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第16章 魔王対勇者

第505話 懐かしきツアー

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 ケビンが九鬼と邂逅した翌日、ケビンは九鬼たちと合流する前にセリナとヴィーアを引き連れてドワンの元を訪れた。

「おお、ケビンか。久しぶりだな」

「お久しぶりです、ドワンさん」

「お前さんは来る度に違う女を連れているな」

「はは、そこら辺は自覚しているので突っ込まないでいただけると……」

「で、そっちの嬢ちゃんたちの装備でも新調するのか?」

「ご明察の通りです。2人ともシーフ寄りなんで、動きやすい軽鎧と短剣をお願いします」

「装備、ある、返して」

「アレはダメだ。せっかくいい素材を使っていたのに、鍛冶師の腕が悪いせいで粗悪品になってる。その点ドワンさんは、超一流の腕前だ。ヴィーアの体に合うきちんとした装備を作ってくれる」

「私の分までよろしいのですか?」

「ああ。どうせ騎士団の備品は、使い回しのお古だったんだろ? セリナも自分に合う装備を作ってもらえ」

「ありがとうございます」

 それからドワンによる採寸が行われて、どういった感じに仕上がって欲しいのか希望を聞き届けたあとは、いつものようにケビンが金属素材を魔鋼に仕立て上げると、死蔵している素材をドワンに卸してから一括前払いで支払いを終わらせた。

 その後ケビンたちは待ち合わせ場所のギルドへと行き、九鬼たちとの合流を済ませたら街の外へ向かって歩き始める。

 やがて辿りついた森の手前で、ケビンは早速九鬼のスキルについて本人に詳しく説明を行いつつ、鍛練をする前に九鬼の要望を尋ねるのだった。

「クキはどういうプレイスタイルを目指したい? 例えば剣士として敵を倒すのか、趣向を変えて魔術師になるのか、はたまたその中間で剣を扱いつつ魔法も使えるようになりたいのか」

「ま、魔法を扱えるようになるんですか?! マルシアさんに教わりながら詠唱をしても発動しなかったので、てっきり僕には才能がないのかと……」

「クキの場合は入り方に条件があるから、普通にしても覚えるのは無理だ。早い話が一般人と同じやり方だと、何も覚えることはできない」

「え……でも、オリバーさんやサイモンのおかげで、剣術を使えるようになりましたよ」

「その時と魔法を教わった時とで、やったこととやらなかったことはわかるか?」

 ケビンからの問いかけに対して九鬼が当時のことを思い出しながら考え込んでいくと、やがてその答えに辿りついた。

「……剣術を習った時は宿屋へ帰った後に、1人で本を見ながら練習しました。魔法の時は宿屋の中で暴発させたら危ないと思って、結局のところ何もしませんでした」

「そう、それがクキの強さでもあり、弱さでもある。クキの場合はスキルを使って学習をしたあとに実践をすれば、大抵のことは全て覚えられる。逆にスキルを使わなければ一切覚えることができない。強力なスキルゆえのメリットとデメリットだな」

 九鬼は今まで感覚でしか使っていなかったスキルの秘密をケビンから教わり、ふと思い返せばステータス欄の後付けスキルは、【勉強道具】スキルを使って勉強をしてから実践をしたものであると思い至るのだった。

「クキは魔法を使いたいみたいだから、今日は外にいることだし魔術基礎の本を出して、勉強をしながら実践をしてみるんだ。勉強が上手くいって実践でちゃんとできたら、近いうちに魔法を使えるようになるかもしれない」

「わかりました!」

 ケビンからの指示を受けた九鬼は早速スキルを使って魔術基礎の教本を出すと、黙々と読書を始めていく。

「で、次にサイモンたちだが……」

「俺たちがどうかしたのか?」

「クキが鍛練している間は暇だろ? せっかくだから扱いてやる」

 ケビンがニヤッと口角を上げてサイモンたちを見回すと、サイモンたちは言い知れぬ不安が背筋をかけ登りゾワゾワとした感覚に襲われてしまう。

「い、いや……俺たちはもうAランク冒険者だし、そんなに鍛える必要はねぇよ……な、なあ? オリバー」
「そ、そうだ。ここでクキが頑張っているのを眺めているだけでも楽しいし。なあ? ミミル」
「そ、そうよね。それにケビンさん直々に教わるなんて、お、恐れ多いし……そうよね? マルシア」
「わ、私は魔術師だし? 鍛えてもらうならあたなたちだけでしょ? 魔術師は自己鍛練で充分だから……そう、充分なの」

「まぁ、そんなに遠慮するな。死ぬことはない……多分」

「多分て何だ!? 多分て!」
「鍛練で死んでたまるかよ!」
「私、将来は引退して専業主婦をする予定なの!」
「私も子供たちに囲まれて過ごす予定なの!」

「セリナ、ヴィーアとここでクキを見ててくれ。ちょっと出かけてくる」

「はい、お気をつけて」

 ギャーギャーと騒いでいるサイモンたちを他所に、ケビンはセリナにこの場のことを任せるとサイモンたちを連れて転移をする。

 そう、目的地はあの場所である。

「おい、ここどこだよ!?」
「いきなり場所が変わったぞ!」

「ようこそ、冒険者鍛練ダンジョンへ」

「ダ、ダンジョンって……」
「ど、どこのダンジョン?! それによっては私たちでもいけるわ!」

「ここはアリシテア王国のダンジョン都市にある街中ダンジョンだ。ちなみに現在は51階層。Aランク冒険者ならここら辺から始めるのが妥当だろ」

「ダンジョン都市だと!?」
「てゆーか、どうやってここまで来たんだ?!」
「そ、それよりも、ここのダンジョンは40階層で攻略をやめてるのよ!」
「それが10階飛ばしの51階層からだなんて……」

「ちなみに逃走は不可だからな。サイモンたちの進むべき道は下にしかない。転移魔法陣に乗っても作動しないよう細工をした」

「さ、細工って何だ?!」
「何でダンジョンにそんなことができる?!」

「そこは企業秘密だな。ネタバレは良くない」

「せ、せめて入念な準備を……」
「そ、そうよ。準備をせずにダンジョンに挑むなんて、命知らずもいいとこだわ」

「こんなこともあろうかと、このポーチに必要な物は全て入れ込んである。大量に入ってるから心配は無用だぞ」

「用意周到過ぎるだろ!」
「いつからだ!? いつから計画していた?!」

「昨日の解散後だな。クキの鍛練に付き合うことになると、お前らが暇になるだろ。だから暇つぶしにダンジョン攻略でもしてこい。目指せ100階層だ」

「無理に決まってんだろ!」
「ここの制覇者は【ウロボロス】だけだろーが!」
「そうよ、古参の【鮮血の傭兵団ブラッドファイターズ】だって、深層に辿りつけても制覇はまだしていないのよ!」
「死にたくない!」

「へぇーカイエンたちは相変わらずモタモタしてんのか。ぶっちゃけ制覇するつもりないだろ、あいつら。ダンジョンでトレジャーハンティングを楽しんでないか?」

 再びギャーギャーと騒ぎ出しているサイモンたちに「まぁ、頑張って」と言い残したケビンはマスタールームへと転移する。そこで、コアに挨拶を済ませると分身体を出してから、サイモンたちのことを任せるため訓練メニューを伝えた。

「まぁ、結局のところ俺の思う通りに扱けばいいんだろ?」

「そういうことだな」

「ククッ……久々に腕がなるぜ。鉄球ゴロゴロツアーの開始だ!」

「死なない程度で留めておけよ」

「俺はお前なんだから、殺さないことくらいわかってるだろ」

「それもそうか。じゃあ、あとは頼んだ」

 こうしてサイモンたちをダンジョンへ放り投げて、あとのことは分身体に任せたケビンはクキの元へと戻るのであった。

「おかえりなさい」

「ああ」

「食べたい」

「腹が減ったのか? よく食べるよな……成長期か?」

「食べたい」

「待ってろ。今作ってやる」

 ヴィーアの食欲を満たすために料理をポンポンと創造していくケビンは、それが終わるとセリナの稽古相手をして時間を潰していく。

 そしてその日の夕暮れ時になると、クキは魔力操作を習得していて本格的な魔法を覚えるのは明日からということになった。

「あの……サイモンさんたちは?」

「ああ、あいつらなら今頃ダンジョンで寝泊まりだ」

「ダンジョン!?」

「クキもある程度できるようになったら、ダンジョンに潜ってもらうからな? 心持ちだけは事前にしっかりと準備しておくんだぞ」

「はい!」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 一方その頃のダンジョンでは、サイモンたちが安全地帯でテントを張って、その中で夕食を食べていた。

「はぁぁ……疲れたぁ……」
「何なんだよ、あの鉄球トラップは……」
「毒矢とかじゃないだけマシだけど、走り疲れるわ」
「明日は絶対筋肉痛よ」

「それにしても至れり尽くせりだな」
「何でテントの中に風呂が付いてんだよ」
「キッチンもトイレもあるのよ?」
「部屋まで2部屋あるし……夫婦で使えってことよね?」

「ケビンって人外だよな?」
「同じ人間とは思えねぇよ」
「魔王って自分で言ってたし……」
「子供の頃のケビン君が懐かしいわ……」

 現在サイモンたちがいるのは51階層の安全地帯である。結局のところ彼らは鉄球ゴロゴロツアーに参加しただけで、攻略の“こ”の字もできてすらいなかった。

「明日こそは下の階に行けるといいなぁ」
「魔物と遭遇していないだけマシだな」
「魔物との戦闘の方がマシよ」
「はぁぁ……明日走れるかな……」

 皆思い思いのことを口にしては、明日の攻略のことを考えるとゲンナリするので、この日は早々に寝てしまうことにするのであった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 九鬼の鍛練が始まってから1週間、ケビンの指導の元で行われる鍛練によって、九鬼は今までの鍛練は何だったのかと思えるくらいに成長を遂げていく。

「どうだ、クキ。レベルアップだけがステータスを伸ばす方法じゃないってわかった感想は?」

「元の世界でも日々の努力が大事って言ってましたけど、この世界に来るとそれが目に見えてわかるから鍛練にも気持ちが入ります」

「まぁ、レベルアップに比べると微々たるものだが、塵も積もれば山となるって言うしな、積み重ねればレベルアップ相当量に伸ばすこともできるし、同レベル台の奴らとの差をつけることもできる」

「ちなみにケビンさんのレベルって幾つなんですか? 僕はまだ15ですけど、全然歯がたちそうにありません」

「これは秘密で頼むぞ? 俺の場合はちょっと特殊で限界突破をしていて、レベルは多分100を超えている」

「げ、限界突破!?」

「この世界の最高レベルは100までだ。どんなに頑張っても100を超えることはない。あとは鍛練次第でステータスだけが伸びていくのみだな」

「はぁぁ……ますますケビンさんに勝てる道筋が失われてしまいました。何だか1撃当てるだけでも無理そうです」

「まぁ、戦ってきた年数が違うし、そこはしょうがないだろ」

 それからケビンは九鬼に対してスキルや魔法であれば、条件さえ満たすことができたら限界突破が可能であることを教えて、九鬼はそれを目標として頑張ることに決めるのだった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「今日はどっちだ?」
「俺がわかるわけねぇだろ」
「ダンジョンに遊ばれている気がするわ」
「このダンジョンって生きてるんじゃないの?」

 サイモンたちはここのところ鉄球ゴロゴロツアーの日と、魔物殲滅ツアーの日を繰り返し受けさせられていた。しかもそれは交互に変わるのではなく、その日になってみないとわからない未知のツアーとなっている。

 実際のところケビン(2号)が行っているのは、魔術師であるマルシアを観察して、筋肉痛が治れば鉄球ゴロゴロツアーとなり、筋肉痛のままだと魔物殲滅ツアーとなるように仕組んでいるのだ。

 そしてそれが本人に気取られないよう、筋肉痛が治りそうな時に鉄球ゴロゴロツアーを仕掛けたりする変化をつけて、万全の体制でことに望んでいる。たまに筋肉痛でも軽めの鉄球ゴロゴロツアーを催したりもするが。

「クキの鍛練って上手くいってんのか?」
「ケビンさんが付いてんだろ? 強くなってるぜ、きっと」
「こっちよりかは絶対に楽よね?」
「ダンジョンで置いてきぼりにされるより辛い訓練ってないよ」

 こうしてサイモンたちは今日も今日とてケビン主催のツアーに、本人の意思は関係なく強制参加させられていくのであった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ケビンが九鬼を鍛え上げてから1ヶ月後、そこそこできるようになったので鍛練を切り上げることにした。

「あとは自主練だな。鍛え方はだいたいわかっただろ?」

「はい、ありがとうございます」

「本当だったらもう少し鍛えてダンジョンに連れて行きたかったが、俺もすることがあるから、あまりクキに構ってられないんだ」

「いえ、自分のスキルの使い方を教えて頂けただけでもありがたいのに、ドワンさんの刀の代金を稼ぐのもお手伝いして頂いて、更には刀の扱い方を実践するためのお相手までして頂き、ケビンさんには感謝しかありません」

「やっぱり刀は日本の魂だよな。同志が増えて俺は嬉しいぞ」

「そうですよね! ケビンさんの刀も相当カッコイイですけど、俺の刀もかなりカッコイイです!」

「【蒼瀧そうりゅう】だったか? カッコイイ名前だよな。鞘は蒼く染め上げられてるし、刃紋は力強さを感じる大乱沸崩れときてる」

「この昇り龍の地肉彫りなんて最高ですよ! 切っ先に向かってまさに昇っていく感じが――」

 九鬼がドワンに頼んだ昇り龍の地肉彫りは見事な出来映えで、鍛練途中に話を聞いたケビンが九鬼に自主練を言いつけると、急いでドワンに東洋龍のイラストを描いた物を渡したのだった。恐らくケビンがイラストを描かなければ、異世界刀に西洋龍が彫られてしまっていたことは間違いない。

 それからケビンは2号に念話を送って、サイモンたちを強制転移させたら1ヶ月ぶりの合流を果たしたのだが、4人とも死んだ魚のような目をしていた。

「100階層まで行けなかったみたいだな」

「無理だろ……」
「無茶言うな……」
「ゴロゴロが……」
「幻聴が聞こえる……」

 どうやらケビン(2号)の調き……鍛練は思いのほか過酷だったようで、Aランク冒険者の4人は力の足りなさを、今回の件でまざまざと感じさせられてしまったようである。

「で、結局のところ何階層まで行けたんだ?」

「61だ……」

「少なっ!」

「仕方ねぇだろ! こちとら40階層までしか踏破してなかったんだぞ!」
「鉄球のトラップが邪魔なんだよ! 何だ、あのいやらしいトラップ配置は! ダンジョンの悪意を感じるぞ!」
「鉄球から逃げ回ってた記憶しかほとんどないわよ!」
「ゴロゴロ……ゴロゴロ……」

 若干1名、後遺症のようなものを抱え込んでいる雰囲気だが、ケビンはそのうち元に戻るだろうと楽観視して、5人に別れを告げるのだった。

「今の時期からセレスティア皇国へ行くのか……」
「クソ暑いぞ」
「水分補給をしっかりね」
「ゴロゴロ……ゴロゴロ……」

 そのような中で九鬼はクラスメイトのことが気になり、ケビンにその処遇を問いかける。

「ケビンさん、勇者に会ったら殺すのですか?」

「いや、殺さない。まだ俺に喧嘩を売ってきてないだろ? 売ってきた喧嘩の程度にもよるが、軽めのものならボコって終わりだ。俺の国民に手を出したら地獄を見てもらう」

「日本人なので人を傷つけるようなことはできないと思います」

「考えが甘いぞ、クキ。高校生が異世界転移をして力を得たら、だいたいはヒャッハーするだろ? 科学的根拠のない異世界ファンタジーだぞ。羽目を外さないとは限らない」

「それでも……」

「クキ、転移後に他の者たちは奴隷を宛てがわれたんだろ? 男が女の奴隷を宛てがわれ自由にしていいと言われて、そいつらが手を出さないと思うか? 小心者は別として」

「そ……それは……」

「日本でも100%安全じゃなかったろ? 毎日じゃなくとも必ずどこかで事件は起きてた。そして、その世界から法の縛りが日本とは違う異世界に来たんだ。強い力を得て不遜になる奴もきっと出てくる。まさにチートで俺TUEEEEだ」

「結構詳しいんですね、ケビンさん……」

「オタクは文化だ。市場を支える縁の下の力持ちだ。後ろ指をさされていい存在なわけがない!」

『そうだ、そうだー! ネタ極振り万歳!』

 ガシッと拳を握りしめて力説するケビンに対して、九鬼は若干引いてしまうがサナは賛同派のようである。

 そのような会話が繰り広げられながらも、ケビンは言いたいことを言い終えると、再度挨拶をして皇都セレスティアへ向けて出発するのであった。
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