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第16章 魔王対勇者

第503話 邂逅

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 黒の騎士団ブラックナイツ団長のヴィーアを取り込んだことでケビンの暗殺騒動が一段落つくと、ケビンは以前より計画していたお忍び旅行を実行に移すことにした。

 そして今はケビンの出発を前にして、ヴィーアがケビンの服の裾を掴んで離さないところである。

「行く」

「ん? 来てもすることないぞ?」

「行く、殺す、攫う」

「待て待て待て、字面が物騒すぎる! 今回の行動で殺しはナシだ」

「行く、攫う」

「そもそもヴィーアは面割れしてないのか? セレスティア皇国でヴィーアのことを知っているのは誰だ?」

「教皇、枢機卿、5人」

「上層部のみか……それなら街中でバッタリ会うこともないか……」

「傍いる、約束」

「そうだな……俺が傍にいろって言ったしな……よし、2人で旅行に行くか?」

「行く、ふわふわ」

「……それが本当の目的か?」

「……」

 そのようなところへ更に追加で人がやって来る。その者はケビンの身辺警護という名のお株を、上司のヴィーアに奪われてしまった者だ。

「ケビンさん、私もついて行きます」

「え……セリナも?」

「私がいれば親子3人と見られて、周りから怪しまれませんよ?」

「いや、さすがにヴィーアの大きさに対して、セリナの若さは無理がないか?」

「ふふっ、もう、ケビンさんったら!」

 セリナはケビンから若いと言われたことで、バシバシとケビンの背中を叩いては喜びを表現していたが、ステータス差が開きすぎているケビンにとっては大して痛くもなく、音だけが響きわたる形となる。

「まぁ、いいか……」

「それでは親子3人水入らずの旅行へ行きましょう」

「ふわふわ」

 こうしてケビンは元黒の騎士団ブラックナイツの暗殺者2人を旅の同行者として、神聖セレスティア皇国へと旅立つのであった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 嫁たちにセレスティア皇国へ旅行に出かけてくると伝えたケビン一行は、アリシテア王国の南にある街の中では、1番大きな街となる交易都市ソレイユへと転移する。

「今更ながらだが、2人とも身分証は持ってるよな?」

「私は冒険者のギルドカードを持っていますよ」

「ない」

 セリナは元旦那に冒険者と偽っていただけあってか、冒険者のギルドカードを所持していたが、ヴィーアに関しては「ない」と簡潔に報告したのだった。

「ちょっと待て、ヴィーアは今までどうやって街の出入りをしていた? そもそも国境を超えるのにも必要だろ」

「歩いた」

「もっと詳しく」

「歩いた、通った、誰も見ない」

「……つまり、常日頃から気配を消しての移動か?」

「ん」

「馬車にもタダ乗りとか?」

「ん」

「宿屋もタダ泊まり?」

「ん」

「ご飯は? さすがにご飯は姿を現さないと食べれないだろ」

「落ちてた」

「落ちてた?」

 ケビンはヴィーアが落ちているものを拾って食べたと思ったのか、確認のために同じ言葉をそのまま問い返してみると、ヴィーアはおもむろに屋台の方を指さして同じことを口にする。

「落ちてる」

「ま、待て待て待て! あれは落ちてんるじゃない、売ってるんだ!」

「名前ない」

「食べ物に一々名前なんて書かないだろ!」

「名前ない、誰の物でもない」

 ヴィーアのぶっ飛んだ常識を聞いてしまったケビンは、元上司となるドウェイン枢機卿はいったい何を教えていたのかと頭を抱え込んでしまう。

 そして、ヴィーアが食事中に頬を膨らませるほどご飯をほっぺに溜め込むのは、もしかしたら名前が書いてないから、他の誰かに取られないようにするためかもしれないと、ケビンは話の流れで結論づけるのだった。

「はぁぁ……ヴィーア、お金って知ってるか?」

「キラキラ」

「まぁ、確かに物によってはキラキラしてるな。というか、キラキラって判断するなら金貨以上しか目にしたことがないのか?」

「枢機卿、キラキラ、いっぱい」

「金を貯め込んでいるわけか……」

「今まで任務が終わったらキラキラは貰えたか?」

「ない」

 その後ケビンは銀貨、銅貨とヴィーアに見せていき、そのどれも任務達成報酬として受け取っていないことが判明する。とどのつまり、ヴィーアは知識がないためにタダ働きでこき使われていたということである。

「ヴィーア、今から落ちているご飯はもう食べるなよ。食べたい時は俺に言え、買ってやるから」

「食べたい」

 ケビンがそう告げると、早速ヴィーアは先程指さしていた屋台を再度指さして、言われた通りに食べたいことを意思表示する。そこでケビンはヴィーアと手を繋いで屋台へ行くと、串焼きを5本頼むのだった。

「串焼き5本で銅貨10枚だ」

「ヴィーア、この銅貨を10枚だけ店員さんに渡すんだ。そしたら、串焼き5本はヴィーアのものだ」

「おっ、お嬢ちゃんのお買い物練習か? 可愛い嬢ちゃんだし、まけて銅貨8枚でいいぜ」

「ん?」

「ヴィーアが可愛いから店員さんがおまけしてくれたんだ。この場合は8枚払えばいい」

 ケビンからそう説明を受けたヴィーアは、ケビンから受け取った袋の中から銅貨を取り出しては、屋台の上へ1枚ずつ並べていく。

「――6、7、8」

「おう、確かに8枚だな。この串焼きはもう嬢ちゃんのものだ」

 店員が袋を渡してきたのでヴィーアがそれを受け取ると、ケビンはヴィーアに締めの言葉を教えた。

「ヴィーア、受け取ったら『ありがとう』って言うんだ」

「ん、ありがとう」

「いいってことよ!」

 そして言うことが終わったヴィーアは、早速袋の中から串焼きを1本取り出しては美味しそうに頬張り始める。

「ヴィーア、袋はママが持っておくわ」

「や」

「そんなに睨まなくても取って食べたりしないわよ。袋を持ったままだとパパと手を繋げないわよ?」

 ケビンと手を繋げないと言われてしまったヴィーアは、袋とケビンの手を交互に見ては悩み込んで、最終的には袋をセリナに渡してしまうと空いた手でケビンの手を握るのだった。

 そのような微笑ましい光景を目にしている店員は、『もう少しまけてやれば良かったかな』と思っていたが、ケビンはそのような店員の気も知らず次の目的地へと歩き出していく。

「ケビンさん、どちらに行かれるのですか?」

「冒険者ギルド。ヴィーアの登録をして身分証代わりに使わせる。ギルドカードがあればお金も貯めれるしな、食べたい物も食べれるようになる」

「パパ、払う」

「一緒にいる時は払ってやるさ。だがそれだと、ヴィーアが食べたいと思った時に俺がいなければ、食べたい物を食べられないだろ。そういう時のための保険だ」

 そして辿りついた冒険者ギルドにて、ケビンがヴィーアの冒険者登録をさせていると、後ろから不意に声をかけられるのだった。

「ねぇ、もしかしてケビン君じゃない?」

「ん?」

 ケビンが名前を呼ばれたことで振り向いてみたら、そこには見慣れぬ5人組がケビンを見ていた。

「……誰だ、お前ら?」

「くっ、確かに久しぶりで忘れ去られていても仕方がねぇけど、と言うよりも、ほとんど会話すらしたことがないっていうのも問題だが、そりゃねぇだろ……」

 ケビンの発言によりガックリと男性が項垂れていると、その隣にいた女性がケビンに自己紹介を始める。

「覚えてないかな? フェブリア学院で同じクラスだったマルシアよ。そこで項垂れているのがサイモン」

「…………ん………あっ、ああっ! 代表戦に出てた――」

「そう! その代表戦に出てたサイ「――マルシアか! 懐かしいなぁ……」……モンなん……だけ……ど……」

 サイモンが思い出してもらえたと思って意気揚々と発言してしまったが、その発言に被せてケビンがマルシアの名を口にすると、サイモンはますます項垂れてしまい語尾が萎んでいくのであった。

「ふふっ、覚えてもらえていて光栄だわ。サイモンはダメみたいだったけど」

「サイモン? そんな奴いたか?」

「本当に覚えてないのか……?」

「野郎なんかより可愛い女の子の方を普通は覚えるだろ」

「あら、可愛いって言われちゃったわ」

「ひでぇ……」

「冗談だ。お前のことも覚えている。熱血剣術バカだろ?」

「……その覚え方もどうかと思うぞ……」

「確か……オリバーだったか? あいつとどっちが熱血剣術バカなのか競ってなかったか?」

「「競ってねぇよ!」」

 とても不名誉な競い方をケビンから言われてしまったことで、今まで黙っていたオリバーも参戦してサイモンとともにハモると、それに対して間を置かずに2人からツッコミが入った。

「「競ってたでしょ!」」

 そのような会話を繰り広げているうちにヴィーアの冒険者登録が終わったようで、ケビンに話しかけると言うよりもいつもの単語口調が飛んでくる。

「パパ、終わった、カード」

 その言葉に反応したのはケビンでなく4人の方だった。

「「「「パ、パパぁぁぁぁっ!?」」」」

「ママ、串焼き、1本」

「「「「マ、ママぁぁぁぁっ!?」」」」

「はいはい、カードはポーチに仕舞いなさい」

「ん」

 そして、ヴィーアがギルドカードをケビン作のポーチに仕舞うと、セリナから串焼きを受け取って頬張り始めたら、余った方の手はケビンの手を握るのだった。

 その後は受付前でいつまでも騒いでいるわけにはいかないとケビンが告げて、併設の酒場で今までの積もる話をすることになる。

「――で、卒業後に4人でパーティーを組んで、冒険者になったってわけだ」

「ふーん」

「興味無さそうだな、おい」

「妥当な線を行っただけだろ。これで実は学者になりましたってんなら、意外性No.1として驚いたけどな」

「Fクラスの俺が学者になれるわけないだろ」

「まぁそれはともかくとして、そっちの少年は誰だ? 同じクラスってオチはないよな? 明らかに年下だし」

 同じクラスだったサイモンが代表として話している中で、ケビンはずっと黙ったままの少年に視線を向けていた。

「ああ、こいつはクキってんだ。セレスティア皇国の皇都で知り合ってな、今から暑くなりだすから一緒に北へ行こうって誘って連れてきたんだよ」

「クキ? 変な名前だな」

「ほれクキ、自己紹介しろ。こっちが前にも言ったことのあるケビン君だ」

「は、初めまして! 僕はクキと言います。Dランク冒険者です! ケビンさんにお会いできて光栄です!」

「よろしくの前に……サイモン、君付けはやめろ。野郎から言われるとムズムズする」

「で、でもよぉ、さすがに皇帝を呼び捨てってまずくないか?」

「その役職を言うのもやめろ。俺は今どこにでもいる冒険者なんだ。次に言ったら不敬罪で帝国に連行する」

「げっ! それは勘弁してくれ、子供に合わせる顔がない!」

 サイモンが連行されると聞いて焦っている中で、待っている間に串焼きを全部食べ終わったヴィーアが、マイペースさを遺憾なく発揮してケビンに食べ物のことを主張し始めた。

「パパ、食べたい」

「ん? 食べたい物があるなら好きなだけ頼んでいいぞ。セリナ、ヴィーアの注文を頼む」

「わかりました」

 そして、ヴィーアの注文を代わりにする役目をセリナに任せたケビンは、クキとの途中だった自己紹介を再開させる。

「俺はケビンだ。改めてよろしくな、クキ。それで、クキってのは名前なのか、それとも家名か?」

「よ、よろしくお願いいたします! クキは苗字です!」

 ケビンを前にして緊張しまくっている九鬼は黒髪黒目なのもそうだが、うっかり元の世界で使っていた苗字という単語を口にしてしまい、それを聞いたケビンの眉がピクリと反応する。

「……クキ」

「はい!」

「お前に【鑑定】を使ってもいいか? 嫌ならやめるが」

「ど、どうぞ!」



九鬼くき 泰次やすつぐ
男性 15歳 種族:人間(異世界人)
身長:170cm 体重:62kg
職業:私立珍名高校1年3組の生徒、隠れアルバイター
   【学生】、Dランク冒険者
状態:ケビンを前にして緊張中
備考:神聖セレスティア皇国が行った勇者召喚にて、異世界へとやって来た日本人。【学生】という職業を持っていたために、ウォルター枢機卿から早々に見限られて神殿から追い出される。現在はオリバーたちと臨時パーティーを組んで、ドワンに依頼した刀製作の代金を必死に稼いでいる最中。

クラスカースト
最下位(40位)


Lv.15
HP:220
MP:100
筋力:205
耐久:200
魔力:85
精神:85
敏捷:100

スキル
【言語理解】【勉強道具】
【学習能力 Lv.2】【実践能力 Lv.2】
【植物学 Lv.3】
【格闘術 Lv.1】【剣術 Lv.2】

魔法系統
なし

加護
なし

称号
女性不信
鬼神
異世界人
薬草ハンター



【勉強道具】
 勉強をするための様々な道具を顕現できる。

【学習能力】
 学習して身につける能力

【実践能力】
 学習によって身につけたものを実践する能力

【植物学】
 植物においての知識が深くなる。1度覚えたものに関しては忘れない。

女性不信
 浮気性の母親が原因で女性に対して不信なところがある。

鬼神
 母親の件が発覚して離婚になった時にグレてしまい、やり場のない気持ちを喧嘩にぶつけていき、不良関係者たちからは名前にちなんで『鬼神』と呼ばれ恐れられていた。格闘戦においてステータスが上昇する。

異世界人
 勇者召喚が原因で異世界からの渡り人となって付いた称号。

薬草ハンター
 来る日も来る日も薬草依頼だけをこなして、いつからか薬草ハンターと冒険者たちの間で広まった蔑称だったが、市場に影響が出てくると蔑称から敬称に変わる。質のいい薬草等を見つけることができる。



「はぁぁ……マジか……」

 ケビンはソフィーリアの言っていた楽しいイベントというものが、このようなところで判明するとは思わずに溜息が溢れ出すが、その様子を見ていた九鬼は自分のステータスを丸裸にされているとは思わずに、不安でいっぱいになっていた。

「ケビン、クキの名前を見ただけだろ? そんなに落ち込むようなことか?」

 一般的な【鑑定】の能力しか知らないサイモンがそう言うと、ケビンは自分ばかりが九鬼の能力を見てしまうのもアレだなと思い、ケビンの持つ【鑑定】の能力を教えていく。

 それを聞いた面々は信じられないかのような顔つきになるが、九鬼はステータスを全て見られたことにより、今まで黙っていた異世界人であることがバレてしまったと思って、益々不安な気持ちでいっぱいになるのであった。
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