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第16章 魔王対勇者

第537話 魔法少女は負けない

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 【オクタ】のメンバーがまだ奮闘している最中、【闇黒魔法少女ダークネスマジカル】のモモとなった生徒会長もまた、幻夢桜ゆめざくらグループ相手に1人で奮闘していた。と言うよりも、完全に今の状況を遊んでいた。

「《MGTマッチャグリーンティーダークネス》!」

 そう声を上げる生徒会長の魔法?により緑色と言うよりも、より深みの増した濃い緑色のお茶ではない何かが、水球となって幻夢桜ゆめざくらたちに襲いかかる。

「だから、どうして魔法が使えますの?!」

「ハハハハハ! 今の私は【武聖】ではなく【魔法少女マジカルモモ】が闇堕ちして【魔法少女ダークモモ】となり、更には魔王様の御力により進化を遂げた【死五天皇后デスクインテットエンプレス】が1人、【闇黒魔法少女ダークネスマジカル】のモモだからだ!」

「意味がわからなくてよ! それにその歳で魔法少女はありませんわ! 生徒会長は今年で20歳ではありませんか! 成人でしてよ、成人!!」

「何を言う! 成人式に出なければ成人したとは言えない! 故に私は未成年だ!」

「その理屈の通る世界がどこにあると言うのですか!」

「それはここにある! 顕現せよ、《百の世界マイワールド》!」

 相変わらずの生徒会長節が炸裂しているが、果敢にも勅使河原てしがわらは生徒会長との会話相手をこなそうとしていた。だが、生徒会長による【百の世界マイワールド】が発動すると辺りは半球体状の絶対領域が展開され、幻夢桜ゆめざくらたちはその領域に包み込まれてしまう。

「この中であれば私はどのような魔法でも使うことができる。そう……私の想像力が続く限りな!」

 そのような状況の中でも、【帝王】たる幻夢桜ゆめざくらが間合いを詰めて生徒会長に斬りかかると、生徒会長は慌てることなくそれに対応してみせる。

「《ダークネスソード》!」

「ほう……後衛職に鞍替えかと思いきや、【武聖】の力はまだ持ち合わせているようだな」

 サクッと斬りかかってきた幻夢桜ゆめざくらに対して生徒会長がしたことは、魔法のステッキに黒色魔力を纏わせ擬似剣を作り出して幻夢桜ゆめざくらが振り下ろした剣を受け止めたことだ。

 そして、幻夢桜ゆめざくらと生徒会長が斬り結んでいる中で、【聖女】の弥勒院みろくいんが魔法を撃ち放つ。

「《ホーリーアロー》」

「なんの……《AYMアンチヤキソバマヨダークネス》!」

 素早く退いた幻夢桜ゆめざくらに代わり聖矢が生徒会長に降り注ぐが、生徒会長の【焼きそば非マヨネーズ派】シールドが展開されて、白黄色を黒く塗りつぶす半球体状の結界に包まれると余裕の表情を見せていた。

「全然相手にならぬではないか。よくそれで【帝王】などと口にできたな。いっそのこと【愚帝王】へとクラスチェンジしてはどうだ? 単独行動をしてた割には成長が見られん」

「貴様……よもや俺が本気を出していると、そう勘違いをしているのではないだろうな? まだ俺は半分程度の力も出していないぞ」

「何を言うかと思えば半分か? 私は3割も出していない」

「俺は1割だ」

「帝王学が聞いて呆れる。異世界に来てからお子様度が増したのではないのか、幻夢桜ゆめざくら少年」

「ぬかせっ!」

 まんまと生徒会長の挑発に乗った幻夢桜ゆめざくらが再び斬りかかり、それをサポートするかのようにして勅使河原てしがわらも前に出て生徒会長への攻撃を始めるが、【武聖】の職業は伊達ではなく難なく2人の相手をして見せている。

「蘇我っ、貴様も【英雄】であるのならばこいつを倒すのに手を貸せ」

「はいはい。仕方がないから、人への頼み方を知らない【帝王】さんを助けてやるよ」

 今まで単独行動を続けていた幻夢桜ゆめざくらに対する信頼がないのか、蘇我は面倒くさそうにそう答えると生徒会長への攻撃を開始した。これにより生徒会長は3人を相手取ることになり、剣戟もひっきりなしに続いていくが、見た目が魔法少女という不真面目な格好である生徒会長に対して、3人はこれといった決め手がなく事態は膠着する。

「蘇我少年、少々痛いが男の子なら我慢するのだぞ」

「痛いのは勘弁して欲しいっすね」

「ならば躱して見せるのだ。《UKT宇治金時が食べたいダークネス》」

「UKTってなに?!」

 生徒会長が技名を口にしたら、蘇我に向かって抹茶色と小豆色の光線が撃ち出されていき、蘇我はそれを必死に避けていく。だが、蘇我の相手をしていた生徒会長の背後に幻夢桜ゆめざくらが出現したと思えば、そのまま生徒会長の背中を斬りつけたのだった。

「もらったぞ」

「――ッ!」

 女性を相手に背後から斬りつけ怪我を負わせるという所業を成し遂げた幻夢桜ゆめざくらに対して、勅使河原てしがわらはありえないと非難するも、幻夢桜ゆめざくらはそのような言葉を無視して語り始める。

「いくら突拍子もない攻撃をしようとも、【帝王】たる俺の眼は誤魔化せん。お前を観察した結果、魔法を使ったあとは膠着時間が発生することがわかった。魔法を使えないお前が魔法を使えるようになったことで慢心したようだな?」

「そ、それよりも手当てを! 香華っ、生徒会長に早く回復魔法を!」

 背中から血をだくだくと流している生徒会長の姿に対して、勅使河原てしがわら弥勒院みろくいんを呼びつけて手当てをしようと施すも、生徒会長はそれを手で制した。

「……何のこれしき……【死五天皇后デスクインテットエンプレス】が1人、【闇黒魔法少女ダークネスマジカル】のモモである以上……敵の情けは受けん」

「そのようなことを言っている場合ではありませんわ!」

「くだらん……勅使河原てしがわら、お前たちはおままごとでも続けていろ。【帝王】たる俺の目的は魔王だ。おままごとに付き合うほど暇ではない」

 そう言い放った幻夢桜ゆめざくらはその場を後にして、ケビンの元へと1人で向かうのであった。そして残された者たちの中で、勅使河原てしがわらを始めとする生徒たちは生徒会長の身を案じる。

「生徒会長! 早く手当てを!」

「……これは取っておきで使いたくなかったのだがな……こうなっては致し方あるまい。この痛みは楽しくなり遊びすぎた私の慢心が招いた報いということか……傷跡が残ってもケビン殿は娶ってくれるかな……」

 そう呟きながらフラフラと立ち上がる生徒会長は魔法のステッキを握りしめると、取っておきの技であるその名称を口にする。

「ミートソーススパゲティよ、私に力を……《AK愛するケビンとバリ島へダーク……ネス……》」

 その瞬間黒い光が球体となり生徒会長を包み込むと、勅使河原てしがわらたちは姿が見えなくなってしまった生徒会長に対して心配するも、それが杞憂だったことをこの後の生徒会長によって知らされてしまう。

「フォームチェンジ! 【魔法少女マジカルモモ】、ここに見参っ!」

「「「「え……??」」」」

 黒い球体がなくなることで中から現れたのは、桃色の服装にチェンジした生徒会長である。これに対して勅使河原てしがわらたちは、もう何が何だかわからない。先程まで背中に傷を負ってしまったせいで血を流していた生徒会長が、嘘のようにピンピンしているからだ。

「お約束の言葉を使わせてもらう」

「お約束……?」

「説明しよう! 【闇黒魔法少女ダークネスマジカルモモ】は生命の危険に迫ると、その闇黒の力を代償にして立ちどころに傷を回復することができる。だが、その後は闇黒の力を使うことができずに、通常の【魔法少女マジカルモモ】へとフォームチェンジすることになるのだ!」

「い……意味がわかりませんわ……」

 勅使河原てしがわらたちが呆然とする中で、ノリノリな生徒会長がお約束のナレーションのごとく技の効果を説明したのだが、勅使河原てしがわらたちは生徒会長節についていくことができずに、ただただ『絡みづらい』と安定の思考が頭の中を駆け巡る。

「闇黒の力を使うことができない以上、ここからは普通のマジカルモモとしてお相手しよう!」

 服装だけでなく魔法のステッキまで桃色になっている【魔法少女マジカルモモ】こと生徒会長は、ステッキをクルクルと回しながら勅使河原てしがわらたちの出方を見守っている。

 そしてそのような混乱覚めやらぬ状況の中でも、勅使河原てしがわらは他の者たちに指示出しを行うと、生徒会長とのバトルを再開させるのだった。

 一方で【オクタ】や生徒会長がそれぞれの相手とバトルを繰り広げている中、相対する相手がちょうどいなかったと言うよりも、端から【オクタ】や生徒会長に見向きもせずにひたすら目的のために動いている一団があった。

 それは無敵のグループであり【大魔王】の無敵は【魔王】がどれほどの強さなのか興味が尽きずに、百鬼なきりの陰陽術により気配を消したままグループで移動をしていたのだ。

 だが、いくら気配を消したとしてもケビンの【マップ】をくぐり抜けることはできず、過去にそれを成し遂げたのは感情を動かすことなく行動ができるヴィーアのみとなる。

「客が来るようだ」

 相変わらずの魔王っぷりを演じているケビンがそう告げると、他の者たちは一体誰が来るのか興味津々となる。そして、ケビンが立ち上がるとおもむろに拓けた所へ歩き始めた。

「そこでコソコソしている者たちよ、姿を見せよ」

 ケビンからそう告げられた無敵たちは、気配を消しているのに見抜かれたことで驚きを禁じ得ない。しかしながら、見つかっているのであればこれ以上気配を消したままでも意味がないと感じて、無敵が百鬼なきりに術の解除を促すとその場に無敵たちの姿が現れる。

「ここまで誰にも気づかれずに来たこと、褒めて遣わす」

「お前の褒め言葉なんかいらねぇ。勝負しろ、魔王」

「ふむ……我との勝負か……ラクシャスよ、お前はどうする?」

 急に話を振られたラクシャスこと九鬼は、ビクッと反応すると無敵たちと戦うかどうかを逡巡するも、以前に無敵とタイマンを張っていたのでそれほどまでして戦いたいという気持ちはなかった。

「ここは1つ、魔王様の御力を勇者たちへ知らしめるためにも、私が相手をするより魔王様ご自身がお相手する方がよろしいかと愚考します」

 それらしいことを返答として発言している九鬼だったが、実際のところは中二ごっこ真っ最中であることを、不慮の事故で無敵や十前ここのつにバレるのが嫌だったためである。

「一理あるな……では、我が直々にそなたたちの相手をしてやろう。光栄に思うがよい」

 ケビンはそう告げると見学席の者たちに被害が出ないように結界で覆いこみ、これから始まる戦闘の準備を終わらせてしまう。

「丸腰で俺の相手をするつもりか?」

「剣技を所望か? ならばそれで遊んでやろう。来い、我が魔剣……ヴァティファシオン!」

 ケビンがそう高々に声を上げると足元に魔法陣が浮かび上がり、そこからソフィーリアとの合作で作り上げた漆黒の魔剣が徐々に迫り上がってくる。するとケビンはちょうどいい高さまで上がってきたところで、その柄を握ると一気に引き抜いた。

「来るがいい、勇者たちよ。我が魔剣の恐ろしさをとくと味わわせてやろう」

「ぬかせ……虎雄、やるぞ。残りは援護だ」

 無敵からの指示によりそれぞれが動き出す中で、無敵は十前ここのつとともにケビンへと間合いを詰めて剣戟を交わしていき、そしてその後方では支援組が次々と得意技を繰り出していた。

「今日は大盤振る舞いでいくっきゃないっしょ! 急急如律令! 鬼っち、狐っち、みんなで魔王をやっつけろー!」

「グァッ!」
「コンッ!」

 百鬼なきりが式神を次々と召喚してケビンに向けて突撃させていると、その隣では千手がポーチから魔物の死体を出してはアンデッド化させていき、同じようにケビンに向けて突撃させていく。

 そして千喜良は暗殺術を活かしながら合間合間でケビンの死角から攻撃を繰り出し、月出里すだち月出里すだちで【暗黒神官】らしくとも言えないが無闇矢鱈に突撃することはなく、地道な支援魔法を味方にかけていた。

「魔剣の恐ろしさとやらはどうした? 普通の剣術しかできない魔剣なのか?」

 ケビンと剣戟を交わしている無敵がそう尋ねると、ケビンは無敵を牽制して間合いを開かせたら、中二らしくポーズをキメて準備を始める。

「ならば見るがいい、この魔剣の恐ろしさを……《魔剣解放》矛盾せよ、ヴァティファシオン!」

 魔剣を上空に浮かび上がらせたケビンがそう高々と声を上げたら、その魔剣はユラユラと漆黒の魔力を発し、それを見た無敵は何が起こるのかと身構えていたが、特に何も起こることはなかった。

 そして無敵が困惑する中で、指示された通りに動いている式神やアンデッドたちは一斉にケビンに向かって攻撃を仕掛けていくが、ケビンはそれを剣で迎えうつでもなく無防備な状態を晒している。

 その式神やアンデッドたちの攻撃が迫りくる中で、それを見ている観客席の者たちがハッと息を飲むと敵の攻撃がとうとうケビンに当たってしまう。

「魔王様っ!」

 誰とはなしにそう叫んだのだが、ケビンは特に何もせずにその場で棒立ちしたままだった。だが、敵の攻撃は止むことなく続いているのに、ケビンは全く気にした様子もなく舐めプ状態でいる。

「まさか……」

「アンデッドの攻撃が効いてないわよ!」

「アレどうなってんの?! うちの式神たちの攻撃が全く通用してないんだけど!?」

 ケビンの状態に驚きを隠せない千手が叫び、百鬼なきりも同様に驚きつつ無敵に尋ねると、無敵は今までで得た情報により予想したことを口にしていく。

「やつがあの状態になる前に『矛盾せよ』と言っていただろ。つまり、いま目の前で起きていることは【矛盾】しているってことだ。攻撃したのに一切のダメージを受けないなんて矛盾しているだろ?」

「それって無敵じゃん!? いや、無敵を呼んだわけじゃないよ?」

「はぁぁ……そんなことは言われなくてもわかってる」

「あっ、それよりも! あいつが無敵になったら、無敵の無敵が取られてテディがなくなるじゃん!」

 相変わらずな覚え方をしている百鬼なきりの言葉に対して、以前頭を悩ませられた経験があったためか、百鬼なきりが何を指して言った言葉なのか月出里すだち以外は理解してしまうが、初耳のケビンはそうもいかない。

「ん……? そこの女は何を言っている? テディがなくなる……? 無敵とやら、お前のテディを奪った覚えはないのだがな」

百鬼なきりが言っているのはテディであってテディじゃない。アイデンティティのことだ」

「……ふむ、百鬼なきりという者が馬鹿なのはわかった」

「うちのことを馬鹿って言うな! 馬鹿って言った方が馬鹿だし!」

 ケビンが呆れながら言った言葉に対して百鬼なきりが反論するも、それを援護してくれる仲間はこの場におらず、ただひたすら式神たちから攻撃を受けているケビンをどう攻略するか思考を巡らせていた。

「どうする? 力也」

「どうするも何も、あの剣をどうにかしないとどうしようもないだろ」

「だが、何で魔王は攻撃をしないんだ? ダメージは通らずとも攻撃を受け続ければウザイだけだろ」

 膠着状態が続く中で十前ここのつが無敵に方針を相談すると、無敵は十前ここのつの何気ない言葉からヒントを得る。そして考え込んだ結果、1つの仮説を立てた。

「もし……仮に魔王も魔剣の影響を受けているとしたらどうだ?」

「【矛盾】の影響をか?」

「そう仮説すると魔王が式神を攻撃しない理由にも納得がいく。式神を攻撃しても、その攻撃が式神に通らないからだ」

「仮にその仮説が当たっていたとしても、無駄に時間だけが過ぎていくだけじゃないか」

「魔王のあの余裕の態度から見て、効果の時間切れを狙うことはできなさそうだな」

 そのような無敵と十前ここのつの話し合いが聞こえていたのか、ケビンが無敵に話しかける。

「打つ手なしなのか? ならばこちらから動くとしよう」

 ケビンの言葉を聞いた無敵はまさか仮説の話が間違っていたのかと思い、魔王は攻撃ができないのではなくしなかっただけだという考えが新たに頭をよぎると、警戒心を最大限に引き上げていく。

「我が召喚に応じよ、魔剣コンフリクトゥース!」

 無敵たちが警戒心を強めている中で起きたのは、ケビンが新たな魔剣を召喚するという行動であった。再び魔法陣がケビンの足元に出現すると、そこから新たに出てきたのは1本目の魔剣と造りは違うが、同じく漆黒の色をした魔剣である。

 そしてケビンが高々と魔剣を掲げると、先程と同じように魔剣解放の言葉を口にする。

「《魔剣解放》背反せよ、コンフリクトゥース!」

 ケビンの言葉により魔剣の柄部に嵌め込まれた赤石が光を放つと、それを見ていた無敵が魔剣の効果を考え始めていた。

「背反……背反……背く……反する……?」

 そして無敵が答えに辿りつくよりも早く、ケビンの行動によりその答えを目の当たりにすることになる。

「紙切れや死体に還るがいい」

 そう呟いたケビンが、攻撃を仕掛け続けていた敵をバサバサと斬り捨てては式神をただの紙切れに戻していき、アンデッドも同様に斬り捨ててはただの死体に戻していくと、【矛盾】の影響下で矛盾していないケビンの行動に無敵たちは呆然としていた。

 それからケビンが式神やアンデッド化された魔物たちを全て倒しきると、その刃を無敵に向けて挑発する。

「かかってこぬのか? 最初の威勢はどうしたのだ、無敵とやら」

 無敵がケビンの挑発に乗るでもなく思考を巡らせて何かいい方法はないかと考え込んでいたら、今までずっと大人しかった月出里すだちがケビンに噛みついた。

「テメェ、ずりぃぞ! 自分だけ攻撃を食らわないなんて勝負にならねぇじゃねーか!」

「お前は馬鹿か? 戦いにズルいも何もないだろう。命のやり取りでルールなんてあるわけがない。ルールを決めていいのはお遊びの試合だけだ。お前たちは俺を殺しに来たのだろう?」

「当たり前だろ! 魔王を倒すのが俺たちの役目だ!」

「ならばズルいなどと口にするな。人を殺していいのは殺される覚悟のあるやつだけだ」

『キター! この状況においてもネタを挟むその心意気! そこにシビれる! 憧れるぅぅぅぅ!』

《サナちゃん、興奮しすぎよ……》

 ケビンの遊び心に反応したサナがはしゃいでいると、何故かシステムがケビンの脳内に出現していて、『仕事はどうした?』と言いたくなるのをケビンはグッと堪えた。それもひとえにシステムの逆襲が怖いからだ。

「そんなの関係ねぇ!」

『あっちもネタ?! ネタなの!?』

《いや、あの子はただ単に駄々をこねている、程度の低いカスよ》

「ふむ、仕方のないガキだ。魔王と言えば魔剣なのだがな、魔剣を使わずに相手をしてやろう。《魔剣封印》戻れ、ヴァティファシオン、コンフリクトゥース!」

 ケビンの言葉によりヴァティファシオンの発していた魔力は収まり、コンフリクトゥースの発していた光が収まると、ケビンは魔剣2本を収納して無手となる。

「さて、どうしたものか……魔剣を使えばそこの馬鹿が騒ぎ出すであろうからな……ふむ、久しぶりにこれを使うとしよう」

 そう言うケビンが【無限収納】の中から取り出したのは、何の変哲もない棒切れである。だが、それを見た月出里すだちは更に逆上する。

「テメェ、ふざけてんじゃねぇぞ! そんな棒切れで俺たちがダメージでも食らうと思ってんのか!」

「うるさいガキだ。貴様が馬鹿にするこの棒切れは伝説の武具である。その名も【宝樹ミスティルテイン】!」

『またまたキタコレー! その辺で拾っただけのヒノキの棒にすら劣っている名もなき棒に、畏れ多くも伝説の名前を付けちゃったー!』

《バカね……》

「日本語喋りやがれバーカ! ミス何とかならミスするだけだろーが」

 馬鹿に馬鹿にされたケビンは今まで我慢していたもののイラッとしてしまい、瞬時に動いて月出里すだちの眼前に現れたら、馬鹿にされた宝樹ミスティルテインのようなもので、手加減して殺さないギリギリのラインを攻めていくと、思い切りのいいフルスイングで月出里すだちを飛ばしてホームランする。

「ぐぶぁっ!」

『ホームラーン!』

《馬鹿がいなくなってせいせいするわ》

「馬鹿猿ぅぅぅぅ!」

「またつまらぬものを打ってしまった」

 ケビンの退場ホームランによって消えていった月出里すだちに対して、無敵たちは当然ながら為す術もなく呆然としてしまい、ケビンがそこら辺で拾っただけの名もなき棒を、その威力と耐久性から本当に【宝樹ミスティルテイン】だったんだと誤解してしまう。

「さて勇者たちよ、戦いを再開させようではないか。なに、あの馬鹿のように飛ばしたりはしないが、打ち身程度は覚悟するがよい」

「……虎雄、本気で行くぞ」

「ああ、出し惜しみなしだ」

「うちも援護するし!」

「頑張るぅぅぅぅ!」

「私は回復に回るけど、専門じゃないからあまりあてにしないでね」

 それから始まったケビン対無敵グループの戦いは、本気を出した無敵たちが意外にも奮闘してケビンを圧倒し始める。

(くそっ、これが勇者の持つ特攻効果か……わかっちゃいたけど、魔王になったせいで俺にも適用されるってことか……)

 奇しくもフィリア教団から魔王認定された上に、調子に乗って自称魔王(笑)をしてしまったケビンは自他問わず魔王となっており、勇者たちの持つ“魔”に対する特攻効果をその身でもって痛感してしまう。

『システムちゃん、マスターの魔王を取っちゃダメなの?』

《あまりにも多くの人が認知しているから、今更外してもすぐに付いて意味がないわ。ケビンが【聖戦】の時から『魔王じゃない』って否定すれば良かったのに、調子に乗って魔王を自称したからもう無理ね》

『マスター……』

《遊び好きって言っても限度があるでしょ……バカよ、まったく……》

『心配するな2人とも。俺は負けず嫌いなんだ、勇者たちとのゲームに負けてたまるか』

『サナは何もできないけど、応援はできるので応援を頑張ります!』

《べ、別にあんたのことなんて心配してないわよ! 自惚れないで!》

 無敵たちとの戦いを続けながらも頭の中で心配するサナたちに声をかけるケビンであったが、ぶっちゃけどうしたものかと思考を巡らせていく。そもそも勇者の持つ特攻効果で不利な状況に置かれている上に、なおかつ相手を殺さずに無力化しなければならないので、ケビンの難易度は勇者たちに比べると格段に跳ね上がるのだ。

 そのような中でも事態が動いたのは無敵たちの攻撃ではなく、ケビンによる攻撃でもなく、先程まではいなかった第3者による攻撃であった。

「がはっ……」

 それは、ケビンが無敵たちとの戦闘により【マップ】が警報を発し続けていたので、うるさく思ったケビンが機能をオフにしてしまったために起きた出来事だった。

 そして痛みの走る腹部へと視線を落としたケビンの視界に入ってきたのは、第3者が背中から刺し貫通させた剣の刃である。

「たわいないな、魔王」

 貫いている刃の先から流れ落ちていく血液が地面を赤く染めていると、見学席からは悲鳴が上がり、今の今まで戦っていた無敵たちも攻めの手が止まり唖然としていた。

「おまえ……ごふっ……」

『マスター!』
《ケビン!》

幻夢桜ゆめざくらっ! 今は俺たちが戦っているところだったんだぞ!」

「なに寝言を言っているんだ、無敵。魔王を倒すのに順番決めでもしたのか? 俺はそんなものをしたことも聞いたこともないがな」

「貴様っ……」

 ケビンと無敵たちがお互いに白熱したバトルを繰り広げていたところで、幻夢桜ゆめざくらの不意打ちによって魔王に重傷を負わせたその行動は、無敵にとって到底許せるものではなかったが、幻夢桜ゆめざくらにとっては無敵の感情など些事に過ぎない。

 そのような会話を無敵と幻夢桜ゆめざくらがしていると、ケビンが刺されたことにより耐えきれなくなったサラが動いて、その犯人である幻夢桜ゆめざくらに攻撃を加える。

「死ね、ガキが!」

「お前がな」

 そして速さを売りとしているサラが幻夢桜ゆめざくらに襲いかかったのだが、抜け目なく周囲に気を配り殺気を感じ取っていた幻夢桜ゆめざくらがその場から瞬時に離れると、離れる際に仕込んでおいた設置型のトラップ魔法を発動した。

 それによりサラが青く燃え盛る火柱に飲み込まれてしまい、数十年ぶりとなるまともなダメージを受けてしまうが、すぐさま動いたケビンが火柱を打ち消してサラに回復と再生魔法をかけていき、サラは大事に至ることなく元の状態まで回復させられる。

「ごめんね。お母さん邪魔しちゃったね……ごめんね……」

「いいよ。母さんのその気持ちは嬉しいし、母さんが無事ならそれでいい」

 そしてサラに見学席へ戻るよう促したケビンは貫かれて空いた傷口を塞いだら、サラを攻撃した幻夢桜ゆめざくらに体を向けた。

「覚悟はできてるんだろうな?」

「覚悟だと……? 無敵との戦いに割り込みをかけて不意打ちをしたことか? それともお前のママを攻撃したことか? どっちにしろお前は魔王なんだろ? 人から攻撃されて何を怒ることがある? 魔王排斥はこの世界じゃ当たり前のことじゃないのか?」

「俺は別に殺されても構わないが、俺の大事な人を傷つけることだけは許さない」

「くだらん。傷つけられたくないのなら何故戦場に召喚した? この場に立つ以上は殺されても文句は言えんだろ。ここは戦場だぞ? おままごとがしたいなら家に引っ込んでろ。【帝王】たるこの俺の敵がまさかマザコンのおままごと主義者だったとは、期待外れもいいところだ」

「遺言はそれだけか?」

「遺言……? 正論の間違いだろ? お前は討つべき対象であり、今後何かを起こすにしてもまずは討伐してからだ。元の世界へ帰る方法が見つからないのなら当初の目的通りに魔王を討伐して、現れるかどうかわからない女神の出現実験をするしかないだろ」

「女神様の降臨を実験扱いか……お前のようなクズの前には女神様は絶対に現れない」

「魔王が女神を様付けとはとんだ笑い草だが、それはやってみないとわからないことだ。わからないからこその実験だろ。仮説、検証、分析、改善のサイクルは基本だ」

「……無敵、離れていろ。少し本気を出すことにした」

「俺の喧嘩に横槍を入れやがったんだ。そいつは思い切りボコボコにして構わない」

「くだらんくだらんくだらんくだらんくだらん! 何だ、貴様たちは? 敵同士で何を仲良く会話をしている? 失望したぞ、無敵。【帝王】たる俺の次に強くなるであろう【大魔王】だというのに、仲良く喧嘩ごっことはとんだ甘ちゃんだ!」

「何とでも言え。俺は俺の信念のもとに生きている」

 そう言う無敵が離れていくと十前ここのつたちもそれについていき、思いのほか消耗していた体をインターバルで休めることになる。

「無敵、あいつヤバいっしょ? 魔王に1撃だけど剣を刺したし」

「わからん。あいつは背後からの不意打ちが好きなようだからな。姑息な手段を取らなきゃ、ダメージを与えることもできんのだろ」

「あれだけの大口を叩いたんだ。どのくらい強いのか見ものだな」

「背後からのグサは私の専売特許なのに……」

「正直疲れていたから中身はどうであれ、幻夢桜ゆめざくら君の乱入はありがたいわ。今のうちにポーション類で回復しておきましょう?」

 それぞれが思い思いのことを口にしながらも、無敵たちは急遽得たインターバルでポーチからポーション類を取り出し、それを片手に休憩を取り始めるのであった。
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俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

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