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第16章 魔王対勇者
第534話 デス部隊無双
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魔王城の上空では暗雲立ち込め雷鳴が鳴り響いている中、勇者たちと相対するのはゲーマー魂とミートソーススパゲティの直感に従って、『はい』を選択せざるを得なかった【オクタ】と生徒会長だ。残る教育実習生グループと生徒会長の付き人?たちは、仲間に刃を向けるのが憚られてしまい見学の位置となっている。
そして、総団長やだだスベりした団長3人と残る団長3人に相対するのは、生徒会長の独断による加入により【死四天皇后】から【死五天皇后】に進化した4人だ。
そのような中で戦闘シーンの迫力を増すために、ケビンによって見学席へある程度声が届くように施し準備万端な状態であるのだが、すぐさま開戦とはいかず嫁たちの話し合いが行われていた。
「今回は誰がガブちゃんの相手をするのかしら?」
「私は1回ぶちのめしたからのう」
「私も叩きのめしましたね」
「私はファーストの指示に従います」
サラたち4人がガブリエルの相手を誰がするのかで話し合っていると、当の本人であるガブリエルは聞こえてしまったのか心外だとばかりに反論するも、タイラーがそれを諌めて落ち着かせる。
「少なからず青の愚師とはやりたくないわ」
「私も嫌なのだがのう」
「私も嫌です」
「ファーストの指示に従いたいのですが、私もアレだけはどうにも……」
次にサラたち4人がヒューゴについて話し合っていると、皆一様に『相手をしたくない』という結論に達するが、それを聞かされているヒューゴはこめかみをピクピクと震わせていた。
「ケ……じゃなかったわ。魔王様ぁ~」
ついついいつもの癖で『ケビン』と呼んでしまいそうになっていたサラが、改めて『魔王様』と言い直してケビンを呼ぶと、ケビンがその場に姿を現す。
「何だ、ファースト」
「青の愚師の相手をする人がいないのよ」
「ふむ、では我が直々に相手をしてやろう」
「さすが私のケ……魔王様ね」
「ファーストよ、未だ慣れぬだろうがこの遊びが終わるまでの辛抱だ。許せ」
「いいのよ、魔王様の幸せが私の幸せだから」
未だ魔王ごっこを継続しているケビンの遊びにサラも準ずるようで、ニコニコと微笑みを浮かべていると、そこへクララが担当の割り振り話を振るのだった。
「そうなると主殿が1人を相手にするとして、6対4かの。誰が2人を受け持つのだ? サクッと2人減らして1対1に持ち込むかの?」
「おいおい、魔王ならまだしもテメェらが俺に勝てるとでも思っているのか? 調子に乗ってんじゃねぇぞ! クソアマどもがっ!」
割り振り話を聞いてしまったアロンツォが舐められたと思い、発言者であるクララを睨みつけながら血気盛んに噛みつくと、それを聞いていたケビンが瞬時に動き、アロンツォの眼前に姿を現す。
「我の最高の嫁たちに対して『クソアマ』とは不遜である。死んで詫びるがいい!」
「へぶんっ――!」
そしてケビンによって殴り飛ばされたアロンツォは、そのまま100メートル以上飛んでいき動かなくなってしまうと、それを見届けたケビンはサラたちの所へと戻った。
すると、すぐさま動いたケビンの行動とセリフによってサラたちはキスをしたくても、ケビンの仮面は全面を覆っているタイプだったために、抱きつだけに留めて喜びを伝えていたのだった。
「だ、誰か救助を!」
ハッとしたガブリエルの声が挙がる中、団長側は早くも1人失ったと言うよりも、魔王の実力をまざまざと見せつけられて唖然としてしまい、ご指名を受けているヒューゴは生きた心地がせず呆然と立ち尽くす。
「あんちゃん……端から強えとは思っていたけど、こりゃあ次元が違い過ぎるぜ……」
タイラーがポツリと呟く中で、そのような戦い以前の様子を見ていた勇者たちにも衝撃が走っており、口々に先程のケビンとアロンツォの戦いとも言えない戦いを言葉にしていく。
「アロンツォ団長が1発で……」
「ありえない……」
「それよりもアロンツォ団長を助けるんだ! 回復役は向かってくれ!」
「任せろ!」
「フッ……まさに王たる俺の相手に相応しい実力のようだ。存分に楽しませてもらおう」
「要注意でしてよ。あれが本気とは到底思えませんわ」
「麗羅ちゃん、私あっちに行ってケーキ食べたい……」
「我慢なさい。魔王を倒せばケーキの製造法くらい出てくるはずですわ。そうすれば食べ放題でしてよ」
「うぅぅ……わかった……」
「人ってあんなに飛ぶもんなのか?」
「飛ぶわけないだろ。野球ボールじゃないんだぞ」
「実際飛んでるだろ」
「案外体重が軽いのか?」
「力也、見たか?」
「飛んでるところはな」
「や、ややや、ヤバいっしょ、アレ! 人が飛んでいったんだけど!?」
「100メートル以上は飛んでいったわよ!?」
「ヤバいぃぃぃぃ!」
「力也なら本気出せばアレくらいできるだろ。なんせあいつを超える大魔王なんだからな、よゆーよゆー」
勇者たちが多種多様な反応を見せている中で、いつの間にかケビン率いる【死五天皇后】と総団長率いる団長たちが、それぞれが相対して戦いの火蓋が切られようとしていた。
「デスファースト、【闇黒聖母】のサラ!」
「神殿騎士団総団長のガブリエル・ジェラルディン!」
「デスセカンド、【混沌龍】のクララ!」
「茶の騎士団団長のエドモンド!」
「デスサード、【深淵龍】のアブリル!」
「白の騎士団団長のベッファ!」
「デスフォース、【千変万化の使用人】のプリシラ!」
「緑の騎士団団長のベルトラン!」
「デスマスター、【創造魔王】のケ……ゲフンゲフン……とにかく魔王である!」
「青の騎士団団長のヒューゴ!」
「あぁぁ……これ、俺もやるの? に、睨むなよ、魔王……わかったよ、やればいいんだろ、やれば。黄の騎士団団長のタイラーだ」
1人空気を読まないタイラーに対してケビンが視線で促すと、渋々ながらもタイラーが名乗りを上げて、それぞれの戦いが始まっていく。
「白の騎士団の団長なら、ヘイなんちゃらとそう変わりはないでしょうし、この戦いも大した期待はできませんね」
「私をあのようなしくじり騎士と一緒にしないで頂きたい。見たところ素手で戦うようですが、貴女を相手にする私こそ大した期待はできないと言いたいところです」
そして始まったアブリル対ベッファの戦いは見所なくベッファがやられてしまい、ケビンサイドは予想通りの展開に大して驚きもしないが、勇者たちはアロンツォに引き続きベッファまで倒されてしまったので困惑が後を絶たない。
「さすがアブリル様。私も早く終わらせるとしましょう」
「貴女は使用人のようですね。使用人というのは今から時代を遡ること数ひゃべしっ――」
また別の所ではプリシラとベルトランの戦闘が始まろうとしていたのだが、ベルトランがうんちくを垂れている間にそれを待つほど善人でもないプリシラが瞬殺してしまい、戦闘が始まろうとしているのにうんちくを垂れ流すベルトランに対して、それを見ていた勇者たちは沈黙せざるを得なかった。
「ガハハハハ! 見よ、この上腕二頭筋! ふんぬっ!」
「おお、凄いではないか! よく鍛えておるようだの」
「そうだろう、そうだろう! この筋肉の良さがわかるとは中々に見所があるではないか!」
「だが、いささかそれは見せ筋というものではないのか? 実用性を兼ねているとは思えんな」
「なにっ!? 俺の筋肉を愚弄するか!」
「ふむ、では地面を殴ってみせよ。見せ筋でなければ地面が抉れるであろう?」
その後、クララからの挑発によって筋肉魂に火がついたエドモンドが地面を殴りつけると、ドンッという音とともに直径2メートルほどのクレーターを作り出してドヤ顔決めポーズを決める。
「ガハハハハ! どうだ、これこそが本物の筋肉。細腕のお前では到底辿りつけぬ頂きである!」
「しょぼいの」
「貴様っ!」
エドモンドがクララからの評価を受けて憤りを感じていると、クララは何てことのないように地面を軽く殴りつけた。
「ほい」
――ドゴォォォォン……
ドヤ顔決めポーズを決めたエドモンドの場合と違い、クララの地面虐待は遥かに大きな音と振動を発生させて、エドモンドを巻き込み直径20メートル近くのクレーターを作り出してしまう。そして、エドモンドは震源地に近かったため立っていられず、尻もちをつくと目の前の光景に唖然としていた。
「細腕でもこれくらいのことは可能だぞ? やはりそなたの筋肉は見せ筋よの。では、しまえるとしようかの」
こうしてひょんなことから始まった地面虐待バトルは当然のことながらクララの勝利で終わり、唖然としているエドモンドに間合いを詰めたクララがすくい上げるように拳を打ち放つと、エドモンドは尻もちをついたままの姿勢で飛ばされてしまう。
「きんにきゅぅぅぅぅ……」
そして、最後のその時まで筋肉にかける情熱を飛ばされながらも口にしたエドモンドは、アロンツォの所までは届かずに遥か手前で落ちて動かなくなるのであった。
「ふむ、主殿に負けてしまったか……やはり無駄筋が多いようだ。重くて飛距離が稼げなんだ」
そう独り言ちるクララは遊んでいたようであり、しれっとケビンの飛距離を抜かそうと企んでいたようだ。しかしながら、手加減をしつつ飛ばすというのにあまり慣れていないのか、以前やったガブリエル送迎パンチのようにはいかず、力加減を誤ったようでアロンツォの所まで届かなかったとみえる。
「さて、残るはガブリエルとお前たち2人のようだ」
「ま、魔王……たとえ倒せずとも一矢報いてみせます!」
「俺は見学の位置にいるぞ。さすがに1人に対して2人がかりってのは騎士の名折れだからな」
ケビンの強さを素直に受け止め、なんとか戦わずしてこの場を乗り切ろうとしているタイラーは、騎士らしい言葉を口にするとその場から離れていく。
有り体に言ってしまえば、わかりきった結果で痛い思いをしたくないのかケビンとの戦いから逃げたのだ。だがしかし、お遊び好きのケビンがそれを許すわけもなく、タイラーは見学という名の逃走により難を逃れるということができなくなってしまった。
「クックック……ならば我が右腕をそなたの相手としようではないか」
「え……?」
「いでよ! 我が忠実なる鬼よ!」
タイラーが思いもしない展開で困惑する中、楽しんでいるケビンがそう高々に声を上げると転移魔法陣から1人の男が現れる。その者はケビンのように顔を覆い尽くす仮面を被り、違う点と言えばその仮面は般若をモチーフにした、いかにも『鬼ですよ』と言わんばりの姿をした者だった。
「デスライト、死すらも生ぬるい絶望を与えし者。【悪鬼羅刹】のグキっ!」
「ぐきっ……? 怪我でもしたのか?」
本人はポーズを決めた上での中二病の名乗りがとても恥ずかしいのか、わからない程度にプルプルと震えていたが、対するタイラーはその名乗りに対して唖然としている。その反応を見てしまった以上黙っているわけにもいかず、本人はケビンへ近寄りコソコソと会話をし始めてしまう。
(ケビンさん、やっぱり『グキ』はないですよ、『グキ』は。恥ずかしさを消すために勢いよく名乗りを上げてしまったから、足を挫いたような擬音に聞こえて誤解されてるじゃないですか)
(そうは言っても、九鬼ってバレないためには偽名を使うしかないだろ。それならいっそのこと、『桃太郎』から取って『ピーチマン』にするか?)
(それはもっとないですよ! もし略されでもしたら『ピーマン』ですよ!?)
(『パ〇マン』て言われるよりかはマシだろ? コ〇ーロボットと疑われずに済む)
(『パ〇マン』て何ですか……そんなもの知りませんよ)
(ぐはっ……世代の違いがこうも出てしまうとは……)
(『ギグ』はどうですか?)
(『ギクッ』?)
(違いますよ! 何ですか、その『バレた!?』みたいな擬音は! 『ギグ』ですよ、『ギグ』!)
(『ギャグ』?)
(名前からしてウケを狙ってどうするんですか!? 笑いから離れてくださいよ!)
(仕方がないなぁ……じゃあ、『ラクシャス』でどうだ? 鬼神の別名だ。異世界でも違和感ない名前だろ?)
(まともな名前があるじゃないですか! 作戦会議の時からそれを提案してくださいよ!)
遊ぶことを諦めたケビンによってようやく九鬼の偽名に一段落がついたら、九鬼は自分で提案した『ギグ』よりもケビンが提案した『ラクシャス』を採用して、登場時の足を挫いたと誤解されたままの名前では納得がいかなかったので再度名乗りを上げる。
そして、対するタイラーは変な展開についていけず何が何だかわからないまま、九鬼の名乗りを素直に聞いてしまうのだった。
「デスライト、死すらも生ぬるい絶望を与えし者。【悪鬼羅刹】のラクシャスっ!」
「お、おう……」
こうしてケビンはヒューゴと、ラクシャスこと九鬼はタイラーと相対することになると、それぞれの戦いが始まっていく。
「では、遊ぶとし――」
「清廉なる水よ 矢となりて 我が敵を穿て《ウォーターアロー》」
まともにやっては勝ち目がないと思っているヒューゴが先制攻撃を仕掛けると、結果を待たずして次なる詠唱を始める。
「清廉なる水よ 時に牙を剥きし水よ 水嵐となりて 我が敵を包み 激流に飲み込め《ウォーターストーム》」
そして、水嵐に飲み込まれたケビンはというと、何てことのないようにして水嵐の中で珍しく詠唱を始めた。それもひとえに中二ごっこをしているためである。
「万物を隠す闇黒よ 底知れぬ深淵よ ああ、なんと暗きことか なんと黒きことか その深淵に深怨を重ね より深き闇へと至らん 我求めるは光なき世界 拒絶せよ 喰らい尽くせ 深淵より深き深淵はなし 今こそその深淵に至りしとき 彼の者を奈落の底へと誘おう 彼の者を深淵へと至らせよう 深淵よ彼の者を迎え入れよ 《深淵の入口》」
長々と続いているケビンの詠唱中もヒューゴの手は休まらず、あの手この手の魔法をケビンに撃ち放っていくが、最終的にはケビンの詠唱が終わってしまい、ヒューゴの足元を中心にして底の見えない闇が広がる。
「なっ!? 何だこれは?!」
その場から移動しようとしたヒューゴは、脚を動かそうにもその闇にじわじわと沈みこんでいき、まるで何かに引っ張られているような感覚に陥り、足を浮かせることができない。
「は、離せっ!」
ヒューゴの様子を見たタイラーは棒立ちとなり、未だ戦闘が開始されていない勇者たちは戦慄し、サラと戦っているガブリエルもその手を休めてしまい、戦場はヒューゴの身に起きた光景により沈黙に包まれる。
その中でも最初に脱落したアロンツォが回復していたのか、ポーチから縄を取り出しながらその場に駆けつけた。
「ヒューゴさん! これを掴めっ!」
アロンツォが闇に入らないように気をつけながら縄をヒューゴに投げつけると、未だ闇に沈み続けていくヒューゴを助けようとする。そして、ヒューゴがそれを掴み取ったところで、アロンツォは力いっぱい引っ張り上げていた。
「くっ、何だこれ!?」
アロンツォは、まるで動かせない物を引っ張ろうとしているかのごとくビクともしない状況に戦慄すると、それを見ていた勇者たちも加勢に来ては綱引きのようになり、ビクともしない状況に同じく戦慄した。
「フハハハハ! 無駄だ、無駄。その闇に飲み込まれたら最後、完全に沈み込むまで止まらぬわ! 巻き添えを食いたくなければ見捨てることだな」
「うるせぇ! 何としてでもヒューゴさんを助けるんだ!」
相変わらずの魔王っぷりを見せるケビンの言葉にアロンツォは反論し、勇者たちも目一杯縄を引っ張り続けたが、沈みこんでいくヒューゴを助けるには至らず、とうとうヒューゴの体は闇に飲み込まれてしまう。そして、ケビンの発動した大魔法が消えると、そこには切れた縄の先端だけが虚しくも残っており、ヒューゴの姿はどこにも見当たらなかった。
「これで1人消えたな。ラクシャスよ、タイラーの相手は任せたぞ」
こうしてヒューゴとの戦闘を終わらせたケビンは、役目は終わったと言わんばかりに見学席へと帰っていくのであった。
そして、総団長やだだスベりした団長3人と残る団長3人に相対するのは、生徒会長の独断による加入により【死四天皇后】から【死五天皇后】に進化した4人だ。
そのような中で戦闘シーンの迫力を増すために、ケビンによって見学席へある程度声が届くように施し準備万端な状態であるのだが、すぐさま開戦とはいかず嫁たちの話し合いが行われていた。
「今回は誰がガブちゃんの相手をするのかしら?」
「私は1回ぶちのめしたからのう」
「私も叩きのめしましたね」
「私はファーストの指示に従います」
サラたち4人がガブリエルの相手を誰がするのかで話し合っていると、当の本人であるガブリエルは聞こえてしまったのか心外だとばかりに反論するも、タイラーがそれを諌めて落ち着かせる。
「少なからず青の愚師とはやりたくないわ」
「私も嫌なのだがのう」
「私も嫌です」
「ファーストの指示に従いたいのですが、私もアレだけはどうにも……」
次にサラたち4人がヒューゴについて話し合っていると、皆一様に『相手をしたくない』という結論に達するが、それを聞かされているヒューゴはこめかみをピクピクと震わせていた。
「ケ……じゃなかったわ。魔王様ぁ~」
ついついいつもの癖で『ケビン』と呼んでしまいそうになっていたサラが、改めて『魔王様』と言い直してケビンを呼ぶと、ケビンがその場に姿を現す。
「何だ、ファースト」
「青の愚師の相手をする人がいないのよ」
「ふむ、では我が直々に相手をしてやろう」
「さすが私のケ……魔王様ね」
「ファーストよ、未だ慣れぬだろうがこの遊びが終わるまでの辛抱だ。許せ」
「いいのよ、魔王様の幸せが私の幸せだから」
未だ魔王ごっこを継続しているケビンの遊びにサラも準ずるようで、ニコニコと微笑みを浮かべていると、そこへクララが担当の割り振り話を振るのだった。
「そうなると主殿が1人を相手にするとして、6対4かの。誰が2人を受け持つのだ? サクッと2人減らして1対1に持ち込むかの?」
「おいおい、魔王ならまだしもテメェらが俺に勝てるとでも思っているのか? 調子に乗ってんじゃねぇぞ! クソアマどもがっ!」
割り振り話を聞いてしまったアロンツォが舐められたと思い、発言者であるクララを睨みつけながら血気盛んに噛みつくと、それを聞いていたケビンが瞬時に動き、アロンツォの眼前に姿を現す。
「我の最高の嫁たちに対して『クソアマ』とは不遜である。死んで詫びるがいい!」
「へぶんっ――!」
そしてケビンによって殴り飛ばされたアロンツォは、そのまま100メートル以上飛んでいき動かなくなってしまうと、それを見届けたケビンはサラたちの所へと戻った。
すると、すぐさま動いたケビンの行動とセリフによってサラたちはキスをしたくても、ケビンの仮面は全面を覆っているタイプだったために、抱きつだけに留めて喜びを伝えていたのだった。
「だ、誰か救助を!」
ハッとしたガブリエルの声が挙がる中、団長側は早くも1人失ったと言うよりも、魔王の実力をまざまざと見せつけられて唖然としてしまい、ご指名を受けているヒューゴは生きた心地がせず呆然と立ち尽くす。
「あんちゃん……端から強えとは思っていたけど、こりゃあ次元が違い過ぎるぜ……」
タイラーがポツリと呟く中で、そのような戦い以前の様子を見ていた勇者たちにも衝撃が走っており、口々に先程のケビンとアロンツォの戦いとも言えない戦いを言葉にしていく。
「アロンツォ団長が1発で……」
「ありえない……」
「それよりもアロンツォ団長を助けるんだ! 回復役は向かってくれ!」
「任せろ!」
「フッ……まさに王たる俺の相手に相応しい実力のようだ。存分に楽しませてもらおう」
「要注意でしてよ。あれが本気とは到底思えませんわ」
「麗羅ちゃん、私あっちに行ってケーキ食べたい……」
「我慢なさい。魔王を倒せばケーキの製造法くらい出てくるはずですわ。そうすれば食べ放題でしてよ」
「うぅぅ……わかった……」
「人ってあんなに飛ぶもんなのか?」
「飛ぶわけないだろ。野球ボールじゃないんだぞ」
「実際飛んでるだろ」
「案外体重が軽いのか?」
「力也、見たか?」
「飛んでるところはな」
「や、ややや、ヤバいっしょ、アレ! 人が飛んでいったんだけど!?」
「100メートル以上は飛んでいったわよ!?」
「ヤバいぃぃぃぃ!」
「力也なら本気出せばアレくらいできるだろ。なんせあいつを超える大魔王なんだからな、よゆーよゆー」
勇者たちが多種多様な反応を見せている中で、いつの間にかケビン率いる【死五天皇后】と総団長率いる団長たちが、それぞれが相対して戦いの火蓋が切られようとしていた。
「デスファースト、【闇黒聖母】のサラ!」
「神殿騎士団総団長のガブリエル・ジェラルディン!」
「デスセカンド、【混沌龍】のクララ!」
「茶の騎士団団長のエドモンド!」
「デスサード、【深淵龍】のアブリル!」
「白の騎士団団長のベッファ!」
「デスフォース、【千変万化の使用人】のプリシラ!」
「緑の騎士団団長のベルトラン!」
「デスマスター、【創造魔王】のケ……ゲフンゲフン……とにかく魔王である!」
「青の騎士団団長のヒューゴ!」
「あぁぁ……これ、俺もやるの? に、睨むなよ、魔王……わかったよ、やればいいんだろ、やれば。黄の騎士団団長のタイラーだ」
1人空気を読まないタイラーに対してケビンが視線で促すと、渋々ながらもタイラーが名乗りを上げて、それぞれの戦いが始まっていく。
「白の騎士団の団長なら、ヘイなんちゃらとそう変わりはないでしょうし、この戦いも大した期待はできませんね」
「私をあのようなしくじり騎士と一緒にしないで頂きたい。見たところ素手で戦うようですが、貴女を相手にする私こそ大した期待はできないと言いたいところです」
そして始まったアブリル対ベッファの戦いは見所なくベッファがやられてしまい、ケビンサイドは予想通りの展開に大して驚きもしないが、勇者たちはアロンツォに引き続きベッファまで倒されてしまったので困惑が後を絶たない。
「さすがアブリル様。私も早く終わらせるとしましょう」
「貴女は使用人のようですね。使用人というのは今から時代を遡ること数ひゃべしっ――」
また別の所ではプリシラとベルトランの戦闘が始まろうとしていたのだが、ベルトランがうんちくを垂れている間にそれを待つほど善人でもないプリシラが瞬殺してしまい、戦闘が始まろうとしているのにうんちくを垂れ流すベルトランに対して、それを見ていた勇者たちは沈黙せざるを得なかった。
「ガハハハハ! 見よ、この上腕二頭筋! ふんぬっ!」
「おお、凄いではないか! よく鍛えておるようだの」
「そうだろう、そうだろう! この筋肉の良さがわかるとは中々に見所があるではないか!」
「だが、いささかそれは見せ筋というものではないのか? 実用性を兼ねているとは思えんな」
「なにっ!? 俺の筋肉を愚弄するか!」
「ふむ、では地面を殴ってみせよ。見せ筋でなければ地面が抉れるであろう?」
その後、クララからの挑発によって筋肉魂に火がついたエドモンドが地面を殴りつけると、ドンッという音とともに直径2メートルほどのクレーターを作り出してドヤ顔決めポーズを決める。
「ガハハハハ! どうだ、これこそが本物の筋肉。細腕のお前では到底辿りつけぬ頂きである!」
「しょぼいの」
「貴様っ!」
エドモンドがクララからの評価を受けて憤りを感じていると、クララは何てことのないように地面を軽く殴りつけた。
「ほい」
――ドゴォォォォン……
ドヤ顔決めポーズを決めたエドモンドの場合と違い、クララの地面虐待は遥かに大きな音と振動を発生させて、エドモンドを巻き込み直径20メートル近くのクレーターを作り出してしまう。そして、エドモンドは震源地に近かったため立っていられず、尻もちをつくと目の前の光景に唖然としていた。
「細腕でもこれくらいのことは可能だぞ? やはりそなたの筋肉は見せ筋よの。では、しまえるとしようかの」
こうしてひょんなことから始まった地面虐待バトルは当然のことながらクララの勝利で終わり、唖然としているエドモンドに間合いを詰めたクララがすくい上げるように拳を打ち放つと、エドモンドは尻もちをついたままの姿勢で飛ばされてしまう。
「きんにきゅぅぅぅぅ……」
そして、最後のその時まで筋肉にかける情熱を飛ばされながらも口にしたエドモンドは、アロンツォの所までは届かずに遥か手前で落ちて動かなくなるのであった。
「ふむ、主殿に負けてしまったか……やはり無駄筋が多いようだ。重くて飛距離が稼げなんだ」
そう独り言ちるクララは遊んでいたようであり、しれっとケビンの飛距離を抜かそうと企んでいたようだ。しかしながら、手加減をしつつ飛ばすというのにあまり慣れていないのか、以前やったガブリエル送迎パンチのようにはいかず、力加減を誤ったようでアロンツォの所まで届かなかったとみえる。
「さて、残るはガブリエルとお前たち2人のようだ」
「ま、魔王……たとえ倒せずとも一矢報いてみせます!」
「俺は見学の位置にいるぞ。さすがに1人に対して2人がかりってのは騎士の名折れだからな」
ケビンの強さを素直に受け止め、なんとか戦わずしてこの場を乗り切ろうとしているタイラーは、騎士らしい言葉を口にするとその場から離れていく。
有り体に言ってしまえば、わかりきった結果で痛い思いをしたくないのかケビンとの戦いから逃げたのだ。だがしかし、お遊び好きのケビンがそれを許すわけもなく、タイラーは見学という名の逃走により難を逃れるということができなくなってしまった。
「クックック……ならば我が右腕をそなたの相手としようではないか」
「え……?」
「いでよ! 我が忠実なる鬼よ!」
タイラーが思いもしない展開で困惑する中、楽しんでいるケビンがそう高々に声を上げると転移魔法陣から1人の男が現れる。その者はケビンのように顔を覆い尽くす仮面を被り、違う点と言えばその仮面は般若をモチーフにした、いかにも『鬼ですよ』と言わんばりの姿をした者だった。
「デスライト、死すらも生ぬるい絶望を与えし者。【悪鬼羅刹】のグキっ!」
「ぐきっ……? 怪我でもしたのか?」
本人はポーズを決めた上での中二病の名乗りがとても恥ずかしいのか、わからない程度にプルプルと震えていたが、対するタイラーはその名乗りに対して唖然としている。その反応を見てしまった以上黙っているわけにもいかず、本人はケビンへ近寄りコソコソと会話をし始めてしまう。
(ケビンさん、やっぱり『グキ』はないですよ、『グキ』は。恥ずかしさを消すために勢いよく名乗りを上げてしまったから、足を挫いたような擬音に聞こえて誤解されてるじゃないですか)
(そうは言っても、九鬼ってバレないためには偽名を使うしかないだろ。それならいっそのこと、『桃太郎』から取って『ピーチマン』にするか?)
(それはもっとないですよ! もし略されでもしたら『ピーマン』ですよ!?)
(『パ〇マン』て言われるよりかはマシだろ? コ〇ーロボットと疑われずに済む)
(『パ〇マン』て何ですか……そんなもの知りませんよ)
(ぐはっ……世代の違いがこうも出てしまうとは……)
(『ギグ』はどうですか?)
(『ギクッ』?)
(違いますよ! 何ですか、その『バレた!?』みたいな擬音は! 『ギグ』ですよ、『ギグ』!)
(『ギャグ』?)
(名前からしてウケを狙ってどうするんですか!? 笑いから離れてくださいよ!)
(仕方がないなぁ……じゃあ、『ラクシャス』でどうだ? 鬼神の別名だ。異世界でも違和感ない名前だろ?)
(まともな名前があるじゃないですか! 作戦会議の時からそれを提案してくださいよ!)
遊ぶことを諦めたケビンによってようやく九鬼の偽名に一段落がついたら、九鬼は自分で提案した『ギグ』よりもケビンが提案した『ラクシャス』を採用して、登場時の足を挫いたと誤解されたままの名前では納得がいかなかったので再度名乗りを上げる。
そして、対するタイラーは変な展開についていけず何が何だかわからないまま、九鬼の名乗りを素直に聞いてしまうのだった。
「デスライト、死すらも生ぬるい絶望を与えし者。【悪鬼羅刹】のラクシャスっ!」
「お、おう……」
こうしてケビンはヒューゴと、ラクシャスこと九鬼はタイラーと相対することになると、それぞれの戦いが始まっていく。
「では、遊ぶとし――」
「清廉なる水よ 矢となりて 我が敵を穿て《ウォーターアロー》」
まともにやっては勝ち目がないと思っているヒューゴが先制攻撃を仕掛けると、結果を待たずして次なる詠唱を始める。
「清廉なる水よ 時に牙を剥きし水よ 水嵐となりて 我が敵を包み 激流に飲み込め《ウォーターストーム》」
そして、水嵐に飲み込まれたケビンはというと、何てことのないようにして水嵐の中で珍しく詠唱を始めた。それもひとえに中二ごっこをしているためである。
「万物を隠す闇黒よ 底知れぬ深淵よ ああ、なんと暗きことか なんと黒きことか その深淵に深怨を重ね より深き闇へと至らん 我求めるは光なき世界 拒絶せよ 喰らい尽くせ 深淵より深き深淵はなし 今こそその深淵に至りしとき 彼の者を奈落の底へと誘おう 彼の者を深淵へと至らせよう 深淵よ彼の者を迎え入れよ 《深淵の入口》」
長々と続いているケビンの詠唱中もヒューゴの手は休まらず、あの手この手の魔法をケビンに撃ち放っていくが、最終的にはケビンの詠唱が終わってしまい、ヒューゴの足元を中心にして底の見えない闇が広がる。
「なっ!? 何だこれは?!」
その場から移動しようとしたヒューゴは、脚を動かそうにもその闇にじわじわと沈みこんでいき、まるで何かに引っ張られているような感覚に陥り、足を浮かせることができない。
「は、離せっ!」
ヒューゴの様子を見たタイラーは棒立ちとなり、未だ戦闘が開始されていない勇者たちは戦慄し、サラと戦っているガブリエルもその手を休めてしまい、戦場はヒューゴの身に起きた光景により沈黙に包まれる。
その中でも最初に脱落したアロンツォが回復していたのか、ポーチから縄を取り出しながらその場に駆けつけた。
「ヒューゴさん! これを掴めっ!」
アロンツォが闇に入らないように気をつけながら縄をヒューゴに投げつけると、未だ闇に沈み続けていくヒューゴを助けようとする。そして、ヒューゴがそれを掴み取ったところで、アロンツォは力いっぱい引っ張り上げていた。
「くっ、何だこれ!?」
アロンツォは、まるで動かせない物を引っ張ろうとしているかのごとくビクともしない状況に戦慄すると、それを見ていた勇者たちも加勢に来ては綱引きのようになり、ビクともしない状況に同じく戦慄した。
「フハハハハ! 無駄だ、無駄。その闇に飲み込まれたら最後、完全に沈み込むまで止まらぬわ! 巻き添えを食いたくなければ見捨てることだな」
「うるせぇ! 何としてでもヒューゴさんを助けるんだ!」
相変わらずの魔王っぷりを見せるケビンの言葉にアロンツォは反論し、勇者たちも目一杯縄を引っ張り続けたが、沈みこんでいくヒューゴを助けるには至らず、とうとうヒューゴの体は闇に飲み込まれてしまう。そして、ケビンの発動した大魔法が消えると、そこには切れた縄の先端だけが虚しくも残っており、ヒューゴの姿はどこにも見当たらなかった。
「これで1人消えたな。ラクシャスよ、タイラーの相手は任せたぞ」
こうしてヒューゴとの戦闘を終わらせたケビンは、役目は終わったと言わんばかりに見学席へと帰っていくのであった。
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