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第13章 出会いと別れ
第446話 ギースの旅立ち
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ギースがラブラブ生活を始めるための引き継ぎ作業が終わって完全にフリーになると、サラと2人で動けるうちに旅行へ行くという計画をギースが立てる。
普通ならば護衛の1人でもとなるのが通常の習わしでもあるが、何せ一緒に同行するのが冒険者休業中のXランクのサラであるため、護衛がいては逆に足手まといになるしかないので旅行は2人きりでとなる。
そして先ず最初に向かったのは保養地タミアの温泉であった。ここでのんびりと2人きりで過ごすために家族風呂付きの高級宿へ宿泊する。
サラは冒険者時代にタミアを利用したことはあるが、ギースは初めてなので少しテンションが上がってウキウキ気分であった。
「サラ、早速温泉に入ろう!」
「ふふっ、ここの温泉は疲れを取る効果があるのよ。あとは筋肉痛だったり腰痛だったりと色々な効果があるわ」
家族風呂ということで誰に気兼ねをする必要もなく、部屋で裸になった2人は早速お風呂を堪能する。
「ふはぁ~……体に染み入るな……」
「あなたとお風呂に入るなんて初めてじゃないかしら?」
「そういえば一緒に入らなかったな。貴族社会だと一緒に入るなんて普通は考えないからな」
「使用人たちに洗わせたりするものね」
「俺は1人でゆっくり入る派だから使用人は呼ばなかったが」
「そうそう、ケビンはお嫁さんたちや子供と一緒に入ってるわよ。子供たちの体を洗ってあげてるの」
「あいつは子供を作る前に奴隷の子供を引き取っていたからな。順序が滅茶苦茶だ」
「オネダリすればお嫁さんたちの体も洗うのよ。私も泊まった時に洗ってもらったわ」
「なんだかんだで家族を大事にしているんだな。あの歳であそこまで家族に執着するのも珍しいが」
「そうね……きっと寂しがり屋なのよ。家族の愛情を無意識に欲しているのかもね……」
「子供の頃に自立してしまったからな……あまり一緒にいてやれなかったからか……」
サラはケビンの過去を知っているため家族を大事に思い、執着する気持ちも理解しているがそれを本人の意思なく話してしまうわけにもいかないので、当たり障りなくギースの疑問に答えるのだった。
「というか、それよりもだ! ケビンは嫁さんをどんだけ増やしてんだ? サラは何か聞いていないか? あいつは自分に都合の悪いことはちっとも報告しないからな」
「そうねぇ……私も何人いるってのは聞いていないけど、生まれた子供の人数で言えば50人は超えていると思うわよ。とにかくみんなに1人ずつ子供を作って産ませていくのが目標みたいだから。バランスを取っているらしいわ。偏りなく平等に子供を産ませてあげたいんだって言ってたわね」
「……もう、その人数は前代未聞だろ……歴代王族にそこまで嫁にした人はいないだろ?」
「どうかしら? 好色家の貴族ならお手つき含めれば結構な数になると思うわよ? それに前々皇帝はケビンほどにないにしろ結構な側室を抱えていたらしいわ」
「あぁぁ……他国の情報まではわからんかったな。しかも旧帝国ならなおさらわからんか……」
「旧帝国で思い出したけど、前々皇帝の側室をケビンはお嫁さんにしているわよ」
「んなっ!?」
ケビンの嫁の中に旧帝国の皇族が含まれていると聞かされたギースは、驚愕して開いた口が塞がらない。
「11歳で皇帝に献上されたみたいで今でも若いのよ。側室になって間もない頃に次の皇帝が皇族狩りを始めたらしくて、逃げた際に奴隷狩りにあったみたい。それをケビンがたまたまミナーヴァで見つけて、面白そうって理由だけで買ったみたいよ」
「面白そうって……」
「その時に魔族も買ったそうよ。もちろんお嫁さんになってるわ」
「魔族って……」
「他にも部位欠損の奴隷を引き取って治したあとに、安定のお嫁さんね」
「あいつは女となれば見境がなくないか?!」
「あの子は自分が女性を虜にしやすいって思ってないのよ。あんなにカッコイイことを平然とやってのけるのにモテるのが不思議らしいわ。『全部称号のせいだー!』って言うのよ」
「称号? あいつは女性関係の称号を持っているのか?」
「持っているわよ。女性が惚れやすくなるみたいね」
「それなら称号のせいだろ」
「でもピンチになった時に颯爽と現れて命を救うのは、ケビンの持つ称号とは全く関係ないわよ。それはケビンの行動からくるものなんだし、ケビンが助けたいと思ったから助けるのよ」
「それはそうだな」
「あなただって私に助けられて惚れたのでしょう?」
「全くもって格好悪いがな。普通は貴族令嬢が襲われて男が助けるもんなのにな。まさか俺が襲われてサラに助けてもらうとは性別逆転だな」
「だから全てが称号のせいとは言いづらいのよ」
「うーん……それでも見境ない気がする……50人だろ? 少なくて50人……子供含めたら100人を超える家族って……」
「責任が取れているからいいのよ。無責任に女性を引っ掛けているわけでもないし、子供を作っているわけでもないから」
「確かになぁ……経済力で言えば俺どころか陛下ですら追いつけないだろうな。しかも国庫じゃなくて私財でそれだぞ?」
「それは冒険者をやっているし、商人もやっているから当然よ。世界を股に掛けるマジカル商会よ? 魔導具の品切れが続出なんだから」
「立派な息子に育ったもんだ。女関係は予想外だが……」
女関係を除けば立派な息子なのだと胸を張って言えそうな気がしていたギースに、サラがとんでもない爆弾を投下する。
「そういえば思い出したんだけど、マリーがケビンのお嫁さんになりに帝国へ行ったわよ」
「はいっ?!」
「いつかしら……えぇーっと……先月くらいよね、確か私に挨拶に来たのは」
「あいつ、マリアンヌ大公妃にまで手を出したのか!? 元王妃だぞ、王妃!」
「手を出したのはマリーの方よ。手を出したくて私のところへ許可を取りに来たんだから」
「どうなってんだ、ケビンの女関係はっ!?」
特に回答を求めたわけではないギースの言葉に対して、事情通のサラは淡々と答えてしまう。
「お嫁さんが沢山いるってことは確かよ。種類が豊富よね。元王族に元皇族、一般人に奴隷、人族に留まらず亜人族に魔族まで。聞いた話だとドラゴンもお嫁さんにしたそうよ」
「……ドラゴン……?」
「そう、ドラゴン。人に変化できるみたい。私やケビンがドラゴンを狩り過ぎてドラゴンたちの会議が開かれたこともあるんだって言ってたわ」
「とうとう魔物にまで手を出したのか……しかもドラゴン……あいつは底なしか? どこで育て方を間違えた? いや……育てたのはサラだから間違えてはいない。ということは、自立してから迷路にハマってどっぷり浸かり込んだのか……」
「心配しなくても大丈夫よ、ケビンだもの」
「サラのその無類の信頼ぶりが羨ましく思う時がある」
次々と上がるケビンの生活事情に関してギースは知らなかったことが多く、というよりもほぼ知らなかったことをサラによって告げられていき、理解の範疇を超えてしまったのだった。
それからも2人はケビン談義が止まらずに話題は専らケビンで埋め尽くされていき、それはお風呂から上がって夕食の時もそうで寝るまでずっとケビンに関することでネタが尽きなかったのである。
その話題のケビンも自分の預かり知らぬところで、2人の話の種にされているとは思ってもいないだろう。
そしてケビン談義に花を咲かせる2人はしばらくタミアで逗留することを決めると、次の目的地を何処にしようかと楽しく会話をしながら日々を過ごしていく。
それからしばらくしてタミアを満喫した2人は、タミアとは真逆の方向となるダンジョン都市へと向かった。今度はそこでカジノを満喫しては楽しく過ごす予定である。
ダンジョン都市に到着した2人は夢見亭でチェックインを済ませたら早速カジノへと赴いて、色々なゲームを2人で一緒に楽しみ出した。
たとえゲームに勝てず負けてしまおうと2人にとっては関係ないみたいで、その場の雰囲気を楽しんでは色々なゲームに手をつけていく。
「楽しいわね、あなた」
「そうだな。サラと一緒なら負けても悔しくないしな」
初日からカジノをある程度堪能した2人は次の日も遊ぶためにそこそこで切り上げると、部屋へと戻ってゆっくりと過ごすのであった。
それから数ヶ月後、2人が旅の終わりに決めた終着点はケビンの住む帝都であった。
急な2人の訪問にケビンも驚いたがサラとまだ会ったことのない嫁や、サラすらも会ったことのない嫁たちは父親であるギースまで来ていたことで、ド緊張という名のパニックになっていた。
「お、お、お義父様……お、お、お義母様……ご、ごご、ご主人様に、およ、お嫁にしていただきまする、いただきました……ふにゅう~」
「救護係、その子を離脱させて!」
ケビンの両親に挨拶しようとした嫁たちはことごとく極度の緊張から倒れてしまい、次々と運び出されていく珍事が巻き起こる。
「ふふっ、面白い子たちね」
「はぁぁ……本当に嫁だらけなんだな……」
そのようなところへ泰然と現れてビシッと挨拶を決めた嫁がいる。
「お義父様、お義母様、私は春先に妻の末席へと名を連ねることになりましたマリアンヌ・ヴァン・エレフセリアと申します。お初にお目にかかれて光栄に存じます」
「マ、マリアンヌ様!」
「マリーったら悪い冗談ね。あなたとは幾度となく会ってるじゃない。あなたにお義母様なんて呼ばれると変な気分だわ」
「妹から親友、そして義娘になるなんて当時は思いもしませんでした」
「古い話を持ち出してくるのね。それにその喋り方は当時の再現かしら?」
「それならばサラ様と呼ぶべきでしょうか?」
2人が和気あいあいと会話する中で、居心地の悪いギースはケビンへと近づいて逃げに徹する。
「おい、サラから話には聞いていたが、本当にマリアンヌ様を嫁にしたんだな」
「押しかけられて流されちゃった感じかな」
「仮にもアリス様の母君だぞ。問題ないのか?」
「そのアリスは『些事』だって言ってたよ。何に対して怒ればいいのかわからないんだってさ」
「アリス様も大概だな……」
その後、日が落ちるとギースたちを歓迎するために宴が開かれたら挨拶に失敗した嫁たちを筆頭に、まだ顔見知りでない嫁たちが子供を連れて自己紹介の場が設けられる。
代わる代わる挨拶に来るケビンの伴侶の多さにギースはチクチクとケビンをつついていくが、孫の顔を見るとだらしのない表情となってケビンのことなど忘れてしまうのだった。
それから1ヶ月ほどギースが孫たちに囲まれて遊ぶというのどかな日常を繰り返していたら、ギースは満足したのか領地に戻ると言い出したのでケビンが送ろうかと提案すると、『帰りの道中も旅行のうちだ』とギースが返答してサラと2人で自宅へと帰っていった。
そして帰りの馬車の中では、満足気な顔を見せているギースを見ていたサラが声をかける。
「無理してない?」
「してないさ。嫁の数にはビックリしたが大勢の孫に囲まれて大満足だよ」
「キツかったら隠さないで教えてよ?」
「そうだな。その時はサラに膝枕でもしてもらうかな」
こうしてギースとサラの2人きりの旅行は、馬車に揺られながら終わりを迎えるのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
年は明けて新年のお祭りも落ち着き始めた頃、帝城では新たな子供たちが産声をあげた。
今回出産したのはもう既に見習いなのかどうかもあやふやとなっているシスター見習い3人娘と、ミナーヴァ魔導王国でリーチェやヴァレリアと同時購入した部位欠損奴隷3人娘の計6人である。
シスター見習い3人娘のノエルが第1子で長女のノアナ、リゼットが第1子で長女のリージー、ポーラが第1子で長女のポレットを出産し、奴隷3人娘のフィオナが第1子で長男のフィンレー、ジゼルが第1子で長男のジーン、ヘレンが第1子で長男のヘクターを出産した。
ケビンはある程度の期間を空けて母子の状態を診て問題ないと感じたらギースへ新しく生まれた孫の紹介をするために実家へと赴くと、突如前触れもなく現れたケビンにギースは驚いてしまうが、新しく生まれてきた孫たちをその腕に抱いては顔を綻ばせる。
「おじいちゃんでちゅよー」
デレデレとした顔で赤ちゃん言葉を使うギースとは違い、サラは満面の笑みで孫へと語りかける。
「お姉さんですよー」
それを見ている嫁たちはサラの気持ちがわかってしまうため特に指摘することはなく、ケビンもまたいらぬ藪をつつきたくないので黙ってスルーしたのであった。
それから月日は経ち春の訪れを知らせる暖かい気温になり始めた頃、ギースは庭のベンチにてサラと一緒に日向ぼっこを楽しんでいた。
「暖かくなってきたな」
「もう春だもの」
「なんだか家督を譲ってからはすっかりだらけた生活になってしまった」
「今まで頑張っていたのだからそれでいいのよ。今はゆっくりと休む時なんだから」
「まぁ、サラとこうして一緒にのんびりと過ごせるのはありがたい」
「そうね。のんびりが1番よ」
ポカポカとした陽気にあてられたのかギースがあくびをしていると、サラが自身の膝へとギースの頭を誘導する。
「至れり尽くせりで本当に寝てしまいそうだ」
「構わないわ。そのための枕だもの」
「はは、俺は幸せ者だな……」
「あなたとのんびり過ごせている私も幸せ者よ」
「それは良かった……愛しているよ、サラ……」
「私も愛しているわ」
やがて襲いくる睡魔に負けたギースが瞳を閉じて寝てしまうがサラはそのようなギースへ微笑みを向けて、気持ち良さそうに寝ているギースの頭を撫でながら時間を過ごした。
しばらくした後、日が陰り始めたので幸せそうに寝ているギースを起こすのは忍びないが、サラはギースが不調にならないことが優先であるため背に腹はかえられず起こすことになる。
「あなた、起きて……家の中へ戻りましょう?」
呼びかけただけでは反応がなかったのでサラはギースの体を揺するようにして再度声をかけるが、ギースは中々起きてはくれなかった。サラの視界は既に睡眠時呼吸による胸の上下運動がないことを知らせていたが、サラの気持ちがそれを認めようとはしない。
「ねぇ、ギース……起きて……このままだと風邪を引いてしまうわ」
優しく何度も体を揺すりながらギースを起こそうとするサラだったがやがて揺する手の動きが止まってしまうと、サラの瞳から雫が流れ落ちていきギースの頬を濡らす。
「……ギース……ありがとう……あなたと会えて私は幸せだったわ。今までお疲れさまでした。天国でハワードさんやファラさんと仲良く過ごしてね……」
その後サラはギースを抱きかかえて静かに家の中へと戻っていくと、使用人へ家督を継いだアインを呼ぶように言いつけて、ギースを私室のベッドへと運ぶのであった。
それからギースの元へ駆けつけたアインは別れの言葉をかけ、その後にやって来たリナは泣きながら別れを惜しむ。更には使用人から報告を受けたカインやルージュも駆けつけると、カインが今までのお礼を述べたらルージュも涙しながらそれに続いた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ギースが家族から別れを告げられている中で、帝城にいた者たちにも動きがあった。
「あなた、お義父さんが亡くなったわ」
「……そうか……ひと足先に向かう」
「わかったわ」
憩いの広場にいたケビンへソフィーリアが報告をすると、ケビンはソフィーリアに後のことを頼んで実家へと転移してこの場をあとにする。そして憩いの広場に残された嫁たちは話を聞いていたのかすすり泣く声が聞こえていたが、ソフィーリアはシーラを執務室から呼びつけると事情を話して、その場で泣き崩れるシーラを励ましながら実家へと転移した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ケビンがギースの私室へ入るとサラは張りつめていた糸が切れたのかケビンに抱きつき泣き始めてしまい、ケビンはそのようなサラの背中を撫でながら落ち着くまで宥めていた。その間にギースへ視線を向けたケビンは穏やかな表情を浮かべているギースを見て、安楽に旅立つことができたことをその表情から窺い知ることができた。
ケビンが到着したしばらくあとにシーラとソフィーリアも到着して私室へと入室すると、シーラがギースの側へ駆け寄り泣き崩れながら父の名を呼び、ソフィーリアはケビンの元へと向かいサラを励ましていた。
その後ケビンは転移ポータルを設置して実家と帝城を繋げたら他の嫁たちにも別れの挨拶ができるようにすると、適宜少人数で私室を訪れるように嫁たちへ伝えるために一旦憩いの広場へと向かった。
憩いの広場では戻ってきたケビンへ嫁たちが駆け寄り状況を聞こうと群がるが、ケビンは慌てている嫁たちを落ちつかせて説明をしたら働きに出ている嫁たちへの伝達をプリシラへと一任する。
「あとは頼んだ」
「お任せください」
「すまないな。すぐにでも実家へ駆けつけたいところだろうけど」
「それはないと言えば嘘になりますが、今はケビン様が主ですのでケビン様こそがギース様のお傍にいてあげてください」
プリシラが職務に全うする旨を伝えるとケビンは申しわけなく思いつつも今は父親の傍にいたい気持ちの方が強く、プリシラの厚意をありがたく受け取るのであった。
それから数日後、ギースは家族や知人に見守られながら墓地へと埋葬される。その墓は歴代当主が並ぶ場所ではなくハワードとファラの墓の傍でありそこにはギースが作ったサラの家族の墓も並んでおり、サラが「ここ以外にありえない」と意思表示をしたためアインがサラの意向を汲んだ形となる。
当主として夫として父として祖父として人生を歩んできたギースは、最後の最後まで穏やかな表情を崩さずこの世に別れを告げて輪廻へと旅立つ。享年61歳、暖かな春の陽射しの中での出来事であった。
普通ならば護衛の1人でもとなるのが通常の習わしでもあるが、何せ一緒に同行するのが冒険者休業中のXランクのサラであるため、護衛がいては逆に足手まといになるしかないので旅行は2人きりでとなる。
そして先ず最初に向かったのは保養地タミアの温泉であった。ここでのんびりと2人きりで過ごすために家族風呂付きの高級宿へ宿泊する。
サラは冒険者時代にタミアを利用したことはあるが、ギースは初めてなので少しテンションが上がってウキウキ気分であった。
「サラ、早速温泉に入ろう!」
「ふふっ、ここの温泉は疲れを取る効果があるのよ。あとは筋肉痛だったり腰痛だったりと色々な効果があるわ」
家族風呂ということで誰に気兼ねをする必要もなく、部屋で裸になった2人は早速お風呂を堪能する。
「ふはぁ~……体に染み入るな……」
「あなたとお風呂に入るなんて初めてじゃないかしら?」
「そういえば一緒に入らなかったな。貴族社会だと一緒に入るなんて普通は考えないからな」
「使用人たちに洗わせたりするものね」
「俺は1人でゆっくり入る派だから使用人は呼ばなかったが」
「そうそう、ケビンはお嫁さんたちや子供と一緒に入ってるわよ。子供たちの体を洗ってあげてるの」
「あいつは子供を作る前に奴隷の子供を引き取っていたからな。順序が滅茶苦茶だ」
「オネダリすればお嫁さんたちの体も洗うのよ。私も泊まった時に洗ってもらったわ」
「なんだかんだで家族を大事にしているんだな。あの歳であそこまで家族に執着するのも珍しいが」
「そうね……きっと寂しがり屋なのよ。家族の愛情を無意識に欲しているのかもね……」
「子供の頃に自立してしまったからな……あまり一緒にいてやれなかったからか……」
サラはケビンの過去を知っているため家族を大事に思い、執着する気持ちも理解しているがそれを本人の意思なく話してしまうわけにもいかないので、当たり障りなくギースの疑問に答えるのだった。
「というか、それよりもだ! ケビンは嫁さんをどんだけ増やしてんだ? サラは何か聞いていないか? あいつは自分に都合の悪いことはちっとも報告しないからな」
「そうねぇ……私も何人いるってのは聞いていないけど、生まれた子供の人数で言えば50人は超えていると思うわよ。とにかくみんなに1人ずつ子供を作って産ませていくのが目標みたいだから。バランスを取っているらしいわ。偏りなく平等に子供を産ませてあげたいんだって言ってたわね」
「……もう、その人数は前代未聞だろ……歴代王族にそこまで嫁にした人はいないだろ?」
「どうかしら? 好色家の貴族ならお手つき含めれば結構な数になると思うわよ? それに前々皇帝はケビンほどにないにしろ結構な側室を抱えていたらしいわ」
「あぁぁ……他国の情報まではわからんかったな。しかも旧帝国ならなおさらわからんか……」
「旧帝国で思い出したけど、前々皇帝の側室をケビンはお嫁さんにしているわよ」
「んなっ!?」
ケビンの嫁の中に旧帝国の皇族が含まれていると聞かされたギースは、驚愕して開いた口が塞がらない。
「11歳で皇帝に献上されたみたいで今でも若いのよ。側室になって間もない頃に次の皇帝が皇族狩りを始めたらしくて、逃げた際に奴隷狩りにあったみたい。それをケビンがたまたまミナーヴァで見つけて、面白そうって理由だけで買ったみたいよ」
「面白そうって……」
「その時に魔族も買ったそうよ。もちろんお嫁さんになってるわ」
「魔族って……」
「他にも部位欠損の奴隷を引き取って治したあとに、安定のお嫁さんね」
「あいつは女となれば見境がなくないか?!」
「あの子は自分が女性を虜にしやすいって思ってないのよ。あんなにカッコイイことを平然とやってのけるのにモテるのが不思議らしいわ。『全部称号のせいだー!』って言うのよ」
「称号? あいつは女性関係の称号を持っているのか?」
「持っているわよ。女性が惚れやすくなるみたいね」
「それなら称号のせいだろ」
「でもピンチになった時に颯爽と現れて命を救うのは、ケビンの持つ称号とは全く関係ないわよ。それはケビンの行動からくるものなんだし、ケビンが助けたいと思ったから助けるのよ」
「それはそうだな」
「あなただって私に助けられて惚れたのでしょう?」
「全くもって格好悪いがな。普通は貴族令嬢が襲われて男が助けるもんなのにな。まさか俺が襲われてサラに助けてもらうとは性別逆転だな」
「だから全てが称号のせいとは言いづらいのよ」
「うーん……それでも見境ない気がする……50人だろ? 少なくて50人……子供含めたら100人を超える家族って……」
「責任が取れているからいいのよ。無責任に女性を引っ掛けているわけでもないし、子供を作っているわけでもないから」
「確かになぁ……経済力で言えば俺どころか陛下ですら追いつけないだろうな。しかも国庫じゃなくて私財でそれだぞ?」
「それは冒険者をやっているし、商人もやっているから当然よ。世界を股に掛けるマジカル商会よ? 魔導具の品切れが続出なんだから」
「立派な息子に育ったもんだ。女関係は予想外だが……」
女関係を除けば立派な息子なのだと胸を張って言えそうな気がしていたギースに、サラがとんでもない爆弾を投下する。
「そういえば思い出したんだけど、マリーがケビンのお嫁さんになりに帝国へ行ったわよ」
「はいっ?!」
「いつかしら……えぇーっと……先月くらいよね、確か私に挨拶に来たのは」
「あいつ、マリアンヌ大公妃にまで手を出したのか!? 元王妃だぞ、王妃!」
「手を出したのはマリーの方よ。手を出したくて私のところへ許可を取りに来たんだから」
「どうなってんだ、ケビンの女関係はっ!?」
特に回答を求めたわけではないギースの言葉に対して、事情通のサラは淡々と答えてしまう。
「お嫁さんが沢山いるってことは確かよ。種類が豊富よね。元王族に元皇族、一般人に奴隷、人族に留まらず亜人族に魔族まで。聞いた話だとドラゴンもお嫁さんにしたそうよ」
「……ドラゴン……?」
「そう、ドラゴン。人に変化できるみたい。私やケビンがドラゴンを狩り過ぎてドラゴンたちの会議が開かれたこともあるんだって言ってたわ」
「とうとう魔物にまで手を出したのか……しかもドラゴン……あいつは底なしか? どこで育て方を間違えた? いや……育てたのはサラだから間違えてはいない。ということは、自立してから迷路にハマってどっぷり浸かり込んだのか……」
「心配しなくても大丈夫よ、ケビンだもの」
「サラのその無類の信頼ぶりが羨ましく思う時がある」
次々と上がるケビンの生活事情に関してギースは知らなかったことが多く、というよりもほぼ知らなかったことをサラによって告げられていき、理解の範疇を超えてしまったのだった。
それからも2人はケビン談義が止まらずに話題は専らケビンで埋め尽くされていき、それはお風呂から上がって夕食の時もそうで寝るまでずっとケビンに関することでネタが尽きなかったのである。
その話題のケビンも自分の預かり知らぬところで、2人の話の種にされているとは思ってもいないだろう。
そしてケビン談義に花を咲かせる2人はしばらくタミアで逗留することを決めると、次の目的地を何処にしようかと楽しく会話をしながら日々を過ごしていく。
それからしばらくしてタミアを満喫した2人は、タミアとは真逆の方向となるダンジョン都市へと向かった。今度はそこでカジノを満喫しては楽しく過ごす予定である。
ダンジョン都市に到着した2人は夢見亭でチェックインを済ませたら早速カジノへと赴いて、色々なゲームを2人で一緒に楽しみ出した。
たとえゲームに勝てず負けてしまおうと2人にとっては関係ないみたいで、その場の雰囲気を楽しんでは色々なゲームに手をつけていく。
「楽しいわね、あなた」
「そうだな。サラと一緒なら負けても悔しくないしな」
初日からカジノをある程度堪能した2人は次の日も遊ぶためにそこそこで切り上げると、部屋へと戻ってゆっくりと過ごすのであった。
それから数ヶ月後、2人が旅の終わりに決めた終着点はケビンの住む帝都であった。
急な2人の訪問にケビンも驚いたがサラとまだ会ったことのない嫁や、サラすらも会ったことのない嫁たちは父親であるギースまで来ていたことで、ド緊張という名のパニックになっていた。
「お、お、お義父様……お、お、お義母様……ご、ごご、ご主人様に、およ、お嫁にしていただきまする、いただきました……ふにゅう~」
「救護係、その子を離脱させて!」
ケビンの両親に挨拶しようとした嫁たちはことごとく極度の緊張から倒れてしまい、次々と運び出されていく珍事が巻き起こる。
「ふふっ、面白い子たちね」
「はぁぁ……本当に嫁だらけなんだな……」
そのようなところへ泰然と現れてビシッと挨拶を決めた嫁がいる。
「お義父様、お義母様、私は春先に妻の末席へと名を連ねることになりましたマリアンヌ・ヴァン・エレフセリアと申します。お初にお目にかかれて光栄に存じます」
「マ、マリアンヌ様!」
「マリーったら悪い冗談ね。あなたとは幾度となく会ってるじゃない。あなたにお義母様なんて呼ばれると変な気分だわ」
「妹から親友、そして義娘になるなんて当時は思いもしませんでした」
「古い話を持ち出してくるのね。それにその喋り方は当時の再現かしら?」
「それならばサラ様と呼ぶべきでしょうか?」
2人が和気あいあいと会話する中で、居心地の悪いギースはケビンへと近づいて逃げに徹する。
「おい、サラから話には聞いていたが、本当にマリアンヌ様を嫁にしたんだな」
「押しかけられて流されちゃった感じかな」
「仮にもアリス様の母君だぞ。問題ないのか?」
「そのアリスは『些事』だって言ってたよ。何に対して怒ればいいのかわからないんだってさ」
「アリス様も大概だな……」
その後、日が落ちるとギースたちを歓迎するために宴が開かれたら挨拶に失敗した嫁たちを筆頭に、まだ顔見知りでない嫁たちが子供を連れて自己紹介の場が設けられる。
代わる代わる挨拶に来るケビンの伴侶の多さにギースはチクチクとケビンをつついていくが、孫の顔を見るとだらしのない表情となってケビンのことなど忘れてしまうのだった。
それから1ヶ月ほどギースが孫たちに囲まれて遊ぶというのどかな日常を繰り返していたら、ギースは満足したのか領地に戻ると言い出したのでケビンが送ろうかと提案すると、『帰りの道中も旅行のうちだ』とギースが返答してサラと2人で自宅へと帰っていった。
そして帰りの馬車の中では、満足気な顔を見せているギースを見ていたサラが声をかける。
「無理してない?」
「してないさ。嫁の数にはビックリしたが大勢の孫に囲まれて大満足だよ」
「キツかったら隠さないで教えてよ?」
「そうだな。その時はサラに膝枕でもしてもらうかな」
こうしてギースとサラの2人きりの旅行は、馬車に揺られながら終わりを迎えるのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
年は明けて新年のお祭りも落ち着き始めた頃、帝城では新たな子供たちが産声をあげた。
今回出産したのはもう既に見習いなのかどうかもあやふやとなっているシスター見習い3人娘と、ミナーヴァ魔導王国でリーチェやヴァレリアと同時購入した部位欠損奴隷3人娘の計6人である。
シスター見習い3人娘のノエルが第1子で長女のノアナ、リゼットが第1子で長女のリージー、ポーラが第1子で長女のポレットを出産し、奴隷3人娘のフィオナが第1子で長男のフィンレー、ジゼルが第1子で長男のジーン、ヘレンが第1子で長男のヘクターを出産した。
ケビンはある程度の期間を空けて母子の状態を診て問題ないと感じたらギースへ新しく生まれた孫の紹介をするために実家へと赴くと、突如前触れもなく現れたケビンにギースは驚いてしまうが、新しく生まれてきた孫たちをその腕に抱いては顔を綻ばせる。
「おじいちゃんでちゅよー」
デレデレとした顔で赤ちゃん言葉を使うギースとは違い、サラは満面の笑みで孫へと語りかける。
「お姉さんですよー」
それを見ている嫁たちはサラの気持ちがわかってしまうため特に指摘することはなく、ケビンもまたいらぬ藪をつつきたくないので黙ってスルーしたのであった。
それから月日は経ち春の訪れを知らせる暖かい気温になり始めた頃、ギースは庭のベンチにてサラと一緒に日向ぼっこを楽しんでいた。
「暖かくなってきたな」
「もう春だもの」
「なんだか家督を譲ってからはすっかりだらけた生活になってしまった」
「今まで頑張っていたのだからそれでいいのよ。今はゆっくりと休む時なんだから」
「まぁ、サラとこうして一緒にのんびりと過ごせるのはありがたい」
「そうね。のんびりが1番よ」
ポカポカとした陽気にあてられたのかギースがあくびをしていると、サラが自身の膝へとギースの頭を誘導する。
「至れり尽くせりで本当に寝てしまいそうだ」
「構わないわ。そのための枕だもの」
「はは、俺は幸せ者だな……」
「あなたとのんびり過ごせている私も幸せ者よ」
「それは良かった……愛しているよ、サラ……」
「私も愛しているわ」
やがて襲いくる睡魔に負けたギースが瞳を閉じて寝てしまうがサラはそのようなギースへ微笑みを向けて、気持ち良さそうに寝ているギースの頭を撫でながら時間を過ごした。
しばらくした後、日が陰り始めたので幸せそうに寝ているギースを起こすのは忍びないが、サラはギースが不調にならないことが優先であるため背に腹はかえられず起こすことになる。
「あなた、起きて……家の中へ戻りましょう?」
呼びかけただけでは反応がなかったのでサラはギースの体を揺するようにして再度声をかけるが、ギースは中々起きてはくれなかった。サラの視界は既に睡眠時呼吸による胸の上下運動がないことを知らせていたが、サラの気持ちがそれを認めようとはしない。
「ねぇ、ギース……起きて……このままだと風邪を引いてしまうわ」
優しく何度も体を揺すりながらギースを起こそうとするサラだったがやがて揺する手の動きが止まってしまうと、サラの瞳から雫が流れ落ちていきギースの頬を濡らす。
「……ギース……ありがとう……あなたと会えて私は幸せだったわ。今までお疲れさまでした。天国でハワードさんやファラさんと仲良く過ごしてね……」
その後サラはギースを抱きかかえて静かに家の中へと戻っていくと、使用人へ家督を継いだアインを呼ぶように言いつけて、ギースを私室のベッドへと運ぶのであった。
それからギースの元へ駆けつけたアインは別れの言葉をかけ、その後にやって来たリナは泣きながら別れを惜しむ。更には使用人から報告を受けたカインやルージュも駆けつけると、カインが今までのお礼を述べたらルージュも涙しながらそれに続いた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ギースが家族から別れを告げられている中で、帝城にいた者たちにも動きがあった。
「あなた、お義父さんが亡くなったわ」
「……そうか……ひと足先に向かう」
「わかったわ」
憩いの広場にいたケビンへソフィーリアが報告をすると、ケビンはソフィーリアに後のことを頼んで実家へと転移してこの場をあとにする。そして憩いの広場に残された嫁たちは話を聞いていたのかすすり泣く声が聞こえていたが、ソフィーリアはシーラを執務室から呼びつけると事情を話して、その場で泣き崩れるシーラを励ましながら実家へと転移した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ケビンがギースの私室へ入るとサラは張りつめていた糸が切れたのかケビンに抱きつき泣き始めてしまい、ケビンはそのようなサラの背中を撫でながら落ち着くまで宥めていた。その間にギースへ視線を向けたケビンは穏やかな表情を浮かべているギースを見て、安楽に旅立つことができたことをその表情から窺い知ることができた。
ケビンが到着したしばらくあとにシーラとソフィーリアも到着して私室へと入室すると、シーラがギースの側へ駆け寄り泣き崩れながら父の名を呼び、ソフィーリアはケビンの元へと向かいサラを励ましていた。
その後ケビンは転移ポータルを設置して実家と帝城を繋げたら他の嫁たちにも別れの挨拶ができるようにすると、適宜少人数で私室を訪れるように嫁たちへ伝えるために一旦憩いの広場へと向かった。
憩いの広場では戻ってきたケビンへ嫁たちが駆け寄り状況を聞こうと群がるが、ケビンは慌てている嫁たちを落ちつかせて説明をしたら働きに出ている嫁たちへの伝達をプリシラへと一任する。
「あとは頼んだ」
「お任せください」
「すまないな。すぐにでも実家へ駆けつけたいところだろうけど」
「それはないと言えば嘘になりますが、今はケビン様が主ですのでケビン様こそがギース様のお傍にいてあげてください」
プリシラが職務に全うする旨を伝えるとケビンは申しわけなく思いつつも今は父親の傍にいたい気持ちの方が強く、プリシラの厚意をありがたく受け取るのであった。
それから数日後、ギースは家族や知人に見守られながら墓地へと埋葬される。その墓は歴代当主が並ぶ場所ではなくハワードとファラの墓の傍でありそこにはギースが作ったサラの家族の墓も並んでおり、サラが「ここ以外にありえない」と意思表示をしたためアインがサラの意向を汲んだ形となる。
当主として夫として父として祖父として人生を歩んできたギースは、最後の最後まで穏やかな表情を崩さずこの世に別れを告げて輪廻へと旅立つ。享年61歳、暖かな春の陽射しの中での出来事であった。
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