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第14章 聖戦

第456話 これって会談じゃないの? 世間話?

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 月日は流れようやく両軍が相見えることになった。思えばセレスティア皇国軍が自国を出発してから既に4ヶ月が経過し、暦は2月へと移り変わり益々寒さに厳しさが増している頃のことである。

 決戦の地はウカドホツィ辺境伯領の平原。奇しくも三国大戦時にウカドホツィ辺境伯が大敗を期した場所でもあった。今や帝国を治めているのは当時の皇帝ではなくケビンだったため、雪辱戦とはならずも少なからずこの戦いに対する意気込みは充分なほど滾っている。

 そして戦力はエレフセリア帝国軍1万5千に対し、セレスティア皇国軍2万とアリシテア王国軍5千という布陣となっている。エレフセリア帝国軍としてはまだまだ兵力を上乗せできるが、新兵もしくは戦争未経験者の教育という名の元に集められた兵士たちである。

 だが、全ての兵士をそれだけで編成すると瞬く間に瓦解してしまうので、十人長、百人長、千人長と所々で熟練の現場指揮官を設けて、それを更に指揮する司令官として3大侯爵という配置にしてある。

 更にケビンは平等に機会を設けるため貴族たちの参戦は指名ではなく自由参加とし、戦いに向かない貴族たちは後方支援としての参加枠を与えたりもしていた。

 そして今、戦いに向けて合戦準備をしていたところで、最初の出兵時期から空気を読まないセレスティア皇国軍からの使者が、エレフセリア帝国軍陣営へと現れる。

 その使者が言うには戦いを始める前に話し合いを行いたいので、代表者を出して場を設けたいとのことだった。そしてそれを受け付けたシカーソンが軍議用に設けた天幕までやってきて、ケビンや他の2人の侯爵へ説明をする。

「――とのことです」

「はぁぁ……ここへきてそれ? セレスティア皇国軍ってどこまで馬鹿なの? 死ぬの?」

「まぁ、ほとんどは陛下の手によって死ぬでしょうな」

「確かに。できれば兵たちの手柄のためにも、多少なりとも手加減をして欲しいものです」

 ケビンがシカーソンからの報告を聞いてほとほと呆れ果てていると、クリューゲントやユソンボウチーは当たり前のようにケビンのネタを肯定する。

「全く……カラフルな騎士団が来たかと思えば、殺し合いをする前に話し合いとは……もしかして、こちらのやる気を削ぐことが狙いなのか? そう考えるとダラダラと行軍して遅れてきたのも、俺たちを焦らして集中力を欠かせるためと思えば納得もできる……」

「確かにそう考えれば今までの行動も辻褄が合いますな」

「そういうことか……馬鹿なフリをして侮らせる作戦かもしれません」

「それを考えつくとは、向こうの参謀は相当頭のキレるやつなのでしょう」

 ケビンの立てた予測にユソンボウチーが同意し、クリューゲントが相手の狙いを予想したらシカーソンは相手の参謀を称えた。

 しかし、テーブルを囲って話し合っている4人は真実を知らない。セレスティア皇国軍がただ単に、冬の季節に起こる雪が降る中での行軍に不慣れなだけで、すったもんだしながら最終的には総団長の「あと少し」という精神論で頑張っていたことを。

「話し合いには警戒して臨まないといけないな」

「そうですな。侮っていては足元を掬われるやもしれません」

「相手の参謀にはくれぐれもご注意を」

「突拍子もないことを言ってきて、こちらのやる気を削ぐ可能性があります」

 こうしてケビンたちは勘違いをしたままセレスティア皇国軍が設ける話し合いの場というものに参加するため、自軍の使者をセレスティア皇国軍側に送り返事を届けさせるのだった。

 やがてセレスティア皇国軍に送った使者が戻り軍議用天幕にやって来ると、話し合いの場を設ける場所と日時を報告する。

「場所は両軍の中央、時間は12時です。向こうからの申し出であったため、場の天幕はセレスティア皇国軍が準備するとのことです」

「わかった。下がって休んでくれ」

「はっ!」

 使者役の兵士が天幕から退出したら、ケビンは侯爵たちに今後の指示を出した。

「とりあえず、全軍に休むよう指示。ただし、いつでも動ける状態で。話し合いの最中にでも昼飯を摂らせておいてくれ。食い過ぎで動けませんなんてことにならない程度にな」

 3人が了解の意を示すと天幕からそれぞれの指揮下にある兵の元へと行き、ケビンからの指示を遂行するのだった。

 それから約束の刻限が近づくとケビンはバイコーンのセロに乗って、両軍の中央に位置する天幕へと移動する。当然ながら天幕に配置されていたセレスティア皇国軍の兵士は、近づいてくるケビンの姿を見ておりその異様な光景を目の当たりにして、気づかぬうちに呟いていた。

「……ま……魔獣……」

 呆けている兵士を他所にケビンはセロから降りると、呆けたままの兵士へと声をかける。

「この子はギルドに従魔として登録しているから、何もしなければ大人しいけど逆に何かすれば暴れるからな? ということで、到着したことを中の人に伝えてくれ。勝手に入っていいならそうするけど」

 現実に戻された兵士が慌てて天幕の中に入ると、報告が終わったのかすぐさま出てきてケビンを中へ誘導した。

 天幕の中に入ったケビンは正面に座っている金ピカの者と、そこから左右交互に座っているカラフルな者たちを視界に捉える。言ってしまえば長机の短辺を正面として、長辺側に他の者たちが座っているような感じだ。

(あれ……何でいっぱい人がいるの? 代表者だよね? もしかして侯爵たちを連れてきた方が良かった感じか?)

 ケビンがそのような思考に耽っていると、真正面に座る金ピカの者が声を挙げる。

「貴方は見たところ冒険者のようですが……帝国の代表者なのですか?」

 今回はケビンとてTPOを弁えて村人服装ではなく、いつもは装備しないちゃんとした防具を身に纏っていたが、それがどうやら気になっていたようである。

「ええ、まあ……」

 ケビンの答え方に気を悪くしたのか、座っている青鎧の男性が声を挙げた。

「冒険者風情が総団長へ何たる口の利き方だ。不敬だぞ」

「落ち着けって。相手は仮にも帝国の代表者だぞ? そうなればお前の方が無礼だってわからないのか?」

「そうです。それに冒険者へ礼節を求めること自体が不毛だと知りなさい」

 黄鎧の男性が青鎧を窘めると、そこへ同意しつつも軽く毒づく茶鎧の女性が後に続いた。

「とりあえず、お互いに自己紹介をしましょう」

 金ピカ鎧の女性がそう言うと、お互いの自己紹介が始まる。そしてケビンは冒険者と思われたままで構わないと思い、サブカードを提示して自己紹介をする。

「へぇー貴方はSランクなのですか。どうでしょう、うちの騎士団に入りませんか? 貴方なら即戦力になります」

「お誘いの言葉はありがたいけど、自由な冒険者が性に合ってるので」

 ケビンは冒険者ゆえにタメ口でも問題ないとされていたので、話すのに楽なことからもそれを貫くことにしたのだった。そして自己紹介も終わり、ケビンも席につくと話し合いが行われようとしていた。

「貴方は雇われているのですよね? できれば引いていただきたいのですけど……私たちの目的は同じ人族ではなく、悪しき魔王を討伐することですので」

「え……でも帝国兵は人族だけど?」

「彼らは魔王を崇拝している悪しき者たちです。もしかしたら洗脳されているだけかもしれませんけど……敵に情けをかけては自軍の被害が広がりますので、ご了承していただくしかありません」

「皇帝も人族なんじゃないの?」

「魔王は時にその姿を変え、人族になりきることなど造作もないのです」

「へぇー魔王って凄いな」

「その悪しき魔王が民たちを虐げ、帝国を支配しているのです」

 ガブリエルが抱く妄信的なまでのフィリア教の教えと言うより、上層部の洗脳に近い形の発言を聞いたケビンは、『それなら何故過去の帝国に対して聖戦をしなかったのか?』という当たり前の疑問を抱く。

 だが、裏で金が動いていたことを考えるとフィリア教団からしてみれば、以前の帝国はお得意様であったのだと簡単に結論を導き出した。

 ただそれも前皇帝が即位するまでで、チューウェイトが目指していた大陸の支配という野望から鑑みれば、セレスティア皇国は不意打ちで滅ぼされていた可能性があることも、否定できない未来の1つであった。

「ですから、雇われの身である貴方には引いていただきたいのです」

「そう言われてもなぁ……」

「それに貴方では決して私には勝てませんよ?」

「ん? どうして?」

「私は冒険者で言うところの、単独達成である2Sランクの強さなのです」

「えっ、マジで!?」

 ケビンはよもやこんな場所で規格外の人間に出会えるとは思わずに、素直に驚いては感嘆としていた。その姿に気を良くしたのか、本人でもないのに周りの団長たちは何故かドヤ顔を披露している。

「それに団長たちは貴方と同じSランク相当です。その証拠に彼らの鎧は倒したドラゴンの素材を使用して、その色で部隊をわけているのです。各色騎士団としてパーティーを組んだ場合は2Sランク相当となります」

「あぁ、だからカラフルな騎士団なのか……団員分の素材を揃えるとなると、かなり頑張って倒したんじゃない?」

「そうですね。あまり素材を揃えられないので、ほとんどは微調整を加えたお下がりの着回しになってしまいます。教団の備品扱いなので当たり前といえば当たり前ですけど、それでも劣化は防げないので今もドラゴン討伐は続けられているのです」

「ドラゴン素材の装備は性能がいいから騎士団としては打ってつけなんだろうけど、それを維持していくのも大変だな」

「そうなんです。しかも滅多に目撃情報がない黒や白はそれだけでも希少価値が高く、見つけるのも苦労するのです」

「ん……? 黒の騎士団とか白の騎士団がいるの? ここにはいないみたいだけど」

「黒の騎士団はいませんが白の騎士団ホワイトナイツはありますよ。そもそも、今回の話し合いはその白の騎士団ホワイトナイツの合流が遅れていますので、開戦を引き伸ばしたく思ってのご相談だったのです」

「……は?」

 ガブリエルの告げた内容にケビンは呆気に取られてしまう。

(えっ……勝手に戦争を吹っかけておいて、仲間がまだ到着してないからってここにきて開戦を引き伸ばすのか? これがこいつらの作戦なのか? 焦らしプレイここに極まれりだな……参謀はやはり中々の策士か……自軍に戻ったら士気が落ちないように徹底させないとな)

 未だに勘違いを続けているケビンは相手の作戦に足元を掬われないよう、自軍に戻ってからの指示を早くも考えていた。相手がただ単に開戦前の時点で戦力を上げておきたいという、簡単な思考で行きついた結果だとは知らずに。

「どうでしょうか? 不躾なお願いだとは存じていますが」

「あ、ああ、わかった。将軍たちにも伝えておくけど、いつまで待てばいいんだ?」

「できれば1週間ほど……」

「1週間っ!?」

 さすがにそれはありえないだろうと思い至ったケビンだったが、ここで焦っては相手の思うつぼだと感じてしまい、努めて平静を保ちながら相手の術中にハマりこんでしまわないように注意する。

「す、すみません。その期間内に到着しましたら使者をお送りしてお知らせ致しますので、何卒よろしくお願いいたします!」

「はあ……」

 ガブリエルの必死感にケビンは気のない返事をしてしまうが、『この演技も作戦のうちなら相当厄介な相手だ』と、ケビンは改めて警戒心を高めていくのだった。

 そして、ケビンが了承したことによって話し合いの場は問題なく終わりを迎えて、ケビンは何とも言えない気持ちを抱えたまま自軍の野営地へ戻って行った。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ケビンが立ち去ったあとの天幕では。

「はぁぁ……緊張したぁ……」

 ガブリエルは話し合いが終わったことによって、テーブルへ伏して上体を伸ばしていた。

「まさか受け入れてもらえるとは思いませんでした」

 青鎧のヒューゴがそう口にすると、赤鎧のフィアンマがそれに続く。

「ってゆーかよ、あいつって本当に代表者なのか? どっからどう見てもただの冒険者じゃねぇか」

「それに強そうにも見えなかったわね~」

「大方Sランクなのも大人数で弱いドラゴンを仕留めたか、業績によって得たものでしょう」

 緑鎧のオフェリーがフィアンマの意見に同意していると、茶鎧のメリッサもそれに追随する。

「まぁアレだな、こっちに有利な条件を飲ませたんだから良しとしようぜ」

 黄鎧のタイラーが話をまとめると、ガブリエルはまだ到着していない白の騎士団ホワイトナイツのヘイスティングスのことを話題にする。

「女神フィリア様の布教活動も大事だけど、早く来てくれないと困るよー」

「あいつらって作戦行動時はいっつも布教活動だよな。ぜってぇ街で美味い酒でも飲んでるんだぜ」

「仕方がないよ~ドウェイン枢機卿猊下の命令なんだもの~布教活動は大事だよ~」

「どうせいつも通り奴隷でも買っているのでしょう。人族の奴隷を連れ帰って解放し、フィリア教の教えを説いて新たな人生を送らせるのですから」

 女性陣がヘイスティングスの動向を予想していると、男性陣はまた別のことで話し合っていた。

「それにしても帝国というのは、冒険者を雇って兵に加えているみたいですね」

「まぁ、雇う以上金は減るが、その分自兵の消耗を抑えられるからな」

「部隊訓練をしているわけでもないから、兵士たちとの連携など取れないでしょうに」

「そこはアレじゃねぇか? 冒険者たちだけで纏めておくとか」

「なるほど……連携が取れないなら取れる者同士で纏めておくということですね」

 男性たちの会話が気になったのかガブリエルがそれに混ざり、ケビンのことを再度話題にあげる。

「彼って戦場に出てくるよねー?」

「あの雰囲気だと出てくるでしょうね」

「逃げてくれるといいんだけどなぁ……」

「総団長はやつを殺したくないのかい?」

「悪い人には見えなかったし、雇われの身なら魔王から洗脳とか受けてないだろうから。自由な冒険者が好きってことは、たまたま帝国で活動している時に雇われたんじゃないかな?」

「まぁ、不用意に会談の場へ出てきたくなかった将軍たちから、役割を押しつけられたとも捉えられますね」

「いち冒険者に権限を与えるなんざ、向こうのお偉いさん方は太っ腹だな」

「それでも勝てると我々を下に見過ぎているのでしょう。まぁ、その代償は己の命で払っていただきますけど」

 それから団長たちはそれぞれの会話をしながら過ごした後に、自身の部下たちの元へと戻るのだった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 赤の騎士団レッドナイツの野営地では、夕食も終わりのんびりとした雰囲気が漂っていた。

「こんな寒い中で精が出るな」

 フィアンマが声をかけたのは、食後に黙々と1人で鍛錬を続けている女性だった。女性は素振りを止めるとフィアンマへ向き直り、言葉を返す。

「何かしていないと落ち着かないので。それに私はまだまだ弱い」

「弱いってことはねぇだろ。あたしがいなきゃ、お前が団長になれるくらいには強いと思うぜ」

「……それではダメなんです。団長がいなければということは、その団長にすら勝てないということですから」

「まぁ、目標を高く持つことはいいことだな。お前が何で強さを求めてるか知らねぇけど」

「……守りたい人がいるから……」

「ん? 今の強さだと守れないのか? そこら辺の兵士よかだいぶ強いぞ」

「肉体的な強さだけだと守れないから……もっと上の地位を目指さないと、ただの騎士だと守れないんです」

「……権力が相手か……」

 フィアンマはそう呟くと、いつもの男勝りなガサツな部分がなりを潜めて、真面目な雰囲気へと様変わりしたら女性へと話し始める。

「戦うなとは言わない。だが、それはただ強くなるよりもかなり厳しいぞ。お前の相手が誰だか知らないが、総団長の持つ権力でさえ上の連中に比べたら微々たるもんだ。騎士ってもんは国に仕えてなんぼだ。総団長に上り詰めてもその権力が幅を利かせるのは、下にいる騎士たちのみだと覚えておけ」

「……私は進むべき道を間違えているのでしょうか……」

「それは良くも悪くも結果が教えてくれる」

「それしか……ないですね……」

「今は肉体的な強さを求めればいい。進むべき道を変えるにしても聖戦で死なないことが大前提だ」

「やはり戦うのですね……帝国と……」

「何だ? 不満でもあるのか? これは聖戦だぞ。セレスティア皇国の騎士ならばその戦いに誇りを持て」

「不敬だとは思いますが、もし皇帝が姿を現したら団長は戦わないでください」

「なに……?」

 部下から戦うなと言われたフィアンマは、その物言いにピクリと眉を上げる。

「侮辱しようとは思っていません。団長のことはとても尊敬しています。ただ、相手が悪い……私の予想通りならば団長は殺されます」

「確かに魔王と1対1で戦おうと思うほど、あたしは自惚れていない。しかし、総団長や他の団長たちと一緒に戦えばいかに魔王とあれども倒せるだろ」

「……無理です」

 再び告げられる敗北の意図を含ませた言葉に対して、フィアンマはふつふつと怒りが込み上げてくる。

「冒険者を代表者として出すような相手に、栄えある神殿騎士団テンプルナイツである私たちが負けると言うのかっ!」

 フィアンマの怒鳴り声を聞いた女性はビクッと体を震わせるが、聞き捨てならない単語を聞いてしまい、フィアンマへ問いかけるのだった。

「……ぼ、冒険者と会ったのですか?!」

 女性がフィアンマの体を掴み、今までとは違う食いつきようにフィアンマがたじろいで毒気を抜かれてしまうと、普通に返答をしてしまう。

「あ、ああ。昼間の会談で帝国の代表者として冒険者が来たぞ」

「そんな……そ、その冒険者は名前を名乗りましたか?!」

「確か……ケンって言ってたような……ギルドカードを見せて身分証明をしたからな。Sランク冒険者だった」

「……ケン……? Sランク……?」

「いったいどうしたと言うんだ? 冒険者の話になってから明らかに様子がおかしいぞ」

 さっきまでの怒りはどこへやら、フィアンマは部下の変わりように心配する言葉をかけたが、女性は疑問を解決しようと更に質問を投げかけていく。

「……ギルドカードは偽造できませんよね?」

「ああ、無理だな」

「何枚も持つことは可能ですか?」

「ん? そんなことをして何の得がある? 無駄にギルドカードを増やすだけだろ。作れるか作れないかで言えば、2枚目以降も作れるがそんな奴は見たことないぞ」

「……2枚目以降も作れる……み、見た目はどうでした?! 代表者になるくらいだから、歳を召された熟練の冒険者だったのですか?!」

「見た目……? 見た目は普通だな。全然強そうに見えないし、あたしらと年齢も変わらないような若い男だったぞ」

「ああっ……そんな……」

「いったいどうした? もしかして知り合いなのか? それなら総団長に殺さないよう掛け合うこともできるぞ? 総団長も殺したくなさそうだったしな」

「……逆です。もし私の知り合いだとしたら、間違いなく我々は全員殺されます。こちらから殺さないでと頼まなければなりません」

「おいっ、それは聞き捨てならないぞ! 我々がたかが冒険者に対して頭を下げろと言うのかっ!」

 部下の物言いに再びフィアンマは怒りが込み上げてくる。

「それしか生き延びる手立てがありません。彼に手を出してタダで済んだ者は試合の相手だけです。戦争になったらその限りではありません」

「はっ、あの強そうにもないどこにでもいそうな冒険者がか?」

「彼は基本的に飾らない人ですから。立場に囚われず自由を信念に生きていましたから」

 女性はどこか遠い目をして当時を思い出すかのように懐かしむと、その言葉を口にするのだった。

「確かに団長が騎士団に誘った時も、自由な冒険者がいいと言って断ってたが……」

「お願いいたします! どうかその冒険者が私の知り合いであるのならば、絶対に戦いを挑まないでください! 私は団長の遺体を目にするなどしたくありません!」

「それはお前が決めることではない。お前の進むべき道があるように、私にも私の進むべき道がある。しかし、懸念材料として今の話は総団長へ持っていく。その冒険者への対応は総団長が決めることだろう」

 そう女性に告げたフィアンマは、総団長へ報告するためにその場を立ち去った。残された女性は寒い夜の中で空に輝く星空を眺めながら、その頬にキラリと光る雫を流すのであった。
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