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第16章 魔王対勇者

第543話 勇者たちの活動方針

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 生徒たちを帝城に招き入れてから翌日となり、ケビンは再び集合をかけて会議を始めようとしていた。その生徒たちは昨日に使用したケビン作のトイレや浴室にご満悦だったようで、スッキリとした表情で着席している。

「今日の議題は昨日の続きからだ。仮に元の世界に帰れるとして、それまではお前たちに働いてもらうことにした」

「アルバイトっしょ?」

 百鬼なきりが借金奴隷となった際に聞かされていたのを思い出してそれをケビンに問いかけると、ケビンは百鬼なきりの言葉を肯定しつつ更に説明を続けていく。

「この中で戦っても問題ない者、戦いたくない者といるだろうが、戦いたくない者たちはアルバイトだ。戦っても問題ない者たちは帝都外にあるダンジョンに潜ってもらう」

「ケビンさんのおかげで教団から開放されたのに、これ以上戦う必要がありますの?」

東西南北よもひろがいるのを忘れたのか? 恐らくあいつは戦い続けて力をつけているぞ」

 ケビンの言葉にハッとする生徒たちは、まだ問題が残っていたことを再認識してしまうと、戦っても問題ない組は気を引き締め直してケビンの言葉を真摯に受け止める。

「恐らく奴はオタたちの予想通りで魔大陸にいるだろう。アリシテアやミナーヴァからはそれらしい者を見たという報せがないし、セレスティアは論外だな。わざわざ教団のお膝元で鍛錬するとも思えない」

「それで、どうしますの?」

「奴が襲ってきてもいいように、戦う者たちはダンジョンで個々のレベルアップを図ってくれ」

「あんちゃん、それは俺たちもなのか?」

 ケビンの方針を聞いたタイラーは、自身やガブリエルも鍛錬に参加するのかが気になりケビンに尋ねると、ケビンはそれを否定してその理由を告げる。

「もうタイラーやガブでは勇者たちに勝てないだろ?」

「わ、わたしは教団に所属していた者として、離反した勇者を止めたいです! それが今のわたしにできる贖罪でもあります!」

「そうは言ってもなぁ……」

「お願いします、ケビンさん!」

 ガブリエルが教団の駒だった頃の責任を感じてケビンに頼み込むも、ケビンとしてはガブリエルを参加させる気はなかったのでどうしたもんかと考え込むこと数分、悩んだ結果ケビンが結論を出した。

「ガブ……勇者じゃないお前が勇者に追いつこうとするのは、並大抵の努力じゃ無理だということはわかるな? だからガブの覚悟を聞かせてくれ。死に物狂いで強くなる覚悟はあるか?」

 ケビンの告げた内容を聞いた九鬼はピンとくるものがあったのか、血相を変えてガブリエルを止めようとする。

「ガブリエルさん、それは断ってください! 東西南北よもひろ君は僕たちが何とかしますから!」

 だが、九鬼の懇願虚しくガブリエルは意気込みとともに、二つ返事でケビンからの問いかけに答えてしまった。

「あぁぁ……新たな被害者が……」

 九鬼の呟きがガブリエルに届かず隣に座っていた無敵に届いてしまうと、無敵は『被害者』というのはどういうことなのか、九鬼の呟いた内容を聞き出していく。

「ケビンさんの言った死に物狂いってのは、その言葉の通りだ。鍛錬はケビンさんの特別メニューで行われる」

「それほどにキツイのか?」

「あれはヤバい……何度も死ぬかと思った……むしろ何回も死にかけた」

 九鬼の話を聞いた無敵は何を思ったのかケビンにその死に物狂いの鍛錬に参加したいと申し出て、自分も参加できるかどうかの判断を仰いだら、それを聞いた九鬼は信じられないような目をして無敵に問いただす。

「お前、馬鹿か?! ヤバいって言っただろ!?」

泰次やすつぐがクリアしたなら、俺もクリアしなきゃ追いつけないだろ?」

「クリアなんかしてねぇよ! 途中リタイヤだよ!」

「なら、なおさら挑戦しないとな。お前よりも先にクリアしてみせる」

「ちょ、虎雄! この馬鹿を止めろ!」

「無理だな。俺もその鍛錬に興味がある」

 無敵に感化されたのか十前ここのつまで参加すると言い出してしまい九鬼は頭を抱えてしまうが、1度忠告をしたのであとはもう知らないとばかりに『好きにしろ』と言って、無敵たちの死に物狂い鍛錬が決定してしまった。

「それってうちも参加になるの?」

「こいつらが馬鹿なだけだから夜行やえはやめておけ。アルバイトの方が幸せだぞ」

「ふーん……じゃあ千代、うちらはバイトに専念するっきゃないっしょ」

「バイトぉぉぉぉ!」

「私もバイトをしようかな。戦うにしても【ネクロマンサー】って制限が多いのよね」

「俺は参加するぜ! 力也と虎雄が行くなら俺も行かねぇとな!」

 こうして無敵グループの男子たちが無謀にもケビンのブートキャンプに参加する意思を見せ、残る女子たちはアルバイトを希望するのだった。そしてケビンはアルバイト希望の者たちに仕事の種類を教えていく。

「魔導具製作、魔導具販売店、お酒販売店、香水販売店、女性服販売店の中から選んでくれ」

 ケビンがそう告げると帰る気のない1人である弥勒院みろくいんが、ケビンに対して願望を口にする。

「ケビンくん、ケーキ屋さんは?」

 弥勒院みろくいんの願望がこの場にいる者たちの耳に入ると、生徒会長並のその貪欲さに戦慄してしまうのだった。だが、ケビンはそのような弥勒院みろくいんに対して、現実的なことを突きつける。

香華きょうか、ケーキは誰が作るんだ? 基本的に俺は作らないぞ。面倒くさいことは嫌いだからな」

「うーん……麗羅ちゃん?」

 あくまでも『自分が作る』とは言わない他力本願な弥勒院みろくいんは、親友の勅使河原てしがわらにその役目を押しつけると、勅使河原てしがわらは頭を抱えながら弥勒院みろくいんに対して口を開いた。

香華きょうか、いくら私でもケーキは作れませんわよ。まず材料はどうしますの? 仕入れるにしても仕入れ価格というものを決めなければなりませんし、誰を顧客にするかで販売価格やらコストの見直しもしなければなりませんのよ?」

「だって……ケーキ屋さんで働きたいもん……」

「もし売れずに余ったらどうしますの? その分だけ赤字が出てしまいますのよ?」

「食べる」

 勅使河原てしがわらの説明に対しての弥勒院みろくいんの最終結論が、『食べる』という願望丸出しな言葉が出てきたことにより、この場の者は『それが目的では?』という同じ結論に達してしまう。だが、そのような中でも、ケビンは弥勒院みろくいんの願望丸出しな言葉に対して、別に怒るでもなくいつもの甘さが出てしまった。

香華きょうかが作ってそれを販売するなら協力してやるぞ。端から他力本願でいくならこの話はナシだ」

「うっ……お料理は調理実習しかしたことない」

「うちには優秀な嫁たちがいる。調理コースを卒業した者もいるから、その人たちに習うのなら俺が作り方を嫁たちに教えておく」

「…………余ったら食べていい?」

「赤字を出さない程度ならな」

「ッ! ケビンくん、大好き!」

 何がなんでもケーキを食べようとする弥勒院みろくいんに、ケビンもケーキのような甘さが出たのか、赤字を出さない程度なら食べてもいいという許可を出すと、それを聞いた弥勒院みろくいんは満面の笑みとなる。

「時に旦那様……パスタ屋というものはあるのだろうか? いやな、パスタ屋があるのなら、それこそ、そこに通いつめなくてはならないだろう? 旦那様だっていつも一緒にいるわけではないし、私としてはだな――」

もも

「何だ、旦那様」

 ケビンが弥勒院みろくいんという前例があるために生徒会長が何を伝えたいのかを理解して、弥勒院みろくいんと同様の条件を出そうとするが、ふと気になったので疑問に思ったことを生徒会長に問いただしてみた。

「その店を作ったとして、商品は何だ?」

「それはもちろんミートソーススパゲティと抹茶だ」

「却下だ」

「なぜっ?!」

「ミートソーススパゲティと抹茶のみの店で売り上げが上がると思うのか? 俺が客ならすぐに飽きて、たまにしか食べに行かないぞ」

「旦那様はミートソーススパゲティ愛が足りぬのだ!」

 その生徒会長の主張に対してケビンが行ったのは、民主主義に則った多数決である。結果はもちろん賛成1(生徒会長)に対して、反対41(ガブリエルとタイラー含む)という圧倒的過半数を占める結末に終わる。

「……解せぬ……」

 生徒会長が1人でこの世の理不尽さに憂いていると、ケビンは生徒会長を放っておいて次なる話を進めていく。

春夏冬あきないと越後屋は商人という職業を活かしてもらうために、俺の店で見習い店長をしてもらう」

「え……」
「無理だろ……」

「レベル付き【鑑定】と【アイテムボックス】持ちだろ?」

「でも、ずぶのど素人なんですけど……」
「経営なんてわかんないです」

「そのための見習い店長だ。さすがに算数はできるだろ? この世界ではそれすらできない大人とかもいるんだぞ。お前たちが今まで身につけた学問はきっと役に立つはずだ」

「でも……」
「責任重大過ぎる……」

「ダンジョンに放り込まれるのと自分の職業を活かすのはどっちがいい?」

「「職業で!」」

 そのようにケビンからダンジョンに放り込まれると言われてしまった2人は、迷うことなく即答で見習い店長の選択をしてしまった。

「あとは……あずま、俺の知る最高の鍛冶師を紹介するから、そこに弟子入りしろ。イグドラの前代表を務めたこともある超一流の鍛冶師で、ゴワンさんの弟のドワンさんだ」

「うひょー! 小生はとうとうイグドラで噂の天才鍛冶師に会うことができるのでありますか?! しかも弟子入りであります!!」

にのまえは錬金術師か……錬金術師の知り合いはいないんだよなぁ……」

「某が仲間はずれな件」

「……仕方がない。にのまえは俺が鍛える」

「ん? ケビン氏は錬金術師でごわすか? 魔導具職人とお聞きしたでごわす」

 その疑問に対して、ケビンは過去にミナーヴァ魔導学院で使っていた教材の複製を無言でにのまえの前に出した。

「ミナーヴァ魔導学院を主席で卒業したのですが、何か?」

「キター! 某たちの専売特許のセリフを完璧な形で使われたでごわす!」
「ケビン氏がオタク文化に造詣が深い件」
「やはり魔王サイドに勢力チェンジして間違いなかったのですぞ」
「拙者はケビン殿と親友になれる気がするでござる」

「更には全ての科目を履修し単位を取得したのですが、何か?」

「もはや教授の領域でごわす!」

「既に名誉教授ですが、何か?」

「ぐはっ! 某……完膚なきまでに倒されたでごわす……」

 そのような形でケビンとオタクな男子たちが騒いでいると、勅使河原てしがわらがケビンにとある質問をする。それはケビンがミナーヴァ魔導学院を主席で卒業したのなら、召喚魔法とは逆で返還魔法を使えないのかということだ。

「この世界限定で言うのなら使えるぞ。だが、地球に送還してくれという話なら無理だ。麗羅は地球の座標とかわかるか? 日本に住んでいた頃、別の国とかの座標とかは知っていたか? ネットで調べればわかるっていうのはナシだぞ」

「も……もし、地球の座標がわかればできるんですの?!」

「試してみないことにはわからないが、どこに飛ばされるかは知らんぞ? 下手したら海のど真ん中で仲良く溺死ってこともありえるし、火山の中に飛ばされてそのまま焼死ってこともありえる」

「そんな……」

 一縷の望みにかけた勅使河原てしがわらだったが、ケビンからの返答により現実的ではないことに気づかされてしまう。そのような中で話し合いも終盤へと向かい、生徒たちの今後の活動方針が固められていくのだった。

 そして帝国に転職したタイラーはさっそく騎士たちに工作員の何たるかを叩き込もうとしたが、ケビンが『教えるのは別の兵たちだ』ということを伝えたら、タイラーの仕事は帝都に出張させた各貴族の兵士たちに、工作技術を叩き込むということを改めて聞かされる。

「あんちゃんの騎士たちはいいのか?」

「元より戦争に参加させるつもりはない。あの騎士団は私設騎士団みたいなもので正式な兵登録はしていないし、彼女たちの使命は魔物から民たちを守ることで、戦争で人を殺すことじゃない」

「1人軍隊のあんちゃんならではのやり方ってやつだな」

 いざ戦争となればケビン1人で事足りてしまうことを重々身の上で体験しているタイラーは、騎士本来の仕事ができているケビンお抱えの騎士団を羨ましくも思うのであった。

 それから散り散りになる前にアルバイト組を集めたケビンは、さっそく希望の職場へと案内していく。そしてそこの責任者にあとのことを頼むと、次々に職場回りをしていくのだった。

 そして自身の欲求を満たすためにケーキ職人を目指す弥勒院みろくいんは、ケビンに連れられて調理室へと案内される。そこで下ごしらえなどをしていたアズたちに弥勒院みろくいんを紹介して、見習い調理師として色々と教えるように伝えていく。

「ケビンくん、ケーキは?」

「お客様に販売するんだ。ちゃんとしたものを作るためにもまずは基礎からだろ? 香華きょうかだって不味いケーキと美味しいケーキだったら、美味しいケーキの方を食べたいだろ?」

「うん……」

「アズたちにはレシピを教えておくから、香華きょうかは先生たちの言うことをよく聞いて、合格を貰ったらケーキ作りに入るといい」

「わかった」

 そしてケビンはアルバイト組やその他をあちこちに連れて行き終わると、ブートキャンプ参加者と生徒会長を連れて規格外ダンジョンへと向かう。その時にしれっと逃げようとした九鬼を強制連行しながら。

「ここが鍛錬の場所だ」

 そして辿りついた私有地ダンジョンを見た参加者たちは、ダンジョンが敷地内にあることに対して唖然としてしまう。

「ケ、ケビンさん……何故ここにダンジョンが……」

「いやぁ、ある日突然現れたからビックリしちゃったよ」

 白々しい物言いのケビンに疑惑の視線が突き刺さっていると、ケビンはダンジョンを創った詳細は語らずにそそくさとルール説明をする。

「ここのダンジョンは【規格外】という名前の通りで、ぶっちゃけ規格外の者しか攻略不可能だ。まず、1階層目からよくいるザコは出ない。一般的なダンジョンのボスキャラが徘徊している」

「何がいるんですか?」

「ゴブリンキングやゴブリンクイーンがいっぱいウロウロしているぞ」

「1階層目からキングやクイーンが?!」

「あと、中は階層によって環境が変わる仕組みになっている。マグマが流れる灼熱地獄だったり、吹雪のやまない極寒地獄だったり、霧が立ちこめる視界不良の階層だったりする上に、トラップ盛りだくさんだ」

 ケビンが楽しそうにそう解説する中で、無敵は九鬼に本当なのか尋ねてみると全て事実だと告げては、遠い目をして空を見上げていた。

「あぁぁ……ちなみにドラゴンとかも普通に徘徊しているからな。無理そうだったら逃げろよ。ダンジョン内だから小さいドラゴンだけど、小さくても強いぞ」

「ふん、ドラゴンか……腕試しにはちょうどいいな」

「力也……まさか1匹ずつ出てくるとか思ってんじゃないだろうな?」

「違うのか?」

「ケビンさんが言っただろ。ダンジョン内でも自由に動き回れる小さいドラゴンなんだぞ。出会ったら即逃げる! これが基本だ。そして1匹だけの時に不意打ちで倒す。仲間なんか呼ばれたら目も当てられない状況に陥るぞ」

「けっ、所詮は桃太郎だな。腰抜け臭がプンプン臭ってくるぜ」

「お前は真っ先に脱落するタイプだな」

「なんだとっ!」

「やめろ、竜也。お前じゃ泰次やすつぐには勝てない。そもそも職業は暗黒が付いていても神官だろ? 戦闘職とまともにやり合えると思うな」

「でも、桃太郎は学生だろ! 俺よかしょぼいじゃねぇか」

「タイラーに勝つほどの実力者だぞ。いい加減事実を受け入れないといつまで経っても弱いままだ」

 無敵から窘められた月出里すだちが渋々黙りこくると、ケビンは全員の心の準備ができたかを尋ねていき、九鬼は『できてません』と最後の抵抗を見せていたが、ケビンからは完全にスルーされてしまう。そして相変わらずのケビンは、参加者たちの危機管理能力を鍛えさせるために、緊急処置用のことは伏せておき、挑戦者たちをダンジョンの攻略という名の地獄めぐりツアーへと送り出すのであった。
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