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第14章 聖戦
第453話 妻の務め
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各国で戦争の準備が着々と進む中、ケビンはヴィクトールと連絡を取って戦地を何処にするか話し合っていた。
「セレスティアの補給線を伸ばすなら俺の国が1番なんだよね。勝手知ったるってやつで色々とできるし」
『だが、ケビンの国は山岳地帯が多いだろう。戦争をするような平原はあるのか? 万を超える軍が激突するのだぞ? 村や町の近くではできまい』
「うーん……いざとなったら山でも潰して平原を作ろうか?」
『地図の書き換えが面倒になるではないか。それに自然の要塞を捨てることになるぞ?』
「うちに攻めてくるようなバカはセレスティアだけでしょ。特に問題ないような……」
『んー……仕方がない。ウカドホツィ辺境伯に領地を借りよう。あそこには苦い思い出があるが、たとえ万だろうが軍をぶつけられるほどの平原がある』
「あぁぁ……懐かしね。【ウカドホツィの大敗戦】だったかな?」
『……妙なところで物覚えがいいな』
「そりゃあ、あれのせいでカイン兄さんと姉さんが捕虜になったしね」
『すまんな……我が国が弱かったばかりに……』
「それは言いっこなしだよ。チューウェイトの方が1枚上手だったってだけだし、もう過ぎたことでみんな幸せに暮らしてるんだから」
『仮に……仮にだぞ? もし、兄姉が手遅れになっていた時はどうしてた?』
ヴィクトールが唐突に仮定の話を切り出すと、今までペラペラ喋っていたケビンが沈黙して静かに時が流れていく。
『い、いや、今の話は忘れてくれ。さすがに無配慮だった。すまない』
あまりにもケビンからの応答がなく沈黙の時間だけが過ぎていくのに耐えられなかったのか、ヴィクトールが慌てて謝罪をするがケビンは当時のことを振り返っていた。
シーラが目の前で酷い目にあった時にキレてしまい力が溢れだしていた状況を思い出して、シーラの命が助かっていてその状態だったのでもし仮に死んでいたらと考えると、ソフィーリアが懸念していた闇堕ちになっていたであろうことは容易に想像できた。その上で仮の話をヴィクトールへと語っていく。
「……滅ぼしてた……帝国を跡形もなく消して滅ぼしてた。関係のない人たちも巻き添えにして。多分……ウカドホツィ辺境伯も殺してる。逃げて生き残った兵たちも皆殺し……もしかしたら抑えが効かなくて、その後も殺し回ってるかもしれない」
ケビンの語る仮の話を聞いたヴィクトールは生唾を飲み込む。ケビンの持つ力を考えると、容易にそれが達成されてしまうことをわかっているからだ。そしてその力に抗う術がないことも。
この時ほどヴィクトールはケビンの兄姉が手遅れにならず済んだことに、心の底から安堵する。
「まぁ、仮の話だしヴィクト義兄さんも思い詰めないでよ。今はそれよりセレスティアとどう遊ぶかが問題なんだから」
『……そうだな。拙いことを問いかけてしまったようだ。戦争が起こるというのに、いささか平和に順応しすぎたのやもしれん』
それから2人はある程度の話を詰めると通信を終わらせた。
ヴィクトールとのやり取りが終わったケビンは、執務室にあるイスの背もたれに体重を預けると天井を仰いで大きく息を吐く。
「……“もし”、か……」
ケビンは先程のやり取りの中の、もしも話を思い出しては感慨にふける。
――もし、あの時に間に合っていなかったら……
不毛な考えに頭を支配されるケビンだったが、かぶりを振ってその思考を頭の中から追い出した。
「所詮は“もし”だ……」
そのようなところへいつも通り書類を抱えたケイトが、ケビンへ仕事をさせるために執務室を訪れてきた。
「……何かあったの?」
「何も……」
ケビンの返答に溜息をついたケイトが書類を机の上に置くと、それを見たケビンもまた溜息をつく。
「全く……」
書類を置いたケイトはそのまま退室することなくソファへ座ると、ケビンに視線を向けて太ももをポンポンと叩く。
「いらっしゃい。貴方の好きなものよ」
それを見たケビンはやれやれとしながらもソファへ移動して、ケイトの膝枕を堪能し始めたら、ケイトが静かにケビンへ語りかける。
「ケビン、嫌なことがあったんでしょう?」
「いや、それはない」
「……それなら嫌なことが頭をよぎったの?」
「……何で?」
「伊達に貴方の妻をしているわけではないわ。私でなくとも今のケビンを見ればみんな気づくわよ。話しかけるかどうかは別としてね」
「そうか……ケイトはいい女だな」
「ふふっ、当たり前でしょう。世界一いい男の妻なのよ? いい女に決まっているじゃない」
「大した自信家だ」
「それくらいないと貴方と釣り合わないのよ。それで、何を考えてしまったの?」
「つまらないことだ」
「つまらなくてもいいわ。聞かせて?」
ケイトに促されたケビンは静かにもしも話のことを語って聞かせた。そしてケビンの語る間はケイトも静かに耳を傾けて、もしも話の終わりを待っていた。
やがてケビンが全て語り終えると、ケイトは暗い雰囲気を纏うでもなく溜息をついた。
「つまらないわね」
「だから言っただろ」
「つまらないのは話じゃなくてケビンのことよ。仮定の話なんていくらでも作れるわ。今私たちが生きているのはケビンが助けてくれたからでしょう? 仮定の自分より今の自分を見て。私たちを助けてくれた今の自分を見て」
ケイトが優しくケビンの頭を撫でながら言葉を紡いでいく。
「嫌なことなんていくらでも考えられる。私だってもし、あの時あの場所で貴方に出会えていなかったらって思うと、それだけで嫌になるわ。でも、今生きている私はこうして愛しい貴方と寄り添うことができる。それが事実でそれが全てよ」
一旦言葉を区切ったケイトはケビンへ座るように言うと、ケビンは促されるままソファに腰掛けて、その後にケイトが抱きしめた。
「ケビン……貴方は私に宝物をくれたの。家族を失った私に貴方や他の妻以外で新しい家族を作ってくれた。それが何かわかる?」
「……キャサリン」
「そうよ。正真正銘、ケビンと私の血を分けた本当の家族よ。貴方は強すぎるがゆえ命を奪いもするけれど、ちゃんと大切な人たちには宝物を贈っているの。あの小さかったキャサリンも、今は学園でお勉強でもして楽しく過ごしているわ。これも貴方がキャサリンにあげた贈り物よ」
ケイトが姿勢を変えてケビンの瞳を見つめると、優しく口づけをする。そしてゆっくりと顔を離したら、教え込むかのように言い聞かせる。
「ソフィ様も言っているでしょう? 貴方は貴方の思うように生きればいいの。自由に生きて貴方が微笑んでいるだけで、それが私たちの幸せに繋がるのよ。たまには暗い顔を見せてもいいけど、悲しみに呑み込まれてはダメ。わかった?」
「……敵わないな」
ケイトから優しく諭されたケビンはお礼の意味も込めて口づけをしたら、ケイトを優しく抱きしめる。
「愛してる」
「ふふっ、知っているわ。元気のない旦那様を元気づけるのは妻の務めよ。それと今日はもう執務をしなくていいわ」
「いいのか?」
「ええ、そのかわり……ね? わかるでしょう?」
「言うようになったな」
「ケビンが毎日相手をしてくれないからよ? 分身体が使えるのだから出し惜しみしないで欲しいわ。みんなそれを使って欲しくて夜な夜な待っているのよ?」
「あぁ、あれな……何だかいくら自分の分身体とは言っても、自分のいないところで俺の女を抱いていると思うと嫉妬してしまいそうでな、こう……悔しい気持ちになるんだよ」
「もうっ……変なところで子供なんだから。自分に嫉妬してどうするのよ。そもそもそれなら一緒にいても使ってないでしょ。使ってる時点でその言い訳は通用しないわよ」
「うっ……」
「わかったわね? 今日からみんなを抱くのよ? 1度に全員を相手にしろとまでは言わないけど、ちゃんと分身体を使いなさいよ? これは無闇矢鱈に嫁を増やした貴方の責務よ」
「…………わかりました」
ケイトの何とも言えない気迫という名の圧迫感に負けたケビンは、今晩から分身体を使って嫁巡りをさせることにしたのだった。そして、その決意とともにケイトを寝室へ拉致したら仕返しと言わんばかりに攻めあげ、気絶という名のプレゼントを渡して満足するのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
一方でケビンとの通信を終えたヴィクトールも、あからさまに落ち込んでは頭を抱えていた。
「はぁぁ……やってしまった……好奇心から義弟を傷つけるなど……」
どうにか気分を変えないと執務などやってられないと思ったヴィクトールは重い足取りで私室へと向かい、通りしなに出会った使用人へお茶を運ぶように指示を出すとそのまま歩き続ける。
やがて私室に辿りついたヴィクトールがイスに座ったら、あまり時間を置かずして使用人がお茶を用意してきた。使用人がお茶を置いて立ち去るのを確認したら、ヴィクトールは1口飲んで盛大な溜息をつく。
「いかんな……少し気分転換に【ケビンの冒険譚】を読もう」
憂鬱な気分を晴らすためにヴィクトールがとった行動は、自筆の作品である【ケビンの冒険譚】を読むことだった。この物語は本人の許可をもらって執筆しているもので、ヴィクトールの密かに楽しんでいる趣味でもあった。
執筆していること自体は当時居合わせていたマリアンヌや許容したケビンの知るところだが、その後に妻にしたローラは知らないことだった。
そして何より、物語の中身を知っているのはヴィクトールだけである。本人は専門家でもないのに執筆した物語を、他の誰かに読ませるといった行動に出るほど肝が据わっているわけでもないからだ。
ヴィクトールは私室のドアへ近づき少し開けると、そのまま通路へ顔を出し左右をキョロキョロとしては誰も近くにいないことを確認する。
それから静かにドアを閉めたら、いそいそと執筆した紙の束の隠し場所へと移動する。そしてコソコソとそれを取り出したら王にあるまじき行為でその場に座り込み、紙の束を手に取って読み始めるのだった。
「ふむ……やはり今に比べて当時の文章は雑だな。書き直すべきか……いや、これはこれで当時を振り返れて味があるか……」
今に比べると当時の拙い文章に笑みをこぼしながら、ヴィクトールはゆっくりと読みふけっていく。そしていつしか時が経つのも忘れてしまい、テーブルの上にある忘れられたお茶が冷めてしまうのとは対照的に、ヴィクトールは熱くなり読み込んでいた。
やがてそのようなヴィクトールの元へ訪ねてきた者がいる。ドアを叩く音にビクッと反応したヴィクトールが現実に戻されると、慌てて紙束を箱の中に入れたら元の隠し場所へスっと移動させて平静を装う。
そしてテーブルへいそいそと向かい座り直したら、訪れた者に対して入室を許可した。
「何かしていらしたのですか?」
「いや、少し考えに没頭してしまってな、考えが纏まりそうなところだったので対応が遅れてしまった」
いけしゃあしゃあと答えていくヴィクトールに対してローラは視線をチラッとある部分に向けるが、ヴィクトールがそれに気づくことはなかった。そしてそのままローラがヴィクトールへ近づくと言葉を口にする。
「もしや戦のことでしょうか?」
「ん……? う、うむ、その通りだ。戦と言ってもケビンと戯れる遊びではあるがな」
何も考えていなかったヴィクトールの反応が遅れてしまうが、ローラは気にせずヴィクトールの後ろに回り込むと、両手を回してそのまま抱きしめた。
「ど、どうしたのだ? ローラ」
不審に思ったヴィクトールがローラへ問いかけると、ローラはヴィクトールの耳に顔を近づけてボソッと呟く。
「殿方がエッチな本を隠す時、決まって1番最初に隠すのはベッドの下だと言われております」
「にゃ、にゃんのことだ??」
あからさまに挙動不審となって噛んでしまったヴィクトールへ、ローラが更に畳み掛ける。
「ご覧になって。ベッドのシーツが少しめくれているでしょう? あれをめくったらベッドの下からいったい何が出てくるのでしょうね?」
「あ、あれは使用人がまだベッドメイクをしていないからだろう」
「悲しいですわ。私に言ってくださればこの身でどのような形でもお相手を致しますのに、エッチな本の方があなたの気を引いているなんて」
「それはないぞ。ローラは素晴らしい妻だ」
「であれば、あそこの下を確認してもよろしいですわね?」
「しょ、しょれは……」
益々追い詰められてしまったヴィクトールが冷や汗をダラダラと流していると、ふっと笑ったローラが楽しそうに口を開く。
「冗談ですよ」
「な、なんだ……冗談か……びっくりしたではないか」
「ええ、冗談です。エッチな本に関しては。隠しているのは別の本ですものね?」
「ふぁっ?!」
ローラから別の物を隠していると指摘されたヴィクトールは、口から心臓が飛び出しそうなほど驚いてしまい、言葉にならない言葉を発してしまっていた。
「私はとても良い作品だと思います。バージルもお気に入りなんですよ?」
「ビャ、バージル?!」
ここにはいないバージルの名があがり、ヴィクトールは益々混乱していく。
「あなたと結婚した時にコソッとベッドの下を確認しましたの。殿方の夜の嗜好を紐解くには、ベッドの下を探るのが1番だと教育されておりましたので」
(な、なんだってぇぇぇぇ! 誰だっ、ローラに余計なことを教育したのはっ!)
「ふふっ、男性の方の教育はわかりませんが、女性は閨の教育を受けるんですのよ? いざ結婚した時に閨での手練手管が拙ければ相手にされなくなってしまい、お世継ぎを身篭ることも困難ですから。仮にお相手の方が初めての時は、それなりのリードができるようになるのも必須事項なんです」
貴族子女のちょっとした暴露話をするローラの話に、ヴィクトールはふと初めて寝所を共にした時のことを思い出していた。ヴィクトールとしても夜の営みの知識は所有していたので手こずることはなかったのだが、ローラが初めてにしては気持ちよさげな声を出していたような気がして勘ぐってしまった。
(え……演技……?)
「演技ではないですよ。あなたに優しく愛してもらって、その気持ちが愛おしくなり気持ちよかったから声が出たのです」
「んなっ!?」
「あなたは隠すのが苦手なんですよ。そのくらいわかります」
ローラの手練手管にガックリと肩を落としたヴィクトールは、暴露話のインパクトがありすぎて肝心なことを忘れてしまっていたのだが、ローラの言葉で再び思い出す。
「ということで話は逸れてしまいましたが、ベッドの下の隠し物については知っていますよ」
「ッ!」
「何かあったのでしょう? あなたがアレを取り出す時は、完全に人気のない時間帯を選びますから」
まさか秘密の箱を取り出す時間帯まで見抜かれていたヴィクトールは、ローラの手腕にとうとう白旗を上げて今日の出来事を語り出した。そしてそれを聞いたローラはヴィクトールを抱く力を強めると、そっと言葉を口にする。
「きっとケビン君は大丈夫です。ケビン君の周りには素敵な女性がたくさんいますもの。きっとこうやってあなたと同じように奥様から癒されていますよ」
「そうだといいな……」
「きっとそうです。そして、また元気になって連絡をくれます」
「うむ、そうだな。その時に私が落ち込んだままでは、連絡をくれたケビンに悪いな」
「はい。ですから、その時がすぐ来てもいいようにもっと元気になりましょう?」
ローラはヴィクトールを抱きしめていた両手を離すと、ヴィクトールの手を引いてベッドへ誘導する。
「ローラ?」
「殿方が元気になる方法は女を抱くのが1番です」
「それも教育の一端か?」
「ええ、貴族子女の教育を舐めてはダメですよ。さぁ、早く2人目を作りましょう? ミナーヴァの王妃様は1人で4人も産んでいらっしゃるのですよ? 私の方がまだまだ若いのに負けていられません」
こうしてヴィクトールはローラの手練手管に襲われて癒されると同時に、軽く最低でも4人は子作りすることを宣言されたのだった。
そして満足したローラが落ち着きを取り戻すと、逆に搾り取られて疲れ果てていたヴィクトールはふと思い出したことを尋ねた。
「ローラ、バージルに私の作品を見せたのか?」
「見せたと言うよりも読み聞かせたと言う方が正しいですね。あなたと同じで完全に人が来ない時に、こっそり取り出しては読み聞かせていたのです。どの本の物語よりも大人しくしていてくれるし、寝つきも良いのですよ? だからバージルのお気に入りと言ったのです」
「はぁぁ……まさか私の作品が読み聞かせに使われているとは……」
「これからも2人目、3人目とどんどん子供ができる度に使わせてもらいますね。もちろん、あなたが作品を作っている時はお邪魔致しません。芸術家は1人でいる時の方が集中力が増すと人づてに聞いておりますから」
「……敵わないな」
奇しくもヴィクトールはケビンと同じく妻の偉大さを知り、頭の下がる思いでその言葉を聞いていた。
「ですから……」
ヴィクトールが感心していたのも束の間、ローラがもそもそ動き出すとヴィクトールへ再度襲いかかる。
「ロ、ローラ?!」
「子供の話をしたら、またしたくなりました。私が動きますからあなたはそのままでいいですよ。気持ちよくなって頭を1度空っぽにしましょう。そしたら良い文章が思い浮かぶかも知れません」
「あ……ああぁぁぁぁっ――!」
この日のヴィクトールが私室から出てくることは2度となかった。それは一緒にいるローラも同じで、食事を部屋へ運ばせたり、お風呂は桶に湯を入れたものを持ってこさせたりと、如何にこの部屋から出ずにヴィクトールと共に過ごせるのか思考を巡らせた結果だった。
そして、王子のバージルは使用人から王と王妃は2人の時間を過ごしていると聞かされて、聞き分けの良い子供に育っていたようで来年の受験勉強を家庭教師と共に頑張るのだった。
「ロ、ローラ……も、もう……」
「ダメ……まだまだ夜はこれからですよ。それにこんなこともあろうかと、ケビン君から密かに貰っておいた物があるんです」
ローラがゴソゴソとベッドの下から取り出した物は、いつしかケビンが城下の都民にあげた【賢者タイム】であった。
「ベ、ベッドの下にそんな物が……」
「ふふっ、灯台もと暗しと言うそうです。まさかあなたの隠し場所に、私も同じく隠し物をしているとは思わなかったでしょう? さぁ、口移しで飲みましょうね。滋養強壮の効果があるみたいです」
そしてローラは口移しでヴィクトールへと【賢者タイム】を飲ませる時に、口移しである以上自身も多少なりとも飲んでしまうが、ケビンから滋養強壮と聞かされているので全く気にも止めなかった。
こうしてヴィクトールとローラの地獄が幕を開ける。ヴィクトールは治まることのない性欲をローラへぶつけ、ローラもまた治まることのない性欲をヴィクトールへとぶつけた。
しかし、ほとんどの量を飲んだヴィクトールに比べローラが飲んだのは少量であり、ローラの方が先に薬の効果が切れてダウンしてしまうが、タガの外れたヴィクトールはそれでもローラを攻め立てていく。
奇しくもそれは【賢者タイム】を飲む前の逆であり、ローラはヴィクトールが受けていた快楽という名の責め苦を、ヴィクトールが満足するまでその身で受け続けるのだった。
「あ……あなた……も、もう……」
「ダメだ……朝までまだまだ時間があるだろ? それに子供をたくさん作るためには回数をこなさないとな」
「子供を作るなら……回数よりも日にちをこなさないと……安全日にはどれだけ出しても、あまり効果は望めません……」
「それなら毎日この薬を飲んで朝まで楽しもう。副作用はないのだろう? 子供をいっぱい作りたいローラには持ってこいの品だな」
「そ……そんな……」
ローラは毎日この責め苦を受けるのかと思うと戦慄してしまうが、薬の効果が多少残っているのか、その快楽を想像してしまい恍惚とした表情を浮かべる。
こうしてヴィクトールはローラから攻められていた分を取り返して、更にはその上を行く回数をこなしながら、やがて朝を迎えても中々やめることはできず気絶しているローラを攻め立てて、覚醒と気絶を繰り返させていたのであった。
「セレスティアの補給線を伸ばすなら俺の国が1番なんだよね。勝手知ったるってやつで色々とできるし」
『だが、ケビンの国は山岳地帯が多いだろう。戦争をするような平原はあるのか? 万を超える軍が激突するのだぞ? 村や町の近くではできまい』
「うーん……いざとなったら山でも潰して平原を作ろうか?」
『地図の書き換えが面倒になるではないか。それに自然の要塞を捨てることになるぞ?』
「うちに攻めてくるようなバカはセレスティアだけでしょ。特に問題ないような……」
『んー……仕方がない。ウカドホツィ辺境伯に領地を借りよう。あそこには苦い思い出があるが、たとえ万だろうが軍をぶつけられるほどの平原がある』
「あぁぁ……懐かしね。【ウカドホツィの大敗戦】だったかな?」
『……妙なところで物覚えがいいな』
「そりゃあ、あれのせいでカイン兄さんと姉さんが捕虜になったしね」
『すまんな……我が国が弱かったばかりに……』
「それは言いっこなしだよ。チューウェイトの方が1枚上手だったってだけだし、もう過ぎたことでみんな幸せに暮らしてるんだから」
『仮に……仮にだぞ? もし、兄姉が手遅れになっていた時はどうしてた?』
ヴィクトールが唐突に仮定の話を切り出すと、今までペラペラ喋っていたケビンが沈黙して静かに時が流れていく。
『い、いや、今の話は忘れてくれ。さすがに無配慮だった。すまない』
あまりにもケビンからの応答がなく沈黙の時間だけが過ぎていくのに耐えられなかったのか、ヴィクトールが慌てて謝罪をするがケビンは当時のことを振り返っていた。
シーラが目の前で酷い目にあった時にキレてしまい力が溢れだしていた状況を思い出して、シーラの命が助かっていてその状態だったのでもし仮に死んでいたらと考えると、ソフィーリアが懸念していた闇堕ちになっていたであろうことは容易に想像できた。その上で仮の話をヴィクトールへと語っていく。
「……滅ぼしてた……帝国を跡形もなく消して滅ぼしてた。関係のない人たちも巻き添えにして。多分……ウカドホツィ辺境伯も殺してる。逃げて生き残った兵たちも皆殺し……もしかしたら抑えが効かなくて、その後も殺し回ってるかもしれない」
ケビンの語る仮の話を聞いたヴィクトールは生唾を飲み込む。ケビンの持つ力を考えると、容易にそれが達成されてしまうことをわかっているからだ。そしてその力に抗う術がないことも。
この時ほどヴィクトールはケビンの兄姉が手遅れにならず済んだことに、心の底から安堵する。
「まぁ、仮の話だしヴィクト義兄さんも思い詰めないでよ。今はそれよりセレスティアとどう遊ぶかが問題なんだから」
『……そうだな。拙いことを問いかけてしまったようだ。戦争が起こるというのに、いささか平和に順応しすぎたのやもしれん』
それから2人はある程度の話を詰めると通信を終わらせた。
ヴィクトールとのやり取りが終わったケビンは、執務室にあるイスの背もたれに体重を預けると天井を仰いで大きく息を吐く。
「……“もし”、か……」
ケビンは先程のやり取りの中の、もしも話を思い出しては感慨にふける。
――もし、あの時に間に合っていなかったら……
不毛な考えに頭を支配されるケビンだったが、かぶりを振ってその思考を頭の中から追い出した。
「所詮は“もし”だ……」
そのようなところへいつも通り書類を抱えたケイトが、ケビンへ仕事をさせるために執務室を訪れてきた。
「……何かあったの?」
「何も……」
ケビンの返答に溜息をついたケイトが書類を机の上に置くと、それを見たケビンもまた溜息をつく。
「全く……」
書類を置いたケイトはそのまま退室することなくソファへ座ると、ケビンに視線を向けて太ももをポンポンと叩く。
「いらっしゃい。貴方の好きなものよ」
それを見たケビンはやれやれとしながらもソファへ移動して、ケイトの膝枕を堪能し始めたら、ケイトが静かにケビンへ語りかける。
「ケビン、嫌なことがあったんでしょう?」
「いや、それはない」
「……それなら嫌なことが頭をよぎったの?」
「……何で?」
「伊達に貴方の妻をしているわけではないわ。私でなくとも今のケビンを見ればみんな気づくわよ。話しかけるかどうかは別としてね」
「そうか……ケイトはいい女だな」
「ふふっ、当たり前でしょう。世界一いい男の妻なのよ? いい女に決まっているじゃない」
「大した自信家だ」
「それくらいないと貴方と釣り合わないのよ。それで、何を考えてしまったの?」
「つまらないことだ」
「つまらなくてもいいわ。聞かせて?」
ケイトに促されたケビンは静かにもしも話のことを語って聞かせた。そしてケビンの語る間はケイトも静かに耳を傾けて、もしも話の終わりを待っていた。
やがてケビンが全て語り終えると、ケイトは暗い雰囲気を纏うでもなく溜息をついた。
「つまらないわね」
「だから言っただろ」
「つまらないのは話じゃなくてケビンのことよ。仮定の話なんていくらでも作れるわ。今私たちが生きているのはケビンが助けてくれたからでしょう? 仮定の自分より今の自分を見て。私たちを助けてくれた今の自分を見て」
ケイトが優しくケビンの頭を撫でながら言葉を紡いでいく。
「嫌なことなんていくらでも考えられる。私だってもし、あの時あの場所で貴方に出会えていなかったらって思うと、それだけで嫌になるわ。でも、今生きている私はこうして愛しい貴方と寄り添うことができる。それが事実でそれが全てよ」
一旦言葉を区切ったケイトはケビンへ座るように言うと、ケビンは促されるままソファに腰掛けて、その後にケイトが抱きしめた。
「ケビン……貴方は私に宝物をくれたの。家族を失った私に貴方や他の妻以外で新しい家族を作ってくれた。それが何かわかる?」
「……キャサリン」
「そうよ。正真正銘、ケビンと私の血を分けた本当の家族よ。貴方は強すぎるがゆえ命を奪いもするけれど、ちゃんと大切な人たちには宝物を贈っているの。あの小さかったキャサリンも、今は学園でお勉強でもして楽しく過ごしているわ。これも貴方がキャサリンにあげた贈り物よ」
ケイトが姿勢を変えてケビンの瞳を見つめると、優しく口づけをする。そしてゆっくりと顔を離したら、教え込むかのように言い聞かせる。
「ソフィ様も言っているでしょう? 貴方は貴方の思うように生きればいいの。自由に生きて貴方が微笑んでいるだけで、それが私たちの幸せに繋がるのよ。たまには暗い顔を見せてもいいけど、悲しみに呑み込まれてはダメ。わかった?」
「……敵わないな」
ケイトから優しく諭されたケビンはお礼の意味も込めて口づけをしたら、ケイトを優しく抱きしめる。
「愛してる」
「ふふっ、知っているわ。元気のない旦那様を元気づけるのは妻の務めよ。それと今日はもう執務をしなくていいわ」
「いいのか?」
「ええ、そのかわり……ね? わかるでしょう?」
「言うようになったな」
「ケビンが毎日相手をしてくれないからよ? 分身体が使えるのだから出し惜しみしないで欲しいわ。みんなそれを使って欲しくて夜な夜な待っているのよ?」
「あぁ、あれな……何だかいくら自分の分身体とは言っても、自分のいないところで俺の女を抱いていると思うと嫉妬してしまいそうでな、こう……悔しい気持ちになるんだよ」
「もうっ……変なところで子供なんだから。自分に嫉妬してどうするのよ。そもそもそれなら一緒にいても使ってないでしょ。使ってる時点でその言い訳は通用しないわよ」
「うっ……」
「わかったわね? 今日からみんなを抱くのよ? 1度に全員を相手にしろとまでは言わないけど、ちゃんと分身体を使いなさいよ? これは無闇矢鱈に嫁を増やした貴方の責務よ」
「…………わかりました」
ケイトの何とも言えない気迫という名の圧迫感に負けたケビンは、今晩から分身体を使って嫁巡りをさせることにしたのだった。そして、その決意とともにケイトを寝室へ拉致したら仕返しと言わんばかりに攻めあげ、気絶という名のプレゼントを渡して満足するのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
一方でケビンとの通信を終えたヴィクトールも、あからさまに落ち込んでは頭を抱えていた。
「はぁぁ……やってしまった……好奇心から義弟を傷つけるなど……」
どうにか気分を変えないと執務などやってられないと思ったヴィクトールは重い足取りで私室へと向かい、通りしなに出会った使用人へお茶を運ぶように指示を出すとそのまま歩き続ける。
やがて私室に辿りついたヴィクトールがイスに座ったら、あまり時間を置かずして使用人がお茶を用意してきた。使用人がお茶を置いて立ち去るのを確認したら、ヴィクトールは1口飲んで盛大な溜息をつく。
「いかんな……少し気分転換に【ケビンの冒険譚】を読もう」
憂鬱な気分を晴らすためにヴィクトールがとった行動は、自筆の作品である【ケビンの冒険譚】を読むことだった。この物語は本人の許可をもらって執筆しているもので、ヴィクトールの密かに楽しんでいる趣味でもあった。
執筆していること自体は当時居合わせていたマリアンヌや許容したケビンの知るところだが、その後に妻にしたローラは知らないことだった。
そして何より、物語の中身を知っているのはヴィクトールだけである。本人は専門家でもないのに執筆した物語を、他の誰かに読ませるといった行動に出るほど肝が据わっているわけでもないからだ。
ヴィクトールは私室のドアへ近づき少し開けると、そのまま通路へ顔を出し左右をキョロキョロとしては誰も近くにいないことを確認する。
それから静かにドアを閉めたら、いそいそと執筆した紙の束の隠し場所へと移動する。そしてコソコソとそれを取り出したら王にあるまじき行為でその場に座り込み、紙の束を手に取って読み始めるのだった。
「ふむ……やはり今に比べて当時の文章は雑だな。書き直すべきか……いや、これはこれで当時を振り返れて味があるか……」
今に比べると当時の拙い文章に笑みをこぼしながら、ヴィクトールはゆっくりと読みふけっていく。そしていつしか時が経つのも忘れてしまい、テーブルの上にある忘れられたお茶が冷めてしまうのとは対照的に、ヴィクトールは熱くなり読み込んでいた。
やがてそのようなヴィクトールの元へ訪ねてきた者がいる。ドアを叩く音にビクッと反応したヴィクトールが現実に戻されると、慌てて紙束を箱の中に入れたら元の隠し場所へスっと移動させて平静を装う。
そしてテーブルへいそいそと向かい座り直したら、訪れた者に対して入室を許可した。
「何かしていらしたのですか?」
「いや、少し考えに没頭してしまってな、考えが纏まりそうなところだったので対応が遅れてしまった」
いけしゃあしゃあと答えていくヴィクトールに対してローラは視線をチラッとある部分に向けるが、ヴィクトールがそれに気づくことはなかった。そしてそのままローラがヴィクトールへ近づくと言葉を口にする。
「もしや戦のことでしょうか?」
「ん……? う、うむ、その通りだ。戦と言ってもケビンと戯れる遊びではあるがな」
何も考えていなかったヴィクトールの反応が遅れてしまうが、ローラは気にせずヴィクトールの後ろに回り込むと、両手を回してそのまま抱きしめた。
「ど、どうしたのだ? ローラ」
不審に思ったヴィクトールがローラへ問いかけると、ローラはヴィクトールの耳に顔を近づけてボソッと呟く。
「殿方がエッチな本を隠す時、決まって1番最初に隠すのはベッドの下だと言われております」
「にゃ、にゃんのことだ??」
あからさまに挙動不審となって噛んでしまったヴィクトールへ、ローラが更に畳み掛ける。
「ご覧になって。ベッドのシーツが少しめくれているでしょう? あれをめくったらベッドの下からいったい何が出てくるのでしょうね?」
「あ、あれは使用人がまだベッドメイクをしていないからだろう」
「悲しいですわ。私に言ってくださればこの身でどのような形でもお相手を致しますのに、エッチな本の方があなたの気を引いているなんて」
「それはないぞ。ローラは素晴らしい妻だ」
「であれば、あそこの下を確認してもよろしいですわね?」
「しょ、しょれは……」
益々追い詰められてしまったヴィクトールが冷や汗をダラダラと流していると、ふっと笑ったローラが楽しそうに口を開く。
「冗談ですよ」
「な、なんだ……冗談か……びっくりしたではないか」
「ええ、冗談です。エッチな本に関しては。隠しているのは別の本ですものね?」
「ふぁっ?!」
ローラから別の物を隠していると指摘されたヴィクトールは、口から心臓が飛び出しそうなほど驚いてしまい、言葉にならない言葉を発してしまっていた。
「私はとても良い作品だと思います。バージルもお気に入りなんですよ?」
「ビャ、バージル?!」
ここにはいないバージルの名があがり、ヴィクトールは益々混乱していく。
「あなたと結婚した時にコソッとベッドの下を確認しましたの。殿方の夜の嗜好を紐解くには、ベッドの下を探るのが1番だと教育されておりましたので」
(な、なんだってぇぇぇぇ! 誰だっ、ローラに余計なことを教育したのはっ!)
「ふふっ、男性の方の教育はわかりませんが、女性は閨の教育を受けるんですのよ? いざ結婚した時に閨での手練手管が拙ければ相手にされなくなってしまい、お世継ぎを身篭ることも困難ですから。仮にお相手の方が初めての時は、それなりのリードができるようになるのも必須事項なんです」
貴族子女のちょっとした暴露話をするローラの話に、ヴィクトールはふと初めて寝所を共にした時のことを思い出していた。ヴィクトールとしても夜の営みの知識は所有していたので手こずることはなかったのだが、ローラが初めてにしては気持ちよさげな声を出していたような気がして勘ぐってしまった。
(え……演技……?)
「演技ではないですよ。あなたに優しく愛してもらって、その気持ちが愛おしくなり気持ちよかったから声が出たのです」
「んなっ!?」
「あなたは隠すのが苦手なんですよ。そのくらいわかります」
ローラの手練手管にガックリと肩を落としたヴィクトールは、暴露話のインパクトがありすぎて肝心なことを忘れてしまっていたのだが、ローラの言葉で再び思い出す。
「ということで話は逸れてしまいましたが、ベッドの下の隠し物については知っていますよ」
「ッ!」
「何かあったのでしょう? あなたがアレを取り出す時は、完全に人気のない時間帯を選びますから」
まさか秘密の箱を取り出す時間帯まで見抜かれていたヴィクトールは、ローラの手腕にとうとう白旗を上げて今日の出来事を語り出した。そしてそれを聞いたローラはヴィクトールを抱く力を強めると、そっと言葉を口にする。
「きっとケビン君は大丈夫です。ケビン君の周りには素敵な女性がたくさんいますもの。きっとこうやってあなたと同じように奥様から癒されていますよ」
「そうだといいな……」
「きっとそうです。そして、また元気になって連絡をくれます」
「うむ、そうだな。その時に私が落ち込んだままでは、連絡をくれたケビンに悪いな」
「はい。ですから、その時がすぐ来てもいいようにもっと元気になりましょう?」
ローラはヴィクトールを抱きしめていた両手を離すと、ヴィクトールの手を引いてベッドへ誘導する。
「ローラ?」
「殿方が元気になる方法は女を抱くのが1番です」
「それも教育の一端か?」
「ええ、貴族子女の教育を舐めてはダメですよ。さぁ、早く2人目を作りましょう? ミナーヴァの王妃様は1人で4人も産んでいらっしゃるのですよ? 私の方がまだまだ若いのに負けていられません」
こうしてヴィクトールはローラの手練手管に襲われて癒されると同時に、軽く最低でも4人は子作りすることを宣言されたのだった。
そして満足したローラが落ち着きを取り戻すと、逆に搾り取られて疲れ果てていたヴィクトールはふと思い出したことを尋ねた。
「ローラ、バージルに私の作品を見せたのか?」
「見せたと言うよりも読み聞かせたと言う方が正しいですね。あなたと同じで完全に人が来ない時に、こっそり取り出しては読み聞かせていたのです。どの本の物語よりも大人しくしていてくれるし、寝つきも良いのですよ? だからバージルのお気に入りと言ったのです」
「はぁぁ……まさか私の作品が読み聞かせに使われているとは……」
「これからも2人目、3人目とどんどん子供ができる度に使わせてもらいますね。もちろん、あなたが作品を作っている時はお邪魔致しません。芸術家は1人でいる時の方が集中力が増すと人づてに聞いておりますから」
「……敵わないな」
奇しくもヴィクトールはケビンと同じく妻の偉大さを知り、頭の下がる思いでその言葉を聞いていた。
「ですから……」
ヴィクトールが感心していたのも束の間、ローラがもそもそ動き出すとヴィクトールへ再度襲いかかる。
「ロ、ローラ?!」
「子供の話をしたら、またしたくなりました。私が動きますからあなたはそのままでいいですよ。気持ちよくなって頭を1度空っぽにしましょう。そしたら良い文章が思い浮かぶかも知れません」
「あ……ああぁぁぁぁっ――!」
この日のヴィクトールが私室から出てくることは2度となかった。それは一緒にいるローラも同じで、食事を部屋へ運ばせたり、お風呂は桶に湯を入れたものを持ってこさせたりと、如何にこの部屋から出ずにヴィクトールと共に過ごせるのか思考を巡らせた結果だった。
そして、王子のバージルは使用人から王と王妃は2人の時間を過ごしていると聞かされて、聞き分けの良い子供に育っていたようで来年の受験勉強を家庭教師と共に頑張るのだった。
「ロ、ローラ……も、もう……」
「ダメ……まだまだ夜はこれからですよ。それにこんなこともあろうかと、ケビン君から密かに貰っておいた物があるんです」
ローラがゴソゴソとベッドの下から取り出した物は、いつしかケビンが城下の都民にあげた【賢者タイム】であった。
「ベ、ベッドの下にそんな物が……」
「ふふっ、灯台もと暗しと言うそうです。まさかあなたの隠し場所に、私も同じく隠し物をしているとは思わなかったでしょう? さぁ、口移しで飲みましょうね。滋養強壮の効果があるみたいです」
そしてローラは口移しでヴィクトールへと【賢者タイム】を飲ませる時に、口移しである以上自身も多少なりとも飲んでしまうが、ケビンから滋養強壮と聞かされているので全く気にも止めなかった。
こうしてヴィクトールとローラの地獄が幕を開ける。ヴィクトールは治まることのない性欲をローラへぶつけ、ローラもまた治まることのない性欲をヴィクトールへとぶつけた。
しかし、ほとんどの量を飲んだヴィクトールに比べローラが飲んだのは少量であり、ローラの方が先に薬の効果が切れてダウンしてしまうが、タガの外れたヴィクトールはそれでもローラを攻め立てていく。
奇しくもそれは【賢者タイム】を飲む前の逆であり、ローラはヴィクトールが受けていた快楽という名の責め苦を、ヴィクトールが満足するまでその身で受け続けるのだった。
「あ……あなた……も、もう……」
「ダメだ……朝までまだまだ時間があるだろ? それに子供をたくさん作るためには回数をこなさないとな」
「子供を作るなら……回数よりも日にちをこなさないと……安全日にはどれだけ出しても、あまり効果は望めません……」
「それなら毎日この薬を飲んで朝まで楽しもう。副作用はないのだろう? 子供をいっぱい作りたいローラには持ってこいの品だな」
「そ……そんな……」
ローラは毎日この責め苦を受けるのかと思うと戦慄してしまうが、薬の効果が多少残っているのか、その快楽を想像してしまい恍惚とした表情を浮かべる。
こうしてヴィクトールはローラから攻められていた分を取り返して、更にはその上を行く回数をこなしながら、やがて朝を迎えても中々やめることはできず気絶しているローラを攻め立てて、覚醒と気絶を繰り返させていたのであった。
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