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第16章 魔王対勇者

第517話 嫌がらせ作戦発動

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 ドワンの定住が決まったところでケビンが次に取り掛かったのは、ソフィーリアに相談することだった。その相談内容はダンジョンを創れるかどうかの内容となる。

 そもそもそこに行きついた経緯は大所帯で夢見亭にお邪魔するわけにもいかず、ケビンが考えに考え抜いた結論が『敷地にダンジョンを創ってしまえばいい』という安易なものであった。

「結論から言うと可能よ」

「おお!」

 まさか本当に創れるとは思わずに、ケビンは自分で尋ねておきながら驚いてしまう。

「私が創ってもいいのだけれど、それだとつまらないのでしょう?」

「さすがソフィ! 俺のことをよくわかってる」

「だから貴方が創るとしたら、必要な物はダンジョンコアよ」

「ダンジョンコアか……今所有しているのは2個でどっちも稼働中だしな……」

「他のダンジョンから盗ってくればいいじゃない」

「えっ……借りても大丈夫なの?」

 人の営みなど知ったことではないソフィーリアは、いとも簡単にケビンに対して他所のダンジョンから盗んでこいと言ってしまうのであるが、ケビンは盗ってくるとは考えずに借りてくると考えていた。

「そうだ、所有権とかは? 制覇されたダンジョンならマスターがいるはずだよな?」

「上書きすればいいだけよ。より強い者にコアは従うわ」

「よく奪い合いにならないな」

「そもそも転移を使える冒険者がいないじゃない。マスタールームに侵入することができないからよ」

「あぁぁ……なるほど……」

「それと最低でも50階層以上のダンジョンを探すのよ?」

「ん……何でだ?」

「ダンジョン自体が魔素を吸収して育っているからよ。50階層を超えてから、ランダムでコアが少しずつ創り出される仕組みにしているの」

「ランダムか……クジ引きみたいだな。だが、当たりを引きまくったらコア付きダンジョンが乱立しないか?」

「そこは大丈夫よ。ダンジョンは魔素を取り入れる早い者勝ち競争をしているの。だからダンジョンも弱肉強食の世界で育っていると言えるわね。弱いダンジョンは育たないままでストップして、階層維持しかできないわ」

「ダンジョン界も世知辛いんだな。他に注意点はあるか?」

「色々としたいなら100階層以上のダンジョンコアを手に入れることね。コアの成長具合でできることも限られてくるから」

「100階層以上!? そんなダンジョンがあったのか!?」

「成長するって言ったでしょう? 古参のダンジョンほどより深いダンジョンになっているわ」

「ちなみに1番深いダンジョンの制覇者は?」

「いないわね。中身の魔物が規格外揃いだもの。100階層までなら年数をかければそこら辺の冒険者でも辿りつけるんじゃないかしら」

「やべぇ……挑戦したくなってきた……」

「ふふっ、挑戦する時はお嫁さんたちも同行するって言い出すわよ」

「だよなぁ……とりあえず自分の所のダンジョンを創るのが先か……」

 ソフィーリアから齎されたダンジョンの新事実にケビンがワクワクとしてしまうが、今はまだ優先するべき事項があるために、100階層超えのダンジョン攻略は諦めることにした。

「でも、それだと俺の所有しているダンジョンが、100階層以上にならないのは何でだ?」

「あそこは近場で2箇所あるでしょう? お互いがせめぎ合っていたから100階層でストップしたのよ。それにマスターが決まれば、それ以上はマスターが望まない限り成長しないもの」

「つまり成長するって知らなかった俺がマスターになったから、100階層のままってことか。どっちみちせめぎ合っていたなら100階層以上は望めないな」

 そしてそれからはどこからダンジョンコアを拝借するかの話になると、一応経済を回しているダンジョンなので、ケビンは同盟国から借りる(永久)ことはやめて、嫌がらせのためにセレスティア皇国のダンジョンから借りて持ってくることにしたのだった。

「ケビン君、ついて行っちゃダメ?」

 ケビンとソフィーリアの会話を大人しく聞いていたティナがケビンにそう望むと、ケビンはあまり一緒に冒険してあげられていないこともあるので同行を許可したら、それを聞いた冒険者組が次々と名乗りを上げていく。

「ちょ、ちょっと! そんないっぺんに連れて行けるわけないだろ。今回は何ヶ所か回ってみるつもりだから、とりあえずグループ分けしてくれ」

 そしてグループ分けの話になると情報が出回ったのか、ここにはいない騎士組の冒険者たちまで参加する旨がケビンの元に届いてしまう。

「情報漏洩し過ぎだろ……」

「ふふっ、お嫁さんたちを平等に扱わなくちゃダメよ」

「ソフィが発信源か……」

 最終的に膨れに膨れ上がったグループによって、ケビンは数ヶ所で終わらせるつもりだったダンジョン攻略の数を、当初よりも増やしていく方針に切り替えざるを得なかった。

 そして、最終的に決まったグループは次の通りである。

ティナ班……ティナ、ニーナ、アリス、クリス

サラ班……サラ、マリアンヌ、シーラ

ターニャ班……ターニャ、ミンディ、ニッキー、
       ルイーズ、ジュリア

フィアンマ班……フィアンマ、オフェリー、メリッサ、
        カトレア

メイド班……プリシラ、ニコル、ライラ、ララ、ルル

お遊び班……クララ、クズミ、ヴァレリア、
      ヴィーア、セリナ

森のさえずり班……ジャンヌ、クロエ、カミーユ、
         シャルロット、ノエミ

「それじゃあ、明日からダンジョン攻略に向かうぞ。まずはティナ班からだ」

 ケビンがそう締めくくるとこの日の話し合いはここで終わり、明日からのダンジョン攻略に向けてそれぞれが英気を養うのであった。

 翌日、ケビンはティナ班を引き連れてリンドリー伯爵家へと転移する。そこでレメリアたちに事情を説明して、早速ダンジョン探しのための空の旅へ移行するのだった。

 ティナ班を結界内に閉じ込めて空輸するケビンは、【マップ】を使って50階層以上のダンジョンを検索したら、手当たり次第に攻略を開始する。

 そして、ケビン作ダンジョンの100階層踏破者であるティナたちからしてみれば、普通の50階層付近のダンジョンなど肩慣らし程度にしかならず、サクサクと攻略しては最終階層に辿りついてボスを倒し、その後はケビンの転移でマスタールームに不法侵入を果たす。

「さて、ダンジョンコア。俺はマスターじゃないが、マスター権限を上書きさせてもらう」

 ダンジョンコアに近づいたケビンがコアに手を乗せると、有り余る魔力を流し込んでマスター権限を上書きしていく。

《マスター再登録承認》

「よし、今後一切はマスタールームへの転移魔法陣の起動を禁止する。最終階層クリア者は、そのまま地上への転移魔法陣のみの仕様としろ。前マスターも例外じゃない」

《了解。これよりマスタールームへの転移魔法陣を消去します》

「あとの運営は任せた。成長したいなら頑張って成長しろ。弱肉強食らしいから、しょぼいダンジョンに負けるなよ」

《了解。これよりこのダンジョンは成長型ダンジョンに移行します》

「それと、致死性のトラップは禁止だ。例外として悪者冒険者は致死性トラップにハメてもいい。たかが知れてるだろうが、ダンジョンの栄養素として吸収して問題なし。もし、女冒険者や女盗掘なら捕えておけ。あとで俺がお仕置きする」

《了解》

「ケビン君……悪者感がハンパないよ?」
「ドSの鬼畜」
「お楽しみをするんだねー」
「悪者がいけないのです! ケビン様は正義です!」

 ケビンはそれからダンジョンコアに対して、勝手に【念話】のスキルを付与して通信連絡を可能にすると、次なるダンジョンへと向かうのだった。

「あのコアは回収しなくて良かったの?」

「あれはまだ赤子みたいなコアだったからな。もう少し成長したコアが欲しい」

 その後もケビンたちはコアのあるダンジョン巡りをして、50階層代のダンジョンを全て攻略し終えたら、マスター権限の上書きまで済ませてしまうと、次は60階層代のダンジョンを巡ることになる。

 その60階層代もティナたちにとっては苦労するでもなく難なく踏破してしまうと、ケビンは段々と飽きてきたのか面倒くさいと思いつつも、次なる70階層代まで昼休憩を挟みつつ足を運んだ。

 そして、その70階層代のダンジョンでケビンはティナたちにストップをかける。

「ティナ、この先に冒険者がいる」

「それじゃあ、その冒険者が階層ボスを倒すのを待つ?」
「追い越す?」
「相手の攻略スピードによるよー」
「ここに来て足止めですね」

「とりあえずは冒険者だけど冒険者を装ってって言うのもおかしいけど、ただの攻略に挑戦している冒険者を装って追い越すか。相手のスピードに合わせると遅くなりそうだ」

 ケビンがそう指示を出したらティナたちは攻略スピードを落とさずに進むと、やがてケビンが探知していた冒険者たちと出くわしてしまう。

「こんにちは」

「えっ、あ、こんにちは」

 そのまま通り過ぎようとしていたティナたちに相手から挨拶をされてしまい、ティナは驚いたものの挨拶を返すことに成功する。

「みんな黒髪……」
「黒髪一色」
「私は紺色だから似てるねー」
「黒髪の人は初めて見ました!」
「マジか……」

 ティナたちよりも先を行っていたのは異世界勇者組で、ケビンは迷わずそれがわかってしまい、とんだ鉢合わせをしてしまったと困惑が後を絶たない。

「あの、不躾ですがエルフの方ですか?」

「え……そうですけど……」

「わー、初めてエルフの方に出会えました。握手してください」
「エルフキタコレ!」
「獣人族はいないのでごわすか?!」
「拙僧のエルフ推しですぞ!」
「あの方はエロフでござろうか……」

「え……え……??」

 ティナはあまりのことに困惑が隠しきれず助けを求めるためにケビンを見てしまうが、ケビンはケビンでこのような所で勇者たちに会うとは思ってもおらず、同じように困惑しているとクリスがすかさず動いてティナをサポートする。

「私も黒髪の人は初めて見たんです。私とも握手してください」

「やっぱり黒髪って珍しいんですか?」

「あまり見かけたことはありませんね」

 ティナの前に出て握手を交わしているクリスがそう答えると、黒髪の少女は『なるほど』と納得顔をしていたが、その後ろでは順番待ちかのごとく少年たちが列をなしていく。

「しょ、小生も握手したいのですが……」
「某も同じく」
「拙僧もしたいですぞ」
「拙者も――「宗くん?」……何でもござらん……」

あずま?」
「智?」
「しーくん?」

「「「……はい」」」

 握手をしたがっていた少年たちはそれぞれのパートナーに戒められると、渋々引き下がるしか道は残されていなかった。その少年たちは完全に少女たちから尻に敷かれているようである。

「えっと、ここで会えたのも何かの縁なので、一緒に攻略をしませんか? こう見えても私たちは結構やる方なんですよ」

「ど、どうするの、ケビン君……何か誘われちゃってるよ?」

 自分では判断のつかないティナがケビンに問いかけると、今まで喋らずにいたせいか改めてケビンの存在に気づいた少年たちから、当然の反応をされてしまう。

「ハ、ハーレムだとっ!?」
「うらやまけしからん!」
「リア充ですぞ!」
「拙者は翡翠ちゃんがいるので、他はよいでござる」
「宗くん♡」

「あんたたちねぇ……失礼にも程があるでしょ」
「それに彼女がいるのにリア充って……自分たちの首を絞めたいわけ?」
「しーくん、浮気はダメだよ」

「それとこれとは別問題な件」
「ハーレムはオタクの浪漫でごわす」
「リア充を超える超リア充は爆破するですぞ」

「ケビン君、この人たち変なことばかり言ってるよ?」

「あぁぁ……こいつらオタクだから放っておけ。関わるとオタク病が伝染うつるぞ」

「えっ!? この人たち伝染する病気持ちなの!?」

 ケビンの言葉を鵜呑みにしてしまったティナは、一気に距離を取ってケビンの後ろに隠れてしまう。ティナがそう行動したものだから、他の3人も同様にケビンの後ろに隠れると、心外だとばかりに少女が抗議をし始める。

「ちょ、私たちは違います! オタクはあの男たちだけ!」

 だが、自らオタクであることをひた隠しにしようとするいちじくは、ケビンの引っかけにいとも簡単に釣られてしまうのだった。

「我が生涯に」

「一片の悔いなし!」

「オタクだな」

「グハッ!」

 まんまと引っかかってしまったいちじくは、その場で項垂れてしまい自らの敗北を認めてしまう。

いちじく殿はどうしてオタクを全力否定するのに、まんまと引っかかるのでござろうか?」
「小生の彼女が無能な件」
「どっぷり浸かっている者の宿命でごわす」
あずま殿、彼氏ならばそこはフォローするべきですぞ」
「晶子は昔から抜けてるところがあるから……」
「晶ちゃんダメダメだね」
「晶子ちゃん……」

 そして復活したいちじくは自分のことは棚に上げて、ケビンのことをツッコミ始める。

「その言葉を知っているってことは、貴方もオタクよ!」

「この世界には昔から異世界の勇者たちが残した言葉が色々ある。中には【喧嘩上等】なんて言葉も伝わっているくらいだ。ちなみにそこの某君が言っていた獣人族は存在するぞ。しかも、過去の勇者が語尾に特徴を付けるように言って、それが今でも根強く続いている。たとえば、猫人族の『にゃん』だったり、兎人族の『ぴょん』だったりな」

「某の時代が来たでごわす!」

「『ぴょん』だったら私も言うよ。バニー姿で『ぴょん』って言うとケビン君が喜んでくれるし」

 ティナがポロッとこぼした言葉によって、この場は一気に凍りつき全ての人が沈黙をしてしまう。

「馬鹿ティナ」
「馬鹿だねー」
「ティナさん……」

「エロフキタコレー!」
「あのエロフが目の前に!」
「エロフが実在していたのですぞ!」
「拙者の夢が……夢がついに……」

「信じられない! コスプレさせてるの!?」
「エルフのコスプレイヤー……」
「逆異世界コスプレ……」
「宗くん……エロフの方がいいの……?」

 奇しくもティナの言葉によってこの場は混沌と化してしまい、ケビンはティナのうっかりさに頭を抱えてしまい溜息が後を絶たない。そのようなことがありながらも、ケビンはいちじくに対してオタクでないことを押し通すのだった。

「つまりだ、この世界にはオタクというものは存在しない。そもそも異世界から来た勇者たちが残した情報以外ないからな」

「くっ……」

「殺せ?」
「殺せがくるでごわす」
「きますぞ……」
「生くっ殺でござるな」

「殺すぞ、お前ら!」

「新バージョンキタコレ!」
「あえて殺せではなく殺すでごわす」
「流行らせるですぞ」
いちじく殿はオタクの最先端でござるな」

 女三人寄れば姦しいと言うが、奇しくもオタクが集まれば男であろうとも姦しくなるものである。そして、オタクたちが騒いでいる中で、ケビンはティナたちに通信で情報を流す。

『聞こえているな? あいつらは俺を殺しに来た勇者たちだ。くれぐれも余計なことは口にするなよ? 特にティナ』

「えっ!? 勇者なの!?」

 せっかくのケビンの通信虚しく、ティナは声に出して驚きを示してしまった。

「……」
「ティナ馬鹿すぎ……」
「ティナぁ……」
「何も言えません……」

 他の4人から呆れ果てられてしまうティナの発言によって、いちじくがその言葉に反応を示す。

「その通りですよ。私たちは魔王を倒すために、この世界に召喚された勇者となります。ですから一緒に攻略をしませんか?」

「いえ、俺たちは俺たちでやりますので、このまま先に進ませていただきます」

「そうですか? こう言っては何ですけど、私たちは勇者ですからそこら辺の冒険者よりも強いですよ?」

「そうなのでしょうが、俺たちも強い部類には入りますので大丈夫です。現にここまで簡単に攻略してきましたから」

 とにかくティナがまた迂闊なことを喋ってしまう前に、ケビンはこの場から早く立ち去る方向性で話を進めていき、何が何でも協力しないという意志を見せつけたら、いちじくはその気迫に押されて退くのだった。

 そして、サクサクと進み出したケビンはティナにお小言を言って、このダンジョンを攻略したらお帰りコースとなるのである。

「ごめんなさい」

「ティナのうっかりは今に始まったことじゃないが、今回だけは見過ごすわけにはいかない。ティナ班のダンジョンツアーはここで終了だ」

 こうしてケビンはこのダンジョンのコアもマスター権限を上書きすると、帰るには少し早いが帝城へと帰還するのであった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 一方で、ケビンたちと別れたいちじくたちはのんびりと攻略を進めていた。

「さっきの人たちって、ここら辺じゃ見ない冒険者だったよね?」

 いちじくがその疑問を口にすると、当たり前のようにあずまが答える。

いちじく氏は忘れたのですかな? ここはセレスティア皇国。人族至上主義の差別国家で、他種族が普通に歩いて生活するには厳しい国ですからにして、生活しようとしても、それは奴隷として扱われるだけで終わりなのですが」

「でもあの人は奴隷じゃなかったよね?」

「拙僧が思うに外ではフードを被ってやり過ごしているのでは?」

「ダンジョンでばったり現地人と会ったから、逃げるようにして先へ進んだのでござろう」

「現地人って……私たちは異世界人なんだけど……」

「相手からしてみれば、ここにいるだけで現地人と変わらぬでござるよ」

「それにしてもあの女性たちって、みんな彼女なの?」

「ぐっ……ハーレムめ……」

 いちじくの言葉にあずまがハーレムを羨み、

「同じ指輪をしてたからみんな奥さんなんじゃない?」

「ぐはっ……バニー姿で『ぴょん』と言ってくれる奥さん……」

 つなしの言葉ににのまえが獣人族ではないがそのプレイを羨み、

「綺麗な人たちだったよね?」

「ぐっ……超リア充め……」

 大艸おおくさの言葉に百武が綺麗な相手だと羨み、

「宗くんはエロフが好きなの?」

「創作物の中だけでござるよ。他人の情事を実際に見ることができるわけでござらんからな。1番好きなのは翡翠ちゃんのままでござる」

「宗くん♡」

 服部の言葉に猿飛が答えると、何故だか胸焼けする現象がこの場を包み込む。

「あの2人みたいにはなれそうにないわ」

いちじく氏が2人きりの時は服部氏と同じな件」

「ちょ、あずまっ!」

「えーなになに~? 晶子って2人きりの時はデレデレなわけ?」

「小生のことを『まーくん♡』と呼んでいますが、何か?」

「あ、あんただって『あーちゃん』って呼ぶじゃない!」

「小生は自信持って好きと言えますからな。何なら普段から『あーちゃん』と呼んでも構いませんけど、何か?」

「ダ、ダメよっ! 2人きりの時だけの決まりなんだからね! 他の人には秘密なの!」

いちじく氏がツンデレな件」

「晶子って真性のツンデレね」

「晶ちゃんも普段から呼べばいいのにね。しーくんもそう思うよね?」

「拙僧はみこちゃんの名前を呼べるので、それだけで充分ですぞ」

「もう、しーくんったら♡」

「桜梅、某たちもラブラブするでごわす」

「えっ、無理。ここダンジョンだし」

「桜梅がツンドラでごわす……」

「はぁぁ……まったく智ったら……ダンジョンから出たらラブラブしてあげるから、それまで我慢しなさいよ」

「桜梅ぇぇぇぇ!」

「引っ付くな暑苦しい!」

「みんなの仲が良くてよいでござるな」

「私たちみたいだね、宗くん♡」

 やはりオタクたちは何処にいてもオタクなようで、ダンジョンの中だと言うのに全く緊迫感のない攻略を行っていたのであった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


珍名ちんみょう高校 生徒名簿

四 正信 (あずま まさのぶ)更新

九 晶子 (いちじく あきこ)更新

大艸 御子 (おおくさ みこ)更新

十 桜梅 (つなし さらめ)更新

一 智也 (にのまえ ともや)更新

百武 赤彗 (ひゃくたけ しすい)更新

 今回は勇者側視点ではなくケビン側でしたが、最後に勇者側視点を入れてしまったので、名前の更新をしておきます。猿飛と服部に関しては、以前に氏名が出たのでここでは載せませんでした。

 つなしの名前である桜梅さらめは、『もぎき』という『十』の他の読み方からつけました。『桜切る馬鹿梅切らぬ馬鹿』が頭に浮かびましたので。

 え? 最後の人におふざけが入ってる? はい、入れました。意図的に。だって何度見ても『百武』が、あの金ピカロボットの名前に見えてしまうんです! 私は悪くありません!

 あ、ちなみに百武の彼女である大艸もネタです。名前のせいでからかわれるという過去を持っています。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


いじめっ子A「大艸ってwwwの大文字のWWWってことだろ? しかも名前が『おこ』って! 大爆笑しながら怒ってんのー?」

いじめっ子B「プークスクスじゃなくて、ブスだからブースクスクスだな!」

大艸「おこじゃないもん! みこだもん!」

 大艸が泣きながら反論していると、そこへ通りすがりの男の子が現れる。

男の子「人の名前でからかってんじゃねーよ。好きな相手をいじめるって聞くけど、その子のことが好きなのか?」

いじめっ子A「なっ!? ち、ちげーし!」

いじめっ子B「うっせーんだよ! どこ小だ、てめぇ!」

男の子「〇〇小学校の百武だけど? お前らはどこ小だ? 『ちくしょー』って言いながら逃げるから、畜小か?」

いじめっ子A「や、やべぇぞ。アイツ、最近引っ越してきたっていう噂の奴じゃ……」

いじめっ子B「か、帰るぞ!」

 そして、いじめっ子たちは距離を取りつつ走り去っていくと、テンプレのごときお決まり文句を口にした。

いじめっ子A「ちくしょー覚えてろよ!」

いじめっ子B「〇〇君に言いつけてやる!」

百武「畜生はお前らだろ」

 いじめっ子たちが走り去ったあとは、百武が大艸にハンカチをぶっきらぼうに差し出してそのまま帰ろうとしたのか踵を返すと、大艸は慌てて声を上げてしまう。

大艸「ハ、ハンカチ!」

百武「やる」

 百武が去ったあと、大艸はハンカチに刺繍された名前をしばらくの間、ずっと眺めるのであった。

大艸「SHⅠ……SU……Ⅰ……しすい? 綺麗な名前……」
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