524 / 661
第16章 魔王対勇者
第520話 ダンジョン創造
しおりを挟む「ユキちゃん、ありがと」
おむすびを頬張る桐矢くんに麦茶を出した。
「休憩って、これからまた?」
「うん、納屋とか、物置とかさ、子供が隠れんぼに入り込んだりするから、オレらは家の周りを見てみようかって、鍵掛かって出れなくなってる可能性もあるしな」
「そっか……」
「なぁ、ユキちゃん食べてないだろ?」
「えっ……」
食欲が湧かず、何も手をつけれなかったのがナゼかバレてる。
はいと、おむすびを渡された。続けて楊枝に刺した肉団子まで、口元にきて、私は大人しく肉団子を頬張った。
晩ごはん、と言うには遅いけれど、こうして夜に桐矢くんと食事をするのは、ここに戻った頃の、泣くばかりだったあの頃以来だ。
最近では、晩ごはんに誘っても「食べたら帰れなくなりそうだから」と、断られる。食べたらすぐ眠くなっちゃうのは子供の頃から変わらないらしい。
「あのな、チカちゃんのお母さんの、リカコさんがさ、昨夜チカちゃんに怒鳴ってしまったんだと、亡くなったお母さん、リカコさんのお母さんな。その手作りの人形を壊したって」
卵焼きを飲み込み、桐矢くんは話してくれた。
「朝になって、おばあちゃんに直してもらってくるって、言って、チカちゃん、人形を持って出たんだって」
「……」
「リカコさんも、おばあちゃんって言うから、隣の坂木のばあちゃんのことかと思ったらしいんだ。前の日、坂木のばあちゃん家に行ったらしいから」
私も出会った、メロンをおすそ分けした時だ。
「でも、坂木のばあちゃん家には行ってないって分かって……」
「今朝ね、私が見たのは、坂木のおばあちゃん家とは反対に行く姿だったの」
『おばーちゃん、まってぇ』
チカちゃんは誰に言ったのか……。
私は、縁側からしましまさんの拾い物の入ったカゴを持ってきた。
「ねぇ、桐矢くん、今朝しましまさんが拾ってきたバースデーカードね、この“りっこちゃん”って、リカコさんのことだったの」
告げる私に、は? のまま桐矢くんは固まった。そして、何度かカードと私を見比べた。
「しましまさんはね、拾い物の持ち主にあった時、体を擦り寄せるて教えてくれるの。まるで“待ってたよ”って伝えてるみたいに」
「え……それ、三島の時」
そう、実際しましまさんの拾い物の持ち主が家にきた時に、桐矢くんが居合わせたのは、三島さんと沖野ヨウコさんが訪れた時だけだ。
「うん、三島さんの時もそうだった。しましまさんがそうやって教えてくれるから、私も声を掛けて縁側まで来てもらってたの」
縁側でお茶を飲みながら、他愛のない話をし、偶然のようにカゴの中の縁ある物を見つける。そうやって、しましまさんの拾い物を返していた。
「そう、だったんだ」
「こんな話、信じられる?」
「信じるよ」
応えはすぐだった。
「しましまが、他の猫と違うのは、知ってるから」
その言葉に私の方が絶句した。
「……それって、どういう」
「見つかったぞー!」
外からの声に桐矢くんも私も立ち上がり、表に出た。
「チカ!!」
「チカちゃんが見つかったぞ!」
「よかった、よかったねぇ」
足取りに疲労などは見えない様子で、チカちゃんは戻ってきた。
懐中電灯に照らされたチカちゃんは、両手に人形を二体抱えて、しましまさんと一緒に、戻ってきた。
そして、それは、チカちゃんに縋り付き泣くリカコさんと、笑顔の戻った町の人に囲まれた中で、
「はいママ! おばーちゃんが、りっこちゃんにわたしてって」
チカちゃんは二体の人形を母親に差し出した。
「え……」
人形を手渡されリカコさんは固まっていた。
動かないリカコさんに、一度戻ろう、と声をかけられたがチカちゃんは「まって!」と大人たちを止めた。
「あのね、にゃんちゃんが、ママのおたんじょうびのカードもってるの!」
息を飲んだ。
「にゃあん」
チカちゃんの足元でしましまさんがひと鳴きする。
「あぁ、よく何か拾って持って帰るって猫か」
しましまさんのことを知る人の声があがる中、動けない私の耳元で「オレが取ってくるから」と残し、桐矢くんは離れて行った。
「誕生日のカードってこれかな?」
「うん!」
知っていたかのようにチカちゃんはバースデーカードを受け取った。
「それを、猫が拾ってきたのか?」
「そうだよ! その猫は賢いけぇ、こないだは、わたしのお守り見つけてくれたんだよ」
隣のおばあちゃんに続くのは、
「あー、その猫か! うちのじーさんが作ったルアーも見つけたらしいからな」
「あぁ、ユキさん家の猫か! うちも娘にもらった、手作りのキーホルダーを見つけてくれてたんだよ!」
「鼻がいいんだよ」
「そんな賢い猫だったのか!」
「チカちゃんを見つけたのは、その猫なのか!?」
「すごいな! 猫なのに鼻がいいのか」
「なぁ、カードにはなんて書いてあるって?」
こんなふうに、大勢の前で知られたくなかった。
ドクンドクンと心臓の音が頭で響く。
「ユキちゃん、ユキ! 息しろ」
「はっ……、は、とうやくん……」
呼吸を忘れるほどの不安に、固く握り締めていた手を解いた。
「戻ろう、ユキちゃん」
「…………」
振り返えり、見たのは、膝を着き、人形を抱きしめたリカコさんと、体を擦り寄せているしましまさんの姿。
しましまさんの拾い物は町の皆が知ることになった。
翌日から猫の拾い物を覗きに、何人もの人が家を訪れ、拾い物をする珍しい猫しましまさんも人に追い回された。
そして、しましまさんは家へ戻って来れなくなり……。
私は総司くんとの繋がりを失った。
おむすびを頬張る桐矢くんに麦茶を出した。
「休憩って、これからまた?」
「うん、納屋とか、物置とかさ、子供が隠れんぼに入り込んだりするから、オレらは家の周りを見てみようかって、鍵掛かって出れなくなってる可能性もあるしな」
「そっか……」
「なぁ、ユキちゃん食べてないだろ?」
「えっ……」
食欲が湧かず、何も手をつけれなかったのがナゼかバレてる。
はいと、おむすびを渡された。続けて楊枝に刺した肉団子まで、口元にきて、私は大人しく肉団子を頬張った。
晩ごはん、と言うには遅いけれど、こうして夜に桐矢くんと食事をするのは、ここに戻った頃の、泣くばかりだったあの頃以来だ。
最近では、晩ごはんに誘っても「食べたら帰れなくなりそうだから」と、断られる。食べたらすぐ眠くなっちゃうのは子供の頃から変わらないらしい。
「あのな、チカちゃんのお母さんの、リカコさんがさ、昨夜チカちゃんに怒鳴ってしまったんだと、亡くなったお母さん、リカコさんのお母さんな。その手作りの人形を壊したって」
卵焼きを飲み込み、桐矢くんは話してくれた。
「朝になって、おばあちゃんに直してもらってくるって、言って、チカちゃん、人形を持って出たんだって」
「……」
「リカコさんも、おばあちゃんって言うから、隣の坂木のばあちゃんのことかと思ったらしいんだ。前の日、坂木のばあちゃん家に行ったらしいから」
私も出会った、メロンをおすそ分けした時だ。
「でも、坂木のばあちゃん家には行ってないって分かって……」
「今朝ね、私が見たのは、坂木のおばあちゃん家とは反対に行く姿だったの」
『おばーちゃん、まってぇ』
チカちゃんは誰に言ったのか……。
私は、縁側からしましまさんの拾い物の入ったカゴを持ってきた。
「ねぇ、桐矢くん、今朝しましまさんが拾ってきたバースデーカードね、この“りっこちゃん”って、リカコさんのことだったの」
告げる私に、は? のまま桐矢くんは固まった。そして、何度かカードと私を見比べた。
「しましまさんはね、拾い物の持ち主にあった時、体を擦り寄せるて教えてくれるの。まるで“待ってたよ”って伝えてるみたいに」
「え……それ、三島の時」
そう、実際しましまさんの拾い物の持ち主が家にきた時に、桐矢くんが居合わせたのは、三島さんと沖野ヨウコさんが訪れた時だけだ。
「うん、三島さんの時もそうだった。しましまさんがそうやって教えてくれるから、私も声を掛けて縁側まで来てもらってたの」
縁側でお茶を飲みながら、他愛のない話をし、偶然のようにカゴの中の縁ある物を見つける。そうやって、しましまさんの拾い物を返していた。
「そう、だったんだ」
「こんな話、信じられる?」
「信じるよ」
応えはすぐだった。
「しましまが、他の猫と違うのは、知ってるから」
その言葉に私の方が絶句した。
「……それって、どういう」
「見つかったぞー!」
外からの声に桐矢くんも私も立ち上がり、表に出た。
「チカ!!」
「チカちゃんが見つかったぞ!」
「よかった、よかったねぇ」
足取りに疲労などは見えない様子で、チカちゃんは戻ってきた。
懐中電灯に照らされたチカちゃんは、両手に人形を二体抱えて、しましまさんと一緒に、戻ってきた。
そして、それは、チカちゃんに縋り付き泣くリカコさんと、笑顔の戻った町の人に囲まれた中で、
「はいママ! おばーちゃんが、りっこちゃんにわたしてって」
チカちゃんは二体の人形を母親に差し出した。
「え……」
人形を手渡されリカコさんは固まっていた。
動かないリカコさんに、一度戻ろう、と声をかけられたがチカちゃんは「まって!」と大人たちを止めた。
「あのね、にゃんちゃんが、ママのおたんじょうびのカードもってるの!」
息を飲んだ。
「にゃあん」
チカちゃんの足元でしましまさんがひと鳴きする。
「あぁ、よく何か拾って持って帰るって猫か」
しましまさんのことを知る人の声があがる中、動けない私の耳元で「オレが取ってくるから」と残し、桐矢くんは離れて行った。
「誕生日のカードってこれかな?」
「うん!」
知っていたかのようにチカちゃんはバースデーカードを受け取った。
「それを、猫が拾ってきたのか?」
「そうだよ! その猫は賢いけぇ、こないだは、わたしのお守り見つけてくれたんだよ」
隣のおばあちゃんに続くのは、
「あー、その猫か! うちのじーさんが作ったルアーも見つけたらしいからな」
「あぁ、ユキさん家の猫か! うちも娘にもらった、手作りのキーホルダーを見つけてくれてたんだよ!」
「鼻がいいんだよ」
「そんな賢い猫だったのか!」
「チカちゃんを見つけたのは、その猫なのか!?」
「すごいな! 猫なのに鼻がいいのか」
「なぁ、カードにはなんて書いてあるって?」
こんなふうに、大勢の前で知られたくなかった。
ドクンドクンと心臓の音が頭で響く。
「ユキちゃん、ユキ! 息しろ」
「はっ……、は、とうやくん……」
呼吸を忘れるほどの不安に、固く握り締めていた手を解いた。
「戻ろう、ユキちゃん」
「…………」
振り返えり、見たのは、膝を着き、人形を抱きしめたリカコさんと、体を擦り寄せているしましまさんの姿。
しましまさんの拾い物は町の皆が知ることになった。
翌日から猫の拾い物を覗きに、何人もの人が家を訪れ、拾い物をする珍しい猫しましまさんも人に追い回された。
そして、しましまさんは家へ戻って来れなくなり……。
私は総司くんとの繋がりを失った。
21
お気に入りに追加
5,307
あなたにおすすめの小説
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※


俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる