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第14章 聖戦

第474話 戦後処理

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 総団長、団長と倒されてしまったセレスティア皇国軍は、士気の低下が顕著に現れてしまい敗走することとなった。

 戦場では撤退するセレスティア皇国軍を尻目に、連合軍側は勝鬨を挙げる。その表情はやりきった感が出ており、脱落して見学者となっていた兵士たちや、最後まで戦場に立つことができていた兵士たちの気持ちは同じであった。

 その様子をモニター越しに見ていたケビンは戦争がようやく終わったことで、今までの疲れを吐き出すかのようにして大きく息をつく。

「はぁぁ……あとは戦後処理だな……」

「ケビンはまだまだお仕事が続くわね」

「いつでも膝枕をするわよ?」

「お姉ちゃんもするわよ!」

 サラとマリアンヌが労う中で、ケビンは目下の悩みである捕虜をどうするか考えねばならず、事実確認をしなければと次の行動に向けて頭を使っていたのだった。

 その数時間後、ケビンは御三家やウカドホツィ辺境伯に兵たちを休ませるように伝えると、酒を解禁するようにして指示を出していた。

 それが終わったケビンは1人戦場に立ち、戦いに破れたセレスティア皇国軍兵士たちを初日と同様に【無限収納】の中へ回収していく。そして荒れてしまった大地を元通りに修復するのだった。

「だいぶ死んだな……」

 戦場で1人立つケビンは哀愁漂う呟きを残し、その場から転移して次の場所へと向かう。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 連合軍側が勝利の美酒に酔いしれどんちゃん騒ぎをしている頃、セレスティア皇国軍の野営地では敗走という名のもとに、辺りは静まり返っていた。

 誰しもが項垂れ仲間の死を追悼しては本国への帰還に向けて、ある程度の準備を進めている。

 それは軍議用天幕でも同じような有り様だった。ガブリエルやタイラーは仲間の死を悲しみ、やりきれなさで胸がいっぱいだった。だが、ヒューゴだけは仲間の死よりも、マリアンヌによって屈辱を与えられたことが頭の中を支配してイライラを募らせている。

 そのような時にこの場へ来訪者が現れる。

「通夜だな……実際通夜だけど」

「「「ッ! 魔王!?」」」

「バカリエルは喋るな、話が進まなくなる。タイラー」

「なんだ、あんちゃん……」

 ケビンのバカリエル発言により早くもガブリエルが噛みつこうとしていたところを、タイラーが手で制して覇気のない返事を返した。

「セレスティア皇国軍の死んだ兵士たちはどうする? 連れて帰るか?」

「初日の報告であったが、やっぱりそっちが回収してくれていたのか」

「当たり前だろ。翌日にも戦いをするつもりだったんだぞ。誰が好き好んで死体だらけの場所で戦うって言うんだ。夜に魔物が寄りついても困る」

「兵によっては残された家族もいることだし、連れて帰ってやりたいのは山々なんだがな……あんちゃんは何人捕虜にしたんだ? 戦死者と行方不明者の数がごっちゃになってんだ」

「戦死者は約1万5千だな。思いのほかリンたちが張り切ったようだ」

「リンたち? 誰だ、それは? 戦場に現れたあの3人以外にも伏兵を紛れ込ませていたのか?」

「ブラッディパンブーの双子とバイコーンが4頭いただろ? 俺のペットだ」

「魔獣をペット扱いかよ……ぶっ飛んでんな、あんちゃん……」

「リンとシャンは大人しくて可愛いぞ。バイコーンたちも賢いから言うことをちゃんと聞くし、2種とも人の言葉を理解するしな。子供たちとも仲良しだ」

「俺の常識が崩れていくぜ……」

「で、連れて帰れるか?」

「無理だな。マジックポーチの空きがあまりねぇし、更には換えの馬車がねぇ。戦ってくれた兵士たちを物扱いして荷台に積み上げたくねぇから、騎士たちから順に選別して連れて帰るしかねぇ。残りはこの地で眠ってもらう」

「へぇーてっきり詰めるだけ詰め込んで運ぶかと思ったけどな」

「それは戦った兵士たちに対しての無礼だ。俺たち上官の命令で命を投げ打ったんだからな」

「わかった。やっぱりタイラーに話を通すのがすんなりいくな。タイラーに免じて俺が手伝ってやる」

 それからケビンは『魔王の手を借りるなどと!』と喚くガブリエルを他所に、タイラーへ棺を供出することを提案する。

「急いで帰ったとしても1ヶ月以上はかかる。俺が防腐処理を行ってやるから、魔術師に冷やさせる作業はさせなくていいぞ」

「国まで持つのか?」

 当然抱いたタイラーの疑問にケビンが問題ないと告げると、タイラーも半信半疑ながら『魔王ならそれくらいするかも』という結論に至って了承する。

「棺ならってことでもないが、積み重ねても生身よりかは問題ないだろ?」

「……そうだな。残るは馬車とそれを運ぶ足だが……馬に頑張ってもらうしかねぇか……野生の馬を探すのがひと苦労だな」

「それだが……」

 ここでケビンが伝えたのは空間を拡張した馬車を用意したあと、更にはその馬車を軽量化してほとんど重さを感じさせないようにするというものだった。

「それなら人でも運べるだろ?」

「いやいやいや、それはありえねぇだろ。そんな物が用意できたら馬車を作る職人の商売があがったりだ」

 予想通りの反応を示したタイラーに対して、ケビンが証拠を見せると言ってタイラーを引き連れて天幕から出ると、目の前にその馬車を【無限収納】から取り出した。

 それを訝しりながらタイラーが近づいて持ってみると、なんと片手ですんなり持ち上がったことに唖然としてしまう。

 そして周りで作業をしていた兵士たちは天幕の中から魔王が出てきたこともそうだが、タイラーがいきなり現れた馬車を軽々と片手で持ち上げているのを見てしまい、驚いて口をポカンと開けたまま呆然としている。

「ということだ」

「ということじゃねぇよ! これ、馬車業界の革命だぞ!」

「中も広々としているから問題なく棺を乗せれるぞ。マジックポーチも白の騎士団ホワイトナイツから奪った物を返してやる。これで全員を連れて帰れるんじゃないか?」

「……この馬車は使い終わったあとどうすればいい?」

 タイラーは画期的な馬車を持ち帰るとすぐさま上の連中が食いついてくることを理解していたので、ここまでしてくれるケビンへどう処理するかを尋ねるのだった。

「それは用が済めば自動で俺の所へ転移される。奪われても問題ないが、それをタイラーが使うならまだしも、そうはいかないんだろ?」

「……確実に上の連中が取り合いをするな。恐らく俺の上司が1番食いつくだろう。これがあればかなり金が浮くからな。対抗馬としては軍事利用ができる点から、ウォルター枢機卿猊下が名乗りを上げるな」

「やはり殺すべきか?」

「やめてくれ……国が混乱する」

 タイラーは何かと上層部を殺そうとするケビンに対して、セレスティア皇国の在り方を説明する。国の実権をほぼ握っているのは教皇率いる教団であり、皇王や皇族はお飾り状態にあることを。

「えっ!? 皇王がいたの? 教皇が国のトップじゃなくて?」

「うちは皇王陛下と教皇聖下が国を回しているんだ」

「それなら別にいいだろ? 皇王に実権が戻るだけじゃないか」

「その皇王陛下たち一族は長く実権から離れてるから、全容を把握してねぇ。極論を言うなら何も知らねぇ者に、いきなり国を運営しろと放り投げるようなもんだ」

「うわぁ……ないわぁ、それないわぁ……」

 ケビンはお飾状態にある皇王たちが国を運営するのを想像してみては、一気に破綻しそうな感じがして恐慌する。そして存在感のない皇王たちは必要なのかという疑問に行きつくが、他国のことなのでどうでもいいという考えのもと思考を放棄した。

「じゃ、そういうことで。もしマジックポーチが足りなかったら使者でも出してくれ。少しくらいなら融通してやる」

「敵であるのに何から何まですまねぇな。で、棺はどこにある? 今から兵士たちに取り掛からせる」

 ケビンはタイラーからの言葉で充分な広さのある場所を見つけ出すと、【無限収納】の中から5段重ねで棺をその場所へと並べた。

「お、おい……今、どこから出しやがった!?」

「ああ、俺は【アイテムボックス】持ちだからな。魔力があり過ぎてこのくらい余裕だ」

 驚くタイラーを他所にケビンは平然といつもの嘘をつく。むしろその嘘をつき過ぎて、ケビンはもう自然体で口から出るようにまでなっている。

 そのようなケビンの嘘だから、タイラーも自然とそれを真実だとして認識した。

「あ、それと捕虜の話だけど……」

 ケビンはふと思い出して、ここへ来た本来の目的を語り出した。それは捕虜の身代金が本当に払われないのかという質問だ。ケビンとしては返せるものなら返したいという気持ちがあり、タイラーへことの真相を問いただすのだった。

「一般兵に関して言えば身代金はないな。軍務の団長に関して言えば、可能性の話として処刑はありえる。罷免されるのは確実だ。団員たちはまちまちだと思うぜ。優秀な男性騎士ならちょっとした罰はあるだろうが、そのあとはそのまま勤務ができる。女性騎士は罷免だろうな」

「マジか……」

「抱え込みたくねぇなら男限定で受け取るぜ。今後も重用されるだろうしな。女は無理だ。帰っても転落人生しか待ってない。最悪奴隷落ちだな」

「ん? それだとバカリエルは大丈夫なのか?」

「総団長は、総団長だからな。上の連中があの戦力を手放すとは思えない。ましてや今回はその総団長が負けたんだ。更なる高みへ上がれと命令して、強くするだろ。罷免して戦力を落とすようなことはねぇな。自分たちの首を絞めるようなもんだ。で、男どもは何人いるんだ? 力仕事には持ってこいだから、全員受け取りたい」

「……0人」

「……は?」

「全部女性……」

「……狙ったのか?」

「俺以外がな……」

 ケビンはそれから何故女性の捕虜しかいないのかを、タイラーへ懇々と説明をした。決して自分が望んだわけではなく、周りがそうしたのだと何度も強調しながら。

「あ、ああ……あんちゃんの苦労はわかった。わかったがうちじゃ引き取れねぇ。あんちゃんが面倒を見てやってくれ。奴隷落ちするよかマシだろ」

「はぁぁ……そうなるのか……」

 ケビンの企みはタイラーの言葉によって打ち砕かれてしまい、それと同時にケビンの心も打ち砕かれてしまった。そしてその後、タイラーとのやり取りを終えたケビンは、嫁たちが待つ携帯ハウスへと帰るのであった。
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