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第16章 魔王対勇者

第520話 ダンジョン創造

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 セレスティア皇国のダンジョンツアーを終わらせたケビンは朝食を食べ終えると、当初の目的であった敷地内に創るダンジョンの作業に取り掛かった。

 九鬼の要請により保護したあと、そのまま嫁にしてしまったEランク冒険者パーティーの女の子たちのため、初心者用ダンジョンから創り始める。

 今回ケビンが回収したコアは8つで、それぞれ初心者用、中級者用、上級者用、規格外用と4種類創るつもりでいる。ちなみにそのコアはセレスティア皇国の盛況しているダンジョンから借りて(永久)きたもので、全部が深層ダンジョンのコアとなる。

 何故4種類なのに8つもコアを借りてきたのかと言うと、どうせだからと帝都の外にもダンジョンを作って、商売にしようという行き当たりばったりの思いつきから余分に4つほど借りてきたのである。返す予定はケビンの中では全くないが。

(初心者用は30階層くらいにするかな。慣れれば日帰りで踏破できるだろ)

 そう思い至ったケビンは早速穴掘りを開始する。ソフィーリアから貰った【初めてのダンジョン創り ~これであなたもダンジョン創造主~】の参考書を片手に取り、ケビンは作業中に誰かが事故で落っこちないよう結界で覆って進入禁止にすると、1人でサクサクと穴掘りを進めていく。

 そして300メートルほど地下に潜ったら、そこからマスタールームの作成に取り掛かった。そのマスタールームは本来のマスタールームの景観をしておらず、完全に趣味であるリビングルーム仕様と化している。

 そこに絨毯やらソファやらを置くと、早速くつろぎ始めてコアを取り出したら魔力を流し始めた。

「30階層分のダンジョンを創ってくれ。とりあえず今はまだ階層だけでいい」

《了解》

 1階層ごとに自分で創る気などサラサラないケビンは空間拡張を使って、最初に空けた縦穴を亜空間と繋げると際限なく広げられるようにした。そこまでしたあとはコアに作業を丸投げしたら、そのままソファに寝転がって魔力供給のみを行うために、コアを抱きかかえたままゴロゴロとし始める。

 やがてコアがケビンの代わりにダンジョンを創り終えると、ケビンは次に魔物の分布をコアに注文していく。そしてお宝やトラップはランダム設置にして、時間経過ごとに場所が変わるという悪質なものに仕上げた。

「うーん……今回はいつものとは趣向を変えて、1階層ごとにボス部屋を設置するかな」

 いつも通りだと面白くないと感じたケビンは、ボス部屋を1階層ごとに設置させると最終段階へと移行する。その最終段階とは、致命傷を負うと入口から入ってすぐ脇にある救護室のベッドに転移されて、自動回復による救急処置を受けるという安全措置だ。

「こんなもんかな」

 そして、初心者用ダンジョンが完成すると、一般的なダンジョンのようにエネルギー源の冒険者が沢山入ってくるわけではないので、エネルギー源としてダンジョンが本来行っている魔素吸収の仕組みを改造して、空気中から吸収する魔素は世界樹のように負の魔素を優先的に吸収させ、それで賄えないようなら正の魔素を吸収する仕組みにした。

 これによりケビンは、図らずも世界樹の劣化版となるダンジョンを何となくの無自覚で創ってしまい、本人は思いつきでやったことなので凄いことをしてしまったとは全く思っておらず、やっていることがどんどん人間離れしていっていることに気づいてすらないない。

 その後は同じような仕組みで中級者用は70階層、上級者用は100階層、規格外用は上級者用と同じく100階層とした。

 だが、最後は規格外用なだけあって1階層目からありえない魔物が生息している上に、トラップだらけのありえないダンジョンとなり、環境設定も施してみたら灼熱地獄や極寒地獄など、まさにヘルモードと化した踏破させる気がサラサラない仕様となっている。

 その最終階層のボス部屋にいるのは、なんと姿かたちがケビンではないものの、ケビンの危険なスキルや魔法を除いた能力をコピーした擬似ケビンなのだ。

 この擬似ケビンはケビンの性格を反映されていないので、手加減などしてくれないまさに魔物と化したケビン仕様となる。踏破させる気がサラサラないどころか、皆無と言ってもいいほどの嫌がらせダンジョンとなった上でケビンは完成させてしまった。

 だが、さすがに自我を持たせると危険極まりないので、擬似ケビンの行動パターンはボス部屋に侵入してきた者を倒すという、たった1つの命令しか与えていない。

「やべぇ……これ、俺じゃないと踏破できないんじゃないか……」

 創るだけ創りあげたケビンの感想がこぼれてしまうと、念の為におかしなバグがないか確認するため戦いを挑んでみたが、相手はスキルや魔法に制限がかかっているとはいえ自分と戦うようなものなので、今までにない大苦戦を強いられて何時間も戦い続けた結果、ようやく倒すことに成功する。

「キツかったー……下手したら救護室に直行だったな……」

 地面に寝転がるケビンは帝都外ダンジョンを創る気力が残っておらず、明日に回そうと結論づけたら、しばらくはそのままボロボロと化したボス部屋で休息を取るのであった。

 その後、ひと息以上ついたケビンがダンジョンの外に出ると、辺りは既に夕暮れとなっていて、ケビンはそのまま食堂へと移動してテーブルに突っ伏したら食事ができるのをじっと待っていた。

 そこに嫁たちや子供たちがゾロゾロと集合してくると、珍しくケビンが疲れ切っているのを見ては、口々に大丈夫なのかと声をかけていく。

 そして始まった夕食の場で、ケビンはダンジョンが完成したことを発表した。

「ダンジョンは4種類あって初心者用、中級者用、上級者用、規格外用だ。俺が疲れていたのは規格外用のラスボスと対戦したら、何時間も戦うことになってようやく倒せたからだ。どんな魔物かはネタバレになるから見てからのお楽しみだが、あれはやばい……」

「ケビン君が何時間もかかるなんて、制覇させる気ないよね?」

「ちなみにダンジョン内は安全仕様で、致命傷を負ったら入口すぐ側の救護室に転移されて、自動回復による救急処置が取られる」

「それなら制覇できるのかな?」
「無理」
「お姉ちゃん頑張るわ!」
「私は挑んでみたいなー」
「私も行けるところまで頑張ってみたいです!」
「主殿が手こずる相手か……手加減せずに戦えるいい機会よの」
「クララはんが本気を出しはっても無理やあらへん? ケビンはんが手こずる相手なんえ」
「私は上級者用にミンディたちと挑戦しようかしら」
「んー……中級者用にフィアンマさんたちと行きたいな」
「ふふっ、お母さん規格外用に潜ってみようかしら」
「その時は一緒に行くわよ、サラ」

「で、ヴェロニカ、フォセット、マジョリー、オルサ、コリーは初心者用ダンジョンに潜ってくれ。そこで冒険者として訓練すればいい。中にいる魔物もスライムやホーンラビットからスタートするから、いきなり苦戦を強いられることはないはずだ」

「「「「「はい!」」」」」

「それから帝都外にも同じようにダンジョンを創るから、これでちょっとした商売を始める」

「貴方、新しい商売はいいのだけれど、従業員のことは考えているの? ダンジョンなら普通のお嫁さんには無理よ?」

「あ……」

 ケイトから指摘されたケビンはそこで働く従業員のことまでは考えておらず、『しまった!』と思い切り顔に出してしまい、ケイトからは呆れられた視線を向けられるのだった。

「陛下、それならうちの騎士たちで持ち回りするぜ。人数もかなりの数になっているし、ターニャもそれでいいよな?」

「構いませんわ。どういう商売になるかはわかりませんけれど、冒険者相手だと考えると騎士の方がよろしいですわ」

 ケビンの失念にフィアンマがフォローを入れて団長であるターニャも賛同すると、ダンジョンの従業員問題はあっという間に解決へと導かれるが、新たな問題がクリスの指摘によって浮上する。

「ケビン君、ダンジョンを創っちゃったら、普段のクエストを受ける人が減るんじゃない? そうなるとアビーが困っちゃうよ?」

「そこはアレだ……そう、アレ……」

「何も考えてなかったんだね?」

「……そうとも言うような、言わないような……」

「しょうがないな、ケビン君は。ターニャ、騎士組で塩漬け依頼にならないよう回してくれる? しばらくはそれで様子を見ようか?」

「わかりましたわ。どのみち訓練でクエストを受けていますもの。大した手間ではありませんわ」

 ケビンの突発的な行動による尻拭いを優秀な嫁たちがテキパキと処理していくと、ケビンは1人、肩身の狭い思いをしながら食事を進めていくが、その時に反省しても後に活かさないのはいつものことである。

 そして翌日になるとケビンはもう創り慣れたのか、帝都外のダンジョンをマナポーション片手にグイグイと飲んでは進めていく。

 その帝都外のダンジョンには、対サラ用としての規格外用ダンジョンは創らずに冒険者ランクに合わせて、初心者用ダンジョン(30階層)はEランク以下レベル、中級者用ダンジョン(70階層)はCランク以下レベル、上級者用ダンジョン(100階層)はAランク以下レベル、最後の挑戦者用ダンジョン(100階層以上の成長型)はSランク以上推奨とすることにした。

 更にケビンは儲けを出すために入場料金を回収するほか、致命傷を負えば外に創り出した救護室に転移されてある程度回復できるという、お守りバングルのレンタルも別料金で付け加えることにした。ちなみに貸し出しっぱなしではなく、発動しようがしまいがダンジョンから帝都へ戻る時は毎回返却する仕組みとしている。

 そのお守りバングルは、致命傷を受けた時の痛みがそのまま据え置きとなるドSの鬼畜仕様で、盗難防止のため返さずに持ち逃げするような冒険者は、入口から10メートル離れた時点でバングルからビリビリの刑に処され、そのまま麻痺した状態で衛兵に窃盗犯として突き出されることになる。

 そのケビンが何故ダンジョン内に救護室を創らなかったかと言うと、ダンジョン内を改造という前代未聞の風聞が広まらないように、あくまでもたまたまダンジョンを4つほど見つけましたよという、無理やりなスタンスを貫き通すためである。

 そしてその帝都外ダンジョンはK’sダンジョンとは別仕様にして、私有地ダンジョンと同じように各階層にボス部屋を設置しているため、帰ろうと思えば転移魔法陣を使って帰れるので安全地帯を一切配置していない。無論お宝やトラップは時間経過でランダム配置となり、攻略する度にハラハラドキドキするアトラクション仕立てだ。

 その後、ダンジョン創造の作業を終えたケビンは、入場者と退場者が把握できるための記入用紙や、お金を管理するための魔導レジスターを各ダンジョン分用意して、その日の作業を終えたら隠蔽の結界を張ったあとに帝城へと帰っていく。

 それから時間が経ち夕食の時間になると、ケビンは帝都外ダンジョンが完成したことを発表した。

「発表は明日で開店は1週間後、その期間中は国が調査するための準備期間として設けたことにする。発表後に勝手に入ろうとする冒険者対策として、俺たち以外が入れない結界を張っておく」

「ケビン君、騎士たちで夜勤をしてもよろしくてよ?」

「それは開店してからお願いするよ。一応、開店6時の閉店18時として12時間だけ解放することにしたら18時以降の入場は禁止で、あとは出てくる冒険者たちのチェックだけになるようにする。全員出てきてたら騎士の仕事はそこまでで帰っていい。まだ居残りがいて夜勤に入るようなら、朝方に交代したあとはその日の仕事はナシで、翌日は休みにするように」

「仮に騎士がいない時の夜間の不法侵入はどうしますの?」

「閉店後のダンジョンの入口から中に入って数メートルでビリビリトラップ発動。そのまま衛兵の所へ転移でお縄につく感じかな。中に入ったんだから言い逃れはできない」

 ケビンとターニャのやり取りが続いている中で、冒険者であるティナがふとした疑問を口にする。

「冒険者たちから不満が出ないかな? 自由を謳ってるわけだし……」

「不満があるなら他所のダンジョンに行けばいい。冒険者は自由なんだから俺の創ったダンジョンにこだわる必要はないだろ? ダンジョンがここだけにしかないってわけじゃないんだから」

 その後もケビンの発表は続いていき、店員係となる騎士たちは明日から現地に赴いて仕事内容を把握するために説明を受けることになった。

 そして翌日、ケビンは帝都中に声が届くようにすると、帝都外にダンジョンを発見したと伝えていく。そのダンジョンの利用開始は1週間後とし、それまでの間に国が調査を行うことも説明した。

 それからケビンの説明が終わると、騎士たちが仕事内容を覚えるために帝都外に向かっていくため、図らずも国の調査という嘘が都民たちに浸透していく。

「ほえ~帝都外にダンジョンができちゃったのか……」

「おっかねぇことだな」

「まぁ、陛下がいるんだし危ないことはないだろ。むしろ嫁として女性を攫っていく陛下の方が危ない」

「うちの嫁さんは娘を差し出そうと躍起になってるからな。父親の俺としては複雑だ……」

「俺んとこもだ……」

「将来安泰なのはわかるんだけど、母ちゃん言い出したら聞かねぇしなぁ……」

「如何せん嫁が多い」

「それな」

「でも不幸になったって話は聞かないしなぁ……」

「「「はぁぁ……」」」

 どうやら都民たちにとってはダンジョンが帝都の近くにできたことよりも、自分たちの娘が母親によってケビンの嫁にと斡旋されている方が、今はダンジョンよりも重要なことであるみたいだ。

 そのような都民(娘持ちの父親)たちの気も知らず、ケビンは現地に赴いて騎士たちに仕事内容の説明を行っていた。

「――とまぁ、こんな感じ。あとはダンジョンで遊んでていいよ。開店は1週間後だからそれまでは騎士たちの訓練に使ってもいいし、いつも通りの訓練をしてもいい」

「それではローテーションを組みまして、警護班やクエスト班、ダンジョン班に別れることにしますわ。調査という名目がある以上、ダンジョン内の探索はしておいた方がよろしいでしょうから」

「くれぐれも自分に合ったダンジョンへ潜らせるように。あと、ここは私有地ダンジョンと違うからバングルの装備も忘れずに」

 そう言うケビンはこの場をターニャに任せると、その後は私有地ダンジョンで頑張っているヴェロニカたちの所へ陣中見舞いに行くのであった。

「おーい、頑張ってるか?」

「あ、お兄さん」

 ダンジョン内をトコトコと歩いていたヴェロニカたちの所にやってきたケビンは、小休憩で飲み物を渡していくと手応えのほどを聞き取りしていく。

「まぁまぁだな」

「1階層ごとに広くなっていくから、地図を作るのに時間がかかってるの」

「簡単なダンジョンだと身にならないだろ?」

「でも、ティナさんたちがサクッと攻略して『優しすぎる』って言ってたけど、ここでこの難易度なら中級者用からはもっと厳しくなるの?」

「トラップの数や種類も増えるし、階層も迷路みたいな感じになってくる」

「先行き不安だよ……」

 ヴェロニカたちが不安になっている中、ケビンは暇つぶしのため後ろからついて行き、所々でアドバイスをしながらヴェロニカたちの攻略を手助けしていくのであった。
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