを再認識しながらも、その変わり種がソロで攻略していってることに戦慄を感じずにはいられないが、関わりたくないという意識が強いために、それ以上考えることをやめるのだった。
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そして2階層目のボス部屋まで辿りついた九鬼たちは、攻略経験のある九鬼にボスのことを尋ねて戦闘方法の作戦会議を行う。その会議にて今まで後衛なのに何かにつけて突っ込もうとする月出里を、本来の後衛職配置にしてサポート全般を任せると、前衛にはガブリエルと十前を配置して、中衛を九鬼と無敵が担い前衛のサポートをすることとなる。
それから準備を終えた九鬼たちはボス部屋の中まで入ると、そこで待ち構えているオークキング10匹との戦闘を開始した。まず、九鬼と無敵が牽制目的の魔法を放ってバラつかせると、その隙にガブリエルと十前が突っ込み、それぞれ1匹ずつ相手をしていく。
その間に九鬼と無敵も1匹ずつ相手をしながら、他のオークキングたちへの牽制も忘れずにやっていた。そして月出里は後衛らしくサポートをするために、誰か怪我をしないか待っていたのだが中々にその機会が訪れず、我慢しきれなくなってしまいオークキングに攻撃魔法を撃ち始める。
そのようなことをすれば攻撃をした相手からヘイトを稼いでしまうのは当然のことで、攻撃をされてしまったオークキングは月出里のところへ向かってしまう。それを見た九鬼は無敵に苦情を言うが、無敵は慣れているのか淡々と言葉を返す。
「やっぱりあいつ馬鹿だろ!」
「仕方ない……1匹くらいなら構わんだろ。遊ばせてやれ」
そして暴走した月出里を他所に着々とオークキングの数を減らしていく4人は、最後の1匹を倒し終わると嬉々として戦っている月出里の戦闘を見学していた。
しばらくした後に月出里がオークキングを苦労しながら倒し終えると、宝箱の中身は九鬼が辞退して残りの4人でわけることとなる。それから先も時間をかけつつトラップを警戒しながら3階層目まで攻略したところで、この日の九鬼たちのブートキャンプは終わりを告げるのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ところ変わって遥か西の彼方にある魔大陸と呼ばれている魔族たちがひしめき合う魔族領では、行方不明とされている1人の少年が俺TUEEEEをひたすら堪能していた。その少年は何を隠そう東西南北その者である。
「雑魚すぎるぜ!」
東西南北はガチャで引いた【覇王】という職業の恩恵を受けて1人で戦いつつ、数多の魔物たちを蹂躙していた。既にそこら辺にいる魔物や魔獣では歯が立たず、更に魔大陸の奥地へと足を踏み入れていく。
元々物静かだった彼の性格はいじめっ子たちから見れば格好の的であり、過去には虐められていた経験もある。しかし、高校に入るといじめの対象は自分から更にいじめやすいオタクたちに移り変わり、いじめられる回数も減っていた。
だが、今回の勇者召喚という名の異世界転移において、【覇王】というあからさまに強くなれる職業を得てからというもの、彼の中で復讐の炎が火を灯し、そこに至るまでのシナリオが書き綴られていくことに長い時間は必要としなかった。
そのような彼が魔大陸で同じ人族と運命的な出会いを果たしてしまう。
その日もいつものように魔物を蹂躙しては更なるレベルアップを図り、そろそろ別の地へ移動しようかと考えていたところにその者が姿を現した。
「誰だ、お前……」
東西南北が魔物から素材を剥ぎ取っていると、足音もなく傍へ近づいてくるフードを被った者に怪訝な視線を向けたら、その者は名前を名乗り『復讐したい者がいる』と伝え、東西南北と手を組まないかと誘ってきたのだ。
「何でお前と手を組まないといけないんだ。俺は別に1人で充分だ」
そう言ってあからさまに拒否する東西南北に対して、その者は東西南北がここ最近でこの辺を荒らし回っていることを告げると、今のままでは魔王に目をつけられるのだと説明をする。
「魔王? 帝国を支配しているって奴か?」
東西南北の問いに答えたその者の回答は否であった。そしてその者は東西南北に足りてない知識を補わせるために、魔大陸と呼ばれるこの地の実情を説明していくと、それを聞いた東西南北は、面白そうに口角を吊り上げる。
「人間の国と一緒でこの地も代表が各地を治めているのか……おもしれぇ、【覇王】たるこの俺に相応しい戦いの場があるってわけだ」
自信満々にそう言う東西南北に対してその者が告げたのは、『今のお前では無理だ』という侮辱とも取られかねない発言である。そしてそれを聞いてしまった東西南北は、当然のごとく怒りを顕にすると、そのものに対していきなり殴りかかる。
だが、結果は見事な空振り。東西南北が殴りかかった時点でその者は既にそこにはおらず、先程とは別の場所に立っていた。
「テメェ……」
「これで格の違いがわかったか? お前は弱い。所詮その強さはそこらにいる魔物相手にしか通用しない。だが、お前はまだまだ強くなれる素質はある。俺がその手助けをしてやろう」
「手助けだと?」
東西南北がそう問い返した時には既にその者が動いており、強引に東西南北の口の中へ何かを入れ込み飲み込ませた。
「ゴホッゴホッ……テメェ、何を飲ませやがった?!」
「強くなれる手助けをすると言っただろ? その種は潜在能力を底上げして解放するものだ。これから先は面白いくらいに強くなれるぞ」
「種だと……?」
「そうだ、種だ。感じないか? 体の奥底から力が溢れだしてきているのを」
そう言われた東西南北は、その者の言葉を信じるわけではないが体に意識を向けると、明らかに先程とは違う力が湧き上がってくるのを感じ取ってしまう。そして試しに軽く魔法を放ってみると、いつもより何倍もの威力でその魔法が撃ち放たれた。
「……クックック……フハハハハ……ハァーハッハッハッハ!! これが種の効果か!? おもしれぇ、お前の復讐に手を貸してやる! だから俺にもっと力を寄越せ!!」
「交渉成立だな。ひとまず情報をやろう。お前の復讐相手である勇者たちは帝都にいる。教団とは手を切って帝国側に寝返ったようだ」
「……おい、何で俺の復讐相手が勇者だと知っている? 俺はお前に何も話していないぞ」
「お前は頭が悪いようだな。上を見ろ」
頭が悪いと直接的に言われてしまった東西南北は怒りを煮えたぎらせるが、先程の件で攻撃を当てることができなかったことを思い出し、納得のいかないまま上を見上げることになると、そこには1匹のコウモリが飛んでいた。
「使い魔というやつだ。これがあると各地の情報を現地へ行かずとも手に入れることができる。当然のことながらお前が魔族領に入って魔物を殺しまくっていた情報も掴んでいるし、それ以前の情報もある程度は把握している」
「何だと……」
「お前は気分が乗ると叫ぶ癖があるようだからな。聞き出す前に自ら色々と喋ってくれて助かったぞ。『今に見ていろ勇者ども』とか、『俺が勇者の中で最強だ』とか、『全てを倒して奴隷にしたら、男はこき使って女は蹂躙してやる』とかな」
「チッ……」
そう言われてしまった東西南北はそう言ってしまった自覚があるので、バツが悪そうに顔を顰めては舌打ちをして反論することを諦めてしまう。
それから手を組むことになった2人はこれ以降行動を共にするようになって、東西南北はその者から荒削りだった戦い方を学び、魔物相手に実践を繰り返しては着実に実力を伸ばしていくのであった。
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最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
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